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第19話

#向井 シロが依冬とお店に現れた。 仲直りしたんだ…良かったね。 ただ、それしか思わなかった… 気を揉んでるシロを見るのは、正直やきもきしたから安心した… 可愛い笑顔に手を伸ばすと、俺に抱きついて甘えるこの人が…愛しい。 「今日はね、依冬と来たんだ。」 そう言って笑う彼を見つめて、安心する。 苦しそうに吐露したあの事を、素直に話す事が出来たんだね…良かった。 「仲良くして?」 そう言って俺の目を見つめる彼に俺は言った。 「分かったよ。」 シロのお願いなら…何でも聞くよ。俺の、壊れた可愛い人。 「…どんな顔だったの?」 シロがいた席を空けて、隣に座る依冬に尋ねた。 彼はシロのお兄さんを写真で見たんだ…ズルいじゃないか。 「あんたには似て無かった…全然、似て無かった…!」 何だ…仲良くしろと言われたのに…喧嘩腰だな。 依冬は吐き捨てる様にそう言って、ジト目で俺を見つめて来る。 血の気が多いからセックスが乱暴になるんだ…もっと大事に扱え…彼は俺の大事な人だぞ…? 「そうか…早く見てみたいな…」 そう言ってグラスの中で氷を転がす。 毒が抜けた様に俺は何も企んでいない。ただ、早くシロのお兄さんを見たかった… 「…なんか、雰囲気変わりましたか?」 そう言って依冬が俺の顔を覗き込んで来る。 何も変わっちゃいない…強いて言えば、彼の事しか考えていない位かな… 「別に…」 そう言って薄まったブランデーを一口飲んだ。 「仲直り出来て良かった…苦しんでいたから、心配していたんだよ…」 口元を緩めてそう言うと、依冬が言う。 「ふふ…シロの保護者気取りですか?幾ら頑張ったって、彼のお兄さんにはなれない。彼があんたをお兄さんだなんて思わなくなったら、もうお終いなのに。随分楽しそうにお兄さんを演じてるんですね…」 演じる? 「そうだね…俺はあの子の友達も巻き込んで酷く苦しめた…。お兄さんを思い出させたのも、俺だ…。きっと恨んでいるよね…あんなになってまで…怒ったんだから。」 軟禁されたあの時を思い出して、胸が苦しくなった… あれはあの子の捨て身の作戦だったんだ。死なば諸共…そんな気持ちで俺を殺そうとした。 その余韻で…俺は彼の傍に居続けているんだ。 まだお兄さんに見えているから、傍に居れるんだ。 「シロにとったらお兄さんは特別なんです。誰にも侵害できない聖域だ。それは付け焼刃の優しさなんかじゃ補えないですよ。ある意味、あなたは諸刃の剣の上に居る。彼のお兄さんでいるうちは傍に居る事も出来るけど、それが無くなった場合はサヨナラだ…」 鼻で笑う様にそう言って、依冬が俺を揺さぶって来る… 彼はシロに愛されている。俺はシロに愛されていない。そう言いたいんだろうね… 「そうだね…」 俺はそう言ってグラスを回した。 何も言えないよ。 確かに俺は…彼のお兄さんを演じてるだけの卑しい男だからね。 お客さんと大笑いをしてるシロを見つめて口元が緩む。 あの子が笑っていると安心するんだ。 これはお兄さんを演じて、影響を受けてしまっているという証拠なのかな… 「ふふ…それでも良い…良いんだ。」 こんなに穏やかに誰かを思えるなら…それだけで良い。 俺はシロにそれを見出して、彼でこの気持ちを補おうとしているのかな。 …俺にも、そんな可愛い所が残っていたんだな。 「シロにあなたが必要なら、存在を認めますよ。ただ、それが無くなったらどこかに消えて下さい。二度と彼の前に現れないで、どこかで死んで下さい。」 サラッと酷い事を言って依冬が俺を見つめて苦々しく言った。 「あんたが嫌いなんだ…。俺の親父そっくりで、虫唾が走るんだよ…」 そうか…依冬は知らないのか… 「ふふ、そうか…俺は、結城の息子だからね…」 俺はそう言って笑うと、驚きを隠せない彼を見つめて念を押して言った。 「俺は君の腹違いの“お兄ちゃん”だよ?」 時間が止まった様に依冬が動かなくなった。 長い沈黙が続いて、グラスの中の氷がカランと音を立てながら、形を崩した… 「どうして…」 「ん?」 「…どうして親父の傍に居るんですか?俺だったらあんな奴と離れて暮らしたい…。あんな奴と一緒に働くなんて、ごめんだ。お金ですか?お金が欲しいから居るんですか?」 やっと話し始めた依冬はそう言うと、俺の方を向いてしおらしく眉を下げる。 そういう無防備さを…彼は気に入ったのかな。 俺には無い、無防備で純朴な所に惹かれたのかな… 「復讐をしようと思ってる。」 グラスを傾けて、溶けた氷とアルコールを眺める。 味がしない…どうやら、薄まりすぎてしまったみたいだ… 「シロの存在を結城に教えたのは俺だよ。あの子がこの店で踊っているのを初めて見た時、湊が生きていたのかと驚いた…。それと同時に、彼を使って結城に復讐をしようと…考えた。ところが、結城はシロを君に接触させたがった…。所謂マウントを取りたかったんだろうね。湊にそっくりなシロは、自分の手の中に居るって…言いたい様に見えたよ…」 依冬は俺の顔をじっと見つめて、嘘偽りが無いか確認する様に目を離さない。 「結城を破滅させたいんだ。