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第869話◇

 その後やっとバスルームから出て、優月にバスローブを着せた。  ドライヤーをかけてあげていると、俯いて、うとうとしているように見える。寝てる? と思いながら見ていたら、足から力が抜けかけたらしく、それにびっくりした優月がちゃんと立ち上がり直して、パッチリと目を開けて、えっ、てキョロキョロしている。  子供みたいだな、と、ぷ、と笑ってしまう。頭を撫でて、乾かしながら。 「歯磨いて、優月」  そう言うと、優月は頷いて、歯を磨き出す。それでもまたうとうとしてる。  もう限界だな。ついつい、クスッと笑ってしまう。  今日いろいろあったもんな。疲れてるだろう。 「優月」 「えっ? ……あ。玲央」  目が合うと、優月はふにゃ、と苦笑する。 「寝ちゃう……」  困ったみたいに笑って言いながら、再びしゃこしゃこ歯を磨きだす。 「優月はLIVEだけだって熱気で疲れると思う。慣れてないしな、ホテルも連れてったし、大分無理させたよな」  よしよし、と頭を撫でながら、ドライヤーを終えた。 「歯磨き終わったら水を飲んで、先にベッド入ってて」  ポヤポヤしてるのが愛おしくて、その頬にキスしながらそう言うと、いいの?  と聞いてくる。 「オレも髪乾かしてすぐに行くから」  そう言うと、安心したように笑って、優月は頷いた。 「じゃあ待ってるね」  ふわふわした感じで歩き去ってくのを見送ってから、ドライヤーで自分の髪を乾かす。少しして、ひょこ、と優月が覗いてきた。 「お水飲んだ。ベッド、行って待ってるね?」 「ん」  頷くと、にこ、と微笑んで、優月が消えていった。 「…………」  何だろうか、あの可愛さ。  ほんとタメの男とは、思えない。    ……んーー。あれか。天使とか。  やっぱそれか。  ドライヤーで髪を適当に乾かしながら、ふ、と笑ってしまう。  一人でマジで何言ってンだか。オレ。  周りのあいつらにはとても聞かせられない類いの思考。脳内で一人納得した自分に呆れながら、ドライヤーを止めた。タオルと服とすべて洗濯機に突っ込んでタイマーして、キッチンで水を飲む。  昨日じいちゃん家に泊まっただけなのに、なんかここに帰ってくるの、ものすごい久しぶりな感じ。水を飲みながら、リビングの窓から空を見やる。  優月に会うまで、遊び明かしたり。人ん家とか、向こうのマンションとか。  ここに帰ってこないことも結構あったのに、ここ最近、優月とここに帰ってくるようになってから――――なんかオレ、すげえ落ち着いたよな。  こんなに人って変わるものかと、我ながら不思議になる。  オレがこんなに変わるんだったら、もう世の中の誰でも、変わる可能性あるんだろうなぁと、一人変な実感もしつつ。  あの時、だるいってあのベンチに座らなかったら。  クロがオレに近寄ってこなかったら。  例えば時間がもう少し、ずれていたら。  オレは、あの休み時間にクロに会いに来た優月とは、関わらなかった。  それはそれで、多分――――こうなるオレを知らないんだから、遊んでるのが楽しいとか、楽でいいとか。そんな風に思いながら、過ごしていたんだろうとは思うけど。  今となっては、あの時、少しもズレずに、あのタイミングで会えて良かった。というか、会えてなかったら、と思うと、ものすごく嫌な気持ちになるくらい。  会えて良かったと、しみじみ思ってる。  部屋の電気を消して寝室に近づく。オレンジ色のライトだけつけて、優月は布団に入っていた。安らかな顔をして、すやすや眠っている。  ――――そうだと思った。  くす、と自然と笑みが浮かんでしまう。  想像していたよりも、もっとなんだかにっこりしながら、幸せそうな顔をしている。  ……かわいーな……。  思うことはそれしかない。可愛いしか出てこない脳内に失笑しながら隣に入り、そっと、その頬に触れる。起こさないように、そっと。  すべすべ柔らかくて、なんだか胸に、ぽっと灯がともるみたいな気持ちだ。  触れてる対象が、オレにとって、どれだけ大事で、優しく扱いたいか。    すり、と撫でたら。ん、と優月がピクリと動いた。起こしたかと手を引こうとしたら、頬に触れていたオレの手に、優月の手が重なって。  ん、と微笑みながら、オレの手に、優月が頬を摺り寄せた。 「――――……!」  なんだか、心臓が、どくん、と波打つ。  どくどくと自分の心臓の音を聞きながら、優月を見守っていたら、そのまま、すやすやまた眠り始めた。起きた、という程では、無かったのかも。 「――――……」  なんだか、顔が熱い。  ……可愛すぎて、心臓が勝手に早く動いて――――顔まで熱くなるとか。  オレ、お前のこと  好きすぎだよな……。  ――――誰にも見られてなくて良かった。  なんて思いながら。隣に入って、やんわりと、自分の腕の中に囲って、抱き寄せた。  顎や頬に当たるサラサラの髪を、とてつもなく愛おしく感じながら。   オレは、瞳を伏せた。   (2025/2/21) 玲央sideおわり♡ 玲央side楽しんで頂けましたか(★´∀`)ノ? もうすこし長くても良かった……? またいつか✨🩷

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