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第27話

桜二のお使いをして彼の部屋まで着替えを取りに行く。 惨劇の現場だ。 怖いだろ? だから、依冬を呼んだ。 「シロは怖がりだね…もう犯人は捕まってるのに…」 「自分のお父さんだろ?」 オレはそう言いながら桜二の部屋の鍵を開けて、玄関の扉を恐る恐る開いていく。 背後から手を伸ばした依冬が扉を押し広げて、体ごとオレを押し込んでいく。 「ん、もう!」 振り返って依冬の肩を叩くと、依冬は不思議そうに首を傾げて言った。 「何で?ほら、入って…?」 こういう時の彼の鈍感力は頂けないね? 人の怯えた気持ちに共感して寄り添うことが出来ないんだ。 中に入ると事件現場のリビングを走って抜けて桜二の寝室へ向かう。 そんなオレの後を依冬が歩いて付いて来る。 「ねぇ?何が良いかな?」 タンスの前に座り込んで依冬に尋ねると、彼は興味無さそうに言った。 「適当で良いよ。適当で。」 もう…役に立たないな。 Tシャツ3枚と、長袖のTシャツ3枚、スウェットのズボン2つ、パンツ3枚。パーカー1枚をリュックに入れる。 「靴下っていると思う?」 オレが依冬に尋ねると彼はリビングのソファに寝転がって言った。 「適当で良いよ…適当でさ…」 全く!なんて奴だ! オレは柔らかそうなタオルと、柄物の靴下を4つリュックに入れた。 大きめのバスタオルと、歯磨きセット、髭剃り、洗顔用の石鹸。わぁ…オレって凄い気配り上手じゃない? 後は…暇つぶし出来そうな何か…無いかな? 「依冬?暇つぶし出来そうな物、何か、な~い?」 ソファに寝転がる依冬のお腹をペチンと叩いて聞いた。 「あるよ?」 え? 「なぁに?」 首を傾げながら彼の答えを待っていると、にっこりと微笑んで依冬が言った。 「シロ、手、出してみて?」 ほう?一体、何だろう? オレは言われた通りに両手を依冬の目の前に出した。 依冬は自分の首元からネクタイを外すと、オレの両手にきつく巻いた。 「…んふふ。依冬?マジックするの…?」 何もこんな惨劇の現場で…マジックする事無いのに…変わってる。 次の展開を期待した目で依冬を見つめると、彼はオレを見てニヤリと笑った。 そのままオレをソファに押し倒すと、繋いだ両手を頭の上で押さえつけた。 「ふぁっ!なぁにしてんだ!ばかやろ!」 オレは毅然とした態度でそう言って、おイタの過ぎる依冬を叱り付ける。 「ふふ…暇つぶしじゃなくて…良い時間のつぶし方だよ?」 オレの首に顔を埋めると、ねっとりと舌で舐めながら、依冬が言う。 彼の声が…彼の息が…耳の奥を揺らす。 「ふっ…あぁっ…ちょっと…待って。何で?何で手を縛るの?そんなのおかしいじゃないか…これじゃまるで…」 「レイプされてるみたい?」 そう言って依冬がトロけた瞳でオレの顔を見下ろした。 これは彼の性癖なのか…? オレはついこの前、そういう目に遭ったというのに…デリカシーが無いの?彼のこういう所も頂けないね。 「この前されたばっかりだ。」 トロけた瞳の彼にジト目でお返しすると、彼はトロけた瞳の奥をグラグラと揺らして言った。 「ふふ…ほんと、思い出すだけでムカつくよ…。俺のシロにそんな事したなんて…ぶっ殺してやりたいよ…」 いや…お前は十分に彼らをぶっ殺すくらいに殴ったよ? ジト目のオレを無視して、依冬はオレの口の中に舌を入れて熱く絡めて痺れさせる。 頭の奥がジンジンして、気持ち良い… よくあるホラー映画… 廃墟で、心スポで、さかり始めた若者達が怨霊に襲われるんだ… それとよく似たシチュエーションだ。 そして、もれなく、オレも依冬にさかった。 覆い被さる様に体を密着させて、圧し掛かる程よい圧迫感の中、両手を上に固定されて、しつこいくらいにキスされ続けると、酸欠に似たクラクラした浮遊感を感じて、頭の奥が痺れて来る… 依冬はオレのTシャツの下に手を滑らせて捲り上げると、荒い息を吹き付けながら、ねっとりとオレの乳首を舐める。 「あっああ…ん、んんっ…依冬…はぁはぁ…ん…あぁ…」 気持ち良くなって、体が伸びて仰け反っていく。 「ふふ…シロ、エッチだね?手を縛られてるのに…気持ち良くなって…ダメじゃないか…」 依冬はドSなんだ。 きっと乱暴に抱くだけじゃ飽き足らなくて、言葉攻めにも挑戦し始めたんだ。 「んっふ…や、やだぁ…意地悪言わないで…だって、だって…依冬が好きなの…」 オレは彼の言葉攻めプレイに乗っかって、可愛くそう言って彼を興奮させる。 依冬はオレを見つめてうっとりとした瞳で言う。 「もっと…もっと俺に甘えてよ、シロ。」 え?オレはお前にいつもべったりだよ? オレが首を傾げると、彼も同じ様に首を傾げて言った。 「桜二にする位に甘えてよ…」 ふふ…可愛い… オレのズボンとパンツを脱がすと、依冬がオレのモノを優しく撫でて扱き始める。 「あっ、あっ…依冬…んっんん…」 彼の舌がオレの腹を舐めて、どんどん下に降りていく…そのまま下まで行って…パクリと咥えて欲しい。オレのモノを咥えて欲しいな…って…そう思ってた。 でも、依冬はオレのモノを撫でるだけで咥えてくれなかった。 オレは縛られた両手を下に下げて、依冬の髪を掴むと、彼の顔を自分のモノに押し付けて言った。 「ねぇ…依冬?舐めて?咥えて?」 「ふふ…ダメだよ。」 依冬はそう言ってオレの手を掴むと、いとも簡単に動きを止めた。 そのまま掠る様にオレのモノを咥えるか…咥えないか…そんな攻防を見せる。 