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第13話
スーパーに寄って似つかわしくない人達と買い物をする。
オレはカートを押す係になって、桜二の後ろを付いて行く。
昔、兄ちゃんの後ろも同じ様にして付いて回ったな…
「兄ちゃん、お菓子買っても良い?」
「3個までね…。後は、豚ロースを買って…」
買い物のメモを見ながら兄ちゃんが商品を探す中、オレは何食わぬ顔でお菓子を4個入れた。
会計の時、兄ちゃんがあッ!とした顔でオレを見て、口を尖らせて怒った顔をする。
それが面白くて、いつも言われた数より1つ多めにお菓子を入れてしまうんだ。
あの時には、もう、その人と…そんな関係だったの?
信じられないよ。兄ちゃん…
「シロ?スープってこれで良いの?」
桜二の声に我に返って、彼の指さした市販のスープを見ると、首を傾げて言った。
「知らないよ。」
「もう…全く…」
桜二はそう言って商品内容を読んで確認し始める。
「寒ブリ!寒ブリ!」
勇吾がそう言ってカゴの中に魚を入れていく。
「銀タラ!銀タラ!」
「やめて?」
オレはそう言って勇吾が持ってきた魚を手に取ると、彼に向けて言った。
「オレはね、魚の入った鍋は食べたくない。戻してきて!」
「はぁ?」
勇吾はそう言って凄むとオレを睨んで言った。
「シロはおこちゃまだな…鍋と言ったら魚介系だろ?嫌だなんて言わせないぞ?俺が食べたいんだから、この魚たちは鍋の中に入るんだ。」
なんだと!
「勇吾こそ、おこちゃまだ。オレが嫌だって言ってるのに、桜二が入れる訳無いじゃないか。そんな事も分からないの?ほんと、だから勇吾は“残念なイケメン”なんて…言われちゃうんだよ?」
誰も言ってないし、聞いた事も無い。でも、オレはそう言って勇吾を煽った。
「はぁ?!」
顔を赤くして怒り始める勇吾を無視すると、魚のパックを売り場に戻していく。
こんな生臭いもの…フン!
「桜二~」
カートを押しながら桜二に駆け寄って、汚れの取れた内容のカゴを見つめて言った。
「生臭い鍋なんて、オレは嫌だよ?だから勇吾の魚は全部返して来た。」
「ふたつ鍋を作るよ。夏子も魚が良いんだって。」
桜二はそう言って手に持ったお肉をカゴに入れた。
えぇ…
「ほら見ろ。シロはどうしてお魚返しちゃったのかな…?まぁ、優しい勇ちゃんがまた持って来てあげたけどね。もうしちゃダメだよ?次したら、エッチの時、意地悪しちゃうからね?グフフ…」
「嫌だ!鍋をふたつ作るなら、ふたつ共ラーメンを入れたいもん。嫌だ!生臭い鍋なんて、絶対に嫌だ!」
勇吾を無視して、オレは人目の憚らず駄々をこねて、桜二の腕を振り回した。眉毛を下げてオレをジト目で見つめる桜二に、全力で抗議する。
「なぁんで?なぁんで、オレの言う事聞いてくれないの!怒っても良いの?怒って、桜二の事、フン!ってしても良いの?」
「…それは嫌だけど…」
そう言って桜二は困った顔を続ける。
もう一押しだ!
「ヤダヤダヤダヤダ!絶対にヤダ!魚の鍋なんて、オレは絶対に認めないよっ!?」
「何?」
駄々をこねまくるオレの背中に、夏子さんが冷たい声と冷たい視線をあてる。
「う…」
動きが止まったオレを見て、勇吾がニヤニヤしながらカゴに魚を入れ直した。
最悪だ…
オレのカゴに魚が入った…最悪だ。
「フン!お菓子持って来る。」
オレはそう言ってカートを桜二に投げ出すと、1人、お菓子売り場に行った。
なんだよ!ちぇっ!
お菓子売り場を眺めながら、勝ち誇った顔の勇吾を思い出してムカムカして来た。彼は人を怒らせるのが得意みたいだ…
なんだよ…昨日はあんなに甘くしたくせに…ふたりきりの時は…あんなに優しくしたのに…!桜二に話したことが嫌だったの?だから、意地悪するの?
…いいや、彼は二面性があるんだ。
表向きな顔は、意地悪で人をおちょくる、口の悪い美系で…本当の素顔は、甘くて…優しくて…トロけちゃう美系なんだ…
そして、今出ているのは…表向きの顔…
なら、オレだって引かないよ?
フン!
手にミルクチョコレートを持って、買い物を続ける桜二の元に戻ると、にっこりと笑ってカートを押し始める。
「…何か、企んでるの?」
桜二がそう言ってオレをジト目で見つめてくるから、オレは眉を上げて口を尖らせてみせた。
「シロ~、こっち!こっち!」
遠くで夏子さんがオレを呼ぶから、カートを押して近付いて行く。
どうやら彼女はビールを箱買いするつもりのようだ…
ワイン4本と、日本酒1瓶をカートに乗せて、お会計へ向かう。
「言い出しっぺが支払うんだ…」
そう言って支払いを勇吾にさせる桜二の背中を見つめて思った。
…やっぱり、桜二はケチくそだ。
部屋に帰って来ると、オレは寝室へ走って向かい“宝箱”を引き出して、箱の中の兄ちゃんに言った。
「兄ちゃん、桜二はケチくそだよ。桜二はケチくそだ。だって、3万円の支払いを勇吾にさせたのを見ちゃったんだ!」
「…何してるの?」
暗い寝室に廊下の明かりが差し込んで、入り口に立つシルエットから相手が勇吾だとすぐに分かった。
「…ん、兄ちゃんに…重要な事を報告してた。」
オレはそう言って暗い部屋の中、ベッドの上に”宝箱”を置いて見せてあげる。
「この人がオレの兄ちゃんだよ?」
オレの差し出した写真を手に取ると、勇吾は首を傾げながら廊下の明かりに当てて眺めた。
「ふぅ~ん…この子は?」
そう言って、幼い頃のオレを指さして勇吾が首を傾げる。
「…ふふ。その子はオレだよ?6歳のオレ。」
オレはそう言って、半開きの瞳を見つめる。
不思議なんだ…この人がふたりきりの時に見せる、この穏やかで、優しい表情を見ると、なんだか…堪らなく甘えてしまいたくなるんだ。
「綺麗な子だね…」
勇吾はひと言そう言うと、オレの“宝箱”から時計を取り出した。
「そ、それは、兄ちゃんの腕時計だよ?」
彼のアンニュイな雰囲気に、どぎまぎしながらオレがそう言うと、ふぅ~ん。と言って、箱の中に戻した。
