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幕・171 すごいご馳走

ヒューゴとしては、―――――傷跡が、残っている方が、楽しいのだが。 ふ、と動きを止めれば、硬直したようだったリヒトの腕から、力が抜ける。 (まあ、気にさせるのも、…よくない、か) リヒトが寝ている間に直しておこう。そんなことを考えながら。 「―――――や、ぁ!」 締め上げ、押し出すような動きをするリヒトの中に逆らわず、いっきに剛直を引き抜いた。 その動きに、抜けるのを惜しむように、粘膜が先端に絡みついてくる。 「あ、嘘、ヒューゴ…!」 信じられない、と言ったように、リヒトは首を横に振った。 黄金の瞳に、媚びて強請る色が浮かんでいる。 いつも他人を突き放す、冷たい色合いの瞳が、訴えてきた。 ―――――なんでもするから、挿入れて。今すぐ。待てない。 皇帝陛下が、この時ばかりは、快楽の奴隷になる。 (これ見るだけで、すごいご馳走食った気分) ふと、気付く。 少しだけ、牙の疼きが収まった。 …いずれにせよ。 汗で濡れた前髪が鬱陶しい。 雑にかきあげ、ヒューゴは余裕ない表情でリヒトを見下ろした。 「すぐ挿入れるから、おとなしくしとけよ?」 ヒューゴのものも、先走りを吐きだして、色々と限界だ。 ヒューゴは、手早くリヒトの身体をひっくり返す。 「…え…」 腕に力が入らないため、リヒトの頭はクッションに沈んだ。 それを両腕で抱きしめるようにした、と見えたのは、起き上がろうとした動きであったようで、 「待て、ヒューゴ、だめだ」 「なに」 「これ、ヒューゴの顔が、見えな…」 どこか切なそうな声で訴えてくるのに、 「あー、悪い」 我ながら自分勝手だな、と思いながら、ヒューゴはリヒトの腰を持ち上げた。 「ちょっとだけ、俺が満足するまで付き合って」 言うなり、 「あ、んっ、」 ゆっくりと、形を教え込むように、ヒューゴは自身をリヒトの中へ沈めていく。 ヒューゴの動きに合わせてリヒトの尻が跳ねた 。 膝が浮き上がる。 いっせいに、ヒューゴに絡みついてくる粘膜の中、引き抜く動きで、 「あ、ぁああぁぁ―――――!」 前立腺の、柔らかいふくらみをこすり立てた。 たちまち、リヒトの小さくて丸い尻が、これ以上なく淫らに震え、踊る。 腰が、心地よさに悶え、のたうつようにくねるなり、 ―――――ぱたっ、ぱたた…っ。 布の上に、何かが滴る音が聴こえた。精子か、先走りか、汗か。 ソファが汚れているだろうな、と目を落とせば。 (あ、俺の上着) 最初、リヒトに脱げと言われて彼の膝の上に脱ぎ捨てた制服だ。 それが二人の体液を吸い込んでいる。 洗濯が大変だ―――――とは思わない。この程度、何とかなる。 ソファが汚れるよりずいぶんましだ。 これなら、ますます遠慮は無用―――――ヒューゴは不敵に微笑んで。 「んんっ、んぅ!」 リヒトの中の、ぷっくりしたしこりを先端でじっくりこね回す。 粘膜を捏ねるたびに、にち、と粘着質な濡れた音があがった。 その衝撃は問答無用で、リヒトに繰り返し、射精を促す。 「だめだ…それ…!」 一度、リヒトは呻くように声を漏らす。 それきり、唇は、泣いているような息をこぼすだけで、何も言葉にはならない。 突くたびに、リヒトの先端から、白濁が吐きだされた。 だが最初ほど量があるわけでもなければ、だいぶん薄くなっている。 受け止めるヒューゴの上着はとんでもないことになっているが、どうにかなるだろう。 楽観したヒューゴは、腰を動かしながら、じっくりとリヒトの背中から尻にかけてのラインを見下ろした。 力が入ったきり、弛緩の方法を忘れたように、キュッと締まった孔の感覚と、突き出されたリヒトのきれいな尻が緊張し、戦慄く様を見るのは、毎日の、ヒューゴの楽しみのひとつだ。 そう、いくら変態と言われようと、ヒューゴは胸を張って言える。 リヒトのお尻が大好きだ。見るのも、触るのも。 いつだって食べてしまいたいが、食べてなくなってしまうのは、辛い。 だから見たり触ったり舐めるだけにしている。 こうして快感に震えて揺れる様が、一番好きだった。 強引に連続で射精させられたリヒトが、訳が分からなくなったか、とうとう、辛いことを耐えるように嗚咽をかみ殺す。 ―――――頃合いだ。 ヒューゴは、ぺろりと自分の唇を舐めた。 次いで。 ヒューゴは加減なしに、根元まで自身をリヒトの中へ埋めた。 ヒューゴの先端が、再度リヒトの奥を突き上げる。 「―――――ぁん!」 驚いたようにリヒトが声を放ち、その身が激しく仰け反った。 二度、三度、となったとき、じん、と身体を痺れさせたように、リヒトは全身をくねらせ、喘いだ。もっと、と身体中で訴えてくる。 じゅぽっ、くぽっ、とヒューゴとリヒトの体液が、結合部で泡立ち、二人の腿を伝い落ちて行った。 同時に、激しい動きに合わせて、体液の雫が周囲に飛び散る。 その頃には、リヒトの粘膜の動きが変わっていた。 奥へ奥へ、とヒューゴを飲み込もうとしてくる。 その動きに逆らわず、気遣いない動きでリヒトの奥を突き上げたヒューゴは、 「…くっ」 ぎゅっと眉根を寄せ、とうとう、吐精した。勢い良く、リヒトの奥を濡らす。 その感覚に感じるのか、はたまた、ヒューゴの体液が媚薬めいた働きをするのか。 リヒトがそれまでとは違う、身の震わせ方をした。 イチモツを深く根元まで挿入したまま、リヒトの奥を濡らす射精の快感に、うっとりしながらヒューゴは腕をリヒトの胸元へ伸ばした。 尻を小刻みに跳ねさせながらも、朦朧としたリヒトの、未だきちんと着こまれているシャツへヒューゴは手を伸ばす。

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