「やだ!」 オレは怒って体を起こすと、そのまま体を倒して、股の間の依冬の頭を股間に押し込んだ。 「こら!シロ!」 依冬はそう言って怒ると、顔を上げて扱く手を強めた。そして、オレの体を引き寄せて自分の体に押し付ける。 「ん~ダメ…ダメ…口でして…依冬ぉ、口でしてよぉ~」 オレはそう言って彼の胸に顔を擦り付けて甘える。 だってもうイッちゃいそうなんだ… 彼の大きな手の中で扱かれ続けてオレのモノは限界を迎えている… このまま扱かれただけでイクなんて…嫌だぁ… 「シロ…キスして?」 オレを見下ろしてそう言う依冬を見上げて、震える唇から舌を出した。 むせ返るようなキスを貰って、あっという間に腰が震えてイッてしまう。 「はぁん…やだ…やだぁ…依冬が虐める…ヤダぁ…」 オレはそう言って依冬の顔を縛られた手で押して怒った。 「何で?気持ち良かっただろ?」 依冬がそう言って嫌がるオレの体を抱き寄せてキスする。 「ヤダぁ…んん…はぁはぁ…口でしてくれなかったもん…口でして欲しかったのに、してくれなかったもん…ヤダぁ…!」 そう言って嫌がるオレの縛られた手の中に首を入れると、そのままオレを抱えて自分の膝の上に乗せた。 「ほらぁ…キスしながら俺の上で擦って…?」 「ん、やだぁ!意地悪!意地悪ぅ!」 オレはそう言って依冬の頭に頭突きをする。 「あはは!シロ…それはダメだ…ホチキスが取れちゃう…」 依冬がそう言ってオレの唇にキスをして大人しくさせる。 自分のズボンを脱いで、オレのモノと自分のモノを一緒に扱き始める。 「ふぁっ…んっ…はぁっ、ふっ…んん…」 キスしながら、彼に彼のモノと一緒に扱かれて、腰が疼いて緩く動き始める。 「あぁ…可愛い…シロ、気持ち良いね?」 うん…凄い気持ちいい… 大きくて硬い依冬のモノがゴリゴリとオレのモノにあたって、めちゃくちゃ気持ちいい… うっとりと彼の目を見つめて、彼の柔らかい癖っ毛を両腕に抱えていやらしく腰を動かす。 「あっあ…ん!依冬…またイッちゃう…イッちゃいそう…」 顔を彼の髪に埋めて擦り付けて甘える。 もうトロけちゃう…クラクラする… 体が仰け反って腰をねちっこく動かして彼のモノと一緒に扱かれる。 「あっ、あっ、ああっ…イッちゃう…依冬ぉ、イッちゃう!」 オレがそう言うと、依冬がオレの胸を舌先で滑るように舐める。 最後に乳首を口に咥えて、唇で扱いた。 「ああっん…!!」 激しく感じて、オレはまた一人でイッてしまった… 「も、もう…ヤダぁ…意地悪な、依冬は嫌い…嫌いになるぅ…」 項垂れながらそう言うと、彼は笑いながらオレをソファに下ろした。 オレの足の間に入って依冬がやっとお口でオレのモノを咥える。 待ちに待った快感に気持ち良くなって腰が揺れる。 もっと…もっとして… 依冬はオレの揺れる腰を押さえてゆっくりとオレのモノを口で扱く。 「あ、ぁああ…きもちい…はぁん、あっ…あぁあん…ぁん、や…あ、きもちい…!」 オレは依冬の頭を押さえつけながら指先で髪を撫でる。 依冬はオレの中に指を入れて、指先で撫でる様に擦る。 あぁ…だめだぁ。もう、このままイキそう… 「ぁぁあっん…イキそう…依冬…またイッちゃうよ…あっああん!!んっ…んん…」 オレが体を震わせてイッても、依冬はオレのモノを舐め続けて、咥えて扱くのをやめない。 指の数が増えて、すぐにオレのモノは興奮して硬くなる。 「あっああ…あん…依冬…きもちい…!はぁ、あん…きもちいの…らめ…あっ、あぁあ…ん」 どんどん押し寄せる快感に体が喜んで跳ねる。 もっと、もっとしたい… 我慢できなくて、依冬の口に腰を押し付けて口ファックすると、制する様にすぐに押さえつけられる。 「依冬…ん、依冬!はぁはぁ…きもちい…もっと…んんっ、もっとして…」 オレの体を腕で抱え込んで持ち上げると、再びオレは彼の膝の上に乗せられる。 「シロが入れて…?」 うっとりした瞳で依冬がそう言ってオレにキスをする。 可愛い… でも…大きいからな…1人で出来るかな…どうかな…分かんないな… オレは彼の硬くなったモノの上に乗ると、手で支えながらゆっくりと腰を下ろした。 「はっ…ぁあ…おっきい!依冬…おっきいから…最後まで入らない…ん、んん…」 そう言ってクッタリと彼の肩に顔を置いて諦める。 3分の1入った。頑張った方だよ? 「シロは、諦めるのが早いんだよ?」 依冬はそう言うと、オレの腕の中に自分の頭を入れて、軽くキスをした。 そして両手でオレのお尻のほっぺを揉みほぐすと、むんずと掴んだ。 「やだ!一気に入れないで…?」 怖がるオレに、にっこりと微笑んで舌を出す。 オレは彼の舌を舐めて口の中に入れる。 ゆっくり腰を動かして3分の1の依冬のモノを出し入れする。 これでも十分、気持ち良いじゃん… オレの胸にクッタリと頭を付けて、依冬も気持ち良さそうに息が荒くなってる。 あぁ…良かった。これくらいなら…オレでも大丈夫だ。 ほっと一安心…そう思った瞬間、ドSの牙が剥いた。 オレの腰が下に沈んだタイミングに合わせて、腰を突き上げてオレの中まで完全に押し込んできた。 甘い顔して、こういう事するんだもんね!はっ、やんなるよ! 「あ~っ!!」 ゴリっと音を出して、オレの中にグッと詰まる違和感と圧迫感… 「はぁぁ…依冬ぉ…待って、待ってぇ…!」 依冬の肩に顔を乗せて、呼吸を整える… 依冬は容赦なくオレの首を舐めると、腰を突き上げる様に動かし始める。 「あ~~ん!