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番外十二 交歓と交感

 交歓と交感  それぞれ別件の依頼を受け、三日――イーサンとチャールズはギルドの酒場で再会した。  イーサンはいつもにも増して饒舌で、他愛のない話を次から次へとチャールズに投げかけてくる。 「それでこの新しいペンですが、インクがとても紙馴染みが良くて。手帳にも使いやすいんですよ。ほら」 「ふうん、そうかい」  チャールズは相槌を打ちながら聞いていたが、ずっと握られたまま離されない手が気になった。 「なあ、イーサン」 「……っていう魔術を応用したスクロールなんですけど、はい。なんでしょう」  手首をよじってみる。イーサンは手を見て、チャールズの顔を見、浮かべていた笑みをすっと消した。 「どうかしたんですか、クラウチさん」  笑顔が消えたのは一瞬だった。イーサンはふたたび頬を緩めて、目を細める。 「イーサン、俺の話も聞いてくれよ」 「ええ、もちろんですよ。なんでしょう」 「あんたがいない間、俺が何してたか知ってるかい」 「いいえ。何してたんですか」首をかしげて見せるイーサン。 「いけないことだよ。ここじゃ話せないような事さ」 「へえ。いけないことですか」 「知りたいなら行こうぜ」  握られたままの手を振ってみる。イーサンは「いいですよ」と歩き出した。  やって来たのはイーサンの部屋だ。三日前と何も変わっていない。チャールズはイーサンを引っ張るようにして、ベッドの上に座った。 「さて、いけないことってなにか、教えてくれるんですよね」イーサンは靴と靴下を脱いであぐらをかいた。 「教えてやるさ。その前に手を離してくれないかな。いい加減あんたの汗でべとつくぜ」 「わかりました」  熱い湿り気が離れ、ひんやりとする。チャールズは手のひらをパーの形にしたり、閉じたりした。 「イーサン、寂しかったんだろ」 「ええ、寂しかったです」 「俺もさあ、寂しかったんだよ」  上着を脱ぎ、ソファに向かって放り投げる。 「クラウチさんもですか」 「寂しくて、昨日、我慢できなくって、自分でやってみた」 「何をしたんですか」 「決まってんだろ、オナニーだよ」 「オ……っ、あの」イーサンは視線をさまよわせた。 「ケツに指突っ込んで、あんたとしてるときを思い出しながらやってみたんだけど、イけなかった」 「……はあ、そっち、ですか」 「他にどんな悪いことしてたか想像したのかい」  にやにやと笑うチャールズ。イーサンは頬を染めて首をすくませた。 「なあイーサン、俺のオナニー手伝ってくんないかな」 「えっ」 「イけなくて溜まってるんだよ。あんたはどうだ。三日も俺とセックスしないで、寂しいの他に何もないのかよ」  アームバンドを外し、リボンタイを取り、ベストを脱いでいく。イーサンは耳まで真っ赤にしながら、あぐらをかいた自分の足首を揉んでいた。 「寂しい、だけではないです、けど」 「聖人気取りはやめようぜ、お坊ちゃん。ヤりたくてたまらなかったろ、手をずっと握ってさ。あんたの手の熱さったら、まるでトロトロに溶けたチン――」 「そうです、したかったですよ」  いやらしいチャールズの口を塞ぐように、イーサンは慌てた声を出した。 「もちろん、俺もしたかったですけど、それより本当に寂しかったんです……」  大きな背中を丸めて、項垂れる。チャールズは服を全部脱いでしまって、下着だけの姿になっていた。 「わかってるって。俺だって寂しかったんだよ。いじわるしてごめんな」 「クラウチさん……」 「脱げよイーサン。やろうぜ。嫌なら別にやらなくていいけど、今夜は一緒に寝てもらうからな」 「脱ぎます。布団に入っていてください、寒いですから」 「お優しいことで」  イーサンは急いで服を脱ぎ、下着一枚になった。チャールズは布団の端っこをつまんで、暇そうにポーズを取っている。 「脱ぎました」 「よし。来いよ」  ベッドに寝転ぶチャールズ。イーサンは恐る恐る、チャールズの隣に寝そべった。 「触らないのかい」 「……いいですか」 「いいよ。どこでも触れ。そしたら俺も触るから」  イーサンの大きな手がチャールズの脇腹に添えられる。スリップの上から撫で上げ、胸に移動した。 「もっと触っていいぜ」チャールズもイーサンの厚い胸に触れる。 「はい、触りますね」  イーサンの指が大理石のように平らな胸の上を何度かすべると、スリップの下にある小さな突起がぷつりと勃ってきた。