884 / 886

第889話◇

 お風呂ですると、声が響くから恥ずかしい。  いつも思うけど、また、いまも思う。 「……んぁ、……っあ……」  鏡に肘から先の手をついて、ぎゅ、と手を握る。――映ってる自分は見れなくて、俯く。  後ろから玲央を受け入れて、中を緩く突き上げられると、快感で真っ白になる。  こんな感覚は、これでしか味わったことが、ない。  玲央に会うまで、知らなかった感覚。  声をなるべく出さないようにって、思うんだけど、それは無理みたいで。  どうしようもない喘ぎが、バスルームで響く。 「……っんん」  後ろから胸に手が滑ってきて、密着するみたいに抱き締められる。  さらに奥に入ってきて、ゾクゾクして、涙が零れ落ちた。  水滴なのか汗なのか、涙なのか、もうよく分からない。  気持ちいいのと、愛しいのと。  自分の中がそれで満たされてて。 「れ、お」  名前を呼ぶと、なんだか愛おしさが倍増して、きゅ、と後ろを締め付けてしまう。 「優月――」  熱っぽい声で名前を呼ばれるだけで、なんかもうイっちゃいそうで。  ぶる、と震える。  ますます激しくなって、もう本当に何も考えられなくなって――脚が、震える。抱き締められて支えられてるから立っていられるような。  鏡についた手を、ぎゅうっと握る。  一番激しい時を迎えて――玲央のがオレの体の中から抜けて外で放つと、なんだか一気に切なくなる。 「――っ、は……」 「優月」  ぎゅう、と抱き締められる。シャワーが出されて、汗も涙も、いろんなものが、流れていく。  くる、と振り向かされて、キスされる。 「……ン、……ふ」  舌が触れて来て、まだ熱い体の中、ぞく、と震える。  湯気の中で、呼吸が全然整わない。    指先まで、じんじんしてて、優しいキスなのに、なんだか小さく、震えてる。  玲央の背中に手を置いて、縋るみたいに、ぎゅ、と抱きついた。 「……んん、れお……」  唇の間で、そう呼ぶと、玲央がくすっと笑う。 「――大丈夫か?」 「……うん。でも……死んじゃうかも」 「ふ。また死んじゃう?」  そんなセリフを、嬉しそうに言いながら、悪戯を仕掛けるたいな顔で笑って、舌を触れさせてくる。 「ん」  誘われるように舌を出すと、あむ、と食いつかれて、声が漏れた。  体の内側のほうがずっと熱い。  こんなのは、本当、知らなかった。  自分の中にこんな感覚があるなんて。  ……玲央と会わなければ、一生知らなかったかも。  中から、完全に支配されるみたいな強烈な感覚。  でも、甘くて、優しくて、大好きってなる、ほんとう、不思議な感覚。    もう何度も何度も、触れられているのに、毎回ちがう。  抱かれるたびにちょっとずつ好きがつもってくみたいで。毎回、もっと愛しくなってくみたい。  際限なくて、こまっちゃうなぁ……。 「ゆづき……」  ちょっと甘えるみたいな玲央の声は、どきん、とするくらい、可愛くも感じる。  ちゅうちゅうしながら、オレの舌に触れてくる、玲央は、甘すぎて。 「れお、好き……」  そう言うと、玲央はふ、とオレを見つめて、優しく笑いながら、またキスしてくる。  目を閉じると、さっきの、激しい感覚がよみがえって、それだけで、息が浅くなる。  玲央に会うまで、こんなふうに誰かに触れられたことなんて、今まで一度もなかったのに。  なんかどんどん、体、変えられてしまうような。  でも、怖いよりも――不思議と、すごく、あったかくて、優しくて。  もう一回、と思っている自分がいるかも。  胸の鼓動が、すこしずつ、ゆっくり戻っていく。  玲央が好き。  どうしてこんなに好きなんだろう。  不思議。  ――玲央も、オレのこと。  不思議って思うくらい。同じように好きって、思ってくれてると、いいなぁ。 「……んん」  浅く深く、繰り返されるキスと、ぎゅうと抱き締めてくれる腕の強さが、気持ちよくて。  ずっとこうしていたいなあ、なんて、思っていた。 (2025/10/11)

ともだちにシェアしよう!