だめ、だめぇ!」 腰が震えて背中が仰け反る。 依冬はオレの腰をぐるっと片腕で抱きしめると、お尻を揉みながら下から突き上げる様に腰を動かし始める。 いつもより興奮してるのか…彼のモノがより硬くて、より大きい…気がする。 やっぱりこういうプレイが好きなんだ… あんなに可愛い笑顔をして…こんな鬼畜プレイが好きなんだ! 「あっああ!依冬…待って、待ってぇ!!苦しいから…まってぇ…んっ、ああぁ!依冬…や、やぁだ!」 オレは彼の顔を手で抑えると、体を離そうと頑張って両手で突っぱねる。 でも、そんなオレの抵抗は彼をより興奮させてしまうみたいだ… 野獣と化した彼はオレのモノを手で握って扱き始める。 苦しさと快感を与えられ苦悶の表情で堪える。 だんだんと体の中が熱くなって来て、苦しさよりも快感の方が強くなってくる。 彼のモノがオレの中を出入りする度に、頭の奥まで鋭い快感が来て、どんどんオレを骨抜きにさせる。 「依冬…依冬…きもちい…あっ…ぁああん!きもちいぃの…依冬…んっ!はぁん!!」 依冬にキスしながら堪らない快感を味わって溺れる。 強く抱きしめられた体が熱くて、見下ろした依冬がオレの胸に顔を埋めて喘いでる。 きもちいの…?エロい…エロ可愛い… 「んっ…ふぁ…んっ!あっ!んんっ!!ん、んんんっ!!」 オレのモノがドクドクと精液が出ても、腰を震わせて激しくイッても、野獣になってしまった依冬には関係ないみたいに、ずっと腰を振り続けてる。 まるでオレを貪り食うみたいに、ひたすら没頭してイクまで腰を振り続ける彼は、野獣そのものだ…。 そして、オレは彼の快感を一方的に受け続ける。 この容赦ない一方的に与え続けられる快感が…すごく気持ちいい… 「あっ!あぁああっ!依冬!んっ…!」 何回イカされたのか分からないくらいイカされて、高揚した頬が熱くなる。与え続けられる快感が鈍くなる事は無く、逆にどんどん高まっていく。 力の入らないトロけた体を依冬に預けて、彼のくれる快感に溺れていく。 「シロ…かわい…俺もイキそう…」 やめないでよ…もっとしてたい…真っ白なんだ…今、めちゃくちゃ真っ白なんだ… 「やだぁ…まだ、だめぇ…もっと、もっと気持ち良くしてからイッて…!」 オレはそう言って依冬の背中をバシバシ叩いた。 「ぷっ!なんだよ…それ…」 依冬はそう言ってオレの言葉に吹き出して笑うと、優しくキスして言った。 「仕方が無いな…シロの為だから頑張るよ?」 依冬はゴロンとソファに横になると、オレのお尻を鷲掴みして上下に動かした。それと一緒に、自分の腰も動かして、奥まで入って来る。 「あっ…あぁあ…依冬…ん、んっん…」 この体勢…すごく奥まで来る… 依冬の胸に手を置いて、下から突き上げる快感に翻弄される。 「あ…ああ…ん、あっ、ああん…はぁはぁ…」 快感に満ちた体に力が入らなくなって、よろよろと依冬の胸に突っ伏して、彼の腕に締め付けられながらひたすら喘ぐ。 「ん…、シロ…ほら、いつもみたいにいやらしく腰を動かしてみて…」 依冬はそう言ってオレの腕を掴むと、強引に体を起こしていく。 「あっ!だめなの…これ、すごく…!!あっ…あぁああん!!やら…んっ…んん~、依冬…あっ!!ぁああん…や、やだぁ…んっ、んんぁっ!!」 気持ち良い…!! 手を口に当てて、身を捩って悶える。頭が真っ白になって…快感に満たされる。 オレの中の依冬のモノがさらに大きく硬くなっていく。 「あ~シロ、気持ちいい…かわい…すごくエッチだよ…かわいすぎ…愛してる。」 口ではそんな甘い言葉を言うのに…彼の行動は全く甘くなかった… オレの足をガッチリと掴んで、ガンガン下から突き上げて来る。 「あっああぁ!!や、やぁだぁっ!!んっ…んぁあっ!いやっ!や…あっああ!!イッちゃう!依冬!ダメ!イッちゃう!んっ…ぁああんっ!!」 自分の顔を押さえながら体を仰け反らせ、オレは派手にイッてしまった。 オレの中で依冬も激しく暴れてドクドクと熱い物を吐き出す。 依冬の胸に手を置いて、ズルズルと彼の体に落ちていく。 オレの中から彼のモノが飛び出して、お尻から熱い液がダラダラと垂れていく。 もう…だめだぁ… 依冬の胸に顔を置いて、快感の余韻に放心する。 「ん…すごく気持ちよかった…」 依冬がそう言ってオレの髪を撫でまわす。 ヤバい… 依冬が湊とのセックスと、オレとのセックスの中間点を探し出してきた。 それはドSと言っても過言ではないプレイ内容… 嫌いじゃないよ?嫌いじゃないけど…怖い。 ドМになりそうで…怖い。 依冬に病院まで送ってもらい、桜二の病室に戻って来る。 「桜二~!桜二、桜二~!」 オレはそう言って大人の桜二に泣きつく。 「どうしたの…?怖かったの?」 「違う…依冬が凄いんだ…野獣なんだ…新しい進化だ…」 オレはそう言って桜二の胸に甘えて、包帯を少しだけ捲る。 そのまま彼の首を舐めて、耳の裏まで舌を滑らせてペロリと舐める。 「あぁ…シロ。依冬とセックスしたんだね…だからまだ興奮してるんだ…。」 桜二はそう言ってオレをジト目で見つめる。 「ち、ち、違うよ?」 オレはそう言って桜二に着替えを渡す。 きちんと後片付けしたから…バレたりしないよ。それに公認の二股なんだ。 コソコソするつもりなんて無い! 「依冬がセックスの落し処を見つけた。それがかなりハードなんだ…。」 オレはそう言って桜二に抱きつく。 彼の鎖骨を撫でて、彼の首に顔を埋めて髪をクンクンする。 「あぁ…桜二は大人の匂いがするね?