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第28話

#勇吾 東京、成田を12:00出発予定… 荷造りを済ませたスーツケースに足を乗せて、暗いホテルの部屋の中…インターネットで予約した内容を携帯電話で確認しながらため息を吐く。 あの後もシロのグダグダの甘え攻撃は続いて、俺の心をグラグラと揺さぶって来た。 明日…もし、彼がご希望の“お見送り”なんてされたら、シロと離れたくない。やっぱりやめた!なんて、思ってしまうかもしれない… 俺は馬鹿だから、自分を律する為にも…彼に会わない方が良いんだ。 なのに…シロは“明日退院したら勇吾のホテルの前で待ってるよ”なんて言って… 俺を追い詰めるんだもんな… はぁ…可愛い奴。 たこ焼き屋になって…オレの傍に居てよ…か。 俺の愛しのジュリエットは、究極の事を言うんだ。 今まで築いたものを全て捨てて、自分の傍に居ろと…俺に言う。 痺れるだろ…? そんな未来も悪くないなんて思えてしまうんだもんな… 今まで、がむしゃらに自分の思いを表現する事に没頭して来た。その中で、組織の軋轢にもまれたり、常識の壁に打ちのめされたり、自分のコネのなさに…無力を感じたり、そんな中を一生懸命、生きて来て…やっと、芽が咲いた矢先に、こんな大きな穴に落ちた… それは、最高に心地よくて…最高に甘い…今まで味わったことの無い、幸福感をくれるんだ。 あの子の為なら、全て捨てても良いなんて…簡単に思ってしまう程に… 俺は最後の最後で、挫けてしまいそうだよ。 「はぁ…シロの事だから…本当に退院したら下で待っていそうだ…」 冗談なのか、本気なのか、その半々で俺の心を揺さぶって、愛情の度合いを試すように無茶ぶりをする。 俺がお前を置いて行ったら…お前の言う事を聞かないで置いて行ったら… 俺の事を嫌いになるの? …ならないだろ? …変わらず、愛してくれるだろ? ため息をつきながら、寝酒を煽ると…早々にベッドに入る。 「ふふ…なぁにが、そんなにつまんないんだよ…」 画家の描いたあの子の絵を眺めて、ポツリとそう呟いた。 本物を連れて帰れないから…この子を連れて帰る。 触れる事も、しゃべる事も出来無いけど、彼の雰囲気を纏った上出来のデッサン。 本当に…あの子に見えて来るよ。 次の日の朝… 身支度を済ませて帰る準備を終える。 AM7:00… 少し早いけど…あの子が来る前に、ここを発った方が良さそうだ。 スーツケースを手に持って1か月以上滞在した部屋を後にする。 夏子は既にフランスに着いて、いつも通り自分の仕事をこなしている。 俺もイギリスに戻ったら、自分の念願の舞台を公演するんだ…。 ため息をついて視線をそらすと、足元を見つめながらエレベーターへと向かう。 …あのホールで、あの舞台で、あの照明と…あの客席で… センターであの子が踊ったら…さぞ、素晴らしいものに仕上がるのに。 きっと喜ぶぞ… 赤いじゅうたんに足を取られながら歩くあの子の姿が目に浮かぶ。 そのまま華麗にポールを回って、重力を無視した素晴らしい大技を決めて、にっこりと微笑む彼を想像して、口元が緩んでいく。 さすがだな…俺のシロ。 度胸があって、思いきりが良くて…何より勘が良いんだ。 観客の視線を奪って、彼らの心を鷲掴みにするんだ…。アグレッシブな体さばきと、妖艶なしなやかさ…その両方で緩急を使い分けて、巧みに流れを作って…天性のセンスだけで踊りこなすんだもんな…。 美意識の高さと、客観的に俯瞰して舞台を見れる目… 知ってる?お前の頭の中で構成されるものは、完成度が高いんだよ? 誰の指示も無く、自分をプロデュース出来る事は…才能なんだ。 あまりに自然に普通に出来るから、分からないんだろうけど…それは誰もが羨む、才能なんだよ。 エレベーターを降りて、歩きなれたエントランスを、スーツケースを持って抜けて行く。 「…勇吾!」 背中にぶつけられた声に、ドキッとして…後ろも振り返れないまま、足を止める。 そっと、背中に…しなやかな手が触れて…俺は、覚悟を決めた。 「なぁんだ…バレたか…」 ふっと体の力を抜いてそう言うと、背中に手を回すあの子を見つめて、眉を下げる。 「シロ…どうして来たの?」 俺がそう尋ねると、彼は首を傾げて言った。 「…きっと、内緒で帰ると思ったから…来ちゃった。」 あぁ…そうか… この子は、人の気持ちを読む力に長けてるんだった… すっかり、忘れていたよ。 お前が苦しむ、その特異な観察眼の事。 育った環境のせいなのか、人の間や、表情、醸し出す雰囲気から…何かを感じる事が出来るんだった。そして、それのせいで…何でもかんでも、自分のせいにして傷ついてしまうんだよね… まるで棘を纏って生きてるみたいに… 「もう…退院して来たの?」 眉を上げてそう聞くと、彼は肩をすくめて答えた。 「お支払いは桜二が代わりにしてくれるって言うから…だから、オレは一足早く退院して、ここまで依冬に送ってもらったんだ。彼は外で待ってる。今日は、大きい車で来たから、勇吾も乗せてあげるよ。ね?一緒に空港まで行こう?」 はぁ…全く… この子に、先を読まれた… 肩を下げて項垂れると…そっと、視界に白い手が伸びて来て、柔らかく俺の前髪をかき上げる。 そっと…あの子が、顔を覗かせて言った。 「…ごめんね…?オレは勇吾を、ちゃんとお見送りしたかったんだ…」 そうか… 瞳を細めて微笑むあの子に…不覚にも涙が落ちる。 