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第870話◇
【side*優月】
なんだかものすごーく濃かった週末を過ごして、月曜の朝。
玲央の腕の中で目覚めた。
起きて、目が合った瞬間、あ、昨日待ってるって言って寝ちゃった、と思って、あ、と喋ろうとしたら、むぎゅーーーって感じで抱き締められた。
「すっげー可愛い感じで寝てた」
クスクス笑う玲央が、優しい声でそんなことを言う。
「……? どんな感じ……??」
そう聞くと、「先に寝ててくれてありがとなっと思う感じ」とか、なんだかよく分からないことを言われた。けど、なんだかとってもごきげんで楽しそうで、大好きだったので、オレもそのまま玲央の背に腕を回して、心のままにすり寄ると。
ふ、と笑った気配がして、より密着する感じで抱き締められた。
「――――……あーもう……ほんと」
「???」
なんだかめちゃくちゃすりすりされて、撫でられて、抱き締められて。
ひええ、てなりながら朝を過ごした。
「学校休んで、一日こうしてよっか」
そんな甘い甘いお誘いに、ついつい、うん、なんて言ってしまいそうな自分にはっと気づき、ダメ、と答えると、「分かってるけどさ」と玲央がちょっと拗ねてるみたいな。
うう。可愛い。
胸の奥、最大限にきゅんきゅんしながら、過ごしてしまった。
その後は、普通に着替えて、一緒に朝ごはん作って、なんかとってもそばで座って一緒に食べて、で、いつも通り登校して、正門のところで、じゃあ帰りにな、と別れた。
お昼とかは、て思ったら、土日、優月のこと独り占めしすぎたからって、なんか笑ってた。確かに友達は元々はかぶってないから、ほんとなら、一緒にならないのが普通だからなぁと思いながら、オレも、じゃあ帰りにねと別れてきたけど。
なんか。振り返ると、玲央がまだ正門のところで立っててオレを見てるから、何回か振り返ってバイバイして、最後見えなくなるところでも、もう一度バイバイしてから、校舎に入った。
階段を上って、教室に入る。ちょっと早くついちゃって、まだあんまり来てないので、適当に真ん中あたりの席に座った。
筆箱とかを出しながら、なんだか朝からのやりとりがよみがえってくる。
――――……。
なんか。
……玲央って。
…………うう。可愛い。
もう、いつもひたすらにカッコいいのに。
玲央が可愛いっていう、オレのこの、悶えそうな気持ちって、多分、あんまり誰とも共有してもらえない気がする。
カッコいいなら、色んな人と共有できちゃうと思うけど、この、「んー、可愛いよう……」っていう、この気持ちは、きっと、誰も分かってはくれなそう。
もしかして蒼くんはちょっと年上だから、その目線で可愛いって分かってくれるかな。って言っても、別にオレは年上目線で可愛いって言ってるわけじゃないから、もうなんかまた違う話かなぁ。
――――……ふ、と思い出す、数々のシーンの玲央は、ひたすら「カッコいい」なのだけど。
……ずっと正門に立って見送ってくれてるとことか。朝、ちょっとねぼけた感じで、めちゃくちゃすりすりしてくる感じとか。
うう。愛しすぎて、心臓が痛い。
なんなんだろう、寝ててくれてありがとうって。
待ってるって言ったあげく、寝こけてた人に、そんなこと言う人、居るのかな?? この世には、そういう人達、いるのだろうか。
とりあえず玲央は言ってくれたけど。
……なんか玲央って、ほんと……優しすぎて、怖いくらい。
なんか、ストレスとか無いかな。
オレの世話みたいなの焼きすぎなストレスとか……。一瞬、ありそう? ってヒヤッとしたけど。ふと、朝の笑顔が浮かんで。
ふにゃ、と気持ちが和らいだ。
いまんとこ、それは無さそう、かな。
その時、スマホが震えた。
『ちょっと早すぎた?』
そんなメッセージに、ふふ、と微笑む。
『うん。早かったかも。まだ友達、来てない。ていうか、玲央、授業無いのにごめんね』
『いいよ。やることあるし』
『何するの?』
『歌詞書いたり……曲直したり色々』
『そっか。頑張ってー楽しみにしてるね』
そう入れると、なんだかドヤ顔した犬の顔のスタンプが。続いて、「任せて」と入ってくる。
「――――……」
さっきまで一緒に居たのに。
……なんか、こんなメッセージのやりとりすら、幸せで。
なんだか、スマホが、すごく大事なものに見える。
ただやりとりする道具ってよりは……玲央から届く言葉が、なんか、ふわふわ幸せ、運んでくれるものみたいな。
どう我慢しても、ふわ、と口元が緩む。
(2025/2/22)
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