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第899話◇
「ごめんね。言い方は悪いけど――少し、試させてもらったの」
そう言われていまいち意味が分からずに首を傾げながら頷くと、香澄さんは続けて言った。
「玲央の恋に関しては、最初から、認めるとかそういう話じゃないのよね。玲央の人生だから。でもね」
じっとオレを見つめて、香澄さんは笑う。
「お父さん――あ、玲央のおじいちゃんの希生さんがね。優月くんのことをいい子だって、話してたから」
「あ、希生さん……」
「そう。それを聞いたら……玲央がそんな子をもし傷つけたら……と、思って。とりあえず、会ってみたくて来たの」
「え。……オレに、会いに来たんですか?」
「そう。優月くんに会いたくて」
ふふ、と香澄さんは笑う。
「玲央に連絡したら、今日は夜までいろいろあるから明日電話するって言われたの。……そしたらもしかしたら、優月くんだけと話せるかもしれないと思って――今日、ここに来るって、あの子には言ってないの」
「えっ玲央、知らないんですか?」
「ごめんね~、言ってないのよ」
そんな風に言って、ちょっと悪戯っぽく笑う香澄さんに、なんだか力が抜ける。
ええぇ。連絡したって嘘だったんだ。全然分かんなかった。と苦笑してると。
「勇紀くんや稔くんたちの話だと、玲央のお相手の子たちはサバサバしたタイプだって言ってたから、それならもう、親の口出す話じゃないんだけどね。でも、優月くんは違うタイプな気がしたから……ごめんなさいね、突撃してしまって」
コロコロと楽しそうに笑う香澄さんは。
さっきまでと、なんだかものすごく、雰囲気が違う。
「それからごめんね。最初からフレンドリーに話しちゃうより、ちょっと怖いママが来た、って思われた方がいいかと思って。少し怖いフリしちゃった」
「あ……なるほど」
それで、笑いそうになったら咳払いしてたりしてたんだ。
笑うの我慢してたのか、と思うと。なんだか一気に、親近感が沸いた。
「よく玲央と似てるって言われるんだけど……私、あんなに不愛想じゃないはずなんだけど」
玲央のことを「不愛想」と言って笑う香澄さんに、不愛想か……としばし考える。
「あ、でも玲央、不愛想じゃないですけど……? もちろん誰にでも愛想ふりまくタイプじゃないかもですけど……」
「えっ。……そうなの?」
「え。違うんですか? 不愛想……?」
ぱっと浮かんでくるのは、目が合うたびに優しく微笑むあの笑顔なので、不愛想が結びつかない。
……でも、そっか、そういえば。会った最初の頃は――あんな風には笑わなかったような気もするような。
稔とかと言い合ってる時のあれは、不愛想とはまた別の感じだし。……あ、そうか!
「あっ分かりました」
「ん?」
「玲央、顔が整いすぎてて綺麗すぎるので、黙ってると、冷たく見えちゃうっていう話かもです。オレが、ぼけっとしてても、気が抜けてるだけに見られますけど、玲央はきっとボケッとしててもカッコよすぎるので、それで表情ないとって、そういう話かもしれないですねっ」
完璧な考察だと思って意気揚々と話している間、面白そうにオレを見つめていた香澄さんは、オレが話終えると、楽しそうにくすくす笑い出した。
「――ふふ。あのね、優月くん?」
「はい?」
めちゃくちゃまっすぐ見つめられてしまい、思わず首を傾げた瞬間、ふ、と口元が更に緩んだ。
「優月くん、さっきからずーっと思ってたんだけど」
「あ、はい。なんですか?」
「――すっごく、可愛い」
「えっ」
すっごく可愛い?
……さすがに成長するにつれ、大人の人に「可愛い」と言われることはなくなってきているのだけれど。
玲央がオレに可愛いって言うのと、なんだかちょっと重なってしまった。
「なんだか、香澄さんに言われるのは――玲央に言われるのと、既視感があるような気がしますね」
思わずそう言うと、香澄さんは「あら、そう?」と言って、ふふっと目を細めた。
「そのTシャツもすっごく可愛いし、似合うわよね。見た瞬間、可愛いって言いそうになっちゃって、困ったわ」
楽しそうに言う香澄さんに、改めて自分のTシャツを見ながら、玲央とこういうのの好み、同じなのかな、と思ったりした。
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