俺の人生を…台無しにしたあいつを破滅させてやりたいんだよ…それで、彼の傍で…機会を窺っている。」 俺はそう言うと、依冬を見て言った。 「俺の母はね、俺を孕んで捨てられたんだ…。産まれた俺に呪いの言葉を浴びせて育てた。そして、最後は自殺した。あの女は最後まで…結城に縋って生きていたんだよ。そんな事のせいで…俺は良い人生を送って来れなかった。だから、お返しがしたいんだ。」 「シロは…知ってるんですか?」 依冬はそう言って神妙な面持ちになると、俺の顔を覗き込んだ。 「知ってるよ…俺は彼に隠し事なんてしない。」 服従してるんだ。 俺がそう言うと、依冬が吹き出して笑って言った。 「そもそも…あなたは偽名じゃないですか。都合の良い、隠し事ですね。」 言うね。確かにそうだ。 「ふふ…そうだね。その通りだ…」 俺はそう言うと、マスターにブランデーを足してもらう。 店内が暗くなって、ステージのライトがひと際明るく光る。 ステージに設けられたカーテンにスポットが当たって、彼の出番をお客が待ちわびる。 いつも…あそこから彼が出てくる度に、胸が締め付けられる思いがする。 知れば知る程…自分だけのものにしたくて檻に入れて過保護に守りたくなる。 こんなクズに守られるなんて…彼は鼻で笑うかもしれないけど、大事にしまっておきたくなるんだ。 ひとり占めして…誰にも見せたくないんだ。 嫉妬にかられるから、最近では彼のステージを見れない自分がいる… 今日も隣の依冬が歓声を上げる中、背中で彼のステージを見てる。 「良いぞーーー!シローー!」 ひと際大きな歓声が上がって、彼が大技を決めたんだと分かった。 誰かに自慢したくなるくらい可愛くて…強くて…繊細で…壊れている…俺のシロ。 過保護にしたいのに、自慢したいだなんて…矛盾している。 依冬がいそいそと彼にチップを貢ぎに行った。 そうだね…君は彼のお気に入りだから…きっと喜ぶよ。 俺とは違う、彼の愛を貰ってるからね… 観客が大歓声を上げる。 きっとシロが依冬に際どい事をしたんだ… 顔を少し向けると、シロが依冬の肩に足を置いてバク転をしていた。 仲が良いんだね…嫉妬なんてしないよ。 俺は自分の役割をわきまえてるからね… チップを渡し終えると、依冬がカウンター席に戻って来て言った。 「シロのお猿さんかわいかった…」 「…ターザンね。」 シロは依冬のこういう所が…好きなのかな… 別に気にしていない。 シロが依冬を好きでも…嫉妬なんてしない。 お役御免になったら依冬が言ったみたいにどこかで死ぬのも悪くない… 彼を失って生きていく自信は…ないよ。 それとも、カラカラの枯葉みたいに風に漂って無駄に生きるのも悪くない… 「シロの彼氏さん、こんちは~!」 シロのダンスの先生がやってきて俺に挨拶をした。 依冬を見て俺に小指を立ててジェスチャーをする。 やめてくれよ…こんな奴… この人はシロのダンスの先生…どんどん彼にのめり込んで行く様がよく分かる。 ダンスのレッスンは大丈夫なのか…気に掛けてる事の1つだ。 ケラケラ笑う、警戒心の無い、誰にでも話しかける陽気な奴。そして、マスターのお気に入りだ。 俺を見て、指を差しながら鬱陶しく話しかけて来る… 「さっき、あっちでシロのステージ見たけど、やっぱ俺の嫁は凄いなぁ!大迫力で感動しました!」 そう言うと、ビールを煽って飲む。 「…嫁って?」 依冬がそう言ってダンスの先生を睨みつける。 「彼はシロのダンスの先生だよ。愛称でシロを嫁って言ってるんだ…。本人が嫌がってないから…別に気にすることは無いだろ?」 そう言って彼がシロの先生を睨むのを止めた。お前は、血の気が多いんだよ… まぁ…気持ちはわかるよ。でも、睨むなんてスマートじゃない。 ステージを終えたシロが戻って来る。 依冬の背中でクッタリしながら俺を見つめる。可愛い人。 妬かせたいの…?可愛いね。 俺はまんまと彼の策に乗って、焼きもちを焼いて彼を抱きしめる。 可愛い… 本当に、お兄さんに見えなくなったら…俺の事が要らなくなるの? シロ…そんなの、嫌だよ… 愛してるんだ。 #シロ いよいよ3回目のステージの時間がやって来た!! オレを見下ろして楓が力を込めて言う。 「シロ…頑張ろうね!」 「うん!」 カーテンが開く前に楓をステージにスタンバイさせる。 楓にはスパンコールが沢山付いた短いキャミソールドレスを着せた。 オレは白い革パンに青いシャツを着て、白いタイを付ける。その上から白いジャケットを羽織って男前にした。これで白いハットがあればスムクリのMJなのに! 後ろを向く様に立たせて、オレが入ったと同時にスポットを当ててもらう予定だ! ざわつくお客を無視して、カーテンの前で出番を待つ。 大音量の音楽が流れて、カーテンから楓の待つステージへ向かった。 オレの登場と同時にあてられたスポットによって、楓のスパンコールの衣装がキラキラと光る! 美しい…ゴージャスで、上等だ…! 楓の後ろに立つと、曲に合わせて彼の胸と腰に手を這わせる。 同じタイミングで楓は膝を曲げて後ろのオレを見せてくれる…身長差カップルなんだ… 「かわいい~!シロ~!楓~!」 いや、可愛いんじゃない!これは大人の色気だよ?