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第904話◇
玲央は、オレを見て、ふんわり微笑んだ。
どき、と心臓が震える。
少しの沈黙のあと、玲央は香澄さんに向き直って、静かに口を開いた。
「優月といるとオレ、ちゃんとしようって思えるんだ。適当でいいやって、思えなくなる」
玲央がなんて答えるのか、全然予想はできてなかったのだけれど……。
たぶん、一緒にいたいからとか、そういう時に言いそうな、なんとなく漠然と思っていた類のものとは、違った。
「――まだ会って三週間くらいだけど……なんか、いろんなことが大事に思える。優月のことももちろんそうだけど、自分のまわりのいろいろなことも、大事にしようって思うし、頑張ってやろう、とも思える」
香澄さんは少し驚いたように目を大きくして、黙ったまま、玲央の言葉を聞いていた。
「もちろん、優月のことは可愛いと思ってるし好きだよ。ただ、他と何が違うのかって聞かれたら、それ、かな――って、意味わかる? わかんねえ?」
なんだか照れたように俯いて、少し笑う。
オレは、胸がじーんと熱くなって。ちょっと泣きそう。
考えると、玲央と過ごすようになって、玲央との恋を温かく見守ってくれる周りに、すごく感謝するようになったし。ご飯を一緒に食べたり、朝学校に行く道すら、大事な気がして――毎日、普通に生活してるのが、この上なく大切な気がしてるし。
多分、玲央は、そのことを言ってくれたんだと思う。
玲央は一度、視線を落とした。それから再び顔をあげると、香澄さんに向けて言った。
「とにかく優月だから。――優月みたいにまっすぐな奴、初めてだったから」
すると香澄さんは一度唇を噛んでから、すう、と深く息を吸った。
「私が予想してたのとは違う答えだったけど……」
そう言いながら、軽く握った手で口元を押さえる。
それから静かに頷いて、ふふ、と笑った。
それは。見てるこっちまで嬉しくなるような、そんな、笑顔で。
「分かる――優月くん。可愛いわよね」
「……何を見て、そう言ってんのか分かんないけど」
「このTシャツで出てきただけで、めちゃくちゃ可愛かったわ」
そこ? と首を傾げてるオレを、ちらっと見た玲央が。
「……まあ、そこは完全に同意する」
言いながら、ぷ、と笑って、オレからちょっと視線を逸らす。香澄さんもまた、くすくす笑いながら、あらぬ方向を見ている。似てるなぁ二人、と可笑しくなっていると、香澄さんが続けた。
「私にカレーを出してくれるときとか。玲央に用意してくれてるときも――せっせと楽しそうで。玲央の好きな珈琲豆で、コーヒー淹れてくれたり……玲央の着る服、持ってくよ、って自然と言うとことかね。そういう普通のことがね、居心地が良いし、可愛い」
「……ん」
玲央はゆっくり何度か頷いてから、オレと視線を合わせる。目が合うと、ふ、と目を細めてくる。
「それにしても、本当に会って三週間なの? ちょっとそれはびっくり」
「そうだよな?」
「うん。だいたい、それくらい」
うんうん頷くと、香澄さんは肩を竦めた。
「一緒に暮らすの、早すぎない? そこは、大丈夫?」
そう聞かれると、玲央は考えることもなく頷いた。
「早いとは思うけど、でも、大丈夫だと思う。不思議だけど、不安もない」
玲央がはっきり言い切って、オレに視線を流してくる。目が合うと、玲央は微笑んだ。
「今まで誰と何年いても、一緒に暮らしたいなんて思わなかった。そういうのって、過ごす時間の長さじゃないんだと思う――何かあっても、優月とならどうにかなる気がする」
玲央が言う。
もうオレは。喉の奥が、ぎゅっと詰まってて、何も言えない。
香澄さんはまたびっくりした顔で。
「――玲央がすごくまともなこと言ってる……」
「つか、オレをなんだと思ってんの」
香澄さんはふふっと笑って、オレの方に視線を向けた。
「優月くん」
改まった感じで呼ばれて「はい」と答えると、香澄さんはオレを見つめて、その瞳を優しく緩めた。
「――この子、よろしくね」
「え……」
なんだかすこし、瞳が潤んだ気がして――驚いてただ見つめ返して固まってる横で、玲央が、ふと笑ったのが目の端に映って――オレは、慌てて頷いた。
「こちらこそ、です。よろしくおねがいします」
「ふふ。――なんでもできそうな顔してるけど、たりないところたくさんあると思うから。何かあったら、なんでも言ってね」
笑いながら言う香澄さんに、「は?」と玲央が隣でちょっと眉を寄せたけど。
すぐ、苦笑しながらオレの肩を引き寄せる。
「何かあっても、ちゃんと話すから平気。な?」
「……ぅん」
――玲央の体温が、すぐ近くにある。
◆◇◆
後書き。
読みたい方だけどうぞ♡↓
玲央の答え、いかがでしたか? ドキドキ。
書いているうちに、玲央はきっとこう言うかな、と思って。
一緒にいたい、好き、だけじゃなくて。
誰かといることで、自分もちゃんとしたくなる。
そんな恋もいいなぁと。
どうだったかな~とドキドキ。
(´∀`*)もしよかったらキカセテクダサイ💕
ではではまた次回。
悠里
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