イーサンはそれを指の腹でこすり、ゆるく摘まんだ。 「ん、気持ちい。やっぱ自分で触るのと全然違うぜ」  チャールズはイーサンの胸筋を羽が触れるように撫でている。 「気持ちいいですか。もっと触りますね」 「いいよ、触って」  平べったい胸を長い指が這って行く。いつの間にかチャールズは首を逸らして目を閉じ、イーサンはチャールズに覆いかぶさっていた。 「ああ、イーサン……」 「クラウチさん、綺麗です。脱がせますね」 「いいよ、好きにして」  喉に口づけを落とし、スリップの肩ひもをずらしながら、肌を露わにする。白い板に血色の薄い乳首が浮いている。チャールズの体には温かい血が通わないのだから、全てが死体の色だ。イーサンは小さな肉の尖りを舐めて、しゃぶりついた。 「ああっ、イーサン、それ……」  ぬくもりを与えなければ。イーサンは念入りに舌で転がし、吸って、粘膜の熱さを移していった。  たっぷりの唾液を塗り、吸いつくしながら唇を離すと、イーサンの熱が多少は移ったのか、紫色に近かった肌は赤みを帯びていた。  ならば、もう片方も同様に。イーサンはまさに、愛撫をしていた。チャールズをいたわり、快楽というよりも愛を与えたかった。 「うあ、あーっ……ああ、軽くイッたぜ、すげえいい」チャールズの蕩けた声が降ってくる。  イーサンは顔を上げ、慈しみを込めて微笑んだ。唇を合わせ、舌を絡ませる。チャールズの舌は冷たい。ここもしっかり温めないと。イーサンはぬるついた乳首を両の親指でこねながら、深く深く口を吸った。 「ん――」  チャールズの体がひくりと震え、口の端から甘い声が漏れた。また軽くイッたらしい。 「なあ……イーサン、ちょっと胸休憩してくれ。やばいからそれ、ずっとイクから」 「わかりました。じゃあ次はどこにしましょうか」 「あんたも触らせろよ」 「俺はいいんです、クラウチさんを触ってたら気持ちがいいので」 「じゃあもう入れようぜ。俺も気持ちいいし、あんたも気持ちいいからいいだろ」チャールズはもぞもぞと、花の刺繍がついたパンティをずらした。 「いきなり入れるのはだめですよ。慣らさないと」 「いいよ慣らさなくて。チンチン出せよ」 「クラウチさん。めっ」  パンツに手をかけようとするチャールズを優しくしかりつけると、チャールズはうーんと体をひねった。 「わかった、好きにして」 「はい、好きにさせていただきます」  イーサンはチャールズのパンティをそっと脱がせ、丁寧に畳んでサイドボードに乗せたスリップの上に置いた。 「クラウチさんのお尻は小さいですからね。俺のが入るなんて、未だに信じられません」 「問題ないよ。何十年か前までは一応クソしてた穴なんだから」 「もう。クラウチさん」  精製ジェルを絡ませた指で皺を押し広げると、指は自然と吸い込まれていった。中はどういう原理か既にぐっちょりと濡れており、チャールズが問題ないというのも頷けた。 「やっぱりあんたの指だな」 「痛くないですか」 「全然痛くない。俺の爪は切っても伸びてくるからさ、あんたの丁寧に切った爪がいいの。あんたの指は長いしさ、太いし、節が引っかかる感じもいい。俺のケツをほじるために産まれてきた指だな」 「クラウチさんたら。光栄です、といっておきましょう」  イーサンの指が中を探っていく。肉壁がきつく、うねりながら絡みついてくる。指なのに気持ちがいい。元男性の名残で、まだ男性特有の器官があるはずなのだ。それを探している。 「っ」  チャールズの腰がピクリと痙攣した。指先に小石かくるみほどのしこりを感じる。  指を二本に増やし、その少し硬い器官をこりこりと押す。 「はひっ」  チャールズはシーツを握りしめた。 「あ、痛くないですか」 「違う、気持ちいい。うっ、お、あああっ、だめ、押したら、おっ」  いつになくおもしろい反応だ。イーサンはリズミカルに肉の壁を叩いた。 「あっ、あっ、あー あーイク、イクからっ、イクうっ」  びくびくと体を震わせ、眉を寄せるチャールズ。 「あーだめだ気持ちいい。またイッた。俺ばっかりイッてるよ……」 「大丈夫ですか、クラウチさん」 「大丈夫だよ。今度こそあんた、パンツ脱げよ。もう容赦しないからな」 「お手柔らかにお願いします」  イーサンは恥ずかしそうに、横を向いてパンツを脱いだ。 「今更恥ずかしがるなよ。