可愛く映るのは…オレがゴージャスな楓に釣り合って無いからだ…ちくしょ! 後ろからキスする様に楓の頬を撫でて、自分へと向かせる。 キスするすんでの所で、顔を反らした楓がポールの方へ歩いて逃げて行く。オレはそれを追いかける様にして、ポールを挟んで向かい合う。 楓がオレを焦らす様に体をポールに絡めてくねらせる。 「あんたじゃなくって、こっちの方が良いんだから…」 そう呟いた楓の言葉に、吹き出しそうになるのを我慢して踊る。 それはタンゴ?ラテン?いや…ジャイブだ! 熱くて激しくてリズム感が肝のジャイブを、彼と一緒に踊って、楓に魅了される男を演じる。 楓の腰に手を当てると、タイミングを合わせてポールに体を上げる彼の体を、上手く回しながら上へと登らせて行く。 決まった! 美しくポールを上って回って降りて来る楓を見上げて、惚ける。 あぁ、最高に綺麗だ… でも、ここからは悪い男の出番なんだ…つまり、オレの出番だ! 楓の体を掴んでポールからみっともなく引きずり下ろすと、自分の前に跪かせて、股間に顔を押しつけて腰を振った。 「あーーー!シロ、抱いてーーーー!! 「楓、楓ーーーーー!」 オレの体に沿って向かい合って立ち上がると、オレを見つめたまま、そっと抱きしめて来る。そして、両手をジャケットに入れて、そのまま肩から落として脱がせて行く… 美女に見下ろされる快感…美女に脱がされる快感…堪らんね…ぐへへ 内心、こんなスケベ親父みたいな思いを抱きつつ、打ち合わせ通りに魅せて行く。 楓の足を片手で抱えると、いやらしくお尻の方まで手を滑らせて撫でまわす。 「いやーーーー!シローーー!だめーーー!」 そんなお姉さんの歓声を受けながら、大人の焦らしと肉欲のバランスをダンスに取り入れてみた。 上品だしエロいだろ? お客の反応は上々だった。 支配人の美学にも反していない、美しいショーだった。 なにより、楓の妖艶さが最大限に出せた。 それが、オレは嬉しかった。 「楓~!綺麗だったよ~!すっごいセクシーだったよーー!」 チップをくれるお客にそう声を掛けられて、楓が腕で涙を拭った… 良かったね…楓。 カーテンの奥へ退けて、楓と抱き合ってショーの成功を喜ぶ。 「楓、良かったね。凄い良かったよ?綺麗だった!」 オレがそう言って楓を抱きしめると、楓は惚けた声で言った。 「わぁ…シロ。僕、ステージで笑われなかったの…初めてかも。綺麗って言われちゃった…わぁ…信じられないよ…?」 オレは楓を見上げて言った。 「お前はもともと凄く綺麗だよ?」 オレを見下ろした楓が破顔してオレに派手に抱きつく。 「きゃーーーー!!好きになっちゃうーーーー!!」 良いよ? 好きになっても構わないよ?…ふふ。 オレは私服に着替えて荷物を持つと、にまにま笑う楓に手を振って、控室を後にした。 「なかなか良かったじゃん。今度はお爺ちゃんとベッドの上で踊ってみるかい?」 そんな支配人の下ネタを無視して店内へと戻ると、カウンター席の大きな背中、目がけて飛びつく。 「依冬~!」 あったかい!おっきい!超人じゃないけど、良い! 「今日は沢山頭を使ったから疲れちゃった…もう、帰ろう?」 そう言って向井さんの足の間に入ると、彼にしなだれかかった。 まるでそうする事が当然の様に…甘えて…体を預ける。 「シロ…お兄さんの写真見せて…気になって寝られなくなるよ…?」 オレの顔を覗き込んで彼がそう言うから、クスクス笑って言ってあげる。 「んふ…あはは…ほんと、おかしいね。向井さんはちょっと変なの。」 向井さんの手を繋いで引っ張って立ち上がらせると、そのまま彼の体にくっ付いて、依冬と一緒に歩いて階段を上って行く。 「シロ~!今度、お爺ちゃんの下の世話をしとくれ~!まだまだ勃起するぞ?募集中だぞ?チップを少し割増しに換金してやるぞ~?」 支配人は抜群の下ネタを繰り広げて、オレの両脇を見て、すぐに大人しくなった。 「ま、また明日な~!」 取り繕ってそんな風に言ってるけど、全部聞こえたよ?ふふ。 エントランスを出て、向井さんの車に向かう。 「オレの家まで送って?」 オレがそう言うと、彼はオレを見下ろしてニッコリ笑って言った。 「良いよ。」 「俺も一緒に行こう。」 そう言って依冬が俺と一緒に後部座席に乗り込んだ。 「依冬は今日ずっと一緒だね?お仕事しないで、悪い子だね?」 オレはそう言って依冬に抱きついて甘える。 あっという間にボロアパートに着いて、オレは車を降りると自分の部屋に走って向かった。 玄関を開くとリュックも下ろさずに、宝箱を持ってまた玄関の鍵を閉めた。 そのまま駆け足で向井さんの車まで一直線に走って行く。 助手席のドアを開いて、運転席の彼に抱きついて体を埋める。 彼の膝に跨って座って、正面から宝箱を見せる。 「見て?これだよ?開ける?開けない?」 首を傾げて、目の前の向井さんを焦らして遊ぶ。 「開けて…!」 そう言ってオレをジト目で見る彼に、笑いかけて言う。 「ふふ…開けない?」 「開ける!」 「んふふ…開けない?」 「開ける!」 「いつまでやってんの?」 依冬の突っ込みに我に返って宝箱の蓋を開ける。 「ほら、これがオレの兄ちゃんだよ…ね?