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第891話◇
玲央に言われたまま、窓の近くのソファに座る。窓の外真っ暗。
静か――。
お風呂、めちゃくちゃあったまった気がする……。
というか、なんというのか。あったまったどころじゃなくて、 熱かった。
「ほら。水飲んで」
玲央がすぐ隣に腰かけながら、コップを渡してくれた。氷が入ってて、めちゃくちゃ冷えてる。
「ありがと。おいしー」
「ん。火照ってる感じ、すげーから。ちゃんと飲んで」
すり、と頬に触れられる。
……そういうことされると、よけいに火照っちゃうんだけどね。
お水をぐびぐび飲み干して、コップをテーブルに置くと、ソファに深く身体を沈み込ませた。
「湯冷ましにアイス食べる?」
「わー食べたい!」
一瞬でご機嫌になってそう言ったら、玲央はクスクス笑いながらオレの髪を撫でてから、冷蔵庫に向かう。
こういう、ちょっとした時にこんな風に触ってくれるのが、玲央の凄いところだよね。うんうん、と頷きながら玲央に撫でられた前髪を。
照れながら少し、整える。
玲央が持ってきてくれたのは、シンプルなカップのアイス。
「バニラとチョコ、どっちがいい?」
「玲央は?」
「どっちでもいい」
「んん。じゃあ……チョコ」
はいどうぞ、と、スプーンと共に渡してくれる。
すぐ隣に腰かけて、蓋を取ると、テーブルに置いた。よいしょ、と玲央にちょっともたれかかるように身を寄せる。
お風呂上がり特有の、けだるいような感覚。
――というか、いつも以上に、とってもけだるいけど。
でも、すごく、近くて、優しい、距離感。
「おいし……」
一口食べて、んー、と目をつむったオレは。
ふと頬に触れた玲央の手に、上向かされて――。
すぐ近くに息を感じて、視線がぶつかる。玲央の瞳は綺麗だなぁ、なんて思った次の瞬間。
「ん……」
唇が触れて。アイスで冷えてた口の中に、玲央の熱い舌。
冷えた甘さと熱が混ざるみたいな。やさしい感触が触れてきた。
ぞく、と震えて、でも逃げられなかった。というか逃げられるわけがないけど。
そのままじっとして、玲央を見上げていると。
「――ほんとだ」
なんて言って、ぺろ、と舌で自分の唇を舐める。
そうしながら、オレの唇の端を、指でそっとなぞった。
かぁっと頬に熱が集まった。
「チョコもおいしいな」
赤くなったオレの頬に、すり、と指で触れながら、くすくす笑う玲央は。
なんかもう。その笑顔が、ずるいくらい甘々すぎて。心臓がとけちゃいそうな気がする。
もうこれは、アイスよりも甘いのではないだろうか、なんて思っていると。
「バニラもおいしいよ」
そう言いながらアイスを口に入れて。
「あ」
なんて、口をちょっと開けて見せてくる。
ぼぼぼぼ。
何をさせたいのか一瞬で分かって、さっきの比じゃなく真っ赤になったオレに。
玲央は、「ん」と言いながら近づいてくる。
「…………っっ」
誘われるれがまま、吸い寄せられるみたいに、唇を重ねて、そっと、舌で触れると。
甘い、バニラの香り。
「――っ」
自分がしてることがめちゃくちゃ恥ずかしくなってきて、離れようとしたら。
後頭部を軽く押さえつけられて、深い、キス。
「ん、ん……」
アイスの甘みと――玲央の舌が、甘く感じるのと。
ふ、と、あっという間に涙が滲んでくる。
「――溶けちゃうか……」
名残惜しそうにそんな風に言って、玲央が、オレをそっと離した。
「アイス食べたらにしよ」
ちゅう、とほっぺにキスされて。ふ、と微笑まれる。
むむむむぅぅぅ。
もう、あまりに翻弄されまくりすぎて、悔しくなってきて。
オレはちょっと方向を変えて、玲央の腕というかちょっと背中あたりに、自分の背中を押しあてて、寄りかかった。
玲央はそのまま、くすくす笑ったまま、オレの背を支えてくれてる。
パクパク食べてると。
口の中、いい感じに冷えてきた。
どっちもしゃべらない。アイスをすくう、カップとスプーンが触れる小さな音と。時折聞こえる静かな息遣いだけ。
静かで、とってもゆるくて。
なんだか、満たされている気がする。
――このまま、時間が止まったらいいのにって。
こういう時に、思うのかなぁ。
そんな風に、ぼんやりと思う。
「――喋んなくていいのって……やっぱり、いいと思わねえ?」
玲央を振り返ると、な? と微笑む。
オレは、よいしょ、と座り直して、玲央のとなりに、くっついて座る。
「……ふふ。思う」
くっついてそう言ったオレに、玲央がくすっと笑って。でも、それ以上は、特に何も言わなかった。
(2025/10/25)
こんな感じで書くのがすごく好きなんです。
が。
そろそろ話し進めた方がいいですよね…꒰ঌ(っ˘꒳˘c)໒꒱(笑
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