離れたくないよ… おもむろに腕時計を確認すると、彼の手を掴んで来た道を急ぎ足で戻り始める。 エレベーターに乗って、ドアノブに掛けたチェックアウトの札を外すと、再び部屋に戻って来た。 首を傾げたままの彼を抱きしめると、彼の衣服を剥いでベッドに沈めた。 「シロ…愛してる…離れたくないよ…!このまま一緒に居たい…!」 そう言って、俺と同じように涙ぐむあの子の素肌を両手で感じる。 しっとりとした白くて滑らかな、あの花びらの様な、あの子の素肌に…頭の中がボーっとしてくる。 クラクラしたまま、ただ夢中になって彼の素肌にキスを落として、愛と服従を誓う。 「勇吾…勇吾…」 首に細くてしなやかな腕が絡みつくと、あの子の吐息交じりのキスを貰って、傷痕のざらつきのある舌を忘れない様に、何度も絡めて吸う。 仰け反っていくシロの体を愛おしく手のひらで撫でて、優しく愛撫する。 まるで…色を付ける前の人形の様だ。 無駄のない美しいしなやかな体に、目で興奮して、触れて、心で興奮する。 俺のシャツを脱がせるたどたどしい手を両手で掴んで抑えると、彼の細い首に顔を埋めて、何度もキスする。 あの子のズボンのチャックを下げて一気に脱がすと、足の間に体を埋めて行く。 「勇吾…依冬に、連絡しても良い?」 体を起こしてそう聞いて来るシロを無視して、あの子のモノを口に咥えて扱き始める。 携帯電話を片手に、ビクビクと体を震わせるあの子を見ながら、離れて行かない様に両手で可愛いお尻を抱え込んで、熱心に気持ち良くしてあげる。 「あっああ!だめぇ…イッちゃう…勇吾、イッちゃうよぉ…!んっんん、あっああ!!」 俺の口の中で果てると、気持ち良さそうに瞳をトロけさせて言った。 「…依冬が心配したら、大変だから…連絡する…」 ふふっ 「あれぇ…どっか行っちゃたじゃん…」 ブツブツそう言いながら、いつの間にか手から離れて行った携帯電話をベッドの上で探すあの子を見つめて、途中まで脱がされた自分のシャツを脱ぎ捨てると、あの子の髪に顔を埋めて、匂いを嗅ぐ。 可愛い頬に何度もキスをして、トロけた瞳のあの子に言った。 「シロ…依冬君は察しの良い子だから、連絡なんてしなくても…きっと分かるよ?」 体を押し付ける様にして彼の体を再びベッドに沈めると、自分のズボンを脱いで、素肌を合わせて、全身であの子を感じる。 あぁ…スベスベで…あったかい。 「…でも、依冬は桜二より怖いんだ…暴力が酷いんだ…!」 シロは眉を下げてそう言うと、俺の髪を両手で掻き分けてクスクス笑った… 毒の沼の様なこの子に…骨の髄まで溶かされたい。 「大丈夫だよ。俺に食べられちゃってるって…彼なら、察するさ…」 あの子の中に指を入れて、快感に震える唇にキスをする。 「ゆ、勇吾…?ねえ…オレね、ずっと悶々としてたから、すぐに気持ち良くなっちゃうの…すぐにイッちゃうから…あっああ…だめぇ…ん!」 そう言って身もだえすると、本人が言った通り…ビクビクと震える彼のモノは限界をあっという間に迎える。 「良いよ…?勇ちゃんの指で、気持ち良くなって…?気持ち良いって言って、イッて良いよ…?何回もしてあげる。ね…?可愛い声でイッてよ…あの声を聞くと、堪らないんだ…」 可愛くて、愛しくて、狂おしくて、どうにかなりそうな甘ったるい世界。 依存なんて優しい物じゃない… お互いが分からなくなる程に、溶けて混ざるみたいで、我を失って、あの子を求めてしまう。 ただひたすらに、あの子を味わって、溺れて、死んでいくみたいなんだ。 「あぁ…気持ちい…」 シロの中に自分のモノを奥まで挿れて腰をねっとりと動かすと、悲鳴を上げながらあの子がイッた。 あぁ…可愛い…堪んない。 「…シロ、気持ち良かったの…?勇ちゃんのおちんちんが気持ち良かったの…?」 意地悪にそう聞くと、あの子は頬を赤くして、だらしなく口を開いて言った。 「気持ちい…もっと、もっとしてぇ…」 はぁ…堪んないだろ? 俺が早くないって事を証明しないとね… ギリギリの所で耐えながら、あの子の、キツくて熱い中を堪能する。 「あっあっ…ああん、勇吾…気持ちいの…はぁはぁ…あっああ…だめぇ…んっんん…」 すぐに大きくなるあの子のモノを手で扱きながら、執拗に腰を動かして、頭の中を最高に真っ白に染めてあげる。 俺のモノで感じるシロを見下ろして、この時だけ、俺がこの子を支配する。 「あっ…ダメだ…イキそう!」 感情と共に、気持ち良いのが止まらなくなって…限界を迎える。 奥まで腰を押し付けると、ガクガクしながらあの子の中から抜いた。 ドクドクと吐き出される精液を眺めると、再びあの子の中に挿れて行く。 シロは体を捩らせると、俺の胸をバシバシと引っ叩いて言った。 「勇吾…だめぇ…いや、やだぁ…!」 …これはね、嫌がってる訳じゃないんだ。 直訳すると、気持ち良くっておかしくなっちゃうよ~!と言ってる。 意訳すると、もっとして!って事。 だから、俺は、快感に体を仰け反らせた彼の可愛い乳首を、舌でねっとりと舐めてあげる。 「あっあああ…!」 激しく腰を震わせると、シロがドクドクと精液を吐き出してイッた… ほらね? 可愛いんだ…可愛くて、堪らない。 「はぁはぁ…気持ちいね…シロ、可愛いよ。もう、勇ちゃんは…シロがいないとだめ。」 ねっとりと腰を動かして、あの子の敏感な部分を執拗に責めると、例の如く反対言葉の遊びをして、シロが俺を押し退けようと激しく抵抗する。 「だめぇ…!イッちゃうからぁ!