似てないね?」 オレがそう言って、兄ちゃんの写ったポラロイド写真を手渡すと、じっと食い入る様に見つめる彼が…痛々しかった。 「向井さん…似てないけど大好きだよ。」 そう言って彼の髪を撫でて、自分の胸に押し付ける。 「ふふ…本当に…似てないね。全然…はは…掠りもしてない…」 泣いてる様に声を震わせて、オレの胸の中でジッとポラロイドを見続けてる。 …兄ちゃんに似ていない事が、そんなにショックだったの…? 彼の垂れさがって来た前髪を指先で持ち上げると、そのまま後ろに流してあげる。 ”宝箱”の中から手紙を取り出して、ポラロイドを見つめる彼の目の前に差し出した。 それを見た依冬が、慌てて助手席へと移動してくる。 「これを、一緒に見て?」 そう言って向井さんの頬を撫でると、自分の方へと向けてジッと見つめる。 兄ちゃんに似ていないと悲しんで、涙を落とした、冷たい男の目を見つめて言った。 「お願い。これを、一緒に見てよ…」 「もちろんだよ…」 そう言った彼の瞳は落ち込んだ気持ちを払しょくする様に、ジッとオレを見つめ返した。 依冬に見守られながら、彼の目の前で、兄ちゃんがオレに書いた手紙を開ける。 兄ちゃん… 何を書いたの…? オレに、何を残してくれたの…? 封筒から便箋を取り出す手が震えて、彼の目を見つめる。 「…大丈夫だよ。傍に居るよ。」 そう言って向井さんが、オレを見つめて頷いた。 依冬を見ると、彼はオレの体に手を乗せて優しく撫でて、勇気をくれる。 兄ちゃん… オレは便箋を手に取って、中を開いて見た… 「あっああああ…!」 それは手が震えて、口が回らなくなる程の、激しい慟哭… 沢山書かれた兄ちゃんの字を見ただけで、涙があふれて…読める気がしない。 「あっああ…あああ…あっああ…」 体を向井さんに埋めて、震える慟哭をそのままに…体を揺らして泣き喚いた。 ダメだ…読めない。 読めない…! オレの髪を優しく撫でて、宥めようとする彼を見上げて縋りついた。 「読んで…読んで…」 そう言うと、向井さんに兄ちゃんの手紙を差し出した。 彼は壊れそうな瞳でオレを見上げると、フルフルと首を横に振って言った。 「こ、これは…シロが読むものだよ…俺は、読めないよ…」 そう言って悲しそうに涙を落とす。 「…ど、ど、どうして…どうして、泣いてるの?」 しゃくり上げながらそう聞くと、彼はオレを見つめたまま答えた。 「偽名を使って、お兄さんに成り代わって、友達を自殺に追い込んだ…。俺みたいな奴が…お前の事を、一番大事に思っていた人の手紙なんて…読んだらダメじゃないか…綺麗な思い出を…俺で汚したらダメだ…依冬に読んでもらって…」 そう言って手紙を依冬に渡そうとするからオレはそれを止めて言った。 「ずっと一緒に居るって言っただろ!あれは…嘘だったのかよ!」 瞳を歪ませて涙を落とす彼を、詰って、甘ったれる。 「読んで…!オレの代わりに読んで!」 彼の胸を叩いて、グダグダに駄々をこねて甘える。 「読んで…あなたが読んで…兄ちゃんと同じ愛をくれるあなたが好きなんだ…だから、あなたが読んで…オレの為に、読んで!」 オレがそう言うと、向井さんは手紙を開いて中を読み始める。 涙声でゆっくりと読み始めた。オレ宛の…兄ちゃんの手紙。 「シロへ…兄ちゃんが死んでも泣いてない?いや、多分泣いているね…ごめんね。兄ちゃんは少しおかしくなっちゃったんだ。だからちょっと前倒しして死ぬ事にした。シロの事をずっと一番に愛していたよ。だけど、俺は少しおかしくなってしまったみたいで…それは綺麗な愛じゃ無かった。ごめんねシロ。もっと上手に大事に愛してあげたかった。お前を傷付けないで愛したかった。後悔してもどうしようもなくて、お前の傍に居る事が難しくなったんだ。愛してるからこそ後悔した。どうか自分を責めないで。弱っちい兄ちゃんが逃げ出したんだ。お前は良い子だから、きっと泣いてくれるだろ?1人にしてごめん。約束を守らなくてごめん。優しくて、可愛い俺のシロ、馬鹿で弱い兄ちゃんを許してくれるよね?愛してるよ。兄ちゃんより…」 向井さんの目を見つめたまま固まって動けなくなる。 「…シロ?」 依冬の声が聞こえて、我に返ると目から涙があふれて落ちる。 「うっうう…うっ…ううぁあん!うわぁあん!兄ちゃん!馬鹿!馬鹿!」 そう言って向井さんの胸に抱きついて泣きわめく。 彼はオレを抱きしめて一緒に泣いてくれた。 これは…確かに兄ちゃんの手紙。 兄ちゃんの話口調をそのままに書かれた、兄ちゃんの手紙。 疑う余地なんて無い。 「これは…兄ちゃんの手紙だ…オレに書いた兄ちゃんの手紙だ…」 そう言って向井さんの顔に頬を摺り寄せる。 「守って…兄ちゃんの代わりに、守って…オレを守って…あなたが守ってよ、守って!」 何もかもから、守ってよ… 「…分かった。」 そう言って向井さんがオレを抱きしめて優しく髪を撫でる。 「シロ…もう一枚あるよ。」 依冬がそう言って便箋をめくる。 「あ、これは弟さんに書いた物みたいだよ…短いけど、ごめんねって書いてある。」 依冬…最低だな。 オレは携帯で写メを取ると健太に送ってやった。 「シロ、こんなものも入っていたよ?」 