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第898話◇

「玲央はね、芸能人みたいなことも、してるでしょう」 「そうですね、ライブ行きました。すごくカッコよかったです」  オレの言葉に、玲央のお母さんは、ふふと笑顔になった。  さっきから思ってたけど。  玲央のこと褒めると――ちょっと嬉しそうな顔をする。    ああ、なんか、玲央はすごく愛されてるんだなぁと思って、なんだか嬉しくなってしまう。綺麗なお母さんが可愛く見えてきた。 「芸能人っぽいことしてて人気が出ちゃって……あんまり真剣にならないみたいだし。そういうの、あなたは辛くないのかなって……」 「今のところ、すごいなーとはたくさん思うんですけど、辛いと思ったことはないです」 「モテすぎて嫌とか……?」 「モテるのは、素敵だからなのでしょうがないかなって思って」  思うことを即答してると、しばらく黙ってしまった。  静かに一口コーヒーを飲むと、ほ、と息をついた。 「おいしいわね」 「玲央が好きな珈琲なんですよ」 「――そう」  ふ、と微笑むと、もう一口飲んでからカップを置いた。   「花宮くんも、お友達に聞いてそうだけど――玲央は、あまり真剣なお付き合いはしてなかったみたいでね。花宮くんに会って余計に思ったんだけど」 「はい」 「玲央とは、タイプが全然違うように見えて」 「――そう、ですね。よく言われますね」  言いながら、すこし笑ってしまったら、玲央のお母さんは不思議そうな顔をした。 「玲央と暮らすこと、ご両親には……?」 「今週末に、玲央と一緒に実家に行くことになってるんですけど……」 「……交際してることも、話すの?」 「多分、そうだと思うんですけど。あ、でも母はもう、前回行った時に気づいてそうなんですけど」  ますます不思議そうな顔をされる。 「花宮くんはその……前から、男の子が恋愛対象だったの?」 「いえ。全然。考えたこともなくて」 「――じゃあ……?」  玲央のお母さんの眉がちょっと寄ってしまう。  あ。えーと。好きじゃないとか、思われちゃうかな。慌てて、言葉を続けた。 「オレ、初めて会ったときから、玲央のことが忘れられなくて。最初は何で気になるかもよく分かんなかったですし。……噂は聞いてたし、友達にも最初は反対されたりで、いろいろ考えたんですけど」 「――」 「結局、会えるだけで嬉しいって思うくらい、玲央のことを好きになっちゃったので……玲央がオレといたいって言ってくれてる限り、絶対一緒にいたいです」  玲央のお母さん、相槌すら打たなくなっちゃって、じーっとオレを見つめている。 「えと……あ、あと。噂はもう今の玲央は違うので。それはもう過去の玲央、だと思います」  身振り手振りで一生懸命説明していると、玲央のお母さんは、オレを見て、ふ、と笑った。 「――そう、なの? じゃあ。今の玲央は? どうなのかしら」  今の玲央は。  オレは、ちよっと考えた後、玲央のお母さんを見つめ返した。 「今は――まっすぐで、優しくて、すごくすごく素敵な人、だと思います」  考えながら言い切ったオレを、すこしびっくりしたように見つめた後、玲央のお母さんはふっと顔を逸らした。と思ったら、我慢できない、という感じで、急に笑い出した。  ……あれ。……めっちゃ笑われてる。……ほんとなんだけどな……。  困っていると、目に涙を浮かべながら笑っていた玲央のお母さんは、目尻を拭いながらオレを見つめた。 「花宮――優月くん、よね?」 「あ、はい」 「優月くん。……素敵な名前ね」 「――ありがとうございます」  玲央のお母さんは、綺麗に微笑むと、オレを見つめた。 「私は、|香澄《かすみ》と言います。香りが澄んでるって書くわ。名前で呼んでくれるかしら」 「えっ。あ。……香澄さん、ですか?」 「ええ」  香澄さん、は少しだけ目を細めて、まるで何かを確かめるみたいにオレを見た。それから、肩の力が抜けたようにほっと息をついて、微笑んだ。  なんだか、すっきりした顔をしている。  まっすぐにオレを見つめてにっこり笑う香澄さんは――さっきまでよりも、余計に綺麗な気がする。  

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