その後彼は、田中刑事に貰ったばかりの写真を手に取って、同じ様に廊下の明かりに当てて眺めた。
「…楽しそうじゃないか。」
「ふふ…うん。そうだろ?」
オレはそう言ってベッドに寝転がると、兄ちゃんの写真を勇吾から奪って眺めた。
兄ちゃん…兄ちゃん…大好きだよ。
「シロ…」
勇吾が甘い声を出してオレに覆い被さってきた。
「ふふ…なぁに?」
オレは写真越しに勇吾を見つめて聞いた。
「桜ちゃんに言わないで…俺はね、シロとふたりきりで秘密を共有したいの。お前が俺を好きな事も、俺がお前に首ったけな事も、誰にも知られたくないの。」
彼はそう言うと、うっとりとオレの髪を撫でて優しくキスする。
彼の視線が、彼の手先が、ふたりきりの時の甘いモードになっていて、オレはクスクス笑って言った。
「んふふ!勇吾?勇吾は恥ずかしがり屋さんなの?だからふたりきりにならないと…優しくしてくれないの?」
そんなオレの言葉に、彼は驚いたような顔をして言った。
「俺はいつも優しくしてるよ?」
「あふふ!自覚が無いんだ。あはは!それは…可愛いね?勇吾は所謂、ツンデレなんだね?ふふっ!」
そう言って彼の柔らかい髪をかき上げると、桜二みたいに後ろに流して言った。
「美しいね…あなたは、本当に美しいね。キスしてよ…」
勇吾は頬を赤くすると、オレに圧し掛かってキスをくれた。
それがとんでもなく甘くて、食むように何度もオレの唇を甘噛みして舌先で舌を舐めて掠めるから、クスクス笑いながら彼の首に両手を伸ばして自分に引き寄せると、彼の唇を捉えてキスをした。
「ふふッ」
彼が鼻で笑って、オレが口で笑って、いやらしいキスの音をさせながら、彼とイチャつく。
「あふふ!勇吾…見て?オレの兄ちゃん…かっこいいでしょ?」
オレはそう言って彼を自分の隣に寝転がせて腕枕してあげると、枕元に置いた写真を手に取って、もう一度見せる。
それは、兄ちゃんとオレが見つめ合って笑う写真…
「…シロが可愛いよ。」
彼はそう言ってオレの頬にキスをくれる。
「ふふっ…そう?んふふ…んふふふ!」
腕枕した腕を抜くと、彼の胸に顔を乗せて甘える。
「勇吾?あれして?」
オレはそう言うと、写真を”宝箱”にしまって、ベッドの下に隠した。
そして、彼が寝転がっているベッドの上に立つと両手を伸ばして彼を見た。
「あ~、はは…」
そう言って笑う彼の足に骨盤を乗せて、彼と両手を繋いで、高く上げて貰う。
「わ~い!」
両手を広げてバランスを取りながらオレがはしゃぐと、寝室の入り口に桜二が立っていて、オレ達を見て言った。
「…夏子が呼んでるよ。」
彼の表情は見えなかったけど…声の調子から、きっと…嫌な顔をしていると思った…
オレは勇吾と手を繋ぐと、彼の上から降りようとした。
「シロ…」
勇吾がそう言って両手に力を入れるから、オレはニヤリと笑って、彼の手と手をしっかりと組んだ。彼の足に足を乗せると、ヨッとそのまま逆立ちしてみせた。
「あぁっ!危ない!」
桜二がそう言って慌てるけど、オレ達は慌てたりしないよ?
だって、ちゃんと出来るって、分かってるからやってるんだ。
「片手外せる?」
「んふふ…それは、無理。」
オレはそう言って笑うと、足元を見て、ゆっくりと体を下ろしていく。
「あぁ…勇吾~凄い~!」
オレはそう言って勇吾の体に乗ると、興奮して、喜んで、彼にキスしまくる。
だってこんな事、依冬でも出来ない。
きっと怖がって、腕の力を抜いてしまうだろうから…彼はオレの身体能力を知ってるみたいに、オレが出来る事と出来ない事。それを知ってる。
「おいで…」
桜二がそう言ってオレの腰を掴むと、勇吾から引き剥がして持ち上げる。
オレは腕を伸ばして、オレを見つめて微笑む彼の頬を撫でながら、桜二に連れて行かれる。
「わ~!桜二は力持ち!力持ちだ~!」
そう言ってリビングに連れて行かれると、目の前の光景に…絶句した。
「シロ!待たせんじゃねぇよ?こっちにこいよ!」
既に酔っぱらった夏子さんが、目を据わらせてオレに手招きしてる。
すきっ腹にアルコールなんて飲むからだ!
キッチンでお鍋を作ってる桜二の腰に纏わりつくと、彼の背中から夏子さんの様子を伺って見た。
危険な香りがプンプンとする…雌豹だぁ…
「桜二…」
オレはそう言って彼に守って貰おうとする。
「シロ?勇吾と何してたの?」
「ん?兄ちゃんの写真を見せて、キスして、超絶技巧の組体操をしたよ?」
オレがそう言うと、廊下を歩いて戻ってきた勇吾が桜二を見て嫌な顔をする。
「早く来いって!ほらぁ!シロたん、ここに来なよ!ほらほら!」
うう…怖い…
ドスの利いた夏子さんの声が、オレをビビらせる。
「シロ~、カウント…5、4、3、2…」
何かのカウントダウンが始まって、オレは急いで夏子さんの所に駆け寄って行った。
「な、なぁに?」
両手を前でもじもじさせてそう聞くと、彼女は男前に顔を上げてオレに言った。
「ここ、座って?」
「はい…」
ソファに座る彼女に向かい合う様に正座すると、上目遣いで様子を探る。彼女の周りには既に空けられたビールの缶が2本、ベキッと折り曲げられて放られていた。
ヒィ…!
「シロたん。勇ちゃんと一緒に座ろう?」
空気を読まない勇吾が、オレの隣に座り込んでほっぺをツンツンして遊び始めた。
「シロたん、プニプニで可愛いね?んふふ…」
「…勇吾、お前も座って?」
夏子さんの鋭い声色に…勇吾は大人しくオレの隣に正座して座った。
彼女は目を据わらせて、オレと勇吾をジロジロと見ると言った。
「シロ、一気飲みしなよ。」
そう言ってオレに温いビールの缶を渡すと、片手で缶ビールの蓋を開けた。
桜二…虐められてるよ?オレ…
助けてよ…
チラチラと桜二を見ていると、夏子さんが両手を叩いて大きな音を出した。
「ほらぁ、どこ見てんの?シロ、一気飲みしなよ…?」
うう…
今の時代、一気飲みの強要は犯罪なんだからな!