あっああ!ん~~!だめっ!あっああん!!」 こんなにトロトロなのに、ダメなんて言うなよ… もっとして!って素直におねだりしてよ。 あの子の体に覆い被さって隙間がないくらいに抱きしめると、喘いで閉まらない彼の唇を食んで、ねっとりと腰を突き上げる。 背中を締め付ける白い蛇の様なあの子の腕に、自分の全てを抱きしめて貰いながら、グダグダに甘える。 シロの頬にキスしながら、苦しいくらいに抱きしめて気持ち良くしてもらう。 「はぁはぁ…シロ…シロ…離さないでよ…俺を忘れないでよ…」 いつの間にかメソメソと泣き始めた俺を、あの子は包み込む様に両手で抱きしめてくれる。 大事そうに、愛おしそうに、俺を守って、抱きしめてくれる… 「あっ…イキそうだ…!」 あの子の包容力にバブみを感じた俺は、勝手に極まってオギャリそうだ… 最悪だ…そんなの…桜ちゃんじゃないか。 「勇ちゃん、良い子…あっああ…良い子、気持ち良い!」 シロは知ってか知らずか、男の中の甘ったれな部分を、掠めて刺激する。 もれなく、俺も刺激されて…シロにグダグダに甘えながらあの子の中で、思いきり果てる。 「シロたん…もう…もう、だめだぁ!」 小さく呻いてシロの中でイクと、ドクドクとあの子の中に、精液を吐き出した。 「勇吾が寝る時さ…機嫌の悪い赤ちゃんみたいな顔するの知ってる?」 そんなの自分で分かる訳、無い。 俺はシロの胸の中で甘えながら首を横に振った。 コンコン ノックの音がしても、俺はシロの胸の中でグズグズに甘える。 「勇吾?誰か来たよ?」 そう言ってシロが体を起こしても、俺はあの子の胸から離れない。 「…もうちょっと、バブらせてよ…」 「何だよ…バブるって…」 困惑した表情のあの子を見てやっと我に返ると、そそくさと下着とズボンを履いて扉を開いた。 目の前には、ムスッとした表情の依冬君がいて、俺の格好を見ると深いため息をついて言った。 「やっぱりね…そんな事だろうと思ってましたよ。」 ズカズカと部屋に入って行くと、ベッドの中のシロを見て言った。 「連絡が出来ないの?俺はずっと車の中で待ってたんだよ?」 「んん…しようとしたんだけど…勇吾が…」 そう言って俺をチラッと見るシロに、ニッコリと微笑んで依冬君に謝ってあげる。 「ごめんね…つい…」 「はっ!つい?つい…じゃないですよ。連絡の1つも取らせないなんて…あんたはやっぱり懲りて無いんだな。馬鹿だから、懲りないんだ。」 暴力が酷いと言っていた割に、目の前の依冬君は、今の所、俺を殴ったりしない。言葉の暴力を振るってくるけど、こんなの、俺には痛くも痒くも無い。 「依冬~!携帯電話、無くなっちゃった…」 そう言ってベッドの周りを探し回るあの子の中から、俺のモノがドロドロと垂れて来ると、依冬君は俺を睨みつけて言った。 「早く綺麗にしてあげてよねっ!桜二の知り合いは、みんな頭が緩いおっさんばっかりだ!」 酷いじゃないか…おっさんなんて、暴言…殴られた方がましだ… 俺はクスクス笑ってシロの手を握ると、彼と一緒にシャワールームへと逃げる。 「勇ちゃんが綺麗に洗ってあげるね?汚れちゃったね…ごめんね。間に合わなかったんだ…ふふっ」 俺がそう言って彼の中を綺麗にしてあげると、シロは黙って首を傾げて言った。 「勇ちゃん…シロの事、忘れないでね…」 全く…もう。 一気に脱力すると、シロの体を抱きしめて言った。 「忘れる訳、無いだろ…お馬鹿さん。」 シャワーを頭から受けながら、彼にキスをして官能的な彼を見つめる。 絡まる舌の先でさえもいやらしくて、すぐにでも、また、始められそうだよ… どうして…お前を忘れられるなんて思うの? …それは、傲慢な考えだよ。 こんなに絆して、こんなに溺れさせて、こんなに影響を与えてるのに、そんな事を言うなんて…本当に、女王様は傲慢で…わがままだ。 「シロ?そろそろ行くよ。」 そんなビースト依冬の無慈悲な言葉に、シロから唇を離して、涙を流す彼を見つめる。指先で涙の防波堤を作って、そのまま頬を拭ってあげる。 「また会えるよ…そうだろ?」 柔らかい頬を撫でてプニッと摘まんでそう言うと、彼は悲しそうに瞳を揺らして言った。 「…いつ?」 へ…? 「いつ、会えるの?」 「シロ~~!早く出て来て!」 浴室の外でビーストが怒り始めるから、俺は急いでシロを浴室から出す。 どうも、ビースト依冬は…シロが見えて無いと、俺が何かを始めてると思う様だ… 「もう!勇吾さん、また変な気を起こしてたでしょ?飛行機は何時ですか?」 プリプリと怒る依冬君を宥めながら、しょんぼりと俺を見つめる彼の視線を返して、返答に困ってしまう。 いつ? そんなの…即答出来ない… だからって、会わない訳じゃないだろ? だからって、愛してない訳じゃないだろ? 「12:00…成田発だよ…」 俺がそう言うと、依冬君は慌ててシロの服を着せていく。 「30歳も過ぎてるんだから…チェックインの時間を考えて、そろそろセックスするのやめようかな?とか、考えられないんですか?…ほんと、分かんないな。そういう所…」 依冬君にグチグチと年齢の事を言われながら、シロが繋ぐ俺の手を見つめて、さっきの返答を考えあぐねる。 いつ会える…? スーツケースをトランクに入れて、バタンと閉まるのを見届けると、シロと一緒に依冬君のポルシェ…カイエンに乗り込んだ。 いちいち高い車に乗ってるボンボンに、イラっとしない奴なんていないよ。 「勇吾?おいで?」 車が動き始めると、おいで?