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第886話◇
やわらかいキス、繰り返して、ふふ、と笑ってたら、お湯を張り終えたことを知らせる音楽が流れた。
「入ろ」
玲央に腕を取られて、そのまま一緒に脱衣所に入る。
玲央が何のためらいもなく上を脱いだ、その裸の背中にどきっとする。
――全然意識しないで脱ぐんだもんな、玲央。オレはまだ全然だめだなー毎回恥ずかしいし。ちまちま脱いでいると、玲央がくる、と振り返る。
「……何でそんな可愛いかな」
クス、と笑って言う玲央を振り仰いで、思わず首を傾げてしまう。
「オレ、たまに、玲央の言う可愛いが全然分からなくて」
「今分かんなかった?」
「うん」
「――間違ってたらあれだけど……オレの体、直視できない感じじゃなかった?」
「う……うん」
ズバリすぎて、思わず、素直に頷いてしまった。すると、玲央がからかうように、目を細める。
「なんか、ふいっとそっぽむいたから。可愛いなあ、と思って」
「……オレ、人前で脱ぐのもちょっとはずかしいから……」
「どうして?」
「前からいってるけど、玲央みたいな体だったら、オレも、ばっ!て脱ぐかも」
言いながら脱いだTシャツを軽く畳みながら洗濯機に入れてると、玲央が「ばっ!て?」と笑いながらオレの腕を引いた。
真正面から向かい合って、ただ玲央を見上げると。
そっと頬に触れた玲央が、なんかニヤ、と笑う。そのまま、つ、と顎のラインをたどって、首筋に指を這わせる。
「コンサートとかみたいな?」
「あー、そう。かも。脱ぐ人居るよね?」
「脱いだことあるよ。ライブで」
「わーそうなんだ」
オレは、ふと、想像。
……玲央が、歌いながら、服脱いでるところ。
「……カッコいいの間違いないね」
ふむふむ、と頷いていると、玲央は、プッと吹き出した。
「そう言われると、普通の人はそんなに人前で服脱がないかもな」
「脱がないよね」
「オレも、見せることもあるからって、鍛えてもいるしな」
「それってさ、玲央。見せるから鍛えたのか、鍛えててカッコいいから見せられたのかどっち?」
「ん? 見せるから鍛えたのか……?」
「それとも、鍛えててカッコいいから見せられたのか」
「ああ。……元から鍛えてたから、見せて……見せるから更に鍛えた、って感じかな」
「じゃあ元から鍛えてたのかぁ……すごいなぁ」
しみじみ頷いていると、なんだか面白そうな顔でオレを見ていた玲央が、オレの手を取って、自分の胸の筋肉に触れさせた。
「え」
「これが今、優月のもん、てのはどんな気分?」
「――オレの……?」
「だって今ここに触れるのは優月しか居ないだろ?」
玲央の胸に触れさせられた手を、上からぐっと押さえつけられる。筋肉質な、胸の感触。
「オレの……」
張りがある気持ちいい弾力にすり、と触れた後、ふっと我に返って。
かぁっと一気に熱くなった。
「や、ちょ……っやめ、そういうの!」
手を外しながら、じたばた喚いたオレに、玲央はクッと笑い出した。
「もうもう! 恥ずかしいから……っ」
「でもほんとだろ?」
「な、なにが」
また手首を掴まれて、今度は頬に触れさせられる。
「全部優月のだろ」
「…………っ」
それは、嬉しいけど……。嬉しいからこそ、耳まで熱くなるの、止められないし。
「――こっちも、優月のな?」
する、と持ってかれた手で、玲央のそこに触れさせられて。
「………………っっっ!!!」
声も出ないし、なんだか耳がキーンとするくらい恥ずかしくなって、涙目になってしまった。
「――ふ。可愛すぎだよな、お前」
クックッと笑いながら、玲央はオレの頬に触れる。
「優月も、オレのだから」
言いながら、めちゃくちゃあっつい頬に、キスしてくる。
「どこもかしこも、オレのだから。見られるの恥ずかしいとか、無しな?」
「……っ」
「だってオレのだし」
――もう無理。
ぷしゅー、と張りつめた空気が抜けるみたいに力が抜けて、オレは、くて、と玲央に寄りかかった。
「……も、無理」
一言言いながら、ちょっと縋りついてしまったオレに、玲央はまたクスクス笑って、「ん」と面白そうに頷いてる。
(2025/8/11)
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