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幕・208 ずっと一緒には

落ち込むヒューゴとは裏腹に、彼のやることならなんでも受け入れるのではないかと思わせる態度のリヒトは、さらっと話題を変えた。 「ところであの半獣人は…どうする?」 ヒューゴの頭上から落ちたリヒトの声が、かすかに上ずる。 リヒトの指先が、いたずらに動いてしこった乳首を弾いたからだ。 わずかに身を竦め、それでもリヒトの手は、ヒューゴの黒髪をずっと撫でていた。 「そうだね…うーん、牢で拘束してるけど、その気になったら逃げられるはず」 寝台の上、夜着をはだけたリヒトの胸に顔をうずめたヒューゴは、硬くしこった乳首を尻目に周辺の肌を強く吸った。 代わりに指を伸ばし、勃起して唾液で濡れひかったそこを、押しつぶしながらくにくにともてあそぶ。 「でももし、朝まで、馬鹿正直におとなしくいい子にしてたら、…ちょっと手伝ってもらおうかな?」 「な、にを」 それだけでもリヒトの息は乱れたが、合間にぐっと爪を立てれば、 「ん…っ」 身体が微かに震えた。 同時に、リヒトの開いた両足の間で、イチモツが大きく痙攣する。密着したヒューゴには、よくわかった。 きっと、硬く勃起した肉茎の先端は、だらだらと先走りの蜜をこぼしている。 このまま続ければ、足の間はきっとぐしょぐしょに濡れるだろう。 早くどうなっているか生で見たいなあ、と思いながら、そこを意識してヒューゴの身体を擦りつければ、甘い息が零れ、リヒトの腰がくねり、背が撓う。 「…痛かったね、ごめんね?」 言いながらまた舐めて、ヒューゴの爪でついた乳首の傷を癒そうと、して。 虐めてくれと強請るようにピンと立った乳首から、瞬く間に傷が消えていることに気づいた。 ―――――神聖力の影響だ。最近は、かすり傷程度なら、リヒトの神聖力は最初からなかったことにしてしまう。 実はヒューゴにとって、それはちょっと寂しい。 もちろん、リヒトの安全を考えれば喜ばしいことだが。 (ますます俺はいらなくなるなあ) ヒューゴは、リヒトの胸板に、さらにすりすり頬ずりしながら、 「半獣人には、明日ミランダと行く先に同行してもらおうかなって」 ミランダからは、なかなか会ってくれない異種族に関しての相談を受けている。 だがおそらく、話を聞いたところ―――――。 (俺の知り合いだよなあ、間違いなく) だからと言って、話し合いを問題なく進められる自信などヒューゴにはない。 どちらかといえば彼は、口下手だ。言い回しがうまくないと言おうか。 「そこで説得を手伝ってもらえたらなって」 「なん、だと?」 快楽にうるんだ黄金の目が、一瞬とがった視線をヒューゴに向ける。 「アレに…うまくできるとは思えん。邪魔になるだけでは」 「いいお酒を持っていくし、ああいう、邪念なしのまっすぐさが逆に有効かなって気がして」 「ふん…真っ直ぐ、か。物は言いよう、だ、な…っ」 リヒトの背を撫でおろし、ヒューゴはリヒトの身体に伸し掛かった状態で、彼の尻肉をわし掴んだ。リヒトの身体がびくりと跳ねる。 そのまま、見ているだけでも満足な、大好きな丸みを味わうようにゆっくりもみほぐした。 手の感覚は、はっきりしている。 ヒューゴの手は、すっかり、完璧に再生していた。 リヒトのことは言えない、ヒューゴとて、骨すら溶けだしていた傷すら短時間で治っているわけだ。 ここまでくれば、化け物もいいところだった。 もちろん、便利だとも思う。だが『普通』と程遠い現象には、いつも違和感があった。いやそもそも、その『普通』は。 (ミサキの記憶の影響が強いんだろうけど…) 彼女は強さを望んだ。 思った以上にやさしかった世界は、彼女の願いをかなえ、ヒューゴという存在に生まれ変わらせた。 たとえ、悪魔という、生まれたらそれきりの、次の生を望めない存在だったとしても。 しかし、強さを望んだ時、まさかその代償があるとは想像もしていなかったはずだ。 図抜けた強さ、寿命の長い頑丈な身体は、ヒューゴを完全に独りにした。 いいや、思えばミサキ自身、親と死に別れてからはずっと孤独だった気がする。 誰にも迷惑をかけるわけにはいかないからと、望んで一人になった気もした。 その上、親切面で近づいてくる相手の中にはわかりやすく、こちらが持つ金を計算している者が多かった。 世知辛い世界だったようだ。 寂しくない、というわけではなかったが、孤独は彼女にとって大きな問題ではなかったといえる。 自身で選び取った、仕方のない結果に過ぎなかった。 それを思えば、ヒューゴはまだいいほうだ。 黒曜に出会い、混沌に出会い、灼熱に出会った。ソラという娘もいる。 周りがどれだけ死に、生まれようとも、彼等だけは変わらない。 一緒にいられる。それがどれだけホッとすることか。 (でもきっと、リヒトは皆と同じように、ずっと一緒にはいられない) そして、今の魔竜では、地獄に帰ると周りの悪魔の命を危険にさらす可能性がある。 もしかするともう会えないかもしれない。 しかし、なに、方法はいくらでもあるだろう。 (だけど、もし地獄へもう戻れないんだとすれば、ソラが心配なんだよな) 彼女は精霊だ。 ヒューゴが地獄で結界を張り直してやれない以上、このまま地獄でいるのはただ消滅を待つだけのような気がする。 それにやはり、ヒューゴとて生き物だ。いずれ死ぬ。 その時、地獄の奥底で箱入りのままでは、ソラはヒューゴと生死を共にするしか方法がない。 彼女は精霊で、王と言えるほどの力を持ち、もっと長く生きられるにもかかわらず。 そんな、一方的な話があるだろうか。 (しかも…) 今回のことで、精霊の力は、神聖力を防ぐ盾になりうることが、わかった。 ならば余計、 (周囲が悪魔ばかりの、地獄に置いておくのはよくない気がする) だからと言って、どうすればいいのか。 悩むヒューゴの耳に、リヒトの声。 「では、そこで、置いて…っ、いけ」 リヒトはもうすっかり、息が上がっていた。 それも仕方がない。 リヒトは、臀部を揉み解されるのに弱かった。 ヒューゴが服の上からふっと撫で上げただけでも、リヒトの身は跳ね上がる。 こうして、ヒューゴがしつこく尻を撫で回し、揉み込みながらキスなどしていれば、中で達することだってあった。 もちろん、リヒトがそうなるようにしたのは、ヒューゴだ。 とはいえヒューゴも、こんなになるまで長く触れ続けたのは、リヒトが初めてだ。だがヒューゴに飽きが来る気配はない。 …たまに思う。 リヒトといつか離れ離れになるのはわかっているが、それにヒューゴは耐えられるのだろうか、と。

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