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第863話◇
車に乗って、玲央が運転し始めてしばらくした時。
ふと玲央が話し始めた。
「――オレ、さっきさ、幸せって思ったら言う、って言ったろ?」
玲央が、静かな声で、そう言った。うん、と返す。
「どんな時に、玲央が、そう思ってくれるんだろうって。楽しみ」
ふふ、と笑って玲央を見やる。
――運転してる玲央は。ほんとにいつも、すごくカッコいい。ちょっと大人っぽくて。ハンドルを握る手が、綺麗で。横顔も。好き。って、いつもいつも思ってしまう。
「――というか、いつも、思ってる……と思う」
「ん?」
玲央に見惚れてたら、玲央がちょっと戸惑いながら言ったセリフに、首を傾げた。
「何を?」
「幸せっていうの。優月と今居るこの感じが、そうなんだろうと、思うから。それだと、オレ、いつも思ってるんだよな」
「そう、なの?」
「さっきの子とのやり取りもさ――多分あれ、優月が居なかったら、オレだけだとしてないんだよ」
「そう、かな?」
「優月だから、あの子は話しかけたんだと思う」
玲央は、前を見たまま、ふ、と苦笑する。
「オレだけだったら、あの子、話しかけてないと思う」
「そう、かなあ?」
「オレ、子供とかに話しかけられたこと、ほとんど無いよ」
クスクス笑う玲央に、んー、と考える。
「……なんか。カッコよすぎるからかも。もうなんか、ちょっとびっくりするもんね、玲央。カッコよくて。話しかけるの、躊躇うかもしれない」
「――今、ものすごくいい方向で、優月は言ってくれてるけど」
クックッと笑う玲央が――これがまた、カッコよくて、素敵なのだけど。
「子供とかには怖がられるタイプだろ、オレ。大体さ、ファンにだって、話しかけにくいって、言われてたし」
「それはあれだよ、尊すぎて、みたいなことだと思う」
絶対そうだと思う。と、力を入れて、玲央を見つめていると、横顔でもそれを察知したのか、クスクス笑いながら。
「んーまあそこは分かんないけど。まあ、だからさ、今日、オレが一人でコンビニに居ても、絶対話しかけられてないし、あんなやりとりも、してない訳」
「……ふむ。そう、だとして……?」
「ん、そうだとするとさ――今、あの子可愛かったなぁ、とか。やりとりしてる優月も可愛かったなーとか。オレも、カラーをあげてさ。きっとどこか特別な日にあれを使って、カッコよくすんのかなーとか、想像すると、なんか楽しいし」
「うんうん、分かるー。あれはもう宝物だと思うよ」
「……だから、ああいうのもさ。優月といると、なんかよくあるわけ。誰か知らない人と、話したり――なんかこう、ほんわかするようなこと」
玲央の口から、ほんわかとか発せられると。すごく可愛い……。
うふふ、と顔が綻んでしまっていると。
「優月と居ると、今まであんまりなかったようなことで、多分これ、幸せなんだろうなってことが、よくあるんだよな」
「――そ、う。なんだ」
それは――……やっぱり、すごく嬉しいなあと、ちょっと感動。
だってオレはいつも玲央と居ると幸せだから。ちょっとでも、返せてるなら。いいなって思うし。
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