依冬は封筒から何かを見つけてオレに渡した。 「あ…これ。オレが小さい頃作った猫のお守りだ…」 勉強をする兄ちゃんの机で一緒に落書きをしていた。その時に上手く描けた猫を小さく切って兄ちゃんにあげたんだ… お守りだよって言って、あげたんだ… 「これ…あげる。」 そう言って向井さんに渡した。 「死ぬお守りだよ?これを持ってると…自殺しちゃうんだ…うっうう…」 自分で自虐的な事を言って、自分で悲しくなって泣いた。 あげた時の兄ちゃんの笑顔が目の前に見えて、ありがとうって言った… 呼吸が浅くなって、息が苦しくなって、意識が無くなった。 「シロは大丈夫かな…」 心配そうに呟く依冬の声が聞こえて、車の音が聞こえる。 目を開けると激しい頭痛が襲って、クラクラする。 「シロ…気が付いた?」 オレの顔を覗き込んで依冬が心配そうに眉を下げる。 どうやら彼の膝枕で寝ていたみたいだ… オレは依冬のお腹に顔を埋めて、頭の奥でガンガン暴れる頭痛を耐える。 「痛いの?」 「うん…頭が痛いの…」 優しく頭を撫でる依冬の手の温かさを感じながら、目を瞑って痛みをこらえる。 頭の頭痛が治まって、目の奥がガンガンと痛くなる…これが耳の奥に行ったら…頭痛は治まる筈だ… 「依冬…腹筋…して?」 そう言って彼の腹筋に顔を埋める。 「もう…シロ~。」 呆れたような声を聞きながら、フン!と腹筋を固くする依冬にわらけて来る。 「ふふ、優しい…お前は優しい…」 そう言って依冬の腹筋に顔を埋めてまたおねだりする。 「連続でして…」 オレはトラウマの発作を起こして倒れてしまったみたいだ。 今は向井さんが運転する車の後部座席に乗って、彼の家に向かう所みたいだ。 兄ちゃんがオレにくれた手紙… 良かった… 読めて良かった… 頭痛の残る頭を起こして、依冬を見つめる。 「もう、大丈夫なの?」 「うん…」 そう言って依冬の肩に顔を乗せる。 冷たい血が頭から体中に巡っていくのを感じて、ぼんやりと身を任せる。 「こうしてて…?」 そう言ってそっと依冬の体を抱きしめる。 依冬はオレの体を抱きしめて、うん。と頷いた。 向井さんの部屋に着いて、オレは急いで宝箱を彼のベッドに下に隠した。 「悪夢を見そうだよ…?」 依冬は案外毒を吐く。 オレの隠す行為を見て、寝室の入り口からジト目でオレを見つめてる。 「酷いよ?意地悪なこと言ったら、もう遊んであげないよ?」 オレはそう言って依冬をベッドに寝かせてあげる。 終始ムスくれた顔の依冬に尋ねる。 「疲れたの?」 「疲れて無いし、人のベッドに寝たくない。」 「んふふ、疲れたの?」 「疲れて無いし、あの人のベッドに寝転がりたくない!」 依冬はなんだかご機嫌斜めだ… 「どうして怒ってるの?」 オレはそう言って依冬の上に跨って座ると、彼の顔を覗き込んだ。 「嫌だ。このベッドから降りたい!」 「ダメだ!さっき意地悪言ったから許してやんない!」 オレはそう言って自分のTシャツを脱ぎ捨ててニヤリと笑う。 「シロ!何してるの?!」 慌てる依冬が面白くてオレはもっと彼を煽った。 腰をゆるゆると動かして、依冬の股間を刺激しながら自分の体を撫でる。 彼がオレを見ているのを確認して、ゆっくりと這わせた指を自分の乳首にあてて、いやらしく捏ねて喘ぐ。 「あぁ…依冬、気持ち良くなってきちゃったぁ…」 そう言って自分の股間を撫でながら彼の上で腰をいやらしく振る。 「シロ…シロ、ダメだよ?ダメだって…あいつが来るからっ!」 あいつ? 「ふふ…あいつって?向井さんの事?ふふふ…依冬は彼が嫌いなんだ…」 そう言って依冬の顔を見下ろすと、体を落として、彼にキスする。 いやらしく音をさせながら依冬の口に舌を入れて、彼の舌を絡める。 「何してるの?」 寝室の入り口から声を掛けられる。 「エッチな事してる。」 オレはそう言って、依冬のシャツを脱がせる。 「シロ…やだって、ダメだよ…退いて…?」 「酷いよ…依冬、どうして嫌なの?オレの事好きじゃないの?」 オレはそう言いながら依冬のシャツのボタンを外していく。 「違うよ。依冬は俺が嫌いなんだよ?」 向井さんがそう言ってオレの髪を撫でて、優しくキスする。 ギシッとベッドが揺れて、両脇を抱えられると、オレは依冬の上から降ろされた。 「なぁんだ!」 そう言って怒ると、オレを足の間に入れて、向井さんが後ろからキスしてくる。 甘くて、熱くて、真っ白になる、濃厚なキスを受ける。 頭の中で舌の絡まる音が響いて、オレのモノが疼いて来る。 あぁ…気持ちいい… 「シロ…可愛いね。俺がしてあげるよ?」 そう言って、向井さんがオレのモノを後ろから撫で始める。 「んっんん…あっ…あぁ…気持ちい…兄ちゃん…兄ちゃん…」 そう言って彼の体に自分の体を埋めながら、ズボンを下げて腰を動かして誘う。 もっとして…もっとして…! 「可愛いね。シロ…」 堪んない。 兄ちゃんの声が耳の奥にこだまするよ… 優しくて、小さい、エッチな声… 「兄ちゃん…兄ちゃん…もっとして…もっと、もっと…」 「シロ…こっちにおいで?俺がしてあげる。」 依冬がそう言って、オレの手を掴むけどオレは体を仰け反らせて向井さんの髪を掴んで、彼のくれる快感に酔っている。 