隠せてないぜ」 「恥ずかしいです……」 「大は小を兼ねるからいいだろ、こっち向いて見せろよ。手はどけて」 「はい」  イーサンはチャールズのほうを向いた。硬く引き締まった腹筋に、どっしりとした腰。腹の中央まで届くような巨大なものがそそり立っている。 「でっか。ちゃんと勃ってる。まだ俺あんたに触ってないのにな」 「本当に、クラウチさんのこと触ってるだけで気持ちいいんです」イーサンは唇を舐めた。 「俺だってちょっとは触りたいんだよ。入れる前に舐めさせてくんないかな。歯は立てないから」 「お願いします……」  チャールズは根元に指を添えて、血管の浮き立つ表面に舌を伸ばした。裏すじにそって舌先を這わせ、カリ首をぺろぺろと舐める。 「はぁ~ あんたの濃いにおいがするぜ」 「ごめんなさい、洗ったんですけど」 「臭いって意味じゃないよ。そそるってこと」 「そそりますか」  舌先が鈴口をほじくる。口の中までは入らないが、小さな唇で食むように包んでいる。イーサンは後ろで組んだ腕に力を込めた。 「あんたのでかいのを口いっぱいに頬張りたいなぁ」 「とっても気持ちいいですよ、クラウチさん上手です」 「ピアノのレッスンじゃないんだぞ、坊や」 「はい、先生はクラウチさんなので」  先端からとろりとこぼれる先走り液を見て、いい頃合いかと愛撫をやめるチャールズ。 「来いよ」  両足を開き、折り曲げた膝を高くあげて秘所をさらけ出す。イーサンは肉の薄い太腿に触れた。 「では、いきますね……痛かったら言ってください」 「うん」  チャールズの腰を押さえ、先端を当てる。少し埋めただけで、ちゅうっと吸い付いつくように粘膜が奥へ誘ってきた。イーサンは導かれるまま中へ入り、半分ほど進めたところで一息ついた。 「もうこんなに入っちゃいました」 「そうだろ。あんた専用だからな」 「専用ですか。嬉しいです」イーサンは澄んだ空色の目を潤ませて、チャールズの腰を抱えなおした。  押し進める。どんな構造をしているのか、無数の舌がまとわりつくような感触がイーサンを襲った。イキそうになるのを我慢しながら、さらに入って行くと、根元まで埋まる寸前のところで壁に当たった。 「全部入りました……」 「全部じゃないだろ、もっと密着させろよ。ぐいっと」 「ですがクラウチさん、痛くないですか」 「今まで何回シたと思ってるんだよ。大丈夫だよ、ほんとに」  チャールズはふくらはぎを使ってイーサンの脇腹を軽く蹴った。  ぐっと押し込む。先端が圧迫され、密着感が増した。 「クラウチさん」切ない吐息を洩らすイーサン。 「まだイクなよ」 「動いてもいいですか、我慢できなくて」 「いいよ。好きに動いて」  じゅりっとカリ首をこする細かい肉のつぶが、抜かせまいと抵抗する。イーサンは熱い息を吐いて、ゆっくり押し戻した。奥の壁がクッションのように太い先端を受け止める。あまり抜かないで、押し付けるのを繰り返す。粘膜をこすり合わせているだけなのに、チャールズを味わっているようだ。むしろ、味わい合っているのか。  下のチャールズを伺う。とろりとした目つきで、唇を開いている。するどい牙と赤い舌が覗いた。かける言葉も失い、無心になってチャールズを味わった。自分の吐息と恥ずかしい粘性の音に混じって、控えめな嬌声。奥を突くたびにチャールズがあげる感嘆を脳でかき混ぜ、イーサンは一度目の絶頂を迎えた。  ぴったりとくっつけた奥の壁が、唇のように吸い付く。ちゅくっ、ちゅくっとイーサンが出したものをうまそうに飲んでいる。 「はーっ、はーっ」  手負いの獣じみた荒い息を吐きながら、イーサンはとろけたチャールズの口にむしゃぶりついた。 「んうっ」  かすかな抵抗。嫌なのではなく、これ以上気持ちよくしないでという哀願だ。  二回目。早く二回目を始めたい。イーサンはチャールズの小さな頭を抱えて、吸った舌を唇でしごくようにねぶる。弾力を保ったままの乳首をくにっと揉むと、チャールズは意味不明な泣き声を上げ、中に入ったままのイーサンを締めつけた。 「らめやったらぁ」 「もういっかいしましょ」 「いいよ」  二人の粘液でチャールズの中はトロトロで温かくなっていた。イーサンの体温が移ったのだ。奥に当てるとみちっと音がたった。気がした。  イーサンは枕を抱くように、横向きにチャールズを抱えて、密着した体をさらにすり合わせた。今度は耳元でチャールズの甘い歌声が聞こえる。頭の中まで気持ちがいい。  