オレは夏子さんの圧が怖くて、頑張って温いビールを一気飲みする。
口端からビールが零れて垂れると、勇吾がんふんふ言いながら、オレの顎をペロペロと舐め始めた。
スパーン!
「お前はいちいちエロくすんじゃねぇよ!」
夏子さんが良い音をさせて、スリッパで勇吾の頭を叩いた。
あぁ…暴力だ…
「いや、夏子さん。俺はシロの飲み残しをフォローしただけですよ?心外だなぁ…」
勇吾はそう言うと、オレの顎をペロペロと舐めて、怖がって呆然とするオレの唇に舌を入れた。
「…ダメだ!シロはお姉さんのとこに来なさい?」
そう言って自分の隣をポンポンと叩くから、オレはソファに座る夏子さんの隣に怯えながら座った。
結城さんにも感じた事の無いそこはかとない恐怖を感じて、キッチンの桜二を見つめる。
彼はお鍋を見ながら、目だけでチラッとこっちを見た。
「桜二~」
オレはそう言って彼に助けを求めてるのに、桜二は再びお鍋に目を落とした。
ん~!意地悪してる!
「桜ちゃん!夏子がシロに悪戯する!」
勇吾がそう言っても、桜二はツーンと無視してお鍋に魚を入れた。
うう…なんだよ…
いじけたんだ…
きっと、勇吾と遊んだから…いじけちゃったんだ…
目の前で夏子さんが上着を脱いで、薄着のノースリーブになった…
おや?
胸の谷間が強調された姿にオレの怯えはすっかり消えて…彼女の谷間に視線がグングンと吸い込まれていく。
人差し指をそっと彼女の胸の谷間に入れて、ズボズボと出し入れしてケラケラ笑って見せると、彼女は暗黒微笑しながらオレの頭にスリッパを振りかざした。
スパーーン!
音の割に痛くないスリッパに、攻撃力はゼロだと気付いた。
「夏子さんがオレを誘ってる!乗らないのは失礼にあたる!」
オレはそう言うと、彼女をソファに押し倒しながらおっぱいをモミモミと揉んだ。
あぁ…柔らかい…堪んない…なんだ、これは…なぁんて、巨乳なんだ…
「クソガキめ!お姉さんを襲おうとは、良い度胸じゃないか!」
オレの顔をペチペチ叩きながら夏子さんが怒るから、彼女の胸に顔を埋めて防御する。
「あはは~。おっぱい柔らかい…夏子さんはオレとエッチがしたいんだね?んふふ。」
彼女の柔らかいお尻を撫でて自分の方へ引き寄せると、股間を押し付けて覆い被さる。余裕の笑みを見せながら、彼女の首に顔を落としてペロリと舐めて味わった。
どれだけ威圧感を持っていても…オレよりもか弱い女の人だもん。
簡単に押さえつけられるさ。ふふ…!
「オレを舐めたからいけないんだよ?あ~はっはっは!」
「あ~~!桜ちゃん、大変だ!乱交パーティーだ…乱交パーティーが始まる!」
勇吾がそう言って桜二に言いつけに行く。
「シロはバイセクシャルなの?女ともエッチが出来るの?」
夏子さんがそう言ってオレの頬を撫でるから、彼女を見下ろしてにっこりと笑って教えてあげた。
「ふふ…出来るよ。彼女だっていたんだ。だから、こんな魅力的な夏子さんに煽られると、興奮しちゃう。だって、オレはおちんちんが付いてる男だからね…?」
「俺も、こんな魅力的なシロ…興奮しちゃうよ?俺もまた、おちんちんが付いてるからね…」
勇吾がそう言ってオレの体を掴んで持ち上げると、夏子さんから引き剥がした。
「ちぇっ!夏子さんが誘ったんだ!問題ないだろ?」
体の割に力持ちな勇吾にそう言って抗議すると、彼はオレの耳をペロリと舐めて言った。
「ふふ…悪い子にはお仕置きしないとダメだな…?」
なんだと!
勇吾はふたりっきりの時の勇吾から、表向きの彼になった様だ。
だったら、オレだって勇吾に合わせて、この意地悪な男に対抗してやるさ!
「だとしたら、オレは勇吾をお仕置きしなくちゃいけないみたいだ。だって、お前は悪い子だからな?」
オレはそう言って彼に向かい合うと、夏子さんの足元へと寝頃がして行く。
「あふふふ…!シロに、シロたんに…公開お仕置きされる!」
美系に似つかわしくない声を出して、ウハウハと喜ぶと、勇吾はキラキラとした期待の眼差しでオレを見上げた。
オレは彼の体に跨って乗ると、夏子さんのスリッパを手に取って彼を見下ろした。
「だめ…スリッパは嫌だ…シロたんの素手で打たれたいもん…」
勇吾はそう言うと、オレの太ももとお尻をナデナデして、自分の股間を押しつけて来る。
「いや!変態!」
オレはそう言いながら勇吾の腕にスリッパを叩きつけて良い音を鳴らした。
「あはは!お前は…打楽器だ!こうして、演奏してやってるんだ!」
オレがそう言ってスパンスパン叩くと、オレの下敷きになった勇吾は、ウヒャウヒャと喜んではしゃいだ。
「あ~あ…桜二?シロが勇吾とイチャついてるよ~?この子はこうやって女も男も誑かすんだ。お~、コワ~~!」
夏子さんがそう言って、新しいビールの蓋を開けた。
「俺が打楽器なら…シロたんは弦楽器だね?」
勇吾はそう言うと、簡単に形勢を逆転させて、オレの上に覆い被さって来た。
ニヤニヤしながらオレを見つめる彼を見つめる。
…弦楽器…?
チラッとオレの股間を見て、オレと目を合わせると、スッと片手をオレのモノの上に持って行って、言った。
「奏でます!」
最低だ!本当に、最低だ!
「桜二~!勇吾が…勇吾が…オレのおちんちんで奏でた…!」
そう言って体を返してうつ伏せになると、勇吾がオレの上に乗ってふざけて腰を動かしだした。
もう…最低だ!
「勇吾!嫌だ!嫌いになるよ?!」
オレが怒ってそう言うと、勇吾は悪乗りを止めてシュンとして正座した。
全く!