と言っておきながら、シロは俺のすぐ傍まで来て、ギュッと体にしがみ付いてスリスリと頬ずりをした。 たまにこちらを伺い見る依冬君とルームミラー越しに目が合って、お互い気まずくて目を逸らす… 「ふ~んふふ~ん…ふふふふふ~んふふんふ~ふふん…」 調子を取る様に俺の膝をトントンと叩きながら…ぼんやりとした、気の抜けた声で、シロがネバ―エンディングストーリーを歌ってる。 俺は何も言わないで、そんな彼のぼんやりとした気怠さと、心地よさを、一緒に味わって…何の気のない日を過ごす様に車に揺られる。 同じループを何度も繰り返すあの子の鼻歌を止める事もしないで、ただ、じっと、一緒にいられる時間を過ごす。 彼のサラサラの髪を撫でて、キスをして、顔を乗せて…ぼんやりと目の前に流れて過ぎる穏やかで、何気ない時間を見つめる。 「いつ会えるかなんて…分からないよ。でも、必ず、会いに来るよ…」 ポツリと俺がそう言うと、シロは何も言わないでコクリと頷いて答えた… そして、そのまま車の窓を流れて行く景色を一緒に眺める。 「勇吾…スカイツリーだ…」 そう言ってあの子が指を差した先に、あの時下から見上げたスカイツリーが見えて、ポロリと涙が落ちる。 あの時…水族館で、はしゃいで笑う彼を見て…ときめいた。 もっと上手に愛せていたら、こんなに、この子は苦しまなかったのかな… それとも、もともと、途切れてしまいそうな琴線だったのかな… 「また、ペンギン…呼んでくれる?」 俺の胸に体をクッタリと落としてシロがそう尋ねてくるから、俺はあの子にキスをして言った。 「良いよ…特別だよ?」 俺がそう言うと、シロはクスクス笑った… あぁ…一旦、お別れだ。 可愛いこの子と、お別れだ… 成田空港に着いて、早々にチェックインを済ませると、搭乗ゲートへと足早に向かう。 「勇ちゃん…」 俺のシャツの裾を掴んで引っ張るあの子に、振り返って言った。 「シロ、またね…」 表情を崩さないで静かにそう言うと、あの子はじっと俺を見つめて瞳を潤ませる。 「勇ちゃん…いつもの…して?」 そう言って両手をあげるから…俺は笑いながらあの子の両脇を持ってクルクルと回してあげる。 「あ~はっはっは!凄~い!」 そう言ってケラケラ笑うあの子の声を頭の上で聞いて、口元が緩んで涙が落ちる。 ギュッと抱きしめて、自分の体に埋めてしまう。 「愛してるよ…」 「うん…オレも愛してる…」 ふたりにしか聞こえない位、小さな声でお互いの耳にささやくと、そっと、体を離して踵を返した。 振り返らない。 だって、ちゃんとお別れをしたから… 身を焦がすような思いも、愛しくて我を忘れてしまう事も… 落とし穴だと思ったあの子は…俺に沢山の情緒をくれたんだ… こんなに誰かと離れる事が…辛くて悲しいなんて…俺は初めて知ったよ。 それは俺の自分勝手な情緒に新しく加わった感情だ。 大切にしないとね… この苦しい思いも、愛しい思いも、ジレンマの様に歯がゆい思いも…全て、大切にしないとね…だって、お前がくれたものだもん。 搭乗ゲートに入って、飛行機が発着する様子を眺める。 「もしもし…勇吾だよ。これから戻る…。うん。用は済んだんだ。もう、大丈夫…。ふふっ。分かってるよ…徹夜でも何でもやってやるさ。何てことない…。うん、じゃあね。戻ったらすぐに顔を出すよ…」 仕事仲間に電話をして帰る事を伝えると、やっとか…と安堵した様子に、申し訳なくなる思いと、俺が居なくてもちゃんとやってくれよ…という複雑な思いを抱く。 まぁ、発起人は俺だからな… 窓の外に大きな飛行機が近づいて来る… あの子はもう帰ったかな…? ビジネスクラスのシートに座って、小さな窓から外を眺める。 来る時は…こんな思いを抱くなんて思ってもみなかったよ… ただ、仕事に来て…終わったら帰る…それだけだったのにね。 「あ…」 滑走路へ向かう為、動き始めた飛行機の窓から見えたのは…こちらを見つめて両手をブンブンと振る…涙を堪えたあの子の姿。 一瞬見えただけなのに…涙が止まらなくなって嗚咽が漏れて来る。 「シロ…シロ…」 小さくそう呟いて、窓に顔を付けて彼の姿を探す。 滑走路を走り抜ける飛行機から、小さくなっていく彼を見つめて、見えもしないのに手を振った。 何てことだろう… こんなに苦しいなんて…これを人は何と呼ぶの? 恋…?愛…? そんな物じゃない… 今まで読んできた喜劇も、悲劇も、美しく彩られたロマンスも、この感情に比べたら、どれも陳腐で幼稚だ… どんな名言やどんな情景も、どんな素晴らしい古典も、どんな感情を用いたとしても、これに勝る美しい物はないよ。 それを…あの子が、俺に、与えてくれたんだ… #シロ 「…見えたと思う。」 「嘘だね…もう、行こう?」 …依冬はいつもそうだ。情緒が欠如してる。 オレの手を繋いで足早に室内へ戻ろうとする彼を引き留めると、空を見上げて大きな声で言った。 「勇吾~~!戻って来て~~!」 「やめてよ…もう、こりごりだ…」 ぐったりと肩を落とす依冬の背中によじ登ると、おんぶして貰いながら空港の中を歩く。 外国人が沢山…英語が飛び交う…彼はそんな所でひとり、頑張って来たんだ。 そんな彼に“たこ焼き屋になれ”だなんて…酷い事を言ったもんだ… 「はぁ…勇吾、綺麗な人だったな…」 彼の背中に頬を付けてうっとりとそう言うと、依冬はピタッと立ち止まって言った。 「それってさ、俺と桜二は汚いって言ってるの?」 ほほ!