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第18話

あっという間にレッスンの時間が近くなった。 「あ、やべっ!」 オレは慌ててスウェットを穿いてTシャツを着替える。歯磨きをして、顔を洗う。この前買ったパーカーを羽織って、フードを被ると、着替えの入ったリュックを背負って、宝箱を見つめて…部屋を出た。 リトミック終わりの子供達のあしらい方もだんだんと板について来た。 「シロたん?今日はママとこれからランチに行くんだ。」 「ランチ?凄いね…何を食べるの?」 オレは膝に乗りかかる女の子に笑いながらそう聞いた。 「えっとね…ごうちゃんのママと行くから、お高い所にいくんだよ?見栄張って、お高いランチに行くんだって言ってた!」 あはは… 「それは…良かったね…」 オレがそう言って柔らかい髪を撫でると、その子は嬉しそうに笑った。 可愛い… 「シロ、おはよ~う!今日も可愛いね?チューして?チューして?」 陽介先生は子供の前でもぶっ飛んでるな… 「陽介先生、よろしくお願いします。」 オレはそう言って、陽介先生と一緒にスタジオに入った。 「わ~、やべ~。シロたんが来た~!」 まだ残っていた子供が、そう言いながらスタジオから走って出て行った。 それを見て陽介先生と一緒に笑う。 「シロ、今日はご飯行ける?」 陽介先生は窓を開けながらそう言って、オレの顔を見た。 「うん…特に予定も無いから…」 オレはそう言って、荷物を下ろして靴を履き替える。 「やった!」 何が、やった!なんだよ…全く。オレは心配だよ…? 「先生?オレ、ここが上手く決まらないんだ…もっとメリハリを付けたいのに、フワフワしてなんか違うんだ…見てもらっても良い?」 そう言って、陽介先生の前で踊り始める。 あと、2か月… オーディションまであと2か月を切った…その間に2回のレッスンでは足りない…。 見積もりが甘かった…今更、陽介先生のレッスンを増やすことは出来ない。彼のスケジュールも埋まってしまっている… だから、もっと…練習しないといけないんだ… 細かいディティールを教えて貰って、何回も何回も…同じ曲を踊る。 「シロ、ここの時、もう少し重心を逸らして…」 オレの必死さが伝わったのか…陽介先生はふざけることなく熱心に的確に指導してくれる。 この人はダンスの事に関しては…的確で妥協が無い。ダンスを俯瞰して見る目を持っているんだ。だからオレは安心して彼の指導に従う。 まるでどんな形になるか見えている様な指摘に脱帽する。 流石なんだ…頼りになる。 時間がもったいなくて休憩なんてしないで踊り続ける。 「シロ、今のとこ良いね!決まったよ?」 よし。 あっという間に時間が来てしまう…これでは足りないよ。もっと細かい所を詰めたかった…。 最後に動画を撮って今日のレッスンは終わった。 「次のレッスンまで、これで練習して…改善点を見つけて行こう?」 そう言ってオレの汗をちょこちょこ拭く陽介先生を見つめる。 「ダメなんだ…まだ全然足りない。もっとしないと、オレは全然踊れていない…」 そう言って神妙な顔をするオレに、陽介先生が落ち着いた声で言った。 「焦る気持ちは分かるよ?でも体は一つなんだ。無理して故障するなんて…絶対ダメだよ?分かるだろ?このペースで良い。良い仕上がりになってる。俺を信じて?」 そう言って先生は優しく微笑んで首を傾げる。 何だよ…かっこいいじゃないか…不覚にも陽介先生に、キュンとした。 「はい…」 オレがそう言って視線を逸らすと、先生はふざけ始める。 「ねぇ~!こんな爆イケのシロの姿、俺しか知らないよ?彼氏さんはこのシロを知らないんだよ?!それって、ある意味…俺はシロのスペシャルって事じゃな~い?」 全く…要らない所で緩急をつけないでよ…面白いんだから。 「ふふ…そうだね、確かに…先生しか知らない。」 オレはそう言って着替えを始める。 「ね?そうでしょ?あとは、俺がシロを落とす事に成功すれば…俺は両方のシロを知っている最強の人物になれるんだ!!」 最強?何に対して?ふふ…全く、面白い人なんだ。 「先生って…面白い人だね?ふふふ、あははは…!」 オレはそう言って笑いが止まらなくなった。 「シロは…可愛い人だよ。」 陽介先生はそう言って、笑いが止まらないオレの顔を見つめて言った。 「あのバク宙…もう一回やって?」 仕方が無いな… 陽介先生を床に寝かせると、先生は両手を胸に置いてオレをキラキラの瞳で見つめて言った。 「ドキドキ…」 馬鹿なんだ! 先生の体を跨いで立って、自分が手を着く場所を確認しながら先生を見下ろす。 「ドキドキ…大好き!ドキドキ…」 馬鹿! 体ごと足を後ろに上げてそのまま思いきりバク宙する。 片手を先生の顔の横について、綺麗に決まったバク宙から立ち上がってポーズを取る。歓声と拍手を浴びて、丁寧にお辞儀をする。 「軽いんだ…まるで背中に羽が生えてるみたいに…軽いんだ。お前は…天使だったの?シロは天使だったの??アーユーエンジェル?」 そんな事、真顔で言ってくるんだもん…どうしたら良いのか、分からなくなるよ。 「もう行こう?」 オレはそう言って、先生の手を引いてスタジオを後にした。 「シロたん。何食べる?」 陽介先生はオレの正面に座ってニコニコの笑顔を崩さないでそう聞いて来た。 怖いよ… 「そうだな…オレは、これにしようかな?」 オレはそう言ってメニューを指さして先生に見せた。 先生はそれをじっと見つめると、体を跳ねさせて言った。 「じゃあ!俺もそれにする~!!シロと同じのにする~!」 何なの?めっちゃ面白い…!! 陽介先生は、知り合いの様に親し気に店員さんに話しかけながら注文をした。 「あの人、知ってる人なの?」 オレは体を屈めて陽介先生に聞く。 「ん?知らない!」 陽介先生はそう言ってオレにウインクをした。 なんか…とっても面白い人。笑いが絶えないってこういう人の事言うんだろうな。 元気だし、可愛いし、面白いし…子ども扱いも上手なんだ。