「あ~、シロが勇吾を手なずけた…桜二、シロが勇吾を手なずけちゃったよ~?どうするの?あんた、浮気されちゃうよ~?あはは、ざまあみろだね~。」
夏子さんはそう言ってケラケラ笑うと、ビールを飲み干して、ぐしゃっと片手で潰して言った。
「でもさぁ…桜二もシロの事、とやかく言える立場じゃないよね~?、昔はいつも連れてる子が違ったよねぇ…とっかえひっかえって言うの?可愛い子連れてるんだけど、次に会った時にはまた別の子を連れてるんだよね~?」
夏子さんはそう言うと、新しいビールを手に持ってゲラゲラ笑った。
「シロたん?怒ったの?怒ったの?」
オレの顔を覗き込みながらしつこくそう言う勇吾を無視して、夏子さんの話を相槌を打ちながら聞いて、首を傾げて言った。
「桜二は、とっかえひっかえだったの?」
「そうよ?何て子だったっけ…凄いぶりっ子した女の子。あの子は面白かったな~」
「何それ?」
オレがそう言って彼女の話に食いつくと、夏子さんは目を輝かせて桜二の黒歴史をオレに話して聞かせた。
「ぶりっ子の女の子が、あたしの事、桜二の元カノか何かだと勘違いして、酔った勢いで蹴飛ばして来たんだよ?ムカつくでしょ?だから、ボコボコにしてやった!あはは!」
「知ってる!その子、俺に色目を使って来たんだ。どんなもんかと試したけど、全然良くなかった…マグロみたいに動かないし、声も出さないし、感度も悪かった!」
オレの肩にもたれかかって勇吾がそう言って笑う。
「勇吾はいつも人の物を取ってばかりだね?」
ジト目でそう言うと、彼はオレを見て優しい声で言った。
「シロは…違う。」
何が違うと言うんだ。オレには違いなんて分からないよ?
それよりも…桜二が、マグロの女の子と付き合っていた事の方が衝撃だ。
マグロがいけない訳じゃないよ?ただ、桜二みたいな男は、夏子さんみたいなエッチな雰囲気の女が好きかと思っていたのに…意外だった。
「そ、それ…何歳の頃?」
夏子さんの顔を覗き込みながら尋ねると、キッチンに立てこもっていた桜二がすかさずやってきてオレを持ち上げて彼女から離した。
「やめろ!俺の話はやめろ!」
「なんだ、良いじゃん!何歳の頃の話なの?大人になってから?学生の時?どっち?」
オレはそう言って桜二の顔を覗き込んで聞く。彼はムスッとふくれっ面をすると、オレを再び持ち上げて、キッチンへ強制連行する。
「そんな話、シロは知らなくても良いだろ。」
「何でそんな事、桜二が決めるんだ!」
オレはそう言って彼に抗議する。だって、彼はオレの過去を全て知っているんだ。オレだって彼の過去を知ったって…良いじゃないか!
桜二は渋い顔をしてオレを見下ろすと、フン!と顔を振ってリビングで未だに笑い転げる夏子さんと勇吾に向けて言った。
「人の黒歴史を話して聞かせるなんて、悪趣味だと思わないか?そんな話をし始めるなら言わせてもらうが、夏子の付き合った女も大概だった。車も運転出来ない癖に、やれあそこに連れて行けだ、ここは嫌だだ…我儘のし放題で、挙句の果てに他の男に走ったじゃないか。ん?そうだろ?勇吾に至っては、あちこちのカップルを壊して歩くから、カップルクラッシャーなんて呼ばれていただろ?お前の歩いた後には、ぺんぺん草も生えない。って言われていたぞ?」
桜二が怒った。
でも、オレも少し…怒った。
教えてくれたって…良いじゃないか…!
「…桜二はオレの事は知りたがるのに…自分の事をオレには教えてくれない…」
オレはそう言って彼のズボンのベルトを通す穴を掴むと、グイッと引っ張って抗議した。たじろいだ彼は怒った顔のオレを見下ろして言った。
「…こんな事、知ったって…仕方が無いだろ?」
「だったら、オレが兄ちゃんとセックスしてる話しだって…聞いたって仕方が無いだろ!」
ムキになって怒るオレを見て、桜二が眉毛を下げて言った。
「…23歳の頃の話だよ…シロ。怒るなよ…」
どうしてあんなにムキになったのか…どうしてあんなに拘ったのか、オレにも分からない。
でも…フェアじゃないと思った…
フン!と桜二に顔を背けると、オレはプリプリしてキッチンの中に戻った。
オレに怒られた事と自分の黒歴史を知られた事にじわじわと腹を立てた桜二が、リビングで痴話げんかの様子を伺う2人に、怒りのオーラを放ちながら近付いて行く。
オレは彼の作った美味しそうな鍋を見つめながら、お玉で魚を潰して行く。
「…シロたんに怒られたね?」
勇吾がそう言って、相変わらず劇物を触って撫でていく。
「そうだな。何でだろうな…凄いお前たちがムカつくよ。少し黙って、酒でも飲んでろよ。それかダイニングテーブルでも綺麗にしてお利口に待ってろよ。」
ドスの利いた声でそう言うと、桜二はブツブツと2人しか聞こえない声で、恫喝し始めた。
桜二の顔を見上げる2人の顔から笑顔が無くなっていく様を、チョコレートを砕きながら眺める。パラパラと鍋に落として、素知らぬ顔でスープに溶かして行く。
チョコって…溶けても、鍋全体が茶色くならないんだな…
お玉ですくって、口元に当てて少しだけ飲んでみる。
まずっ…
ざまぁみろ…勇吾。
オレはね、魚の恨みを忘れていないんだよ…
証拠隠滅する様に、粉々に砕いた魚を鍋の下に隠した。
「シロ…混ぜていてくれたの?優しいね?」
ご機嫌を取る様にそう言うと、桜二がオレの髪にキスをした。
「うん。」
オレはそう言ってにっこり桜二に微笑みかけると、彼の腰に手を添えて言った。
「…ラーメンを入れるんだよ?」
「ふふ…分かってるよ。」
彼の背中に彼の声が響いて、オレの手のひらを揺らす。
さざ波程度の痴話げんか…こんな事、今までだって幾らでもある。