「あっああ…イッちゃいそう…ねぇ…イッちゃう…あっああ…気持ちいい!!」 腰がビクついて、兄ちゃんに扱かれてオレはイッてしまった… 向井さんの体にもたれて惚けるオレの股間に、依冬が顔を埋める。 オレを見つめながら舌を出してオレのモノを綺麗に舐める。 「んっ!んんっ…依冬…気持ちい…あっああん…依冬…依冬…!」 彼の頭を抱え込みながら口で扱かれる快感を感じて、首を伸ばして喘ぐ。 「気持ちいね…シロ…」 向井さんがそう言ってオレの体を撫でて、開いた口にキスをして蓋をする。 息が苦しくなって、堪らない快感が体中をめぐる。 オレの腰を掴むと引っ張り寄せる様にして、依冬がオレの体をベッドに沈める。 向井さんのキスが外れて、口から喘ぎ声が溢れる。 「んん~依冬…イッちゃう!イッちゃう!!気持ちいの…あっああん!!」 体を跳ねさせてオレが激しくイクと、依冬の指が中に入って来る。 「らめ…イッたばっかなの…あっああん…だめぇん…」 オレはそう言って体を捩って、向井さんにしがみ付く。 「あっあっああ…依冬、依冬…ダメ…あっああん…はぁ…ん!ダメぇ…気持ちいの…」 優しく頬を撫でる向井さんの腕に体を埋めて、依冬の増える指に腰を震わせて感じる。オレのモノからトロトロと液が流れて、ビクついて震える。 堪んない…堪んないよ…すっごい気持ちいんだ。 オレの中の指がどんどん増えていって、腰が震えて力が入らなくなる。 「シロ…シロ…大好きだよ…」 依冬がそう言って、オレの中に大きなものを挿れて来る。 「あぁ…おっきんだ…」 そう言った向井さんの声を聞いて口元が緩む。 そうなんだ…依冬は大きいんだ… オレはベッドの上に座る向井さんにしがみ付いて、彼に舌を絡めてキスをする。 オレの中に依冬が入ってきて、苦しくて顔が歪む… 「もっとゆっくり入れてあげてよ…」 そう言って向井さんがオレの髪をかき上げて優しく何度もキスしてくれる。 「あふっ…はぁあ…ん…依冬…おっき…あっああん…凄い…あっあぁあ…」 目の前の向井さんに顔をガンガンぶつけて、オレの中を依冬が激しく動く。 「若いから…激しくすれば良いと思ってるんだ。」 オレを胸に抱いて、兄ちゃんが優しい声でそう言った。 そうなの…? 年を取ると変わる物なの? 「シロ…苦しいの気持ち良くなる様にしてあげるね?」 兄ちゃんはそう言うと、オレの乳首を指でつまんで弄る。 「んんっ!!あぁ…兄ちゃぁん…あっ、あっあん…気持ちい…兄ちゃん…」 体の力が抜けて、依冬のモノがオレの中を気持ち良くしていく。 あぁ…堪んない!気持ち良いの…! 兄ちゃんの肩に顔を乗せて、依冬のモノがくれる快感を感じて喘ぎ声をあげる。 「あぁ…シロ、イキそう…」 依冬がそう言って、オレの中をねっとりと突き上げる。 「んん~~っ!イッちゃう…依冬、気持ちいの…イッちゃいそう!!」 オレはそう言って振り返ると、自分の腰を掴む依冬の手を握って爪を立てる。 「あぁ…かわい。」 向井さんがそう言って、オレの顔を自分に向けると熱烈なキスをくれる。 頭が真っ白になって…快感で満たされる。 オレの中で依冬のモノがドクンと跳ねて、ドクドクと精液を吐き出す。 オレは向井さんとキスしながら、既にイッてしまっていた…。 「あぁ…シロ、可愛いね…でも、3Pなんて嫌だろ…?ごめんね…」 依冬がそう言ってオレの体を向井さんから離す。 嫌…? 嫌じゃない… 「嫌じゃないよ…依冬と向井さんなら…嫌じゃないの…もっとして…もっとしてよ。」 オレはそう言って、依冬の胸を舌で舐める。 もっと真っ白になりたいんだ… 体が無くなる位、真っ白にしてよ… 「ふふ…シロおいで、俺に愛させて…可愛い俺のシロ…」 向井さんがそう言ってオレの腕を引いてベッドに寝かせる。 可愛い… 彼の顔を見上げて、手を伸ばして頬を撫でる。 オレに愛して欲しがる、兄ちゃんと同じ愛をくれる人… 「愛してる…」 オレは彼を見つめてそう言って、彼のキスを貰って喜ぶ。 両手で彼の背中を撫でて、どこにも行かない様にしがみ付く様にきつく締める。 オレの中に彼が入ってきて、優しく、いやらしく、オレを気持ち良くしていく。 「あッああ…向井さん…向井さん…気持ちい…大好き…んん…あっあん」 依冬とは違う、体がトロける大人の気持ち良さをくれる。 指の先まで痺れるような、堪らない快感に襲われて、首を振って、喘ぐ。 オレの両手を掴んで、ベッドに押し付けて、腰をねっとりと動かして、もっと奥まで快感に染めていく。 「あっ!ああん!イッちゃう…すぐにイッちゃうから…!ダメなの、ダメなの…もっと…ダメなの…!」 「ふふ…どっちなの?ダメなの…?もっとなの…?」 やめてよ…すっごいエッチだ… 「ダメなの…ダメなの…んんっ!イッちゃいそう…あっああん…気持ちい…向井さん…気持ちいのぉ…あっああ…すごい…らめ…だめぇ…ん!」 彼の腰がねっとりと動いてオレの中を気持ち良くしていく…それはまるで中からオレを溶かしていくみたいに熱くて…まるで兄ちゃんみたいな気持ち良さ… 彼の手を解いて首に手をかけて抱きつく。 「ダメ…イッちゃうからぁッ!ダメなのっ!あっああん…もっとしてたいの…だから…ダメぇ…ん!あっああっん!!」 