シングルマザーには好条件の男性だ。 「シロ?シロは休みの日は何してるの?」 「休みなんてないよ?いつも脱いでるんだ。ふふふ。年末年始もお店が開いてる限り、オレはそこに行くんだよ?」 オレがそう言うと、先生はしょんぼりして言った。 「じゃあ、デートには行けないの?」 ん? 「いつ会えるの?」 は? 「俺、寂しいよ?シロたんとデートしたいお。」 「何言ってるの。こうしてご飯食べるじゃん…」 「違うお!プンプン!」 なんか面倒くさい事になってきたよ?オレはけん制する様に陽介先生の顔をジト目で見て言った。 「そういうの、面白くない。先生は面白い人でしょ?つまんないこと言わないで?」 しょんぼりしてオレの顔を見て、陽介先生が言った。 「…了解。ラジャー。」 同じ意味だよ… 心の中で突っ込みながら、スルーする。こういうのに構うと厄介なんだ。全く! 料理が運ばれて、オレと同じメニューに陽介先生は跳ねて喜んでる。 面白い人… 向井さんも面白いけど彼とは違う、一緒に居ると元気が出る様な面白さ。 笑顔になりすぎて、頬っぺたが痛くなってくる。こんなに楽しい人がいるんだ。 「先生はいつもこんなに明るいの?オレは陰気だから先生と居るとプラスとマイナスでゼロになりそうだよ?」 オレがそう言って笑うと、陽介先生が言った。 「シロは陰気じゃないよ?頑張り屋さんなんだ。俺は知ってるよ?どれだけ練習したのか…どれだけ大変だったか、俺は分かるよ?」 こうやって、陽介先生は緩急を使い分けるんだ。世の中ではこれを“ギャップ萌え”なんて言う。 「うふふ。ありがと。」 オレは頬杖を付いてそう言うと、フォークに野菜を差して先生に、あ~んしてあげる。 だって、全部要らない野菜だったんだ。 鼻の下を伸ばした先生が口を開けてパクリと食べた。 可愛い… この人と一緒に居たら…オレも明るくなるのかな…? 「陽介先生、またね~。」 先生とランチを済ませて家に帰る。 今日は日差しがそんなに強くない。 それでもフードを被らないと…真っ赤になっちゃうだろうな…。 ふと視線を上げた先にお洒落なオープンカフェのテラスを見つけて、何の気なしに眺めながら歩いた。 そこに、知ってる背中を見つけて、そのまま目で追った。 「依冬…」 新しい彼女と楽しそうにケーキを食べている彼に出くわした… ホント…オレ達ってよく会うよね。 フードを深く被って、彼の目の前を通り過ぎる。 良かった。楽しそうじゃないか… オレはてっきりお前が傷付いたと思っていたんだよ? お前はオレが心配するような弱い奴じゃないって…すっかり、忘れていたよ。 頬に涙が伝って落ちる。 それは彼が傷付いていない事を安堵する涙。 彼の笑顔を見て、安心した、安堵の涙… このままオレの事なんて忘れて…彼女と楽しく、穏やかに過ごしてよ… 胸の奥が痛いのは、きっと先生と食べた葉っぱが胸に詰まってるんだ。 生野菜ばっかり食べるから…詰まったんだ。 ボロアパートに戻るとリュックの中の洗濯物をカゴに入れた。 汗をかいた体をシャワーで綺麗に流して、新しい服に着替える。 ベッドに横になってイヤホンを片側に付けると今日のレッスンの動画をループ再生する。毎回“俺の嫁、何回目のレッスン”って冒頭に先生が入れるんだ。 ループする度に聞こえて恥ずかしいから、やめて欲しい… コンコン ノックの音が聞こえてオレは携帯を片手に玄関に向かう。 誰かな… 玄関を開けると依冬がオレを見下ろした。 目が点になって、口を開いて、彼を見上げて固まる。 「な…なんで…?」 「シロ…会いたかった…!」 そう言うと、上から覆い被さる様にしてオレを抱きしめた。 それは熱くて、強い抱擁。潰されかねない抱擁…。 依冬はそのまま有無を言わさずオレの部屋に上がり込んだ。 「依冬…待って。待って…!」 ジャケットを床に脱ぎ捨てると、オレのTシャツの下に手を入れて体を揺さぶる強さで撫でまわす。翻弄された体が右に左にと揺れる。 「依冬!依冬…待って!」 オレの声なんて聞こえてないみたいに、熱いキスをして、そのまま体をベッドに落としていく… 熱くてむせ返るようなキスに頭がクラクラして力が抜ける。 糸を引いてキスを離すと、うっとりとした目でオレを見下ろす。 Tシャツを捲り上げて、オレの胸を舐めると、優しく乳首を舌の先で転がす。 快感に体を反らすと、腰の下に手を入れて、そのままオレの体を持ち上げて、貪る様に体を舐めてキスする。 「依冬…聞いて…聞いて!オレが悪かったんだ…ごめんね、ごめんね…焼きもちを焼いたんだ…。湊に…彼女に…焼きもちを焼いたんだ…下らないよね…ごめんね。」 オレはそう言って依冬の首にしがみ付いて彼を抱きしめる。 依冬… 彼は固まったように動かなくなって、オレの泣き声を聞いた。 「依冬はオレの事よりも…湊の事が好きだって思ったの。オレの事よりも…彼女の方が好きだって思ったの…だから、悲しくて依冬を虐めた…ごめんね。傷つけたくなかったのに…虐めて、ごめんね…」 オレは頑張って素直になった。向井さんが言った様に、彼にしたみたいに素直になった… 「シロ…ごめんね。そんな…そんな思いをさせて…ごめん。愛してるんだ。シロだけが堪らなく好きなんだ…そんな事、言わなくても分かってくれるって思っていた。それは俺の驕りだった…。あんな事の後では…それは俺の驕りだった。」 そう言って依冬がオレの顔を見つめる。 その顔はいつものイケメンじゃない…グチャグチャのブスな泣き顔。 「依冬…愛してる。」 オレはそう言って彼の唇にキスをした。 泣きじゃくる彼の唇が驚かない優しいキスをした。 彼の体を抱きしめて、一緒にベッドに倒れ込む。 泣き顔の依冬がオレを見下ろして、オレは泣きながら彼を見上げる。 「依冬…オレの事抱いて…愛してるんだ。」 そう言って、自分のTシャツを脱ぐと、彼のシャツのボタンを外す。 堪らなくなった依冬がオレの体に覆い被さる。 凄い勢いに押されて、たじろぐけど…大丈夫、オレはお前を愛してる。 両手で彼の背中を撫でながら、荒れ狂うオオカミの餌食になる。 