卵を切らして卵焼きを作ってくれなかった朝も…
在宅ワークの彼がテレビ会議している中、オレが裸で歩き回った昼も…
迎えに来るのが遅くて酔っ払いに絡まれた夜も…
口喧嘩して、口を利かなくなって、どちらかが機嫌を取り始めて、仲直りした。
オレ達はそれなりに普通のカップルの様に、お互いの距離感を探って、理解して、歩み寄ってる。
それは兄ちゃんに一方的に甘えて、兄ちゃんの事を何も知らなかったオレが取った…彼を知っていく方法でもあった。
一方的にわがままや思いを伝える関係じゃない…
彼が好きな事、彼が嫌な事、彼が怒る事、彼が喜ぶ事、それが知りたくて…オレはそれを尊重したいんだ。
彼には兄ちゃんの様な思いをさせたくない。
一方的に守らなくちゃいけない関係なんて…彼とも、依冬とも、築きたくない。
「シロ、勇ちゃんの所においで?」
しおらしくダイニングテーブルを片付ける勇吾が、カウンター越しにオレに言った。
オレは桜二の背中に沿わせた手を、彼の腰にまわしてズボンを掴みながら、べったりと桜二に寄り添って言った。
「やだ」
だって、桜二の方が…良いもん。
「なぁんだよ…さっきはイチャイチャしただろ?桜ちゃんが傍に居ると途端に塩対応になるの?ふふ…じゃあ桜ちゃんがいないと、また可愛くなるの?」
勇吾は桜二を煽る様にそう言うと、キッチンの中に入ってきて、桜二の隣にべったりくっつくオレの背中にべったりとくっ付いて来た。
「やだ」
オレがそう言って体を捩ると、彼は手を前にまわしてオレの股間を撫で始める。
「ん、やだ!」
怒って体を捩ると、勇吾はクスクス笑いながらオレのズボンに手を入れて言った。
「あぁ…シロ、ちょっとだけおっきくなってるじゃないか…」
「桜二~!」
そう言って助けを求めると、桜二は勇吾を見下ろして言った。
「カップルクラッシャーは健在なんだな?人の物が欲しくなるんだろ?お前の性癖は、質が悪いよ。彼が遊ぶ程度なら目を瞑ってやっても良いけど…。それ以上になったら、俺は本気でお前をのすよ?」
おお…怖い…
やっと穏やかな表情が出来るようになった桜二が、再び悪い大人の目つきになって、勇吾に凄んでそう言った。
勇吾はそれを見つめて言った。
「…それは、桜ちゃんが決める事じゃない。シロが決める事だろ?」
おお…怖い…
オレは桜二のお腹に体を沈めて移動すると、この一触即発の現場から逃げ出す。
「あ~あ…殺し合いのゴングが鳴ったねぇ~?」
夏子さんがそう言ってソファでふんぞり返るから、オレは彼女の足元にちょこんと座ってつまんないテレビを見つめた。
遊びと本気の境界は?
どこまでがセーフで、どこからがアウトなの?
それを本気で桜二に聞いておきたくなった…
いや、そもそも勇吾とそうなる事自体、かなり危険な事なのかもしれない。
だってあの人は、オレの言う事なんて聞かないし、桜二を無駄に煽る。そして、何よりとっても攻撃的だ…。
「お鍋出来たよ。シロ、座って…」
桜二がそう言うから、オレは急いでダイニングテーブルに腰かけてお利口にした。
「桜二はオレの隣ね?」
そう言って彼の椅子を自分の椅子にピッタリとくっ付けると、彼を見上げてニコニコ笑った。…これは明らかに、露骨なご機嫌取りだ。
ダイニングテーブルにふたつのお鍋が並んで、ひとつしかない携帯コンロはオレの豚骨醤油鍋にあてがわれた。
「んふ!いただきまぁす。」
オレはそう言って両手を合わせると、早速ラーメンを投入して鍋の中にくぐらせる。
そのまま他の具材と一緒に器によそうと、ズルズルとラーメンを啜って食べた。
「あ~はは!美味しい!桜二、お鍋のラーメン美味しいよ?やっぱり豚骨醤油だね?オレの思った通りだ。ふふっ!」
上機嫌で隣に座った桜二の体にもたれてスリスリと甘えると、魚の鍋を食べて首を傾げる勇吾と目が合った。
ふふっ…
おかしいって思ってるんだろ?
変な味がするって思ってるんだろ?
ざまあみろ!
「桜二?このお肉、食べさせてあげるよ?」
オレはそう言って豚バラ肉を摘まむと、彼の口にあ~んしてあげる。
「ふふ…美味しいね。」
桜二はそう言うと、オレの口を拭ってチュッとキスをした。
ふふ…可愛い…
「もっとラーメン入れよう~!」
お箸で掴めるだけラーメンを掴んで、お鍋に投入する。
「桜ちゃん?この鍋、味がおかしいよ?」
「え?そんな訳無いだろ?なんだ、俺の料理に文句でもあるのか?」
「違うよ。なんか、甘いんだけど…」
聞こえないもん。
オレは何も知らないもん。
ラーメンと具材を器に盛って、またズルズルと啜って食べると、今度は酔っぱらった夏子さんと目が合った。
「シロ?さっきから麺を啜ってる時さ、フェラチオしてるみたいに見えるんだけど…?」
ははっ!
なんて酔っ払いだ!
オレは麺を吹き出しそうになるのを堪えて、口いっぱいに入れてしまった麺を最後まで啜り続ける。
そんな夏子さんのパンチのある言葉を聞いて、勇吾がジッとオレを見つめてニヤニヤし始めた。
「桜二!勇吾が嫌な事する!」
オレがそう言って桜二の腕にしがみ付くと、彼はオレを見下ろして言った。
「シロ?さっき、こっちのお鍋をかき混ぜていたよね?…その時、何か入れた?」
…窮地に立たされた。
オレは桜二の顔を見つめると、首を傾げて言った。
「してないよ?」
「桜ちゃん?下の方の魚が粉々になってるし、こんな物が入っていたよ?」
勇吾はそう言うと、お鍋の中からチョコレートのかけらを箸でつまんで持ち上げた。
「シロ…」
オレをジト目で見つめる彼の瞳が、グラグラと怒りのオーラを放って、口から出る言葉に、怒気が混じる。
ヤバい!