依冬はそれが気に入らなかったんだ… オレは彼の背中を撫でて、自分の気持ちをきちんと話す。 「違うよ?彼は…特別、何て言うのかな…。まるで、アイドルみたいにキラキラしてたんだ…オレは、そんな眩しく光る彼に憧れて…大好きなんだ…」 クッタリと力を抜いて、依冬の背中に頬を付けて言った。 「だって…1人きりで運命を切り開いて来たんだよ?それは並大抵の努力じゃ出来ない…凄い事だ。…オーディションを落ちたくらいで落ち込む様な、オレの様な凡人には持ち合わせていない、勢いと、凄いパワーを持ってるんだ…かっこいいと思わない?」 依冬はクスクス笑うと、オレをおぶい直して歩き始める。 そして、顔を少しだけ上に向けると、オレに言ってくれた。 「シロだって…俺には出来ない事が出来るよ?そして、俺はそんなシロをかっこいいと思ってる。」 優しいね… 彼の体によじ登ると、彼の頬にキスして言った。 「依冬…優しいね、オレは、お前の優しい所が大好きだよ…。」 憧れ… 自分には出来ない事を一生懸命成して来た人を、何の努力もしない奴が、羨んで、崇めて、指を咥えて眺める事。 自分も…あんな風になりたいと…心のどこかにそんな野心めいた感情が有る事に気が付いた。 彼の演出する舞台に立って…彼の名に恥じないステージをして、彼の隣で、彼と一緒に称賛を浴びる日が…来るんだとしたら… いいや。 たとえ来なくても、それを目標にしたって良いじゃないか。 何も努力をしない奴が…羨望の眼差しだけを贈るなんて…みっともないよ。 彼の隣に立つには…相応しくない。 「もっとダンスが上手になる様に…情緒の強化が必要だ思った。それでね、彼がくれた本を読んでみようと思うんだ。」 依冬の大きな車に乗って、運転席の彼に勇吾が貸してくれた本を見せて言った。 「こっちは仲の悪い家同士の話で…こっちは不倫の話。ふふっ!どっちから読んでみようかな…?依冬はどっちがいい?」 彼の目の前に細長い本をちらつかせると、依冬は眉をひそめて言った。 「どっちも物騒だね…もっと楽しい話は無いの?」 確かに…でも、それじゃあお客さんが来ないって彼が言った。 クスクス笑いながら依冬を見つめると、彼の腕に頬を付けてもたれかかる。 あったかい… 「ねえ?桜二にも会いたいね…?」 「会えるよ…嫌でもずっといるんだ。」 本当…? 絶対なんて無いよ。 ずっとなんて無い… 形あるものは壊れて、一緒に居るものは別れていく…死ぬ時は一人ぼっちだ。 「ふふっ。それでも…早く会いたいんだもん…2人揃って、やっと落ち着くんだ。」 でも、今はそんな事考えないで…良い。 大切な人が1人…遠くへ行ってしまったんだから。 「じゃあ…シロ、仕事が終わったらまた来るよ。」 そう言って、依冬は、オレをマンションの前に降ろすと仕事に戻ってしまった…彼のこういう所、嫌いじゃないけど、もうちょっと一緒に居たかったよ…? 別れを惜しむ情緒や、愛おしむ感性が欠如してるんだ。 あんなに可愛らしい笑顔を向ける癖に、合理的って言うのかな…どこか、淡々としてる。でも、そこも…好きだよ。 特に、オレが感情的に怒った時、相手にしないで突き放す所が好き。 ドМな訳じゃないよ? 冷たい男って…セクシーで良いだろ? 「桜二~~!」 彼の待つ彼の部屋に戻ると、玄関先で出迎えてくれた桜二に抱きついて甘える。 いつもの様にいつもの彼の大きな腕で、優しくギュッと抱きしめて貰う。 あぁ…桜二だ…! 「桜二…桜二…」 彼の胸に顔を埋めて、彼の匂いで胸の中をいっぱいにする。 「シロ?ラーメンを作ってあげるよ。」 そう言って、オレを部屋に引き入れる桜二を見上げて言った。 「桜二…ただいま…?」 彼はオレを見下ろして、一瞬、固まると…瞳をトロリと潤めて言った。 「シロ…お帰り…」 やっと、彼の所に帰って来れた… 馬鹿でどうしようもないオレは…ぐるっと彼の周りを回って…あちこちに寄り路をして、自分が嫌になって…途中で放棄して、それでも何とか…彼の元に帰って来た。 懐かしいという感情が芽生えてしまう程、彼の部屋が恋しくて、嬉しくて… 一目散に走って彼の寝室に行くと、ベッドの下から“宝箱”を取り出して、桜二の顔を見上げて言った。 「…いつもの、しても良い?」 「良いよ…」 寝室の入り口で嬉しそうにオレを見つめる彼を手招きして、隣に呼びつける。 「兄ちゃんの…写真を見せてあげる…」 そう言って”宝箱”の蓋を開いて、彼にもたれて彼の呼吸を聞きながら、兄ちゃんの写真を見つめる。 オレの夢に出て来た兄ちゃんは、この時よりも少しだけ…歳を取っていた。 まるで本当に生きているみたいに、オレと一緒に、年月を過ごして来たみたいだった… 「夢の中で…兄ちゃんは桜二と仲良しだったよ?桜二は自分を調べて、自分の代わりにシロを守ってくれたって…言っていたんだ。オレもね…そう思うんだ。」 そう言って隣の彼を覗き込むと、ジッとオレの言葉を聞きながら、涙を落として言った。 「シロ…帰って来てくれて…良かった…」 「桜二…桜二…オレから離れないで守ってくれて…ありがとう。勇吾の事…ごめんなさい…。悲しい思いをさせて…ごめんなさい。それでも、愛してくれて、ありがとう…」 ずっと言いたかった事を彼に伝えて、彼の体にクッタリと力を抜いて抱きつくと、彼は優しくオレを抱きしめて、泣きながら言った… 「シロ…良いんだよ…。もう自分を責めないで…。俺がお前の歳の頃なんて…不誠実な事ばかりしていた。それは人に言えない事や、お前に聞かれたくない事だって…散々してきたんだ…。