依冬はオレのズボンに手を掛けると、パンツと一緒に脱がして、丸出しになったオレのモノを口で扱き始める。 「んっ…!んぁっあん…んっ、んんっ…ぁあ…」 押し寄せる快感に、依冬の頭を掴んで顔をのけ反らせる。 彼はオレの腰を鷲掴みして、激しく口の中で扱き続ける。 ダメだ…気持ちいい! 「ぁあっ!んっ、や、やぁ…ん!イッちゃう…きもちい…あっ、ら、らめぇ…んっ、依冬…!」 突然与えられた激しい快感に頭が追いつかないくらい、真っ白になっていく。 「依冬…大好きだよ…愛してる…気持ちいい…もっと、もっとして…!」 腰を浮かせて彼の口にファックしながら喘ぐ。 オレの腰を押さえつけて、ねっとりと舌を絡ませながらオレのモノを扱く。 それが凄く気持ち良くて、腰が震えて、あっという間に限界を迎える。 「気持ちいい!あっ!あっああ!イッちゃう…イッちゃうよ…!依冬…あっああ!!」 体を小刻みに震わせてオレはイッてしまった… それでも、依冬はオレのモノを咥え続ける。 オレは体を起こして、依冬の頬を掴んで持ち上げる。 「中に挿れて…オレの中に挿れて…」 そう言って彼の頬に頬ずりする。愛する依冬におねだりする。 オレの唇を貪る様に荒々しくキスしながら、彼の指がオレの中に入ってきて力強く中を弄る。 「あっ…あぁ…依冬、もっと優しくして…じゃないと気持ち良くない…」 オレはそう言って依冬のグルグルのブラックホールを見つめる。 「優しく…気持ち良くして…?」 そう言って、彼の唇を優しく舐めて舌を入れる。 「シロ…愛してる…大好きなんだ…!」 そう言って依冬がオレを優しく愛し始める。 ねっとりと体を寄り添わせて、依冬の体の熱を感じながら気持ち良くなっていく。 「あっ…あぁ…依冬、気持ち良い…はぁはぁ…イッちゃいそう…」 「シロ、イッて良いよ…」 ダメだよ…オレはさっき一回イッた… 彼の首にしがみ付いて、顔を覗き見ながらうっとりとした目で言う。 「挿れて…オレを抱いて…お前に愛して欲しいの…」 堪らなくなって彼の髪をぐしゃぐしゃにして抱きしめる。 愛してる。大好きだ。この人が…大好きだ… 「シロ…愛してるよ。」 そう言って、依冬がオレの中に入って来る。 あ、大きい… 息を吐きながら力を抜いて、彼を受け入れる。 奥まで入った彼のモノがギチギチに硬くて、オレの中が苦しくなる。 「シロ…愛してる…大好きだ…」 そう言って依冬が腰を動かすと、オレの中が悲鳴を上げる。 苦しい…苦しい…! 依冬を見上げて、彼の感じてる顔を見つめる。 可愛い…愛してる… 依冬はオレの中を激しく動いて、悲鳴さえ上げなくなった中はやっと快感を伝え始める。 「あっああ…依冬…らめ、らめぇ…おかしくなっちゃう…ん、んんっ…あっ、気持ち良い…あぁっ…依冬、依冬、依冬!!」 他とは異質な快感。 苦しみと快感が半々の…上級者向けの快楽… 彼の背中を抱きしめて、彼の頬を撫でて、彼の髪を掻き分けて、グルグルのブラックホールが無くなった可愛い瞳を見つめる。 愛してると伝えて、彼のくれる上級者向けの快感を感じる。 「シロ…はぁはぁ…俺、イッちゃいそうだ…」 依冬はそう言うと、オレの顔を見下ろした。 オレは彼の可愛い唇にキスしてあげる。下から襲う快感に喘ぎながら、ねっとりと舌を絡ませる。 「あっ!あっああ…」 オレの中で彼のモノがドクンと跳ねて、熱い彼の精液が中からこぼれて、太ももを流れて伝う。 「あっああん…!!」 彼のモノがイッた時の快感に、オレは体を仰け反らせて、一緒にイッた。 汗だくの依冬がオレの上に項垂れて覆い被さって来る。 オレは両手で彼を迎え入れて抱きしめる。 圧し潰して…殺しても良いよ?…だって、大好きなんだ。 一緒にシャワーを浴びてお尻を綺麗にしてもらう。 「狭いね…」 「これが庶民の浴室だよ?」 依冬と入る浴室は思った以上に狭くて、身動きが取れなくなった。 それがおかしくて、笑いが込み上げてくる。 「んふふ…あはは…依冬がおっきいからだ!だから、狭くなっちゃったんだ!」 そう言って彼の顔に水をかけて遊ぶ。 「もともと狭いんだよ。だから2人一緒は無理だったんだよ?」 クゥ~ンと彼が鳴いて、可愛くて、オレは堪らなくなって熱いキスをあげる。 良いじゃないか…身動きが取れない方が、キスしやすいもん。 体を拭いて、服を着替える。ぐちゃぐちゃになったベッドの上に寝転がって、一緒にイチャイチャする。 「依冬…可愛いね?大好きだよ?もっとキスして?」 そう言って依冬にデレデレに甘える。 「ふふ…シロ…可愛いね?俺も大好きだよ…」 そう言って依冬が沢山キスしてくれる。これは楽しい…とっても楽しい。 オレの髪を撫でながら、依冬がじっと見つめて来る。 「シロ…俺が言えなかった事、聞いてくれる?」 そう言うと、悲しそうな目をして、話し始めた…それは、湊の話。 「湊には…酷い事をしたんだ…今更もう謝る事なんて出来ない…。許される事なんて思っていない。軽蔑されるかもしれない。それでも、シロに話すね…。俺は彼が好きだった…でも…彼は親父を愛していた…。俺はお呼びじゃ無かったんだ…。そんな事、すぐに分かった。それでも、彼を諦められなかった。だから無理やり犯して体だけでも自分の物にした…」 依冬はそう言ってオレを見つめ続ける。彼の瞳はグルグルのブラックホールじゃない。自分を見失っていない彼の瞳。 「ある日…夜遅くに…救急車が来たんだ…。俺は急いで親父の所に向かった…そこで見たのは、血だらけの湊と、彼を抱きしめて泣き叫ぶ親父だった…。床が…湊の血で溢れて…助からないって、思った。俺は親父が殺したって言っただろ?でも、あの人は湊を愛していた…傷つけるなんて…出来ると思えない。」 そう言ってオレの髪をかき分けながら優しい瞳で言った。 「シロ…俺の事、軽蔑しても良いよ。俺はそれだけ酷い事をしたんだ。特に…小さい頃から乱暴をされてきたシロには、俺は怖く映るだろう…?それでも、俺はシロを好きなままで居たいんだ。だから、傍に居る事だけでも…許してくれないか?」 