オレは桜二から視線を外すと、急いでラーメンをお鍋に投入した。迅速にスープにくぐらせて器に盛っていく。
「シロ…食べ物に悪戯したの?それは、悪ふざけが過ぎるよ…どうするの?この鍋…もう食べられなくなったじゃないか…」
桜二はギラギラと光る瞳でオレを見つめ続ける。
でも、オレは気にしないよ?そんなに怖い目でも、見返さなきゃ良いだけなんだ。
お箸で持てるだけ麺を摘まむと、口の中に入れてズルズルと啜って食べた。
「本当だ…シロがフェラチオしてるみたいに見えて来た…あぁ、エッチだなぁ。そんなに啜ったら…あぁ、千切れちゃうよ…?もっと、ねっとりと上手にしないと…ふふ。」
頬杖を付きながら勇吾がそう言って、オレの頬をツンツンと突いて遊び始める。
「あぁ…勃ってきちゃった!」
「桜二!勇吾がご飯中なのに意地悪言うから、止めさせてよ!」
「…シロ?魚のお鍋にチョコレートを入れたの?」
桜二はオレを見下ろしたまま眉を下げて言った…この圧とこの眉毛の下げ方は、怒ってる時のそれだ…
怒ってないよ?って体で…怒ってるやつだ。
勇吾をチラッと見ると、彼はオレを見ながらニヤニヤしてる…
ここは、非を認めて…謝るしかないのか…?
それとも、勇吾のセクハラを無視し続けるしかないのか…?
「ねえ。全然気になんないけど、さっきから、何の話してんの?」
夏子さんがそう言って、不思議そうな顔をして、お魚の鍋をパクパク食べ続ける。
酔っぱらっているせいなのか…もともと細かい事を気にしないのか…夏子さんは美味しそうに魚の鍋を食べる。
粉々になった魚も、苦くなったスープも、彼女は気にならないみたいだ。
スゲ…
「…ほら、大丈夫じゃん…。勇吾がひとりで騒いでるだけだよ?」
オレは声を上ずらせてそう言うと、早々にご馳走様をして席を立った。
桜二が怒る!逃げろ!
…内心はこう思いながら、表面的には余裕を持って、お皿を流しまで持って行って、にこやかに浴室まで逃げた。
「ふふっ!バレてない!完璧な計画と、馬鹿舌の夏子さんのおかげだ…!」
煙草をくわえてブツブツと戦果を呟きながら、浴室の浴槽にお湯を張る。
今日は…どの名湯にしようかな~…
浴槽の縁に腰かけて手に持った入浴剤を吟味する。
緑のは安っぽく見えるんだ…白く濁るやつにしよう…
指で摘まんで引き出すと、ピリッと破って入浴剤を投入していく。
早くお風呂に入って寝てしまおう…
彼らはきっと、あの酒を全て飲み尽くすまで、大騒ぎするんだ…
白く濁ったお湯がバシャバシャと溜まっていく様子を、タバコを吸いながら眺める。
「シロ坊、タバコ吸うの?」
浴室の入り口から声を掛けられて、顔を上げて夏子さんを見つめる。
彼女は千鳥足でフラフラとオレの隣に来ると、タバコを掴んで一服した。
「夏子さん…トイレはこっちじゃない。あっちだよ。知ってるでしょ?」
オレはそう言うと、タバコを取り返してちょいちょいと彼女を払った。
全く…酷い酔っ払いだよ?
勇吾と桜二は危ないな…馬鹿みたいに張り合ってる。
桜二は…遊びなら良いなんて言ったくせに、あの様子だと、全然良くない印象だ…
遊びと本気の違いって…何なんだろう…
ぼんやりと浴槽の天井を眺めながら、燻っていくタバコの煙を眺めた。
お湯張りが終わったメロディーが流れて、タバコを消して立ち上がると、脱衣所で裸になってシャワーで体を綺麗に洗った。
お楽しみの名湯にポチャリと浸かって、日頃の疲れを癒す。
「あぁ~、良い気持ちなぁ~。やっぱり温泉の素で十分じゃないか…。田中のおじちゃんは大げさなんだ…。」
そう言って”温泉の素”入りの白く濁ったお湯を手のひらですくうと、指の隙間から流れ落ちる様子を眺めて遊んだ。
「シロ坊?お姉さんも一緒に入っても良い?」
ん…?
そんな夏子さんのパンチのある言葉に、オレは笑顔になって顔を上げた。
浴室の曇りガラスに肌色が多めのシルエットが見えて、一気に興奮すると、ドギマギしながら、答えた。
「え…!良いよ?!」
オレの快活な答えに、吹き出して笑う彼女の声が聞こえて、その後、妙にセクシーに言った。
「恥ずかしいから…むこう向いてて?」
恥ずかしい…?
嘘だろ?
あは~!分かったぞ!なんかのプレイなんだ。
「ふふ…分かった~!」
ご機嫌な声でそう答えて、オレは言われたとおりに入り口に背中を向けた。
浴槽の中でドキドキしながら彼女が入って来るのを待った。
どうしよう…エッチしても良いのかな?
良いのかな?良いのかな?
ふと…考える。
これは遊びなの?それとも本気なの?
彼女はレズビアンだ。可愛い女の子専門だと言っていた…。
そして、オレも彼女も本気になる事は無い…じゃあ、これは遊びって事。
その理屈で考えると、勇吾とオレは…どうなんだろう。
浴室のドアが開く音がして、ひたひたと歩く足音に耳を澄ませると、ポチャンという音と共に、浴槽の水面に出来た波紋がオレの所まで揺らした。
「夏子さん…良いの?良いの?こんな事しても良いの?」
オレはそう言ってすぐに振り返って彼女の体をまじまじと眺める。
“温泉の素”のせいで白く濁ったお湯の中は、奥へ行くほど何も見えなくなっていく…
くそっ!
「シロたん?見て~?」
夏子さんはそう言うと、オレの目の前にたわわな胸を見せつけて、乳首を立てさせるように弄った。
夏子アラート!夏子アラート!
「夏子さん?見せるだけ見せて、触らせてくれないなんてのは、暴力と同じだよ?」
オレはそう言うと、彼女に体を寄せて、たわわな胸に顔を埋める。
あぁ…おっぱいだ…柔らかい。
「夏子さん…おっぱい柔らかいね、勃っちゃったよ…?責任取ってね…」
雄だ!オレは雄なんだ!
眠っていた男性ホルモンが全開になって、オレは彼女の柔らかい胸を掴むと優しく撫でた。
気持ち良さそうに体を反らして吐息を漏らす夏子さんに、最高に興奮して勃起する。
「アハ…シロ坊。いっちょ前に、男みたいな事をするんだね?」
オレは男だよ?
顔を落として彼女の乳首を舐めると、うっとりと顔を寄せて甘くて熱いキスをする。
彼女の足の間に体を入れて、股間に手を回して…
ん?
股間に手を回して…
え…?
あれ?
「夏子さん…なんで?なんで、おちんちんがあるの?」
キョトン顔を向けて彼女に聞くと、彼女はニヤリと口端を上げて言った。
「まぁ…気にすんなよ。」
はぁ?!