お前の移り気を責める気になんてならないよ…。ただ、独占したかったんだ…。お前を誰にも見せたくないくらいに…独占して、自分だけのシロにしたかったんだ…。それが、嫉妬になって…勇吾への態度に繋がった…」 兄ちゃんの腕時計を手の中で握って、彼の胸に顔を沈めて彼の泣き声を胸で聞く。 誰にも取られたくない… 兄ちゃんを失ってから…そんな風に誰かを思う気持ちが、分からなくなってた。 でも、 依冬がオレ以外の女とエッチをした時、感じた…怒りや… 桜二がオレの為に嫉妬にかられた時に感じた…後ろめたさ… 自分から離れて行ってしまうかもしれないと、怯える恐怖は…裏を返せば、誰にも取られたくないって気持ちと同じなんだ… オレは桜二も依冬も、勇吾も…誰にも、取られたくない… 欲張りで、意地汚いんだ。 誰も自由にしないで、首輪で繋いで飼い慣らす…悪い飼い主みたいだ。 「オレも…桜二を誰にも取られたくないよ…だって、あなたを愛してるんだ。」 そう言って彼の唇を舌で舐めると、口の中に強引に入って、力強く、乱暴に彼の舌を絡めて吸う。そのまま彼の膝に跨って座ると、彼を見つめて言った。 「桜二…エッチしよう…?」 彼の売れない作曲家の髪形を、指先を立てて後ろに流してあげる。 「良いよ…シロ。」 そう言って瞳を細く細めて桜二が笑うから、オレは彼の唇にもっとキスをする。 ごめんね…オレに捕らわれた可哀想な桜二… だけど、どうしようもないくらいに…あなたはオレの当たり前になってしまった。 今更、離れるなんて…考えられない。手放そうなんて、思えない。 「桜二…桜二…」 彼の素肌に興奮して、何度もキスをして、舌を這わせて、彼の味を味わう。 兄ちゃん… オレはどうしてこんなに…欲張りなの? 兄ちゃん… オレはどうして…こんなに…渇望するみたいに、誰かに、愛されたいの? 「ふふっ…桜二…桜二…ラーメン作って?味噌ラーメンが良い。作って?」 激しいセックスの後は、そう言って彼の大きな背中に乗って甘える。 オレのそんな言葉に、桜二は嬉しそうに笑って言った。 「キャベツは入れる?」 可愛いんだ… 絶対、誰にも触れさせたくないよ。 「もちろん、後、ウインナーを入れるよ?」 オレはそう言って桜二の背中にキスをすると、自分が付けた爪の後をペロリと舐めて、ばい菌を沢山付ける。 このまま彼の傷が化膿して、グチャグチャの背中になって…オレ以外に見せられない体になったら良いのに… 「よっこらしょ…」 そんな言葉…聞かなかった事にするよ? オレのお尻にティッシュを挟むと、桜二が手を引いて浴室に連れて行って、綺麗に流してくれる。 「ねえ?桜二君…君は僕がいない間、オナニーもしなかったのかい?」 彼の顔を覗き込んでそう聞くと、桜二は吹き出して笑った。 だって、とっても激しくて、甘くて、いつもより早くにイッたんだ。 これは我慢していたって事になるんじゃないのかね? 「何その話方…変だよ。やめて?」 桜二はそう言うと、眉を下げて困った顔をした。 ふふっ! 「桜二君、なんだい、僕の喋り方が嫌なのかい?」 「ああ…嫌だ。」 オレがふざけてしつこく言うと、桜二は手のひらに溜めた水をオレの顔にかけて言った。 「ああ…シロ君、どうだい?嫌かい?」 ふふっ!おっかしい。 何倍にも溜めた手のひらの水を、彼の顔にかけて大笑いすると、逃げる様に浴室から出る。 そして、彼に体を拭いてもらいながら、彼の髪をタオルで拭いてあげる。 こんないつもの事が、とっても幸せだって事に気が付いて彼の大切さを知った。 「桜二?髪を切った方が良いよ?少し長くなりすぎてる。これじゃあ売れない作曲家の究極だ。徐々に大塚さんに近付いて行ってる。」 そんな時間も、自分を構う余裕も、無かったんだよね…ごめんね。 彼のぼさぼさ頭を手櫛で後ろに流すと、襟足が長くなって…ちょっとセクシーだ。 これは…これで、アリなのか…? 「シロも…髪が伸びちゃったね…ツーブロックが長くなってる。」 そう言ってオレの髪の中に手を入れると、ツーブロックの短い部分を撫でて、首を傾げて言った。 「あ~、ほら…ジョリっとしない…ふふ…普通の髪形になっちゃった。ピンクの頭も生え際が…あぁ…黒くなってる。これはまずいよ?お店に行く前に、美容室に行かないとね…」 ん、もう!知ってるよ?…ふん! 「桜二もね!」 オレはそう言って頭を振って彼の手を退かすと、彼にスウェットのズボンを履かせてあげる。 「ラーメン作って?」 そう言って彼の背中に甘えて、グダグダにトロけて行く。 こんな毎日…ずっと続けば良いのにな… 爆弾なんて投下しないで…ドラマチックになんてしなくて良い。 お客なんて呼ばなくても良い、平和で優しい日常がずっと続けば…それで良い。 「あ~キャベツが無かった~。」 最低だ! オレは桜二の背中をペシッと叩くと怒って言った。 「嘘つき!」 クスクス笑って彼がラーメンを作る間中、ずっと彼の背中に纏わりついて離れない。 彼が兄ちゃんに似てるからじゃない。 この人が好きだから、離れたくないんだ… 「いただきます!」 両手を合わせてそう言うと、桜二と一緒に味噌ラーメンを食べる。 「オレが麺を啜ると、勇吾はフェラチオしてるみたいだねって言うんだよ?失礼だろ?」 そう言って思いきり麺を啜りながら彼を見つめると、桜二はオレを見つめて首を傾げて言った。 「俺はよく見てるから知ってるけど、シロがフェラチオしてる時は、もっと唇がエッチだよ?」 