彼の瞳から一筋の涙が落ちていく。 オレは手を伸ばしてその涙を掴んだ。 「依冬…大丈夫だよ。怖いなんて…思わない。お前はオレを優しく抱いてくれたじゃん…だから怖いなんて思わなかったよ?愛してくれてるって…嬉しくなったよ?」 そう言って顔を歪めて泣き始める彼を抱きしめる。 「オレはお前の事が…大好きなんだよ?だから、傍に居るだけじゃなくて、触って、愛してよ…オレからのお願いだよ…ね?良いだろ?」 そう言って彼の顔を覗き込む。 彼はブスな泣き顔で頷くと、オレの腰にしがみ付いて泣いた。 オレは彼の髪を撫でてあげる。落ち着くまで優しく撫でてあげる… 二度と会えない人に償えない後悔を抱えているのは…オレも同じだよ。 オレはお前に自分に似たものを感じて…放っておけなくて…愛してしまった。 もしかしたら、お前もそうかもしれないね… ベッドの下の宝箱を取り出して、中からポラロイド写真を取り出す。 「見て?これ…オレと兄ちゃんだよ?」 オレはそう言って、依冬に写真を手渡した。 「お兄さん…向井さんに似てないね…どちらかというと、俺に似てる。シロは…まだ小さい子なのに悲しそうな目をしてて、可哀想だ。」 横に寝転がる依冬の上に乗りかかって、一緒に写真を眺める。 「どれ~?依冬に似てる?あぁ…確かに…」 オレはそう言って、依冬の顔を自分に向けさせる。 「目元が少しだけ似てるかも!この時はね…ちょうど母親のお客から逃げ出した日だったんだ。兄ちゃんが遠くまで連れて逃げてくれた日なんだ…だから、少し悲しそうな顔をしてるのかもしれないね…」 他人事の様にそう言うと、オレの下敷きになった依冬がシクシクと泣き始める。 オレは彼の体から退いて、横に寝転がって彼を仰ぎ見た。 「こんな…小さい頃から?…酷い、酷すぎるっ!」 苦しそうに泣きじゃくりながら依冬が写真の中のオレを見つめる。 「人って怖いよ。こんな子供相手に何でも出来るんだ。そんな奴らが大人ぶって生きてるんだ…オレ達が狂っていても、おかしくないんだよ?」 オレはそう言って依冬の頭を撫でてあげる。 「可哀想だ!シロが…可哀想だ!」 可哀想…? 可哀想なのは…そんなのに付き合わされた兄ちゃんだ… オレは依冬の持つ写真の中の兄ちゃんを見て言った。 「…可哀想、だよな…」 依冬は体を揺らしながら泣き続ける。それはまるで、泣けないオレの代わりに泣いてくれているみたいで、不思議だった… 向井さんも泣いてくれた。 …兄ちゃんも、みんなオレの為に、可哀想だ…と泣いてくれた。 「頑張った…」 ポツリと依冬がそう言って、オレを見つめる。 「ん?」 オレは彼の顔を覗き込んで首を傾げる。 「…こんなに、大きくなるまで…よく頑張ったね。シロ…よく頑張ったね。シロは、強い。俺よりも…断然、強いよ…」 え…? オレは依冬の顔を気の抜けた間抜けな顔で見つめて言った。 「オレ…頑張ったのかな…」 「頑張った!偉かった…!!そして、強かった!!」 依冬はそう言うと、オレの頭をグリグリと撫でまわした。 みるみる自分の顔が崩れていくのが分かる。 極まるってこういう感じなの…? 言葉が出ないくらい嬉しくて…胸の奥から説明出来ない感情が込み上げてきて…依冬の体に自分を埋めて、静かに泣いた。 こんな事言ってくれる人がいるんだ… 汚いオレの人生を、頑張ったと褒めてくれる人がいるなんて… なんて…なんて事だろう… こんな気持ちを幸せって言うのかな… 「依冬…依冬…」 オレは今、幸せを感じてる。 19:00過ぎ いつもの三叉路の店にやって来た。 今日は依冬と仲良く同伴出勤だ。 大好きな人と手を繋ぎながら行く場所が、ストリップバーなんて…オレらしいよね。 あの後、一緒にオレのオーディションの動画を見たんだ。 「シロ…格好良いじゃない!びっくりしたよ。こんなダンスも踊れるんだね?これは…楽しみだ。シロが絶対に一番だよ…?だって、こんなに可愛いんだもん…」 依冬はそう言ってオレを抱きしめると、気持ちの良いキスをくれて…そのまま…ゴニョゴニョ… これで、陽介先生はオレのスペシャルじゃなくなった…ふふ。 エントランスに一緒に入ると、既に連絡済みの支配人に挨拶をする。 「シロ…!同伴出勤なんて…お前…初めてじゃないか?…何だ。何なんだ。お友達なのか?それとも、彼氏なのか?どっちだ?」 食い気味にそう聞いて来る支配人に、笑顔で答えてあげる。 「彼氏だよ。オレの彼氏だよ?」 「は~?じゃあ、あのお客は何なんだよ!」 そう言って体を乗り出す支配人を無視して、依冬と一緒に店内へ入って、階段を降りて行く。 可愛い笑顔でオレを見つめるお前が…大好きだ。 カウンター席に向井さんを見つけて、駆け寄った。 彼は依冬を見て少し驚いた顔をしたけど、すぐに優しい笑顔になってオレに手を伸ばしてくれた。 「んふ~!」 歓喜の声を上げながら思い切り抱きついて、顔を擦り付けて、いつもの様にグダグダに甘える。 そして、いつもの様に、彼に頭の先がジンジンするような、熱くて甘いキスをする。 「今日はね、依冬と来たんだ?」 オレがそう言って彼を見つめると、彼は微笑んで言った。 「うん。それは、良かったね。」 可愛い笑顔を向ける彼の頬を撫でて、うっとりした目で言った。 「仲良くして…?」 「分かったよ。」 そう言うと、彼はオレの首に手を回して自分に引き寄せて行く。 優しく抱きしめられて、あったかい彼の体にトロけてしまいそうになる。 この2人が揉めるかもしれないなんて…そんな心配は一切していない。 オレには2人が必要だって…多分、2人もそう思っているから。 オレの兄ちゃんと…オレ… それを補う様に…2人がどちらとも大切で、どちらも必要なんだ。 「今日ね、兄ちゃんの写真を見つけたんだよ?今度見せてあげるね?依冬は向井さんよりも自分の方が似てるって言ってた。そうなんだ。確かに、向井さんに似て無かったんだ…?不思議だよね?」 オレはそう言って向井さんの隣の席に座ると、彼の体に寄り掛かって甘える。 そして、手を伸ばして依冬を捕まえると自分の隣に座らせた。 