865 / 886

第870話◇

【side*優月】  なんだかものすごーく濃かった週末を過ごして、月曜の朝。  玲央の腕の中で目覚めた。  起きて、目が合った瞬間、あ、昨日待ってるって言って寝ちゃった、と思って、あ、と喋ろうとしたら、むぎゅーーーって感じで抱き締められた。 「すっげー可愛い感じで寝てた」  クスクス笑う玲央が、優しい声でそんなことを言う。 「……? どんな感じ……??」  そう聞くと、「先に寝ててくれてありがとなっと思う感じ」とか、なんだかよく分からないことを言われた。けど、なんだかとってもごきげんで楽しそうで、大好きだったので、オレもそのまま玲央の背に腕を回して、心のままにすり寄ると。  ふ、と笑った気配がして、より密着する感じで抱き締められた。 「――――……あーもう……ほんと」 「???」  なんだかめちゃくちゃすりすりされて、撫でられて、抱き締められて。  ひええ、てなりながら朝を過ごした。 「学校休んで、一日こうしてよっか」  そんな甘い甘いお誘いに、ついつい、うん、なんて言ってしまいそうな自分にはっと気づき、ダメ、と答えると、「分かってるけどさ」と玲央がちょっと拗ねてるみたいな。  うう。可愛い。  胸の奥、最大限にきゅんきゅんしながら、過ごしてしまった。  その後は、普通に着替えて、一緒に朝ごはん作って、なんかとってもそばで座って一緒に食べて、で、いつも通り登校して、正門のところで、じゃあ帰りにな、と別れた。  お昼とかは、て思ったら、土日、優月のこと独り占めしすぎたからって、なんか笑ってた。確かに友達は元々はかぶってないから、ほんとなら、一緒にならないのが普通だからなぁと思いながら、オレも、じゃあ帰りにねと別れてきたけど。  なんか。振り返ると、玲央がまだ正門のところで立っててオレを見てるから、何回か振り返ってバイバイして、最後見えなくなるところでも、もう一度バイバイしてから、校舎に入った。  階段を上って、教室に入る。ちょっと早くついちゃって、まだあんまり来てないので、適当に真ん中あたりの席に座った。  筆箱とかを出しながら、なんだか朝からのやりとりがよみがえってくる。  ――――……。  なんか。  ……玲央って。  …………うう。可愛い。  もう、いつもひたすらにカッコいいのに。  玲央が可愛いっていう、オレのこの、悶えそうな気持ちって、多分、あんまり誰とも共有してもらえない気がする。  カッコいいなら、色んな人と共有できちゃうと思うけど、この、「んー、可愛いよう……」っていう、この気持ちは、きっと、誰も分かってはくれなそう。  もしかして蒼くんはちょっと年上だから、その目線で可愛いって分かってくれるかな。って言っても、別にオレは年上目線で可愛いって言ってるわけじゃないから、もうなんかまた違う話かなぁ。  ――――……ふ、と思い出す、数々のシーンの玲央は、ひたすら「カッコいい」なのだけど。  ……ずっと正門に立って見送ってくれてるとことか。朝、ちょっとねぼけた感じで、めちゃくちゃすりすりしてくる感じとか。  うう。愛しすぎて、心臓が痛い。  なんなんだろう、寝ててくれてありがとうって。  待ってるって言ったあげく、寝こけてた人に、そんなこと言う人、居るのかな?? この世には、そういう人達、いるのだろうか。   とりあえず玲央は言ってくれたけど。  ……なんか玲央って、ほんと……優しすぎて、怖いくらい。  なんか、ストレスとか無いかな。  オレの世話みたいなの焼きすぎなストレスとか……。一瞬、ありそう? ってヒヤッとしたけど。ふと、朝の笑顔が浮かんで。  ふにゃ、と気持ちが和らいだ。  いまんとこ、それは無さそう、かな。  その時、スマホが震えた。 『ちょっと早すぎた?』  そんなメッセージに、ふふ、と微笑む。 『うん。早かったかも。まだ友達、来てない。ていうか、玲央、授業無いのにごめんね』 『いいよ。やることあるし』 『何するの?』 『歌詞書いたり……曲直したり色々』 『そっか。頑張ってー楽しみにしてるね』  そう入れると、なんだかドヤ顔した犬の顔のスタンプが。続いて、「任せて」と入ってくる。 「――――……」  さっきまで一緒に居たのに。  ……なんか、こんなメッセージのやりとりすら、幸せで。  なんだか、スマホが、すごく大事なものに見える。  ただやりとりする道具ってよりは……玲央から届く言葉が、なんか、ふわふわ幸せ、運んでくれるものみたいな。  どう我慢しても、ふわ、と口元が緩む。 (2025/2/22)

ともだちにシェアしよう!