痩せている割に肉感のある尻を掴み、引き寄せる。繋がりをより強くする。完全に逃がさないよう抱きすくめ、二度目の種を注ぎ込む。念入りに擦り込むうちに、尻肉がたわんで震え、中ではまた吸い付いて飲み干す。  イーサンはチャールズの首すじを食んだ。吸血鬼が血を飲むようにして、甘噛みし、耳たぶまでべろりと舐める。 「すきです」耳穴を舐るように囁く。 「俺も好き」 「もっとしたい。かわいい、たべたい」 「いいよ。食いちぎっても」  イーサンはチャールズの頭を両手で挟んだ。優しく口づけて、指に髪を絡ませる。ワックスで後ろに流していた髪はとうに乱れていたが、イーサンの手でさらにほぐれた。 「クラウチさん、いい匂いですね」 「ワックスの匂いかな」 「クラウチさんの匂いですよ」  浮き出た喉骨を舐め、鎖骨を舐め、胸郭をみぞおちを臍を舐めて、局部にたどり着く。そこはつるつるして、何の引っかかりもなかった。初めて体を重ねた時は、まだ小ぶりながら男性器があったのに、何度も抱いているうち消えてしまったのだ。 「クラウチさんのお……おちん……ってどこに行っちゃったんでしょう」 「さあな。あんたが食べたのさ」  イーサンは毛も生えてない恥骨周りを唇でなぞった。 「そうですね、きっと俺が食べちゃったんですね」  チャールズの脚を開かせて、先ほどまでつながっていた部分を見ると、小さな穴は縦のすじで、充血して濡れている。指で触れると物欲しそうにひくついた。 「クラウチさんまだしていいですか」 「いいよ。何回でも」 「してもまだ、多分足りないです。いいですか」 「いいよ」  チャールズは自分で尻を広げ、赤い爪の指先で粘膜を割り開いた。 「入れて」  イーサンは半ば勃ったままのものをさすって固くした。チャールズの上に覆いかぶさり、狭い入口をこじ開ける。  温かくねっとりした専用の場所。イーサンはチャールズの背中に腕を回し、かき抱いた。 「犯せよイーサン。聖人のツラもいいコの仮面も剥がして、俺だけに集中してくれよ。あんたの欲望をぶつけてみろ」 「クラウチさん、壊れてしまったら」 「あんたとヤったくらいで壊れるわけないだろ。俺は吸血鬼だぞ、頑丈なバケモンなんだからさ。知ってるよな優等生」 「でも……痛くしませんから」  イーサンははじめ、遠慮がちに擦り合わせていた。チャールズを傷つけないように、優しく。チャールズは突かれるたびに「もっと」とねだる。  次第にイーサンは遠慮の気持ちを置いて、求められるがまま、やがては求めるがままに腰を打ちつけ始めた。 「イイよ、あっ、あ、激し、イイっ」  チャールズが喜んでくれている。なら遠慮はもう必要なかった。イーサンは体が動くままにチャールズの中を穿ち、引き抜き、またねじ込む。重量のある太くて長い杭が肉の隙間をこじ開け、柔らかい奥の唇を押し潰し、内臓に振動を響かせる。  チャールズは舌を突きだして震え、しばし硬直した。何度も中で絶頂していた。消化も排泄も、生命維持にすら必要なくなった、あるかどうかも定かではない臓物が、この瞬間喜びに打ちのめされて咽び泣いている。  イーサンの熱い杭が収縮して、まだ濃い精液を吐き出す。血管の動きや鼓動までが伝わる。命がチャールズの深くまで染み入って、心臓を揺らしている。ふたたび生きよと。  呼吸の必要もないのに空気を貪るようにして、チャールズは真っ白な高みに到達する。イッている最中にまだイーサンは動いている。出したばかりでも固く、どんどん太さを取り戻していく。  イーサンの青く澄んだ目は、知性を置き去りにし、快楽に濡れきって我を忘れていた。チャールズとの交接だけを求めている。おしゃべりで良く回る舌は涎を引いて、チャールズの中に再び解き放ちながら甘美な呻きを洩らす。チャールズ以外の誰にも見せられない、人間という獣の姿だった。  数え切れないほどの交歓を終えて、チャールズはぐったりと四肢を投げだし、イーサンもチャールズの上に腕を置いたまま脱力していた。 「すごくしましたね」 「うん」 「もう寝ますか」 「賛成」  チャールズは投げやりに返事をして、目を閉じた。イーサンは首の後ろで寝息をたてている。もしや初めから既に寝ていて、無意識にしゃべっていたのではないだろうか。  イーサンの腕はむっちりとして重かったが、どけるのも面倒でそのままにしておいた。

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