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第893話◇
◆◇◆
朝、玲央と別れて大学の構内を教室に向かって歩いてると、友達に会ったので、皆と並んで歩き始めた。
「そういえば、教習所どうなった?」
「ああ、うん。見に行ったとこに決めてきたよ~」
「おー、そっか。優月もいよいよ車に乗るのか」
「ねー、いよいよ。大分ドキドキだけどね。でも自分で遠くに行けるのは楽しそう」
言いながら自分が運転してる姿を思い浮かべてみる。
……んー。目標は、かなり遠いけど、玲央だなー。
落ち着いてるし、ハンドルの持ち方カッコいいし。バックする時もカッコいいし。あんな風に運転できるようになりたい。
そんなことを思っていると、友達の一人が、ふ、とオレを見やる。
「でも優月、教職もあるし、忙しいんじゃないの」
「ねー、そうなんだよね。だから夏休みの合宿がいいかなーって思ってたんだけど」
「合宿は嫌だった?」
そう聞かれて、そうじゃないんだけど、と答える。
浮かんだのは、合宿に行ってほしくなさそうな顔をしてた玲央のこと。
――ふふ。なんか。可愛かったからなぁ。
「でも結構遅くまでやってるから、何とかなりそう。その分夏休みはいっぱい遊ぶんだ~」
そう言うと、皆、くすくす笑い出した。
「また皆で、バーベキューとかしような」
「花火もな~」
「うんうん、しようね~。それまでに頑張ってる免許取る!」
こないだ、玲央と「長く仲良くいるには」なんてことを話した翌日から、急に玲央は忙しくなった。
バンドの歌や楽器の練習もあるし、夏休みのツアーの話なんかもよくしてる。家にいても、電話で話していることが多いし、座って何かを見ながら考えてたりする。
昨日はバンドの練習を見に行った。玲央は、無理して来なくてもいいよ、なんて言ってくれてたけど、これは完全に、役得だった。
新曲を練習し始めると、いちいち止まってあれやこれや話し合いが始まる。オレも勉強しながら離れたテーブルから見てるし、言ってることはよく分からないんだけど、でもその話が終わって弾き始めると、さっきより良くなってくのは分かる。
そこはオレみたいな素人でも、分かるので、わーすごい、と思わず拍手しちゃったり。
とにかく楽しかった。
玲央がバタバタしてるから、家事はオレがやるからね、と言ったんだけど、結局一緒にしてくれちゃう。それで、何かしながらも、玲央は歌を口ずさんでることが多くて。
――その歌声が、めちゃくちゃ好き、だったりする。
「いつから行くの、教習所」
そう聞かれて、はっと気を取り直す。
「あ、うん。明後日、日曜に実家に行ってパンフレットとか見て貰って、お金出してもらってからだから……でも、来週くらいから行けるのかな。申し込みに行かないと、分かんないんだけど」
言いながら、またふと思い出す。
玲央が、玲央のお父さんに電話してくれたら、結局家賃はいらない、ということになってしまった。そのかわり人を家にいれるなら、いろいろ考えるように言われたって。でも、一緒に住むのはOKは出たとは言ってた。
だからオレの実家に帰る時、その話もするって、玲央が言ってたけど。
……ほんとうに、ちゃんとオッケイ出たのかなあ。とちょっと心配。
電話長かったし。
一緒に暮らすなら、しっかり考えてからって。
玲央のお父さんが言ってたことは、母さんが言ってたことと同じな気はするけど。
やっぱり、玲央のお父さんに言われるっていうのは――同じ言葉でも全然違ってて、かなりドキドキしてしまう。
もしもだけど……反対、されたら。
どうしようかな。
反対されても……玲央のことは好きだと思うしなあ。
そんなことを考えながら、皆と一緒に教室に入り、一緒に真ん中へんに座った。次々他の子たちも集まって来て、話してるうちに教授も入ってきて、講義に入る。
けどオレの頭の中は、授業を聞きながらも、ぼんやり続きを考える。
それに、玲央は、オレのお父さんに初めて会うわけだし。
やっぱりそっちも、ドキドキ。
結婚するわけでもないのに、なんか実家に挨拶にとか。
…………結婚か。
玲央と結婚。
……それは嬉しいな。
ふ、と笑いかけた自分に気づき、ぶる、と首を振る。
違うだろ、考えること。何考えてるんだろ、オレ……。
ああ、とりあえず。
まず先に考えるのは、実家に玲央と帰ること、かな。うん。
――でもオレの家族は、なんか、平気そうな気がする。となると、やっぱり、まだどんな人かも分からない玲央の家族かなぁ。
いくら、希生さんが玲央の家の中では力が強いとか言ってもさ。
やっぱり、玲央のお父さんお母さんだから……仲良くできたらいいなと、思っちゃうから。
なんだかもう、あっちこっちに思考が飛んでは戻って。
とにかくやっぱり、ドキドキだ。
(2026/1/24)
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