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第864話◇

 なんかとってもほっこりしながら、玲央を見ていると、玲央がクスクス笑い出した。 「でも――なんつーか……」 「うん」 「それが、オレの中で、幸せって言葉に結び付く前に、大体優月が先に言っちゃうんだよな?」 「――あは。じゃあオレの方が、先に言葉にしてるだけなの?」 「そんな気がする――考えてみると、オレ、今までわざわざ『幸せだ』とか口にして、生きてきてない」 「そっか……」  ふーん。そうなのかぁ。  ……そう言われると、玲央と居る前のオレって、どうしてたっけ。  友達と居て、幸せ、とか。言ってたっけ……???  美咲とか智也とか友達皆……家族とか……。  アイスコーヒーのストローを吸いながら。  今まで皆と過ごしてた日々を、思い出してみる。  楽しかったし、嬉しいこととかも色々あったし。  でも、よくよく考えてみると。 「んと……オレもね、玲央」 「ん?」 「幸せって言葉って、オレも、玲央にしか言ってないかも……」 「――そうなのか?」  ちら、と視線を流されて、もう一度思い起こしてみるけれど。 「うん。多分……? なんか、友達とは、今日楽しかったねーとかはよく言ってた気がするけど……なんか思い出そうとしてるんだけど、幸せっては、言ってなかったような気がする」 「――へえ」  何だか玲央が、ふーん、て感じでオレを見て、ニコニコしている。 「絶対言ってないかは分かんないけど――玲央に言うみたいには、言ってない。やっぱり……玲央と居ると、ふわって幸せだから……自然と言っちゃうんだと思う」 「ふわ、ねぇ……」  クスクス笑って、玲央がオレの頭を、ぽふぽふ、と撫でる。 「前のオレだと、その言葉、意味すら分かんなかったかも」 「――今の玲央は、分かる……?」  じっと見つめてみると。 「多分、分かってる」 「――うん。オレも。多分。このふわふわが幸せかなあって思う」 「ん」  ふふ、と笑いながら、オレの頭に触れてる玲央の手を下ろして、両手で軽く握る。 「今、手、繋いでて平気?」 「ん、平気。あんま走ってないし。まっすぐだから」 「ん」  玲央の手、綺麗だなあ。すりすりにぎにぎとしながら、手に触れていると、なんだかそれだけで、ものすごく幸せな気がする。 「なんかさ、オレね、玲央」 「ん」 「好きな友達いっぱい居るんだけど。その大好きと、玲央を好きな大好きの違いが、すごく分かってきたかもしれない」 「へえ? どんなかんじ?」  楽しそうに聞かれる。 「――玲央の大好きは、近くに居て、触れてたいってこと」  考えながら、口から零れた言葉は、それだった。  言いながら、うんうん、これだなーと、確信する。 「なんかそう思うと、オレ、遠距離とかは、できないかもしれない。寂しすぎちゃうと思う」  そう言って、照れ隠しに、あは、と笑った瞬間。  玲央が、オレの手を掴んで、そのまま、引っ張って。  手の甲に、キス、した。  車は今、動いてるからだと思うけど。  前は向いたままで。  え。  キスされてる自分の手の甲をしばし見守った後。 「――あとで、めいっぱい、キスするから」  手をすり、と撫でられて、離された。 「――っっっ」  声も出ないし、顔は、熱いし。  もうもう、玲央ってば、なんか、平気な顔で、  すごいことしないでほしい……! わーん……!!! (2024/11/26)

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