押せ押せで夏子さんに迫っていたのに、いつの間にか形勢が逆転して、彼女がオレの体に覆い被さっている。
柔らかいおっぱいがオレの胸にあたって、元気がなくなったオレのモノがまた勃起し始めるけど、オレの頭の中にはハテナが沢山出ていて、とてもじゃないけどそんな気になれない。
「な、夏子さん…何で?何でなの?」
オレが何度も尋ねても、彼女はクスクス笑うだけで何も答えてくれない。
所謂、両方を持ち合わせた人だって事なの?
ねぇ…そういう事だったの?
だから、女の人なのに…無茶苦茶な勇吾と、最低な桜二と仲良くいられたの?
だから…女の子専門だって、言ったの?
オレの半勃ちしたモノを柔らかい手で包み込むと、いやらしく扱き始めるから、どんどん体が気持ち良くなっていく。
「ん…はぁはぁ…まって、まってよ…夏子さん…あ…んん」
勃起したオレのモノが彼女のお腹にあたって、肌の柔らかさにクラクラしてくる。
「可愛い…」
夏子さんがそう言って、気持ち良くなってだらしなく開く唇にキスをくれる。
挿れたかったけど…出来るのかな…?
両方持ってる人は…どっちに挿れる事が出来るんだろう…?
「夏子さん、挿れても良い?挿れても良いでしょ?どっちに挿れれるか分かんないけど、挿れても良いでしょ?」
彼女のキスを外してうっとりしながらオレがそう尋ねると、彼女はクスクス笑いながらこう言った…
「うふふ…シロ?これはペニパンだよ?そして、これからあたしはシロを抱くんだ。大人しく良い子に抱かれないと、乱暴にしちゃうからね?」
はぁ!?
なぁんだ…偽物か…ビックリした。
じゃあ…その下は、普通の女性と同じだよね?ふふ…!
「何言ってるの?夏子さんなんてオレが本気を出せばチョチョイのチョイなんだよ…?その変なパンツを外して?オレが夏子さんの中に挿れてあげる。きっとそっちの方が気持ち良いよ…そうだろ?…ね?考え直しな…?」
オレはそう言うと、彼女がその気になる様に、優しく髪を撫でてキスをする。
オレに覆い被さった彼女の細い腰を抱き寄せて、オレのモノを柔らかい太ももに擦り付ける。
あぁ…気持ち良いな、やっぱりオレは男の子なんだ。ふふっ!
「こらぁ…シロ坊…良いのか?」
彼女は怒ったような顔をしてそう言うと、オレを見下ろしながらオレのモノを激しく扱き始める。
「んんっ!はぁはぁ…あっ…待って、待って…!」
「待つ訳ない。お前は立派なバイセクシャルだ。やられる前に、やってやる!」
「そんなやる気と意気込みを見せるなよ!」
オレはそう言って彼女の腰を掴むと、ひょいと自分から退ける。
「くそっ!」
夏子さんはそう言うと、逃げようとするオレの背中にしがみ付いてオレのモノを後ろから掴んで扱く。
「もう…!やだ、やだってば!桜二、桜二~!!」
オレのお尻に手を滑らせて、細くてしなやかな指でオレの中に入って来る。
「あっ…も、もう!だめだって…やだ、やめて…!」
慣れた様子でオレの中を撫でる様に刺激すると、本数を増やしてかき回す。
何て女だ!
「ん…んん…まって…だめ…あっああ…ん」
彼女の指に段々と気持ち良くなって来て、足が震えて腰が揺れて来る。
「あぁ…確かに、可愛いんだ。シロ坊…堪んないね。あたしにペニスが付いていたら、絶対あんたに挿れたいって思うわ…ふふ。」
馬鹿言ってんじゃないよ?
彼女はオレのお尻にペニパンの先っぽをあてると、ググっと中に入って来る。
誰が…彼女にこんなものを与えたんだ…!
「だめっ!あっああ!はぁはぁ…んっ…あっあ…はぁはぁ…あぁあん…」
腰のストロークがヤバイ。
女性だからか、妙にねちっこく動く彼女の腰使いが、堪らなく気持ちいい…
「シロ坊…こっちもこんなにして、ふふ…ガチガチじゃない。我慢してるの?可愛いね…?どう?気持ちいい?」
夏子さんは後ろからオレの中を突き上げると、細くて柔らかい手のひらでオレのモノを握って扱く。
ダメだ…凄く気持ちいい…!
「はぁはぁ…気持ちい…気持ちいの…あっああ…イッちゃう、イッちゃうよ…!」
体をめぐる快感に背中を仰け反らせて、お尻を突き上げる。
両手で浴槽の縁にしがみ付いて、波打つ水面を見つめながら快感を味わう。
「あぁ…可愛い…!」
そう言って夏子さんは、激しい腰の動きでオレの中を快感でいっぱいにしていく。
「イッちゃう…!あっああ…だめ、あっああん!」
オレは激しく腰を震わせてイッてしまった…
ペニパンを穿いた女性に、気持ち良くされて、イッてしまった…!!
夏子さんはオレの様子なんて気にしないみたいに腰を動かし続ける…
「ねぇ…んっ…イッたよ…オレ、イッたからぁ…も、やだ!んっ…んぁあ!あっ…あっ、あっ…!」
「すご…っ、シロ坊は、すぐまたおっきくなる…。これは、ビーストボーイの依冬君も喜んじゃうね…こんな可愛い子、一回抱いたらハマるよなぁ…」
感心する様に、考察する様に、不敵に笑ってそう言うと、角度を変えて腰を動かし続ける。それがまたマイルドに動いて、最高に気持ちいい…
「あっ…んっ!きもちい…夏子さぁん…気持ちい…や、やん…はぁ…はぁ…あん!あっ、あっ…!」
バシャバシャ水面が暴れて、オレのモノを扱く彼女の手も、いやらしさがどんどん激しくなっていく。先っぽを弄る様にこねて、意地悪に強く握って来る。
頭の奥に電気が走ったみたいに体が痙攣して、腰がガクガクと震える。
イッちゃう…もうだめ、イッちゃう!!
「あっ…イッちゃう…!また、イッちゃうよ…!んっ…あ!あっ…あっあぁん…!」
「可愛いっ!」
腰がビクビクと震えて、足がガクガクとわななく…
オレの腰を細い手が這う様に動いて、オレの背中にたわわなおっぱいが触れる。そのままムチッとオレの背中に乗ってくると、彼女の両手がオレの乳首を弄って、愛撫する。
なんだ…これ…様々な感覚がコンフューズする。
「も、やら…!んっ、夏子さん…もうやめて…!」
「シロ…あたしのおっぱい、触って良いから、もうちょっとだけ遊ぼうよ…?」
嫌だ!