オレは激しく彼にイカされる。 彼の首に掛けた手を外してベッドに落とすと、息を整えながらぼんやりと依冬を見つめる。 依冬…呆然としてる…まるで、乱交パーティーの見学者みたいだ… 向井さんは体を起こすと、オレの中をゆっくりと刺激し始める。 「んっ…イッたばっかだぞ!」 オレはそう言って向井さんのお腹を蹴飛ばす。 「ふふ…そんなの関係ないだろ?」 彼はそう言って腰をねっとりと動かして、オレの中を再び気持ち良くしていく。 頭の先まで貫く快感に体が仰け反っていく。 「ん~…気持ちい…ダメ…すぐにイッちゃうの…兄ちゃぁん!」 両手で顔を押さえて首を振りながら兄ちゃんがくれる快感に喜んで身を捩る。 堪んない! 「あ…シロ、イキそう…!」 向井さんがそう言って顔を歪ませる。 可愛い… オレは彼の顔を見つめて喘ぎながら、自分のモノを扱いた。 口からよだれが零れて、頬を伝って落ちていく。 口元が緩んで、笑いが込み上げてくる。 「アハハ…あははは!気持ちいい!兄ちゃん!もっとぉ…!」 目から涙が零れて、口が笑う。バラバラな顔をして、オレは向井さんに抱かれる。 「あぁ…シロ、愛してるよ…」 「あっ!あっああ!!」 彼の瞳に、彼の声に感じて、オレは腰を揺らしてイッてしまった。 オレの中で向井さんのモノがドクドク跳ねて、熱いものがオレの中を満たしていく。 「ふっふふ…アハハ…あはははは!」 笑いが止まらなくて、身を捩って笑うと、向井さんがオレの頬を撫でて優しくキスをした。 もっとしたいよ… 「もっとして…もっとしてよ…」 オレはそう言って向井さんにしがみ付く。 「シロおいで…俺にも愛させて…」 依冬がそう言ってオレの体を抱きしめた。 あったかくて…大きい…兄ちゃん… 「兄ちゃん…」 オレはそう言って依冬に抱きついて、彼にキスをした。 もっと…何もなくなるくらい…オレを真っ白にしてよ… 止まらないんだ…ビッチだから…止まらない。 もっとしていたいんだ。 もっと真っ白になるくらいに…快感で満たしてよ… 依冬のモノがオレの中でねっとりと大人の動きを初めて、快感を強くする。 「あっああ…依冬、気持ちい…!もっとして…兄ちゃん…兄ちゃぁん!!」 オレの体に覆い被さってオレを抱きしめて、依冬が堪らない快感をくれる。 「ん~!イッちゃう…依冬…イッちゃう…あっああ…気持ちい…あぁああん!!」 依冬の背中に爪を立ててオレはイッてしまった。 それでも彼の動きは止まらなくて、ずっとオレの中を気持ち良くし続ける。 あっという間に快感がまた満ちて、目の前に兄ちゃんが見える。 「にぃちゃぁん…どこにも行かないで…どこにも行かないで…!」 「行かないよ…ずっと一緒に居るよ…シロ…愛してるんだ…」 兄ちゃんがそう言って、オレをもっと気持ち良くしてくれる。 堪らない… 「兄ちゃんっ!大好き…大好き…大好き…大好き…!」 体のあちこちを撫でて、オレの兄ちゃんを確かめる。 涙で前が見えなくなって、しがみ付いた大きな体に何度もキスして、愛してるって伝える。 「あぁ…シロ…!」 依冬がそう言ってオレの中でイクと、体を落としてオレを圧し潰す。 「ふふふ…アハハ…依冬、重い…!」 そう言って彼の頬を持ち上げて、だらしなく開いた唇に熱いキスをする。 可愛い… 「疲れた…もうしない…」 オレはそう言って天井を見上げながら胸の上で項垂れる依冬を撫でる。 この人たちはオレのビッチな性癖に付き合って、満足するまで抱いてくれた… 兄ちゃん… どうして死んだの… どうしてオレを残して行ってしまったの… 一緒に行きたかったよ… 見開いた目から大粒の涙が流れて、耳の中に入って来る… 「泣かないで…大丈夫だよ…」 そう言って向井さんが優しく涙を拭いてくれた。 オレは彼の手に自分の手を添えて、そっとキスをした。 7:00 誰かのアラームで目が覚める。 「ん、うるさい!早く止めて!」 オレはそう言って、隣に寝る人を蹴飛ばす。 「イタ!」 この声は…依冬だ… このベッドでは寝たくない~なんて、ごねていた癖に…ぐっすり寝てんじゃないか! 「シロ…起きる?」 可愛い声で呼びかけられて、ちょっとだけ目を開いて依冬を見る。 寝ぐせが可愛くて、口元が緩む。 「ふふ…可愛い…」 そう言って指先で寝ぐせを触る。 「一緒に起きようか?」 寝ぼけた瞳でそう聞いて来る依冬が可愛くて、オレはコクリと頷いて、彼の首に手を回した。 依冬は俺の背中とお尻を支えて、ヨッコラショと持ち上げる。 「ふふ!凄いぞ!超人だ!依冬はやっぱり超人だった…!」 オレはそう言って、依冬に抱っこしてもらいながらキャッキャと喜んで足を揺らした。 「えっと…」 行き場所が分からない依冬に指を差して教えてあげる。 「ん、依冬、あっちのソファの上に下ろして?」 オレがそう言うと、超人が動き始める。 全然ぶれないんだ…彼は体幹がしっかりしている…安定した足腰を持ってる。 「はい。到着。」 依冬はそう言ってオレをソファの上に下ろす。 「シロ、おはよう。もっと寝てるかと思ったよ。今日はお利口さんなんだね?」 向井さんがそう言って朝ご飯を作ってる。 その姿が…兄ちゃんに見えて、走って駆け寄って体に抱き付いた。 