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番外十四 一部の永遠

 一部の永遠  眩しさに目を覚ますと、朝だった。いや、昼かもしれない。カーテン越しの光は眩しく、外気の暑さを伝えてくる。  イーサンは裸の体をむくりと起こした。  枕元の水差しをとって、コップに半分注いで飲み干す――生ぬるい。寝汗でべたついた首筋が不快だった。  隣を見れば、チャールズはまだ眠っている。着る必要があるのかわからなほど薄い生地の下着をはだけ、白い胸を片方あらわにしながら。  イーサンはチャールズの上に屈みこんで、開いた唇をじっと見つめた。吸血鬼は呼吸をしない。ただ唇を開いているだけだ。 「クラウチさん、丸見えになってます」  反応はない。剥き出しの肩から、背中にそって肌を撫でていく。吸血鬼に体温は無く、汗もかかない。チャールズの肌はさらりとした感触で、窓側の体は少しぬるかった。  吸血鬼には鼓動もない。眠っていれば、死体があるのと同じだ。 「朝ですよ」  イーサンは開いた唇を優しく食んだ。冷たい。人間の皮膚というより、弾力のある紙か布だった。  顔にかかった髪をかき分け、形の良い頭蓋骨の曲線を確かめる。尖った耳を挟み、耳朶をふにっと揉んだ。まだ起きない。  首筋をたどり、鎖骨を撫で、肌着の肩紐をずらす。両胸が無防備に晒された。平べったい表面にそっと指を這わせる。わずかに弾力はあるが、柔らかくない。中心に寄せるほどの肉もなかった。  血色の無い乳首を指の腹で上下に弾く。豆粒ほどの突起は、イーサンの指に弄ばれてぷつりと勃ち上がった。  チャールズが初めて身じろぎする。シーツの上で、しなやかな腰がわずかに動いた。 「お寝坊ですね、クラウチさん」イーサンは熱い息を一つ吐き出す。  小さな尖りの芯がどんどん固くなるように、指紋を擦り合わせていく。胸全体を滑らかに撫で、ふたたび芯をきゅっと摘まむ。チャールズの腰がぴくりと跳ねた。 「う……」  瞼を開けたチャールズは、シーツの上で転がりながら背筋を伸ばした。 「おはよ」 「おはようございます」  イーサンは胸をいじり続けていた。 「あんたとえっちする夢見てたと思ったら、あんたかぁ」 「すみません、俺でした」  すっかり膨れた乳頭の先を擦られ、チャールズは体を捩った。 「うん……っ、気持ちいい」 「起きて早々で申し訳ないんですが、シてもいいですか」 「ヤりたいから起こしたんだろ」 「はい、実は」  チャールズは申し訳程度にかけていたブランケットをベッドの端に寄せて、脚を開いた。 「まだ寝る。すきにして」 「寝るんですか」 「吸血鬼は朝よわなの。夢の中でシようぜ」 「クラウチさぁん」  呼びかけも空しく、チャールズは脚をM字にしたまま目を閉じた。 「起きてるクラウチさんとシたいんですけど、仕方ないですね」  イーサンは開き直って、チャールズの脚の間に入る。昨日散々に穿った、尻の中心を指で確かめる。まだ柔らかく、中はねっとりしていた。 「痛くないですか」  チャールズは唇を半開きにして、気持ちよさそうに眠っている。太い指二本を潜り込ませ、弾力のある膨らみを押すように揉む。 「うう……ん」 「気持ちいいですか。クラウチさんにアレがあったら、前もいっぱいシてあげたいんですけど」  恥骨周りは相変わらずつるりとして、何も生えていない。小さめながらもペニスがあった頃は、毎日根元まで口に含み、しゃぶっていた。  次第にイーサンは、ソレを食べてしまいたいと妄想するようになった。袋まで頬張り、歯を立て、吸い尽くしているうち、飴が溶けるようにペニスは消えてしまった。  少なくとも、イーサンは自然に無くなったと思い込んでいるし、チャールズもイーサンのためにそういうことにしておいた。  何度か体を重ねたある日「必ずあなたと本当の永遠を手に入れますよ」といって、抱いたことまでは覚えている。イーサンはそこからの記憶がなかった。  チャールズは覚えている。部屋にはイーサンが日々欠かさず焚く、魔除けの香が充満していた。清らかな香木と、薬草と、幻想的な花のかぐわしい香りの中で、イーサンは数える余裕もないほどチャールズの中で達した。  頭がくらくらするような神秘の香りで、チャールズは四肢をぐったりと投げだし、求められるまま全身を捧げた。  ぬるついた熱い舌、口腔の温度がチャールズを包んだ。イーサンはチャールズをたっぷりと愛情込めて舐めしゃぶり、そして、どうしようもなく食べたくて仕方がなかったソレをついに食い千切った。  神聖な香でチャールズの傷は元に戻り難かった。肉も血も、真珠色の灰になって、イーサンの喉奥深く沈んで行った。  イーサンは感極まって気を失い、チャールズはイーサンの顔を太腿に挟んだまま香りに酔っていた。  チャールズの体の一部は、未だイーサンの体の中にある。  血管の隆起する肉の杭が侵入し、チャールズの奥を膨れ上がった先でこちゅこちゅと突く。 『いつか、チンポどころか全部食っちまわないかな。何も知らない獣みたいに、夢中になってさ』チャールズは寝たふりを決め込む。  起きていると、イーサンは自分を隠そうとするから。臆病なのだ。  力の抜けた体を抱き寄せ、イーサンはチャールズのぬるい肉壁を貪る。傷つけないよう、できるだけ優しく、気を遣いながら。 「は……っ、クラウチさん、だしますね」  チャールズは無言で肯定した。『あんたのすきにしていいよ』  イーサンはほとばしる情欲をぶちまけ、ブルブルっと腰を震わせた。最後まで丁寧に、執拗になすり付けられる。チャールズは起きて、イーサンの首を抱きしめてやりたくなった。精一杯の乱暴なふるまいを許してやりたかった。  イーサンはチャールズの唇に柔らかい口づけを落とした。裸の体にブランケットをかけ、乱れた髪を撫でられる。 「ごめんなさい、クラウチさん。起きている時にシたかったんですけど、甘えてしまって」 『ほんとは起きてるんだけどな』  イーサンが隣に横たわる気配がした。 「クラウチさんが起きるまで、そばにいますからね」 『起きてるんだけどな』  どのタイミングで目を覚まそうか。チャールズは瞼を閉じたまま、暫くイーサンの息遣いを感じることにした。

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