まるで、ハーレムだ。 「え…俺も見たいよ。早く見せてよ。今日、持って来てないの?」 向井さんはそう言うと、依冬をジロリと見た。 依冬は得意げな顔をしてマスターに飲み物の注文をする。 「持ってきてないよ?大切な物をこんな所に持って来ない。大事にしまってあるんだ。帰りに見せてあげる。オレの宝箱。」 オレはそう言うと、ムスくれた向井さんの頬を撫でてあげる。 「まぁ…俺は全部、知ってるけどね。その箱を貰った経緯も、宝箱の外装に気持ち悪いうさぎが描いてある事も、中に入ってるテストの点数がたいして良い点じゃない事も、シロのお兄さんの顔も知ってる。」 依冬がそう言ってマウントを取り始めるから、オレは彼の髪を撫でて言った。 「仲良くして…?オレの大切な人だよ?」 そう言って躾ける。 初めが肝心な、飼い主の責任だ。 依冬はクゥ~ンと鳴いてお利口さんにコクリと頷いた。 「お仕事に行ってきま~す。」 オレはそう言って席を立つと、2人にそれぞれキスをしてエントランスへ向かった。 「おい!シロ!なんて奴だ!!」 支配人がお客をそっちのけでオレをとっ捕まえて説教を始める。 「二股は許す。俺も入れれば三股だしな…でもだ、でも、同じ席に置いて行くってのはどうなんだ?戦いのゴングが鳴るだろ?あんな恵体の2人が争ったらカウンターが壊れて、アルコールの瓶が割れて、被害者が出るだろ?離して来い!」 「アハハ!大丈夫だよ?2人は兄弟だから。」 オレの言葉に唖然とする支配人の肩を叩いて、颯爽と階段を降りる。 そうなんだ。あの2人は腹違いの兄弟。 笑えるだろ? オレは結城さんの遺伝子に首ったけだ… 控え室のドアを開いてメイクをする楓に挨拶をする。 「んはよ~!」 荷物を置きながら、鏡越しに熱心にメイクをする楓を見つめると、彼は視線だけオレに移して言った。 「…好きになっちゃダメだよ?僕はね、危険な男だからね?」 ニッコリ笑う笑顔が、とっても魅力的だね? 「ふふ…分かった。」 オレはそう言って隣に座ると、一緒にメイクを始める。 楓は美人だ…飛び切りの美人さんだ。顔のバランスが日本人離れしてる。 メイクなんて必要ない。 「楓さんは美人さんだね?オレは羨ましいよ?オレの顔には凹凸が無いんだ。」 そう言いながら自分の質素な顔にメイクをする。 「ふふ…シロはね、エロ可愛いんだよ?」 楓はそう言うとにっこりと笑って、チークのブラシでオレの鼻をこしょぐった。 エロ可愛いねぇ… 「今日は何を踊るの?」 アイラインを引きながら尋ねると、楓はオレに向き直して言った。 「アフリカ…」 は? 「もっかい言って?」 オレは鏡から楓に視線を移して、聞き直した。 だって、アフリカ…なんて、問いの答えになっていないよ?聞き間違いかも知れないじゃん。 楓の顔をじっと見つめて返答を待っていると、彼はニヤッと笑って、もう一度言った。 「アフリカ…」 やっぱりアフリカって言った…何だろう、それ。 気になるじゃん… オレは鏡に向き直して、アイラインを再び引き始めると、クスクス笑いながら言った。 「それは…楽しみだ…ふふ。」 早々にメイクを済ませて、後ろでストレッチを始める楓を鏡越しに見ながら、アイシャドウを付ける。 「シロ…?僕、この前の彼氏と別れた…」 楓は背中でそう言うと、美しく手を伸ばしてしならせた。 「そっか…」 そんな彼がまるで白鳥みたいに見えて、美しさに息を飲んだ。 お前にはもっと良い男が似合うよ…絶対だ。 安っぽい男じゃなくて、本物の上等な男…。 お前に見合う上等な男だよ? メイクを済ませて衣装を選ぶと、楓のアフリカを見る為に急いで店内へと戻った。 階段の上からカウンター席に座る2人に視線をあてて、ジッと見つめる。 「仲良し、してるね…?」 2人で話し込む姿を確認して、ステージの前に陣取るお客さんの席にお邪魔する。 「シロ、おいで?」 「ん~!」 飲み物をご馳走になって、面白い話を聞いて爆笑する。 「それで、これをこうやると…ね?シロ、凄いだろ~!?」 そう言ってお客さんが手でカエルを作って自慢した。 「そんなの序の口だよ?」 オレはそう言って手で同じ様にすると、隣に座るお姉さんに言った。 「オレの手の上にお姉さんの手のひらポンって乗せてみて?」 言われたとおりにお姉さんがオレの手に手のひらをポンと乗せる。 「ほら?何かに見えない?」 得意げになってお客に見せると、あっ!とした顔になって言った。 「スネ夫じゃん!」 「あはは!!どうだ?オレの方が凄いだろ?」 そんな大人げないマウントを取り合って、盛り上がっていると、店内の照明が暗くなってステージの上だけが煌々と光り始めた。 オレは椅子から降りると、ステージに前のめりになって楓の登場を待ちわびる。 大音量の音楽と共にDJが楓の名前を呼んで、カーテンが開いた。 「あぁっ!」 そこから現れたのは、白い衣装に身を包んだ美しい楓。 スポットライトに照らされて、白い衣装が光り輝く様は、まるで天使みたいだ…! 柔らかくてしなやかにオレの目の前で踊る楓に、視線が釘付けになる。 アフリカ…? これは、天国だよ…? 妖艶な視線でお客を虜にして、歓声を浴びる彼をキラキラとした目で見つめる。 素敵だ…とっても、綺麗だ…。 すっかり魅入っていると、突然曲のテンポが変わった。 ああ!…ダメだ! 嫌な予感がして、DJを振り返ると、彼は首を傾げながら白目をむいて、喉を切るジェスチャーをする。 「パオーーーン!!」 すっかりDJのジェスチャーに気を取られたオレの背中に、そんな奇声が聞こえて、ステージを再び振り返った時には、オレの天使が奇人に変わっていた… 大股開きでドスンドスンとステージを練り歩く楓の姿に、天国から一気にアフリカに落とされた。 何でこうしちゃったの?? 楓は楽しそうに腕を像の鼻の様に伸ばして、オレの頭をねっとり撫でて行く… 「あ~はははは!!」 店内が一気に爆笑に包まれて、階段の上から見ていた支配人が険しい顔でエントランスに戻って行く。 これは、また怒られるぞ… 「シロ~!これ、咥えて?」 