どうでも良いよ…全くさ… こんなくだらない話をしながら、桜二の作ってくれた大好物の味噌ラーメンを食べる。 …これがこんなに幸せだって、知らなかったよ?ふふ… ご馳走様をして…丼を洗って、ソファに腰かける桜二に甘ったれて…ゴロンと彼の膝に寝転がる。 「ねえ?ソフトモヒカンにしたら嫌?」 オレが上を見上げてそう聞くと、彼はオレの髪を指で掻き分けながら言った。 「…嫌。」 「じゃあ…パーマをかけたら嫌?」 「嫌。いつものが良いよ。外側は長めで、中をジョリジョリにして貰って来なさいよ。」 桜二はオレの髪を持ち上げてそう言うと、伸びた髪を撫でて言った。 「ここが可愛いのに…」 職業柄、汗を沢山かくから、簡単に汗が拭ける様に髪型はツーブロックにしてる。 だから外側はサラサラの髪なのに…ペラッとめくると、こめかみから耳にかけてジョリジョリに短い毛が見えるんだ。 桜二は、そんなのが可愛いって…思っていたんだ。 ふふっ! やっぱり、この人は…おかしい! 「ふふっ!じゃあ…桜二もツーブロックにすればいい!」 「嫌だよ。」 桜二はそう即答すると、オチを付ける様に、オレのおでこをペタンと叩いた。 寝転がりながら美容室に予約を入れると、陽介先生や支配人、楓に次々とメールを入れて、復活の報告をする。 すぐに返信が帰って来て、桜二の顔を見上げながらクスクスと笑うと、彼はオレの鼻をチョンと触って言った。 「良かったね…」 そうだね… まるで時間の流れに取り残された気でいたから、こんな風に歓迎してもらえると…ホッとするよ。怪我や病気でも無い…こんな事でも、復活を喜んでくれる人がいる。 良い人間に恵まれていた。そんな事に…感謝するんだもん。 この壮絶な体験は…オレにマイナスばかりをもたらした物じゃなかったみたいだ。 「勇吾は…いつ頃、つくのかな…?」 携帯電話の連絡先に書かれた彼の住所を見つめながらオレがそう聞くと、桜二は窓の外を見上げて、首を傾げて言った。 「さあね…」 13時間かかるって言っていた…イギリスは遠くの国なんだ。 夜になると依冬が桃のケーキを手に持って帰って来た。 「依冬~~!」 そう言って彼に抱きつくと、スリスリと頬ずりをしてキスする。 「明日は、美容院に行って…髪を切って…その後、お店に行ってくる。」 オレがそう報告すると、依冬はケーキの箱を開けながら言った。 「え~…早いんじゃない?まだ体も本調子じゃないでしょ?心配だよ。」 何をおっしゃる! オレは勇吾とばっちり踊れたよ? 首を傾げて彼の顔を覗き見しながら言った。 「そんな事無いよ?オレはね、目が覚めた次の日からリハビリもしたし、注意されても筋トレをしたから、逆に前よりも、筋肉が付いてる筈だよ?」 「店に顔を出すだけだよ…」 桜二がそう言ってフォークを3本ダイニングテーブルに置くと、依冬はオレを見て言った。 「…怪しいね。オレは踊れるもん!とか言って…普通にシフトを組んで踊って帰って来そうで、信用できないよ。自分の体を過信してるんだ。心配だよ。」 なぁんだ! オレはムッとしながら依冬を見つめると、ニヤッと口角を上げて言った。 「あ~、はは…依冬君は、オレがどれだけ全回復してるのか…知らないんだね?なぜなら、まだエッチしてないからだ!どうぞ、こちらに来てくださいな。オレの全力を見せつけてあげるよ?」 そう言って依冬の手を掴むと、少しだけ鼻の下を伸ばした彼をソファに座らせた。 桜二が桃のケーキを食べる中、オレはソファで依冬を大事に愛してあげる。 「依冬さん?本日はどのコースで行きます?」 うっとりと彼を見つめて、舌先で唇を舐めると、演技がかったセクシーさを見せつけて依冬にそう尋ねた。 「ぷぷっ!…じゃあ…甘々のラブラブ、チュッチュコースで…」 ぷぷ~!! 依冬…嬉しいよ。 お前がそんなに可愛い事を言ってくれるなんて…ボカァ、感激だ。 肩を震わせて笑う桜二を視界の隅に見ながら、オレは依冬に…でら甘い愛をあげる。 彼の胸を撫でる両手に、程よい筋肉の張りを感じて…うっとりと瞳を細めると、彼のシャツを丁寧に脱がせていく。 「ここなら、土田先生が邪魔することは無いもんね?」 そう言って、依冬の唇に舌を入れると、彼の舌に絡めて行って…クチュクチュといやらしい音を出してあげる。 すぐに興奮した依冬がオレの腰を掴んで、自分の股間に擦り付けるから、彼の手の上にそっと自分の手を置いて、もっとエッチに腰を動かしてあげる。 「あぁ…シロ…挿れたいよ…」 もう?…早くない?だって、まだ服も脱いでいないよ…? クスクス笑いながら、依冬の首に顔を埋めてねっとりと耳の裏を舌で舐める。 オレの服の中に手を入れて、背中を撫で上げる力強い依冬の手のひらに、ゾクゾクと背筋に鳥肌が立って仰け反って行く。 依冬の唇がオレの胸にキスをして、舌が乳首を舐めると、強く抱きしめられた腰がしなって腰がゆるゆると疼き始める。 「あぁ…依冬…依冬、もっとエッチに舐めてよ…オレの事、気持ち良くして…?」 依冬の柔らかい癖っ毛の髪をワシワシと撫でると、自分の胸に押し付けて、彼の頭を抱きしめる。 胸に落とされる彼のキスにいちいち体がビクビクと震えて…下げられたズボンから勃起したモノが飛び出した。 「あぁ…シロ、こんなにして…本当にエッチなんだから…」 依冬はそう意地悪に言うと、オレのモノを大きな手で包み込んで、優しく扱き始める。 「ああ…!