食べちゃいたい…ふふ。」 「落し処がハードだったの?」 桜二が話を戻してオレの顔を覗き込んで来る。 「そう…だから、子犬、忠犬、狂犬の次に野獣が加わった。これ以上進化しない様にしないと…手に負えなくて殺さなきゃいけなくなっちゃう!あははは!」 「笑い事じゃない!イテテ…」 桜二に突っ込まれて、大笑いしながら彼の膝に寝転がって甘える。 「…今日はこれからお店に行くよ?」 「早くない?」 桜二がそう言ってオレの髪を撫でる。 だめなんだ。踊っていないと体が鈍る。それに、モヤモヤしちゃう。 「早くない。今日は何を踊る?どんなエッチなのが良い?ふふ…」 オレはそう言って彼の髭を撫でる。 「俺は見れないから…エッチじゃないのでいい。」 桜二がそう言ってオレにキスする。 「んふふ…じゃあ、面白いので行こうかな?体も鈍って動かないし…ね?」 オレはそう言って桜二の顔を掴んで、自分に引き寄せてもっとキスしてもらう。 あぁ…ずっとここに居たいな…桜二の傍に居たいな… ずっとグダグダに甘えて、甘やかされたい… 「そろそろ行くね?」 オレはそう言うと、桜二に手を振って病院を後にした。 18:00 三叉路の店にやって来た。 「よっ!」 エントランスの支配人に声を掛ける。 「シローーーー!!」 支配人がオレを抱き上げてクルクルと回す。 「あははは!すごいぞ!ジジイなのに、力持ちだ!あははは!」 ゼェゼェ言い始めた支配人がオレを下ろして言った。 「すまなかったな…酷い目に遭わせた…申し訳ない。」 何だ…そんな事か… 「大丈夫だよ…?お店の方は大丈夫だった?ウェイターの給料が下がったって聞いたけど、あれは可哀想だよ?誰も悪くない。悪いのはあいつらだ…そうだろ?」 オレはそう言って支配人の顔を覗き込む。 「元に戻してあげてよ?ね?お願いだ。」 「シロ…なんて優しい子なんだ…さすが、俺の見込んだ男前なだけあるな…」 グスンと鼻をすすって、支配人が言った。 「じゃあ、来週からは普通に戻す…」 ケチくそだな…全く。 階段を降りて控室のドアを開く。 「楓~!会いたかった!」 オレはそう言って、鏡に食い入る様にしてアイラインを引く楓に思い切り抱きついた。 「シロ…シロ…シローーー!もう大丈夫なの?ごめんね、ごめんね!僕のせいだよ…本当にごめんね…シロ…」 楓はそう言うと、オレの体を抱きしめてオンオンと泣き始める。 はみ出したアイラインが気にならなくなる位に、アイメイクが落ちていった… オレは彼の体を抱きしめ返して言った。 「楓は全然悪くないよ?オレを守ってくれたじゃないか…あんなに傷つけられながら…守ってくれたじゃないか…ありがとう。お前が居なかったら…オレはもっとひどい目に遭っていたよ?」 せっかく化粧をしたのに、楓の顔はぐちゃぐちゃになって黒い涙を流してる。 オレはティッシュを取って彼の顔を綺麗に拭いてあげる。 「でも、これからは付き合う相手を気を付けないとね…?」 オレがそう言うと、楓は目を潤ませて頷いた。 「うん…うん、絶対に気を付ける…シロ、良かった…大好きだよ。」 「オレも楓が大好きだよ…?ふふ…」 彼の声が桜二に届いて、オレは助かったんだ…命の恩人だよ。 楓はメイクを一旦落とすとオレの方を見て言った。 「もう今日から踊るの?」 「ふふ…当たり前だよ?これ以上休んだら、体が鈍っちゃうもん!」 オレはそう言って楓の隣に座ってメイクを始める。 隣の楓はオレを見てニコニコで嬉しそうだ…きっと自責の念を感じてたんだ… そんなの感じる必要なんて無いよ。 あの時の…オレを守ろうと必死に男に掴みかかったお前が、兄ちゃんの姿に重なって見えたんだ…。自分が殴られるのに…必死に守ろうとしてくれた…胸が痛いよ。 この人は、良い人だって思ったよ… 「さぁ!何を着ようかなぁ~!」 オレはそう言って衣装を選ぶ。 「あっ!可愛いじゃないか…これにしよ~う。」 それはオレのいない間に新しく入った衣装… たまにやってくる衣装売りの行商が来たんだ…良いな。オレも見たかった。 なんてタイミングに来るんだ! 沢山の衣装を大きなカバンに入れてやって来る不思議なおばあさん。 派手な格好をしているから、遠目でもすぐに分かるんだ。ふふ… 19:00 階段を上ってエントランスへ行くと、待ち構えていた支配人に手を取られる。 「お席までエスコートいたしましょう…」 なんてこった! オレは支配人にエスコートされて店内の階段を降りる。 左手を軽く握る支配人はいつもの銭ゲバジジイから、上等なジジイに変わって、紳士的な笑顔でオレをエスコートした。 雪でも降るのかな? 「んふふ!」 オレは上機嫌で姿勢を伸ばして、優雅に階段を降りていく。 まるで女王様の気分だ。 「シロ…!お帰り!」 「シローーー!お帰り!」 事情を一部始終知ってるお店の従業員が、泣いたり笑ったりと歓迎してくれる。 ふふ…なんだか変な気分だね…照れでも無いし、恥ずかしい訳でも無い。 カウンター席まで優雅にエスコートされて席に着いた。 「本日、この方の飲み物は全て私に付けて。それでは…」 キリッ!とマスターにそう言って、オレの手の甲にキスして立ち去る支配人… 酔ってるな…完全に、自分に酔ってる。 「あれ…どうした?」 そう言ってニヤけるマスターに眉を下げて言った。 「さぁ~ね?でも、オレの飲み物は、今日は支配人の奢りだ。うしし。」 いい機会だからジャックダニエルを2本、桜二の為にストックした。 