常連のお姉さんたちがオレに群がって口にチップを咥えさせる。 ステージに押し倒されて、怖くて一番近くのお姉さんにしがみ付いた。 「…ぶっ飛ばすよ?」 そう言って凄むお姉さんにオレはウルウルして言った。 「象さんが、怖いの…ギュッてして…?」 オレがそう言うと、サービス精神が旺盛なお姉さんはオレの上に跨って座ってくれた。 「わぁ!」 ぱあっ!と喜んで鼻の下を伸ばしていると、楓がオレをロックオンした。 オレはそんな事も気にしないで、体の上に乗ったお姉さんの太ももを撫でて、デレデレになっていた。だって、プニプニで、柔らかいんだ… 「お姉さん、もっと下に座っても良いよ?遠慮しないで、オレのおちんちんの上に座って良いんだよ?」 オレがそう言うと、お姉さんはオレを見下ろして吐き捨てる様に言った。 「エロガキ!」 当たり前だ!こんな仕事してるんだ!まともな訳無いだろ? オレはお姉さんの体を抱いたまま体を回転させると、上に覆い被さった。 楓のステージなんてアフリカになった時点でどうでも良いじゃないか… 目の前のプニプニの柔らかい物の方が、とっても魅力的だ! 「おっぱい舐めちゃうよ?」 オレがそう言って笑うと、お姉さんは迷いなく…オレの腹を蹴飛ばした。 「ぐふっ!」 ステージにうつ伏せて負傷するオレに楓が近付いて来る… それは、オレが教えた“チップを取る時に役立つ動き、その13”。 それを活用したいやらしい動きをしながらオレのチップを取りに来たから、慌てて口から零れたチップを咥え直すと、仰向けに寝転がって楓がチップを取るのを待った。 オレの体に跨ると、前屈して顔を近づけて来る。 かれのめがキラキラしていて、とっても綺麗で見惚れてしまう。 「…シロ、おイタしたらダメなんだよ?」 そう言われて、クスリと口元を緩める。 オレの口からチップを受け取ると、楓は美しく体を起こしてステージに戻る。 何だ…途中アフリカになったけど…ちゃんとリカバリーしたな。 そんな事を考えながら体を起こしてステージの縁を降りようとした。 その時だ… 「パオ?…パオ?」 ダメだよ…楓… 背中に不思議な生き物の声がして、オレはチラッと振り返って声の正体を確認した。 …それは、目を輝かせたリミッターの外れた小象の楓。 「パオーーーーーン!」 まるで生き別れた母親象に再会を果たした小象の様に…感極まった顔の楓がオレに飛びついて来る。 「あぁ…!!」 ステージの上に引きずり上げられて、激しい小象の愛に翻弄される。 これが…彼の緩急…? 「キャーーー―!!」 オレはそう言って叫びながらカーテンの奥へ走って逃げた。 大爆笑を背中に受けて、控え室で腕を組んで仁王立ちする支配人と見つめ合うと、オレの後からステージから退けた楓が戻って来て、目の前の状況に顔を青くした。 この子は天然の天然なんだ。養殖の天然じゃないから…本気で周りを巻き込む。 オレはそれが好きだけど、支配人には天敵の様だ。 「俺の美学に反してんだ!あんな事、俺の店でやるなっ!もっと美しくて、妖艶で、お客が勃起するようなステージをやれ!お笑いパブじゃねんだよ?何度言ったら分かんだよ!この、馬鹿!」 そう言って手が出そうになる支配人を止めて、宥めて、控室から追い出す。 ジジイの癖にアグレッシブなんだよ… 「シロ…僕、ラスト踊る自信ないよ…」 そう言って椅子に座って肩を落とす楓を見つめる。 どうしたら良いんだろう…この子はこんなに美しいのに、ダンスの構成が下手なんだ。 上等なマグロを漬け丼にする様に、この状況はもったいない… 彼の良さを生かせていないんだ。 「楓…オレと一緒に踊ってみない?」 オレがそう言って楓の頭を撫でると、彼は顔を上げて言った。 「…どんなの?」 乗り気だね? 良い子じゃないか。 …前からやってみたい事があったんだよ? 「オレは自分のステージがあるから、それが終わってから考えよう?コンセプトは楓が決めて?」 「コンセプト?」 「そうだよ。一つのステージで、コンセプトを決めるんだ。これを表現したいって…決めてしまえば、あとはそれに合う振り付けを考えれば良いんだよ?」 オレはそう話しながら、ストレッチを始める。 彼は興味深くオレの話を聞くと、う~ん…と首を傾げながら、コンセプトを考え始める。 オレは彼の”アフリカ”の影響を受けて、さっきまで着ていた衣装を変えた。 セパレートのターザンの衣装を着ると、らくちんな裸足になった。 どんな素材でもエロく踊れる自信があるよ…それがターザンでもね。 それに合った振付を考えれば良いだけだもん… ターザンは野生児だから木登りが得意なんだ。 粗暴で、粗削りで、乱暴な色気を持ってる… ゴリラでもいるだろ?やたらセクシーなゴリラ。あれをやれば良いんだよ。ふふ。 カーテンの前に立つと手首と足首をくるくる回して、首をゆっくりと回す。 目の前で考え込む楓を見つめていると、大音量の音楽が流れ始めて、カーテンが開いた。 オレはスキップしながら、クルリとステージの上を一周すると、オレを見て笑顔になるお客に手を振ってあげる。 「シロ!可愛い!」 階段の上で支配人の目がギロリと光る… でも、大丈夫。オレはこれをエロく踊りきれる、自信があるんだ。 ダッシュしてポールに派手に飛びつくと、凄い音を出しながら、ポールを掴んだ腕を伸ばしながら、足でポールを駆けあがった。 歓声が上がって、オレに注目が集まる。 ポールの上で勢いよく体を回して、両手を離す。 「バナナが好きなんだ…決していやらしい意味じゃない…」 そう呟いて口元を緩めると、仰け反る様に落とした両手でポールを掴んで、しがみ付いていた太ももを一気に離す。 そのまま体を反転させてくるくると回って、再び太ももでポールを挟んだ。 「ギャーーー―!!」 派手な大技にお客が興奮する。もっとだよ?もっとターザンはエロいんだよ? 野生児のターザンにはエロなんて概念は無いから…余計にエロいんだ。 太ももでしっかりとポールを挟んで体を起こすと、目の前のポールをねっとりと舌で舐める。