「兄ちゃん…兄ちゃん…」 涙を落として、兄ちゃんを味わう。 寂しかったんだ…突然居なくなるから…とっても寂しかったんだ… 向井さんはオレの頭を撫でて、食事の支度を続ける。 「シロ…ご飯出来たよ?」 兄ちゃんがそう言ってオレを腰に付けたままダイニングテーブルまで連れて行く。 「はい、座って?」 そう言われて、兄ちゃんを解放して椅子に腰かける。 「卵焼き美味しいね?」 そう言って依冬がオレの卵焼きをパクパク食べていく。 「待って!もうダメだよ?もう食べないで?これは全部オレのなんだよ?依冬はお米だけ食べるんだよ?」 オレはそう言って自分の目の前に、卵焼きとほうれん草の和え物を持って来る。 「意地汚いんだよ…」 依冬がそう言ってジト目で見たって構わない。これはオレの物だ。 卵焼きをお箸で挟んで、パクリと食べる。 「ん~!!美味しい!!」 そう言って歓喜の声を上げて足を振る。 「大体だ、依冬は分かってない!お金持ちの一人っ子のボンボンだから分からないかもしれないけど、こういう食卓の物はみんなで食べるんだよ?だから、1人で沢山食べちゃダメなんだ!これは暗黙のルールだよ?」 オレはそう言って依冬に世の中の理を教えてあげる。 「その言葉、シロにお返しするよ…」 依冬がそう言っていじけるからほうれん草だけあげた。 嬉しそうにほうれん草を食べる依冬が可愛い… 「兄ちゃん…?偉いだろ?依冬にほうれん草あげたんだよ?」 オレはそう言って向井さんを見つめて褒めて貰おうとする。 「うん。偉いよ。」 向井さんはそう言って、オレの頭を撫でてくれた。 「んふ…んふふっ!」 オレは喜んで笑うと、気持ちいい兄ちゃんの手のひらを頭で押してもっと撫でて貰う。 ごちそう様をして、お皿を洗う兄ちゃんの背中にしがみ付く。 「卵焼きを二つも食べたんだよ?酷いだろ?」 オレがそう言って文句を言うと、兄ちゃんが、ふふっ…と笑う。 その声が…この背中の感触が…兄ちゃんだ。 「シロ…またね。」 そう言って依冬が帰る。 「どうして?どうして行っちゃうの?」 オレは依冬のスーツの裾を持って玄関まで付いて行く。 「ん…お仕事に行くんだよ?」 「ダメ…ダメなの…行かないで?」 「そんな事…でも、んん…」 オレを見下ろして、依冬が口ごもってゴニョる… 困った顔が…可愛い。 「やぁだ…行かないで?ね?依冬~。行かないで?」 彼の困った顔がもっと見たくて、依冬の腕を掴むと、自分の体に巻き込んでしがみ付いて甘えまくる。 「今日はちょっと外せないんだよ…。また会おうね…愛してるよ。チュッ!」 オレの大好きな依冬が逃げる様に帰ってしまった… 「兄ちゃん…依冬が逃げる様に帰っちゃった…悲しい。」 オレはそう言って向井さんの体に抱きつくとグダグダに甘えてトロける。 「俺は今日お休みしたよ。シロのお仕事まで一緒に過ごそう。ね?」 兄ちゃんはそう言うと、コーヒーを淹れた。 トコトコと注ぐ音を聞きながら、鼻に届くいい香りをかいだ。 ソファに座って、兄ちゃんの膝の上に寝転がると、朝の澄んだ空気が窓から入ってオレの前髪を揺らした。 「ふふ…」 オレが笑うと、兄ちゃんが顔を覗き込んで言った。 「どうしたの?」 「だって、風が来た。髪が揺れた。それが、面白かった…」 オレはそう言って兄ちゃんの鼻を指先で撫でた。 「ふふ…」 兄ちゃんはにっこり笑うと、また体を戻してコーヒーを飲んだ。 携帯を手に取って、着信をチェックすると健太からメールが来ていた… “ありがとう” たった一言のメールにダラダラと涙が流れていく。 この子は…健太は…兄ちゃんが好きだったんだ… 「兄ちゃん…健太が兄ちゃんの事を好きだって知ってた?オレは知らなかった…。オレが兄ちゃんを独占したから、あの子は兄ちゃんに甘えられなかったみたい…。可哀そうだね…」 オレはそう言って向井さんのお腹に顔を擦り付けて泣いた。 「オレはダメなお兄さんだね…ダメなお兄さんだ…」 「違うよ…シロは優しいよ。メールを送ってあげたじゃないか…そうだろ?」 そう言って優しく髪を撫でて、オレが落ち着くまでずっと一緒に居てくれる。 「…向井さん?」 「なぁに?」 彼のお腹に顔を付けたまま言った。 「オレに付き合ってくれてありがとう…あの時もそうだ。一緒に居てくれて…ありがとう。酷い人だと思ったけど…とんでもないお人好しだった…。狂ったオレに付き合ってくれて…ありがとう…」 そう言うと、彼を見上げて口元を緩めて笑いかけた。 こんなに素直になれるのは…あなたがどこにも行かないって…分かってるからなんだ…。オレを置いて、どこにも行かないって…分かってるから、こんなに甘えて、信じて、愛して、安心するんだ… 「シロ…愛してるよ。」 優しくオレの髪を撫でながら、彼が言った。 その言葉の意味、最近まで間違って覚えていたみたいだ。 本当はこういう事を言うのかもしれない。 「うん…オレ、多分愛されてる…」 オレはそう言って、彼の腰に手を回すと、自分が埋まるくらい強く抱きしめた。 怖くない。この人と居れば…もう、怖くない。

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