いつもの様にビールを注文して一口飲んでマスターに言う。 「オレが襲われただろ?だから、責任感じてんだよ…。」 「そうか…」 ひと言そう言うと、オレの頭を撫でて言った。 「俺はてっきり…お前があいつまで手玉に取ったのかと思ったよ…ふふふ。」 ふふ… 「オレだって選ぶ権利はあるよ?」 オレはそう言って一緒になって笑う。 「よー、大変だったな?」 DJまでブースから出てきてわざわざオレに挨拶に来た。 「ふふ…もう平気だよ?何?心配してくれたの?みんな優しいね…ふふ。」 オレは飲みかけのビールを彼に渡して新しいビールを注文した。 「何てったって、今日はオレの飲み物は全て支配人の驕りなんだ…ふふ。」 「ほほ!それはどうしてなの?」 突然声を掛けられて、驚いて相手を見る。 「あ…」 そこに居たのは田中刑事。 この人…苦手なんだよ。 湊に扮したオレに問いかける様に、オレの…シロの記憶を掠める様な事を言ってくるんだ…だから、彼と話すと…心が翻弄される。 「シロ君…こんな危ない店に出入りしてるの?その恰好を見ると…どうも君はダンサーに見えるね。そうか…バレエダンサーじゃなくて…ストリップダンサーだったんだ。なるほど…うんうん、そうか…そうだったんだね?」 もう…いやんなっちゃう! でも、そんな事言ってられないね…愛する桜二の為だ。 彼のテンポに巻き込まれないで、湊を演じてみようじゃないか… 「刑事さんは…どうしてここに来たの?」 首を傾げて田中刑事に尋ねる。 「ほほ…どうしてだと思う?シロ君を付けて来た…なんて言ったら怒っちゃうかな?」 良いや…怒らないよ。だって、あんたは刑事だ。 それが仕事なんだろ? 「怒らないよ…?ふふ…」 オレはそう言って田中刑事に微笑む。 「桜二さんが結城に刺される前、君はこの店で連れ去り事件にあったね?犯人は…依冬君がメタメタにしたみたいだけど、その場に桜二さんもいたね?いつも3人一緒に居るの?まるで兄弟みたいだ…そう思わないかい?」 そうだよ!そうだよ!それがオレの描いたシナリオなんだ。 オレは得意げになってふふん!と鼻を高くして言った。 「えぇ?!兄弟じゃないです…。僕は彼らの恋人です。」 「ほほ…なるほど、なるほど。じゃあ、君を襲った奴らが結城さんの所の子会社で、広告代理店をしてる人達だって言うのは?…知っていたかい?」 何だと…? じゃあ…オレは突発的な事件に巻き込まれたんじゃなくて…結城さんの策に嵌ったと言う事なのか…だから、桜二が怒って…結城さんを煽った。 なるほど…そう言う事だったのか… 「へぇ…知らなかったよ…」 オレはそう言ってビールを一口飲んだ。 どうして何も言わなかったんだよ…桜二。かっこつけて刺されて…ばかやろ。 「じゃあ、桜二さんのお母さんが自殺で亡くなったのは知ってる?」 「そんな事…人に話して良い話じゃない。聞いていて気分が悪いよ。いくら仕事でも、そんな話するもんじゃない。だって、僕はこの件には関与していないんだから…彼のお母さんの話を…わざわざ話す事なんて無いでしょう?」 嫌だった。 桜二がお母さんの事をどう思おうと…オレは彼のお母さんを悪く言われる事が嫌だった…だって、桜の付いた名前をプレゼントしてくれた人だ…病んでいたとしても、その前はきっと彼を愛していた筈なんだ。 オレがそう言って田中刑事を睨むと、彼はオレを見て目じりを下げて微笑んだ。 「そうだね…悪かったよ。」 そう言って田中刑事は目の前のマスターに飲み物を注文をした。 「シロ君…じゃあ君の話を聞かせてよ。君はどうしてこのお店で働いているの?」 「ふふ…それは事件と関係があるの?」 オレは田中刑事をジロリと見ると、眉を上げてそう尋ねた。 「いや…関係ないよ?ただの好奇心だ。」 ふぅん… 両手にビールの瓶を挟んでユラユラと揺らしながら見つめると、田中刑事に視線も合わせずにポツリと呟いた。 「オレはね、知らない人と深い話はしちゃダメだって、言われてるの。」 「お兄さんが言ったの?」 え? 咄嗟に田中刑事を見つめて、静かに固まる。 やっぱり この人は オレの過去を知ってる… 「ふふ…オレの話はしないよ?それよりも、田中刑事の事を聞かせてよ…」 取り繕う様にそう言って田中刑事を見つめると、彼の鼻に指を置いて聞いた。 「どうして刑事になったの?」 彼は目じりを下げて笑うと言った。 「モテると思ったんだ…。」 ふふ…アホだな。 オレは口元を緩めながら田中刑事の鼻をぐりぐりと押して言った。 「嘘つき!」 「ほほ!…ほんとだよ?」 だとしたら、本当にあほだ。 「人の事、調べて…楽しい?」 彼の鼻から指を退かすと首を傾げながら尋ねる。そんなオレを見て、田中刑事は眉を下げて困った顔をした。 「仕事…だからね。嫌だったかい?ごめんね…」 随分、しおらしいじゃないか… オレは田中刑事を見つめたまま静かな声で尋ねる。 「どうして…オレの過去を知ってるの…?」 一瞬戸惑った表情をすると、田中刑事は取り繕う様に言った。 「…シロ君の過去なんて、知らないよ?何?何か悪い事でもしたのかい?ふふ…いけないな…?逮捕しちゃうぞ?おじちゃんは刑事さんだぞ?御用だ!御用だ!」 ふざける様にそう言うと、オレの手首に手錠をかけるふりをして笑いかけて来る。 嘘っぽい…明らかに嘘っぽい。 こんなに場数を踏んだ刑事だ。動揺したって表に出したりなんてしないだろう? なのに、なぜこんなに露骨に動揺してる様を見せつけるんだ? まるでオレに示唆するみたいに… 田中刑事を見つめて考えを巡らせていると、オレを見てにっこりと微笑んで言った。 