本能で快感を感じる様に、うっとりとした瞳で、衣装の上を乱暴に脱いで、肌を露出させる。 「シローーーー!!」 体を仰け反らせて、本能に抗えないみたいに腰を揺らす。 セックスしたくて仕方がない…欲情を持て余した…エロターザンだ…ふふ。 ステージの中央に膝立ちして嫌らしく腰を突き動かす。 だらしなく開いた口から、喘ぎ声が漏れていく。 「シローーー!やらせてーーー!」 それは嫌だ。 お姉さんなら何でもやらせてあげる。だけど、男は別だ。 衣装を全て脱ぐと、しゃがみ込んで足で顔を掻いてみせた。 ステージの縁にチップを咥えた客が寝転がり始める。 オレはゆっくりバク転をしながら彼らに近付いて、しゃがみ込んで顔を見つめる。 「ふふ…シロ、ほんとのお猿さんみたいだよ?」 そう言った常連客の顔を覗き込みながら、キョトン顔で首を傾げる。 オレは野生児、ターザンだ。言葉なんて分からないよ? 口に咥えられたチップを真顔のまま受け取りに行くと、お客は顔を赤らめて、オレの無表情を見つめる。 堪らないだろ?この意思が通じないエロさ… ある意味…ロリコンにも似た禁忌を感じるよね…? 「お…?」 依冬君がチップを咥えてステージの縁に寝転がった。 オレは笑顔になって四つ足で依冬に駆け寄ると、彼の頭の横に足を着いて腹に頬ずりした。 このゴリラは、オレのお気に入りなんだ… そのまま腰を引いて、両手をだらんと彼の体に垂らしながら顔の方へと引きずっていく。依冬の頬を掴んで、グイッと顔を反らして気道を確保する。ふふ。 前屈しながら依冬の口からチップを受け取って、彼の目を見つめる。 可愛い…可愛い、オレのお気に入りのゴリラ… 「ギャーーー―!シローーーー!始まるのかーーー!」 いや、もう終わるんだ。 極まったお客の歓声にそう突っ込んで、体を起こす依冬の肩に片足を置いた。 そのまま踏ん張って彼を踏み台にして一回転バク転をすると、派手な技にお客が大歓声を上げる。 キョトンと振り返る依冬を無視して、オレはステージの上でお辞儀をするとカーテンの奥へと退けた。 「シロみたいに身軽に出来ないよ…クルッて回れない…。怖いもん…」 オレのターザンを見て楓がごね始める。 「あんな事しなくて良い。あれはターザンだからやった事だよ?楓はその見た目だけでイカせる事が出来るんだから、ターザンになんてならなくて良いの。」 オレはそう言って、3回目のステージのコンセプトを聞く。 「…大人の駆け引き…的な?」 ふふ!おっかしい! そう言った楓のどや顔に、じわじわと笑いが込み上げてくるのを必死に耐える。 「なるほどね…良いじゃん。上品に仕上げて見よう。」 オレはそう言うと、熱心に、楓と振り付けの打ち合わせをする。 おおよその構成を決めて、流れを確認する。 大げさに言ってしまえば、これは15分間の舞台と同じ。 構成だって、演出だってする。 後は、全ての流れを把握した、飛び切りエロい演者が居ればそれで良い。 「じゃ、そういう事で!」 頭を抱える楓にそう言うと、オレは控え室を出た。 階段を上ると支配人が嬉しそうに声を掛けて来る。 「シロ~。ターザン、めちゃくちゃ良かったよ…。お前は分かってるね。一回、俺とセックスしてみようぜ?」 何言ってんだよ。血圧が高い癖に…無理すると死ぬぜ? 「もう、勃たないだろ?」 鼻で笑っていなすと、支配人がオレの手を掴んで自分の股間にあてがった。 「どう?」 どう?って…そりゃ、勃ってるね… 「うふふ。勃ってるね?」 オレはそう言って支配人の顔を見つめる。 支配人はいつもより色気を全開に出して、オレを誘ってくる。 「してみたくない?」 ジジイと?ごめんだね。救急車が必要になる。 「…オレとそんな事したら、あの2人がどうなるか心配だよ…?殺されちゃうかもしれない…そう思ったらそんな事、出来ないよ?」 目を潤ませてそう言うと、支配人の顔がどんどん青くなっていく。 どうやら説得力があったようだ。 「ヒィ!怖い!あっちへ行けっ!」 なんだ!自分から呼んだくせに! 怯える支配人を置いて、店内へ戻る。 階段の上から見下ろすと、カウンター席の2人は何だかんだ仲良くおしゃべりをしている様子だ。 良かった。 オレはチップを受け取りながら、彼らの席に近付いて行く。 「シロ~。良かったよ。可愛くてエッチなターザンだったね?」 「発情期なんだよ。」 声を掛けるお客にそう言って一緒に爆笑すると、たんまりとチップを頂きながら、カウンター席へと戻って来た。 依冬の背中にべったりとくっ付くと、顔を向井さんに向けて言った。 「オレ、ターザンになったよ?」 大きな背中にスリスリと頬ずりしながら向井さんを見つめる。 「可愛いお猿さんだったね?」 依冬の背中がそう言って、クスクスと笑って揺れる。 「ターザンはお猿じゃない。動物に育てられた人間だよ?」 オレはそう言うと、依冬の背中をペシペシと叩いた。 「発情期のターザンだね。堪らないよ…シロ、こっちにおいで?」 そう言って手を伸ばす向井さんの指先を撫でる。 「ふふ…」 依冬の背中にクッタリと顔を付けながら、彼の指先を撫でて、焦らして笑うと、いつもよりも強くオレの手首を掴んで、自分に引き寄せてきつく抱きしめる。 あぁ…妬いたの?可愛い…大好きだよ? オレは向井さんの髪を優しく撫でて、顔をうっとりと見つめる。 「妬いたの?」 「妬いた。」 そう言ってオレの唇を舌で舐め上げる、堪らなくエロい兄ちゃん… そのまま息が漏れない位、密なキスをする。 目の前の彼が、兄ちゃんに見えるよ…不思議だね。 全然、似てないのに… 「さすが、俺の嫁だよ!!」 突然かけられた声に驚いて振り返ると、陽介先生がオレを見て何度も頷いていた。 いつの間に来たんだろ… そして、耐性が付いたのか、こんな現場を見ても動揺しなくなったんだね…? 「シロ!彼氏が増えてんじゃん!俺の枠は?」 演技がかった大ぶりなポーズを取ると、陽介先生はフンフンと鼻息を荒くして、腕を組んで怒ってみせた。 その瞬間、マスターがクラッカーを握るのを視界の隅に捉えて、緊張感が走る。 