オレは無言のまま浴室のエマージェンシーボタン“呼び出し”を押した。
ピーピピピピ―ピピピピ―ピピピピ―
浴室に呼び出し音が鳴り響く中、オレのお尻をモミモミして夏子さんが言った。
「可愛いお尻…堪んない。またやろうね?シロ坊…?」
絶対に、嫌だ!
飛んできた勇吾が、脱衣所に脱ぎ捨てられた夏子さんの服を見て大笑いする。
「桜ちゃん!大変だぁ!シロが、シロが、夏子にやられた!!」
…何で、見てないのに分かるんだよ。
「シロ!あぁ…」
桜二が浴室に入って来る中、夏子さんは涼しい顔をしてペニパンを脱ぐと、シャワーを浴び始める。
髪を洗って、顔を洗って、体もオレのフワフワスポンジで洗っている…
何て女だ!
いいや…なんてやつだ!
「桜二…掘られたぁ…夏子にやられた…」
プルプルと彼の体にしがみ付くと、桜二は深いため息をついて夏子さんを睨んだ。
彼女はそんな事も気にしないで、オレの猫柄のタオルで体を拭くと、下着を付けて、洋服を着なおした。
「全く…!」
吐き捨てる様にそう言って、オレに下着と猫柄のパジャマを着せると、桜二は顔を真っ赤にして、脱衣所から出て行った。
オレは心配になって慌てて彼の後を追いかける。
「桜二…桜二…」
そう名前を呼んでも彼の勢いが止まる事は無く、リビングでソファに座ってビールを飲む夏子さんに大声で怒鳴って言った。
「お前!良い加減にしろよっ!この野郎!!」
野郎じゃない。女性だ…
「桜二…桜二…やめてよ…!」
オレはそう言って彼の腕をしっかり掴むと、宥める様に彼の胸を撫でて激昂した怒りを抑えていく。
あまりの怒りっぷりに、さっきまで大笑いしていた勇吾も立ち上がって、もしもの為に構えて待機してる。
「ごめん、ごめん!だって、みんなシロたんが大好きなんだもん。気になっちゃったの。どんなに可愛いのかな~って…気になっちゃったの。うふふ!」
ケラケラ笑ってそう言うと、夏子さんは桜二の傍に近付いて来る。
この…酔っ払いは、大虎なのか?!
「ダメだよぉ!殴られるから、近くに来たらダメ!」
オレはそう言うと、桜二と夏子さんの間に入って、彼を手で押さえながら足を伸ばして夏子さんの動きを止めた。
もうこの人とは宅飲みしたくない…オレは心の中でそう思った。
上を見上げると、怒った顔の桜二が彼女を見て大声で怒鳴って言った。
「夏子!悪酔いしすぎだぞっ!自重しろっ!シロに謝れっ!」
「シロも喜んでたよね?夏子さぁん、気持ち良い!って言ってたじゃん。」
煽るなよ…
彼女はお腹に当てたオレのつま先を丸めて、指の関節を撫でてそう言うと、今度は足の指を反らさせて手のひらで押して、手から離した。
「…っこの野郎!」
そう言って殴り掛かりそうな桜二に、勇吾が手を伸ばすより先に、踏ん張って全力で止めると、足元の空き缶を踏んづけて、バランスを崩してよろけてしまった。
「おっと…」
そう言って桜二がすぐにオレの腰を掴んで抱き寄せた。
激昂してオレの事すら目に入っていなかった彼が、やっと…オレを見つめた。
だから、オレは彼の顔を掴んで言った。
「桜二…怒んないで…怒んないでよ。嫌だ…嫌だ!怖い声で怒鳴らないで!」
そう言って彼の首に顔を埋めてギュッと抱きしめる。
彼の怒った顔も、彼の怒った声も、聞きたくなかった…
「桜二…桜二…やだよ…やだ…優しくして…優しくしてよ…」
彼の背中を何度もさすって、怒りが消えてなくなる様にしがみ付いて言った。
彼の体から力が抜けて、深いため息と一緒にオレに言った。
「ごめん…もう、怒鳴らないよ…」
良かった…
彼の声色から激しい興奮も、憤りも消えて、穏やかな彼に戻った様だ。
彼の頬を両手で包み込んで、優しく撫でながら言った。
「女の人の裸が見れて…挿れさせてくれるって思ったの。…そしたら、逆に掘られて…おっぱいとキスしか出来なかった…。最初は両方付いてる人なのかと思ったんだよ?そしたら、変なパンツを履いてた…あんなもの、どうして売ってるんだろうね…?」
「ぶふっ!!」
しょんぼりしながらオレが桜二に話すと、夏子さんが盛大に吹き出して笑って、勇吾はソファに顔を埋めて大笑いした。
そんな2人を無視して、オレの頬を撫でると、眉毛を下げて桜二が言った。
「シロ…前も挿れてみたいって…言っていたよね。そんなにしたいの?」
「うん…だって、オレ、前は女の子に挿れたりしていたよ?髭は生えないけど、男性ホルモンだってあるもん。さっきもね、頑張ったんだよ?でも、気付いたら掘られてた。ビックリしたんだ。だって、女性だと思っていたのに、おちんちんが付いていたから…」
グフグフ奇妙な笑い声を出すバックグラウンドを無視して、オレと桜二は向かい合ってさっきの事を話し合ってる。
彼はオレを見下ろすと、決心した様に頷いて言った。
「…分かった。そこまで言うなら、俺が…」
「桜二は嫌だ。」
「ぷぷっ!!」
オレはそう即答して、吹き出して笑い転げる勇吾を指さして言った。
「あいつが良い…対格差もそんなに無いし、出来そうな気がする。夏子さんにはもう近付きたくないし、桜二には、そんな気が起きない。」
オレがそう言うと、桜二は微妙な顔になって首を傾げた。
「おほっ!俺?あ~はっはっはっは!シロたんのご指名を受けたぞ!夏子、俺、行ってくる!」
勇吾はそう言うと、大笑いする夏子さんに手を振って、楽しそうにオレの手を繋いで寝室へとスキップしていく。
「え…勇吾、良いの?」
驚いて彼にそう聞くと、勇吾はオレに流し目ウインクをしながら言った。
「良いよ?可愛いシロたんの為なら、何でもしてあげる。」
…本当?
オレは振り返って桜二を見つめた。
これは…遊び?それとも…本気?
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