「シロ君と桜二君と依冬君は、まるで兄弟みたいだ。3年前に亡くなった湊くんは、もしかしたら生きてるのかもしれない。そして、それは君なのかもしれない。どうだい?」 どうして…? この刑事の意図が読めない。 「……ふふ、どうかな。だって…僕は1人っ子だからね…」 オレはそう当初の設定通りの返答をして、彼の目の奥を見つめる。 まるでそのまま演じ続けろと言わんばかりに、彼は目じりを下げてオレの言葉に深く頷いた。 「そうか…それは残念だ…では、もっと楽しい話をしよう?」 そう言って話を切り上げると、どうでも良い温泉地の話をした。 それでもオレは田中刑事の意図が気になって仕方が無かった。 だって、それはまるで…“見逃してやるから、そのまま続けて騙し通せ”と言っている様な物だから… 何故そんな事をするのか…オレには分らなかった。 それでも、この人が騙された振りをしてくれるのなら…桜二が掴まることは無くなるんだ。だとしたら…オレは意図不明なこの状況を受け入れるよ。 「温泉なんて入った事無いから、何が良いのか分からない。ただのお風呂だろ?」 オレはそう言って田中刑事の温泉愛を否定した。 「ほほ!全然違うよ?温泉のお湯にはとろみがあってね、効能があるんだ。」 そう言って食いついて来る田中刑事にクスクスと笑いかけて、目の奥を覗き込む。 「温泉の素って売ってるじゃない?ああいうのじゃないの?」 オレがそう言うと、目じりを下げて笑って言った。 「こりゃだめだな。一度連れて行ってやらんと、違いが分からないんだ。」 「シロ、そろそろ…」 支配人から声がかかってオレは田中刑事に言った。 「今からあそこで踊るんだ。良かったら見て行ってよ…」 「ほほ…もちろんだよ。」 お父さんが居たらこんな感じ? 居た事が無いから…分からないよ。 息子のストリップを喜んで見るお父さんなんて居るのかな…? ふふ… オレは階段を上りながら田中刑事の座るカンター席を眺める。 「どこかで、会ったのかな…」 全く思い出せない。そんな記憶… 控え室に戻ってストレッチする楓の後ろを身を縮めて通る。 白い大きなシルクハットに秘密道具を仕込んで、カポッと頭に乗せると楓が笑って言った。 「あはは、シロ、可愛いじゃ~ん。」 ふふ…そうだろ?オレは今日、可愛く行くんだ。 カーテンの前に立って手首足首をぐるっと回す。首をゆっくりと回してストレッチする。 大音量の音楽が流れて、カーテンが開く。 オレは笑顔でステージに向かう。 「シローーー!どこ行ってたーーー!」 入院してたんだよ!ばかたれ! そんな常連の声に笑顔を向けて、頭に乗せたシルクハットをクルッと回す。 オレの今回のコンセプトは“ドSなマジシャン”だ。 白いジャケットと黒いシャツ。赤いネクタイに白の半ズボン。そして生足にローファー!足元はトレンディだ。ふふ… オレはステージの上でマジックをする様にシルクハットを持って構える。 3,2,1! カウントして、中から取り出したのは、大ぶりの鞭。 「キャーーー!シローーー!ぶってーーー!」 ははは… オレはシルクハットをかぶり直すと鞭をしならせて一発ステージに叩き込んだ。 パシィィィン! 空気を切る良い音が鳴った。オレは絶好調の様だ。 お役御免のシルクハットを袖に放り投げて、ジャケットの胸を広げて、いやらしく腰を回す。 そのままポールに近付いて、両手でしっかりと掴むと足を上に持ち上げていく。 両ひざの裏でポールを掴むと回りながら足を組み替えて、もっと高くへと昇っていく。 見た目は優雅に、心の中ではえっちらおっちら…そんな風に言いながら、回転に強弱をつけて美しくポールを上っていく。 高くまで登って、体を反らしてジャケットを床に落とす。 さぁ、ここから下まで、可愛く降りてみよう。 オレは両手でポールを掴むと遠心力を付けて回る。 足をポールから離して膝を曲げて回る。膝裏でポールを挟むと、片手を離して美しく伸ばす。 両手でポールを掴み直して、体を重りのように振って回転を加速させていく。 両膝の裏にポールを挟んで体だけ下へ移動させる。 「わぁーーー!綺麗だ!シローーー!」 そうだろ?オレもそう思うよ?ふふ… そのまま片手を離して遠くへ伸ばすと、お客とタッチする。 両手でポールを掴み直して、クルクルッと勢いを付けて回りながら床まで落ちていく。 ポールの最後の最後まで回って、正面を向いてポーズをとって止まる。 「シローーー!さすがだな!可愛いぞ!」 ありがとう。そう言って欲しくてやってるよ? オレはにっこりと笑いながら、ステージ中央に行くと、トレンディなローファーを脱いだ。 そのまま膝立ちして、ネクタイを緩めると、シャツを脱いでいく。 それはいやらしく…目の前のお客を挑発するような視線で、片方の肩からゆっくりと体をしならせながら、シャツを全て脱ぎ落す。 「ひゃーーー!」 そのまま自分の白い短パンに手を入れて、腰を振りながら喘ぐ振りをする。 ゆっくり短パンを下げて膝裏まで脱いでおく。腰を反らして、お尻を突き出すと舌を出して、ねっとりと舐めるように動かす。 短パンに挟んでおいた鞭を手に持って、膝立ちから勢いを付けて立ち上がる。 下に落ちた短パンを、ピルエットしながら袖に蹴り飛ばす。 鞭を一発入れて、空気をドSに戻す。 チップを咥えて待つお客さんがその音にビビって体を起こした。ふふ… だめじゃないか…まだ取りに行ってないのに。