依冬…気持ちい…んんっ…あっああ…」 彼が興奮する様に、腰を突き出してお尻をフリフリと振った。 「あ~~!シロ…!」 まんまと興奮した依冬が、オレの桃尻に食いついて指で熱心に中を弄り始める。 「あっああ!依冬…、気持ち良い…!あっあん…あっ、あっああ…」 だらしなく口が開いて…よだれが彼のシャツを汚しても、クッタリと彼の体に抱きついたまま気持ち良くしてもらう。 堪らない…とっても気持ちいい…彼の丁度いい太さの指が、凄く気持ちい… 「シロ…キスして…」 そう言われて、頑張って体を起こして彼にキスする。 ぺったりと胸を彼に付けて、お尻だけ突き出して、彼に最高に気持ち良くしてもらう。 「あっああ…イッちゃう…イッちゃう…はぁはぁ、あぁ…だめぇ…あっああん!!」 彼とキスしながらイッて、唇から糸を引いてうっとりと彼を見つめると、依冬が言った。 「はぁはぁ…シロ、ねえ…挿れても良い?」 「うん…うん…早く、挿れて…依冬の欲しい…依冬の欲しいの…」 イッたばかりの液がトロリと付いたままの自分のモノを彼のシャツに擦り付けて、彼の髪を優しく撫でまわして、うっとりとキスをすると、依冬が自分のズボンを下げて、大きなモノを取り出して扱いた。 息を吐いて…彼を受け入れる体制を整える。 だって…とっても興奮してる日は…いつもよりも一回り大きくなるんだ… オレの桃尻を鷲掴みすると、依冬は自分のモノの上にゆっくりと落として行った。 「あっああ…はぁはぁ…ひっ…はぁはぁ…あっっ!つ…」 それは…嫌がる事も、拒む事も出来ない圧倒的な力の差… グチグチと皮が引っ張られる音がして、苦しいお腹の圧迫感を感じながら、必死に体の力を抜いて彼を受け入れる。 「ローションを買うべきだ…いつもこの時、とっても苦しそうで可哀想だよ。」 桜二がそっとオレの髪を撫でてキスをすると、依冬をジロッと見てそう言った。 「ローション…」 ポツリと依冬が復唱したのが、おかしくて…笑いだして、お腹に力が入りそうなのを必死に我慢すると、小さな声で依冬に言った。 「奥まで挿れて…奥まで挿れちゃって…」 オレの頬にチュッとキスしながら、依冬が奥までミチッと入ってきて、最後の最後で悲鳴を上げる。 腰がフルフルと震えて…体中が痙攣して、苦しい筈のお腹がじんわりと麻痺していく。 「あぁ…シロ…気持ちい…」 うっとりと甘い声で依冬がそう言って、オレの肩を舐めて甘噛みする。 腰を掴まれて、ねっとりと彼のモノがオレの中を満たしながら、動いて、どんどん麻痺させていく。 「はぁはぁ…ああ…んっ…あっああ…はぁはぁ…」 痛くて、苦しいのが…だんだんと快感にシフトし始めて…力の入らなくなった頭をだらんと下げたまま、彼の動きに翻弄されて揺すられる。 「あぁ…シロ、シロ…愛してる…」 大きな両手でオレを抱きしめて、依冬がシクシク泣きながら…オレを抱いてるから、震える両手で彼の頭を抱え込んで、抱きしめる。 「依冬…あっああ…凄い、気持ちい…!あぁああ…はぁはぁ…イッちゃう…イッちゃうの…気持ちい…」 依冬はオレをソファに沈めると、体を覆い被せて優しく髪を撫でて言った。 「愛してる…」 あぁ…可愛い、依冬…オレの依冬…素敵じゃないか… 「依冬…依冬…オレの可愛い依冬、愛してるよ…」 オレはそう言って彼の肩に手を滑らせると、自分に引き寄せてギュッと抱きしめた。 ガンガンと突き上げてくる快感に、体を仰け反らせて、真っ白になって行く… 何もかも忘れたくてするセックスよりも…愛し合ってするセックスの方が…気持ちいい。 「あぁ…!シロ…イッちゃう!」 依冬はそう言うと、オレがブルブル震えてイッたのを確認してから、オレの中でドクンと暴れた。そして、グッと奥まで押し込むと…中でドクドクと精液を吐き出した… 妊娠でもさせたいのか…それとも自分の究極の快感を求めた結果なのか… ぐったりと体を沈める依冬の背中に両手で抱きつくと、優しく撫でてあげる。 彼の頬を掴んで自分に向かせると、熱くて甘いキスをする。 「ね…?オレは絶好調でしょ…?」 「ふふっ…本当だね…。絶好調で、エッチで、可愛くて…堪んないよ…」 そう言うと、依冬はオレのお尻を掴んで、腰を再び動かし始めた。 「あぁ…依冬ったら…もう!お客さん、延長はダメなの…!ケーキを食べるんだから…!」 オレがそんな事、言っても…依冬は止まらないんだ… 桜二に見守られながら、依冬にしつこく愛される。 「冷蔵庫にしまっておくよ…?」 そんな彼の声が頭の上で、聞こえて…、次々に訪れる快感に頭の中を真っ白にしながら…力なく返事をする。 「…はぁい…」 「はぁはぁ…シロ…イキそう…可愛い、大好き…」 余裕のない艶っぽい声で、そんな甘いこと言われたら…オレはまたイッちゃうよ… 桃のケーキを楽しそうに食べる依冬をジト目で見つめながら、桃のてっぺんにフォークを突き刺した。 ムシャムシャ食べると、桜二が眉をひそめて言った。 「もっと綺麗に食べなさいよ…どうして、そんなに大きい口で食べようとするのか…」 それはね、依冬がフォークの背で桃をひたひた触ってニヤけてるからだよ? 「あっちの方がお行儀悪いよ?さっきから気持ち悪いんだ。」 そう言って桜二に依冬を指さして言った。 「ね?」 「…あの子は、うちの子じゃないから…良いの…」 オレの頭にチュッとキスすると、桜二はそう言ってケーキのお皿を片付けた。

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