こいつ…こんな前からスタンバイを始めていたのか…侮れない。 オレと目が合うと、マスターは涼しい顔をして視線をそらした。 「なぁんだ、怒らないでよ…。陽介先生は、オレのスペシャルなんでしょ?」 自分を締め付ける向井さんの腕を解くと、そう言いながら陽介先生の隣の席に座って顔を覗き込んだ。 ニヤけた顔でオレを見つめる陽介先生は、もう、のんけじゃ無さそうだ… 「はい、シロたん、どうぞ~?」 陽介先生はそう言うと、優しく笑ってオレにビールを渡した。 「ふふ…ありがとう。」 オレはそれを受け取って笑顔になった。 「陽介先生、何か面白い事して?」 オレがそう無茶ぶりをすると、陽介先生は、よし来た!と言って、立ち上がった。 先生の動きに敏感に反応して、マスターに緊張が走る。 オレの正面に立つと、陽介先生はパントマイムを始める。 「アハハ!凄い!上手じゃないか!」 オレは両手を叩いて大喜びをした。だって、凄い上手なんだ。 コンコン…とノックをすると、オレの顔の前の見えない小さな小窓を開いた。 覗いてごらん?って彼が手招きをするから、オレは首を伸ばしてその小窓を覗き込んで見た。 すかさずチュッとキスされて、目が点になる。 「ぷっ!はははは!あははは!!」 あまりの段取りに、大笑いして椅子から落ちそうになる。 こんな、可愛い事して…めっちゃウケる! 「ちっ!」 クラッカーを鳴らし損ねたマスターが舌打ちをする音が聞こえた。 あんたはもっと集中しなきゃいけない事があるんじゃないの? 例えば、向井さんのグラスが空だよ?次の注文を聞きなよ。全く! 「うふふ、もっとして~?」 オレはぶりっ子してそう言うと、陽介先生を煽る。 「グフフ…そうだな、次は何が良いかな?」 一生懸命考え始める陽介先生を、期待を込めた目で見つめる。 彼はオレを見下ろすと、にっこりと微笑みかけておもむろに両手を差し伸べて来た。オレはその手を両手で掴んで返した。 そのままオレを引っ張って立ち上がらせると、ダンスを踊るみたいに一緒にユラユラと揺れ始める。 オレは笑いながら陽介先生を見上げる。 ふふ、何するの?ここから何をするの? オレを見下ろした彼の瞳が、いつもの彼の瞳じゃない…まるで愛しい誰かを見つめる様に優しくて…たじろいだ。 「あ…」 繋いだ手を高く上げて、オレをクルリと回すと後ろに回った先生の体が密着する。 何だ、これ… チークダンスの様に背中に密着した彼の体温が伝わって、両手を握った手に熱を感じて来る。オレの髪に触れる先生の頬…耳元にあたる息。 体を寄せて耳元で先生が言った。 「シロ…大好き…」 体に電気が走ったみたいにゾクゾクして、とっさに体を離した。 「んも!ダメなんだ!」 そう言って怒って陽介先生の肩を叩く! 「わはは、面白かったでしょ~?」 そう言って陽介先生はいつもの様にふざけて笑った。 …面白かった? うん…確かに面白かったよ? でも、ビックリした… あんなにスマートにリードして雰囲気を作るなんて思わなかったから…オレが思ってる以上に、彼はプレイボーイなのかもしれない。 2人きりだったら、お店じゃなかったら、オレは簡単に彼に落ちたかもしれない。 …ビッチだな。 陽介先生の体に触りたくて、仕方がないよ… 「オレ、もう戻るね~?」 動揺した気持ちを誤魔化す様にそう言うと、足早に階段を駆け上がる。 「ヒィ!こっちにくんな!」 怯える支配人を無視して階段を駆け下りる。 まるでビッチだ…誰にでも簡単に欲情して、兄ちゃんが哀れむのも分かる… 思い出した体の快感が、いつも欲しいみたいに…疼くんだ。 これでは…本当に、発情したターザンだ。 控え室に戻ると、楓の頭をポンと叩いてソファに腰かける。 「ふふ…」 発情したターザンとは…言い得て妙だね。 一人で笑うオレに、楓が首を傾げて聞いて来る。 「思い出し笑い?それとも、なにかキメてるの?」 「ぷっ!そんな事しないよ!思い出し笑いだよ?」 そう言って、ソファに寝転がると次のステージまでぼんやりと天井を眺めた。 この仕事はある意味、天職だな…。発情して誘って、服を脱ぐんだもん… あ~あ、向井さんとエッチしたい。 考える事はそんな事ばかり… さっきまで依冬としていたにもかかわらず、次から次へとセックスしたがる。 母親の血なのかな… 天井に両手を持ち上げて手首を揺らして眺める。 兄ちゃんのベッドで、兄ちゃんに抱きしめられながら眠る。 お風呂上がりの石鹸の匂いがして、クンクンと鼻を鳴らして兄ちゃんの胸に顔を埋めて、舌の先で舐めると、だんだんと興奮してきて…オレは兄ちゃんの股間を撫でて、誘うんだ。 「兄ちゃん…したい…」 オレの言葉に、瞑った瞳をうっすら開いて、兄ちゃんがオレを見つめる。 その瞳が素敵で…堪らなくなって、兄ちゃんの唇をペロリと舐めると、止まらなくなった衝動に突き動かされて、兄ちゃんの舌を絡めてキスをする。 「シロ…したいの?」 息が荒くなったオレに兄ちゃんは甘い声でそう聞いて来るから…オレはもっと甘い声で、おねだりするみたいに言った。 「うん…したくなっちゃったの…兄ちゃん、シロの気持ち良くして…」 兄ちゃんの体に手を添わせて、いやらしく胸を撫でると、自分の股間を兄ちゃんの足に擦り付けて、腰を震わせる。 兄ちゃんの首筋に顔を埋めて、舌でねっとりと舐めてキスをする。 「シロ…可愛いね…。良いよ。兄ちゃんが気持ち良くしてあげるね…」 そう言って兄ちゃんがオレのパジャマを脱がせるから、オレは喜んで兄ちゃんの髪をかき上げて撫でる。 兄ちゃんの熱い息がオレの体に触れるだけで、感じるみたいに腰が震えて、兄ちゃんの舌がオレの乳首を舐めるだけで、堪らない快感に体が仰け反ってオレのモノからトロトロの液が垂れ始める。 兄ちゃんの指がオレの中を弄るだけで、絶頂を迎えて、簡単にイッてしまう。 本当…ダッチワイフみたいだ。 自虐的? いいや、これは真実だよ…オレが抱えていく真実だよ。

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