起きたら…ダメだ。 オレはお客の肩に足を乗せると、下に押し込んで、もう一度寝かせる。 「まだ、だぁめぇ…ふふ」 そう言って膝で顔を挟んで体を両手で撫でてあげる。 「シロ…勃起するから…!」 あはは! 「なぁんだ…嘘つき。…全然してないよ?触ってみようか?」 オレはそう言って顔を赤くする常連客をからかう。 鞭の柄でグリグリと鼠径部を撫でてみる。 「あぁ!シロ!本当にもうお店に来れなくなっちゃう!」 「あはは!気にしすぎだよ?」 オレはそう言ってその人が口から落としたチップを咥えに行く。 丁度、彼の胸の上に落ちたチップを体を落として唇に挟む。 お客の息がオレの肌に触れて、興奮する。 「お兄さん…良い匂いがするね?」 そんな囁き声のサービスをしてチップを受け取ると、仁王立ちして鞭を振った。 これでフィニッシュだ。 カーテンの裏に退けて、メイクを落として、半そで半ズボンを着る。 控え室から出て、上を見上げると支配人が階段の上からオレを見下ろす。 「なぁに?ちゃんと踊ったよ?ふざけたりしなかったよ?」 オレはそう言って、訝しげに支配人を見つめながら階段を上っていく。 「とっても綺麗だった…やっぱりお前は最高のダンサーだ…」 そう言って両手でギュッと抱きしめて、しくしくと泣き始める。 「ふふ!どうしたんだよ…どうして、泣いてるの?…分からないよ。」 オレは動揺して支配人の顔を覗く様に体を反らす。 「…あんな事があったばかりなのに…お前は本当に、強い男だな。」 …え? 強い? 違う… 何も、感じないだけなんだ… 「ふふ…そりゃどうも!」 オレはそう言って笑うと、涙目の支配人から逃げる。 …あんな事って、レイプの事だよね。 確かに気持ち悪いとは思うけど…だから何だって感じでそれ以上の感情なんて無い。ただ、気持ち悪いって思うだけ… ぽっかりと…そういう感性が、死んでるのかもしれないな… 「シロ君!素敵だったね?とっても上手だったよ?」 店内に戻って階段を降りると、下から上って来る田中刑事がそう言って、オレに拍手をしてくれた。ふふ。 「拍手じゃなくて、チップが欲しいの。」 オレはそう言って頬を膨らませると、手のひらを出した。 「そんなの買ってないよ?じゃあ…代わりに、これをあげる。」 そう言ってオレの手のひらにポンと飴ちゃんを乗せてくれた。 あれ… この感じ。前にもあった気がするよ… 「ふふ…ありがとう。」 オレは不思議な気持ちを抱いたままお礼を言うと、田中刑事を出口まで見送ってあげた。 「気を付けてね…おじいちゃん。」 オレがそう言うと、ほほっと笑って帰って行った。 何だろう…あの感じ。前にも同じような事があった気がする… 首を傾げて歩いていると、支配人がちゃちゃを入れる。 「なんだ!次の男は随分と高齢者だな!俺もワンチャンあるんじゃないか?」 オレはそれを無視して店内へ戻った。 手のひらに貰った飴ちゃんを乗せてじっと眺める。 不思議な感じだ… 12:00のステージを終えると、お迎えに来た依冬と一緒に彼の部屋に帰る。 「だからね。オレは湊を演じる事で3年前の事をチャラにしようとしてんの。」 運転中の依冬にそう言うと、彼は首を傾げて言った。 「そんなの上手く行く訳ないよ。もっと別の案を俺が考えてみよう。」 そうだ…そうなんだけど、刑事がオレのこの希望的観測しかない計画に乗って、騙されてくれてるんだ… こんな事を言ってもきっと依冬は信じてくれないだろうな。 だって、オレだって半信半疑だもん。 オレは依冬のほっぺにグリグリと指を押し付けながら話題を変えて言った。 「依冬がセックスに落し処を見つけたって…桜二に言ったら…」 「そんな事言うなよ…何、話してるの?ダメだよ?2人の秘密だろ?」 ふふ… 依冬の怒ったジト目を見つめながら、オレはクスクス笑って座り直すと、窓の外をぼんやりと眺めた。 「シロ…朝だよ…起きて…」 依冬と生活してから必ず7:30に一緒に起こされる。 オレはいつも14:00に起きる”夜型“の人間なのに、彼に合わせて7:30に起こされる。 こんなの、納得いかない。 「早い!眠い!やだ!」 依冬がベッドから転がる様に起き上がるのを横目に、マットレスの最高なベッドを占領して大の字に寝転がった。 ヨロヨロと歩いてお尻をポリポリしながら洗面所へ向かう彼は、オレよりも一つだけ若い。年下の男の子。 頭の中で古い歌を流しながら薄目を開けて口ずさむ。 「寂しがり屋で…わがままで…意地悪だけど…好きなのぉ~…ふんふん」 依冬は廊下をヨロヨロと歩き回って、寝ぼけながら朝の支度を始めてる。 ふふ…可愛い ちょっと猫背になってるのが…可愛い。 自分の事で精いっぱいの“だらしのない年下の男の子”が、甲斐甲斐しくオレの世話をするんだ…萌えるだろ? だからオレはわざと、ダメな年上のお兄さんになってやってるんだぁ… 自分の洗濯物すらしないのに、オレの分はせっせと洗濯したり、自分の使ったコップは放ったらかしにするのに、オレのはすぐに洗ったり… こんな事されると、甘えなきゃダメなのかなって…思っちゃうんだよね…ふふ 本当はしっかり者なんだよ?でも、甘えてやってるんだ… 「シロ…今日…レッスンあるよ…」 歯磨きしながら依冬が寝室に入ってきた。 薄目を開けて彼を見つめるオレを、布団の上から容赦なく揺さぶって来る… 「やぁだ!11:00からだもん…まだ寝てても大丈夫だもん!」 オレはそう言ってごねて布団にくるまる。 大きなため息が聞こえて、思わず笑いが零れる。 困ってるの?困ってるの?うふふ!可愛い! 「…桜二が言っても、こんなに寝起きが悪いの?」 悪いなんてもんじゃない。抱っこしてソファまで運んでもらうんだ…ふふ。 「シロ…まるで、赤ちゃんみたいだね?…ふふ」 依冬のその言葉にオレは体を起こすとベッドから起きて彼を見て言った。 「…違うけど?」 そして速やかに歯ブラシを咥えると、リビングに行ってソファに座ってテレビを付ける。 「おぉ…」 未だに朝のワイドショーは結城さんの話題で持ちきりだった。 テロップには“人身売買”なんて文字まで流れる始末だ…本当の事なんて憶測や噂であっという間に嘘になっていくんだな… すぐにテレビを消して、代わりに音楽を流した。 鏡を見ながら髪の毛を整える依冬を、足でちょいちょいと退かして、口をゆすぐ。 上半身裸の彼はなかなか良い。 依冬の剥き出しの腹筋を鏡越しに眺めながら、ぼんやりと顔を洗う。 依冬が隣でドライヤーを使い始めて、オレの髪がブンブンと舞って暴れる。 「もう…もっと離れてやってよぉ…」 「ん~、コンセントが届かないの。」 「じゃあ風向きを変えて、向こう見てやってよ…」 「それじゃあ鏡が見れないだろ?」 もう… さっさと顔を流して、タオルで拭くと、寝室に戻ってうつ伏せに倒れ込んだ。 同じ時間に起きるから洗面所が込み合うんだ… スヤァ… 「シロ…寝ないで。起きて!」 依冬はそう言いながら寝室に戻ると、オレの着替えをベッドに置いた。 そのままオレのパジャマのズボンを膝まで下げると、一言言った。 「シロ…お尻、可愛いね…?」 眠いんだ…褒めるのは後にして… 依冬はオレの桃尻を撫でると、手のひらでモミモミして遊び始める。 好きにすればいい…オレは眠いんだ…スヤァ… 依冬がオレの腰を掴んで後ろに引っ張り上げるけど、オレは気にしないよ…? パジャマがずれてお腹が見えても気にしない…だって、眠いんだもん… オレの桃尻に股間をあてて腰を動かし始めるけど… 「依冬…!やめて…。眠いんだ!」 オレはそう言って、体を起こして膝立ちすると、後ろに体を捩って依冬の頭を引っ叩いた。 馬鹿野郎!お前は一線を越えた!引き際を間違えたんだ! だから叩かれるんだ! 「ん?」 依冬はオレの肩を後ろからホールドすると、パンツの中に手を入れてオレのモノを撫で始めた。 なんて奴だ! 「眠いから…やめてって言ってるの、分かんないの?ばかやろ!」 オレがそう言って怒っても、依冬は楽しそうにオレのモノを撫で続ける。 肩を押さえた手でオレの顔を掴むと、グイッと自分に向けて、熱いキスをしてくる。 なぁんて奴だ! 「依冬…だめだぁ…離して…」 彼によって弄られたオレのモノがムクムクと大きくなって硬くなる。 「気持ち良いの?シロ…気持ち良くなってきちゃったの?ふふ…」 良いの…笑われても良いの… だって、触られたら勃つのは誰だってそうだもん…クスン。 依冬はオレのモノを握ると緩く扱き始める。 「あっ…んんっ…だめぇ、気持ちいからぁ…依冬、んんっ…や、やだぁ…ん…すぐイッちゃうから…やめてよぉ…んっ…」 背中を抱かれて、扱かれ続けるオレのモノの先からトロトロと液が垂れ始める。 依冬が扱く度に、グチュグチュと音を立てて…興奮して腰が震える。 「可愛いね?…シロのイキ顔見てから、会社に行こうかな…」 依冬がそう言ってオレの耳を舐める。 「あっああん!だめぇ…イッちゃう!イッちゃうの!」 パジャマの上から摘ままれた乳首が気持ち良くて、オレは腰をガクガク言わせてイッてしまった… パンツが…汚れた… 依冬は満足そうに熱いキスをすると、そのままオレのパンツを脱がせてベッドに押し倒した。 「依冬…依冬…待って…」 力なく訴えるオレを無視して、足の間に入ると、熱心にオレのモノを口で扱き始める。 「だっ!なんで今なの!仕事に遅れちゃうよ…?」 彼の肩を押して顔を外そうとするけど、ガッチリとホールドされた体は外れることなく強い快感をオレに寄越す。 「ん~…だめ、気持ちい…!あっああ…ん、依冬…依冬…馬鹿ぁ…」 体を起こして彼を見つめると、オレを見て悪戯っぽく目を笑わせる彼に悩殺される。 「あ~~~!可愛い!」 ベッドに寝転がって、体を捩って彼のくれる快感に溺れていく。 パジャマの下に彼の手が伸びて、優しく乳首をこねられる。 堪らない快感に、腰が震えてビクビク跳ねる。 頭の先からつま先まで、快感が巡って、硬直する。 「あっああんっ!はぁ…ん、んっあっ…」 オレは滞りなく、またイッた… 気持ち良い…気持ち良いけど…もう嫌だ… 「ひぃ!」 オレは急いで体を起こすと、快感が抜けきらない体でパンツとズボンを履いた。 そんなオレを見て依冬はケラケラと笑っている。 なんて奴なんだ!ふん! 「ん~…挿れたい…挿れたいなぁ~…」 後ろから呪文のように呟き続ける依冬を背中に乗せて、朝の支度を全て済ませると、一緒に部屋を出た。 「病院の売店に、おにぎりとかパンが売ってるから、それを買って食べてね?」 オレの手のひらに1000円を置くと、依冬がそう言って微笑んだ… 「は~い…」 オレはそう言ってリュックを持つと、彼にキスをして車から降りる。 「いってらっしゃ~い。」 手を振って、依冬の車が走り去るのを見送ると、踵を返して病院へと向かう。 手の中に1000円を握りしめて…ふふ。

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