29 / 41

第29話

「さて…帰ろうかな。」 そう言って依冬が席を立って上着に手をかけると、オレは彼の手を掴んで言った。 「依冬はお泊りする?」 「しないよ。帰って筋トレして…お風呂に入って…ビールを飲んで、寝る…。」 何て事だ… これが大企業の社長さんの一日の締めくくりだなんて… 「社長…」 「やめてよ…」 「社長!」 「…シロ、またね?」 依冬は予定通りに行動したい人。 だから、オレがごねてもあんまり構ってくれない。こんな風にふざけても、体に纏わりついても、彼は、桜二や、勇吾の様に、行動を止める事は無いんだ…。 前は、それを“自分をひとりの人間として尊重してくれてる”って思っていたけど… 構われずに放置される事も“窮屈に束縛されなくて気が楽…”だなんて、思っていたけど… 彼と親しくなるにつれて、意外にも桜二よりも、冷たくて、現実的で、クール…だと言う事が分かって来た。 面白いでしょ? 「キスして…?」 靴を履いた依冬はクルリと振り返ってそう言うと、顔をオレの前に突き出して来るから、オレはわざと視線をそらして、とぼけた顔をして言ってやるんだ。 「ん~~?知らな~い。」 そんなオレの言葉に、彼は露骨にムッとすると、オレがそらした方に顔を動かして、何としてでもキスしようとするんだ。 「んふふ!んふふふ…!あふふ!!」 そうやってふざけて遊んでると、ある一定のタイミングで本気で怒り始めるから、オレはその前にふざけるのを止める事を覚えた。 「はい、チュ~!」 可愛くそう言って唇にキスすると、ムッとしていた顔もほころんで、にっこりと笑顔になるから、面白い…。 もしかしたら…この子が、一番、癖の強い人かもしれない… 「依冬って可愛いんだけど、知れば知る程、変わってるって思うんだよね?」 彼の背中を見送ったままオレがそうポツリと呟くと、桜二はふっと吹き出して笑って言った。 「あいつはね、結城に…父親にそっくりだよ…」 え…?そうなの…? オレは桜二の顔を見上げると、首を傾げて言った。 「じゃあ…オレは、もしかしたら結城さんも愛せるかもしれないね…?」 「やめてよ~。シロ、考えるのもやめてよ!」 壮絶な拒絶反応を貰ってケラケラと笑うと、部屋に戻って寝る支度を始める。 パジャマに着替えてベッドに寝転がるオレに、桜二は嬉しそうに布団をかけてくれる。 泣き出しそうな顔の彼を見て、泣き出しそうな顔をして彼の体に寄り添った。 「やっと、ここで寝られるよ…」 ポツリとそう言って、彼の胸に手を置いて抱きしめる。 枕元に置いた携帯電話が短く震えて、画面の表示に“勇吾”の名前が見えた。 「着いたのかな…」 桜二がそう言って、オレに携帯電話を手渡すと、一緒に画面を覗き込んで来た。 野暮だな… そう思いながら彼の目の前でメールを開く… “さみちい…シロたんに会いたいよ…ウエン…” 「最悪だな…これで32歳なんて…」 頭の上で桜二がそう言って、オレの髪に顔を埋める。 「勇吾は…甘えん坊なんだよ…赤ちゃんなんだ。」 オレはそう言うと、メッセージを書いて返信する。 “飛行機、落ちなくてよかった!” 「ぷぷっ!…さすがシロだね…秀逸な返信だよ…」 桜二のお墨付きをもらって満足すると、彼の胸に顔を埋めて目を閉じる。 「桜二…桜二…お休み…」 「俺の可愛いシロ…お休み。」 彼の温かいぬくもりを感じて、彼の両手に守られて、オレはすっかり安心してぐっすりと眠った。 「シロ…朝だよ…」 瞼をうっすら開くと、目の前に寝ぼけた顔の桜二が見えて、オレは口元を緩めて笑うと、そっと手を伸ばした。 「じょりじょり…」 彼の伸びてしまったヒゲを指で撫でて、クスクス笑うと、彼にキスする。 あぁ…桜二が隣に居る…土田先生にも怒られないで、彼と一緒にベタベタ出来る… 「パラダイスじゃないか!」 「何を言ってるんだよ…ほら、起きて…」 ボサボサ頭の桜二がオレの背中を抱いて起こすから、脱力して彼に体を委ねた… 突然脱力したせいで、桜二の体がグラッと揺れてオレを抱えたまま倒れ込んだ。 「あ~、力を抜くなよ…」 そう言ってオレに覆い被さった彼のTシャツから、胸が覗き見えて…ドキドキする。 「…勇吾なら上手に抱えてくれるよ?」 そんな憎まれ口をきいて桜二を見あげると、彼はジト目でオレを見下ろして言った。 「…煽ってるの?」 とんでもない!ただ、事実を言っただけだ… オレは、彼のTシャツの胸元から手を差し込んで、胸を鷲掴みにして揉んだ。 「あ~はっはっは!おっぱい、おっぱい!」 「もう…最低だ…」 ぐったりと項垂れてオレに胸を揉まれる桜二…可愛い…! コトン…とダイニングテーブルに置かれた卵焼きを見つめて、足をばたつかせて大喜びする。 「うわ~!うわ~!桜二の卵焼き、焼きたてほやほやだ!」 そんなオレの様子に嬉しそうに微笑むと、桜二は向かいの席に腰かけて、ご飯を食べ始める。 「んん~~~!美味しい!これはお店が出せるレベルだ!」 毎日言っていた誉め言葉を、今日も彼に贈ると、桜二はウルッと瞳を潤ませて言った。 「シロ…お帰り…」 ふふっ! 「ただいま…」 オレは彼の元に戻って、いつもの生活を再び始める。 それは、一度、手を離してしまった兄ちゃんとの生活を元に戻したあの時よりも、何倍も、何十倍も、しっかりと自覚を持って、地に足の付いた…生活の立て直しだ。 「出掛けるときは連絡してね…あと、お店に行く時も連絡してね…」 「はぁい。」 オレはそう言って返事をすると、スーツ姿の素敵な桜二を玄関までお見送りする。 「素敵だね…セクシーで、色っぽくて…エッチだ。特に、お尻が良いね…?」 そう言って彼の体をサワサワと触って、べったりと体を寄り添わせると、桜二はオレを抱きしめて言った。 「全部、エロい事ばかりだね…」 「だって桜二は歩くセクシーだって…看護師さん達が言っていたよ?」 彼の顔を見上げてそう言うと、桜二は眉毛を下げて困った顔をする。 それが…また、可愛い… 「行ってきますのチュウして?」 そう言って彼に唇を向けると、ねっとりとエッチなキスをくれる。 ほらね?看護師のお姉さま方が言った通りだ。 桜二は歩くセクシー…間違いない。 「行ってくるね。」 そう言って玄関を出て行く彼に手を振って、久しぶりに1人取り残された彼の部屋に戻って行く。 ずっと在宅ワークだったから…必ず部屋に居たんだよね… 書斎を覗き込むと、既に会社用のパソコンは撤去されていた。 桜二…こんなんなった… そう言って体の痣を見せて…彼に無視された… あの日の事を思い出して、過去の事なのに…胸が痛くなった。 携帯電話に届いていた勇吾のメッセージを開いてみる。 “シロ、会いたいよ” そうだね…オレも会いたいよ… 桜二の書斎の椅子に腰かけて、勇吾に返信を書いた。 “勇ちゃんのくれたデンドロビウムは、桜二の部屋も良い香りでいっぱいにしてる。まるで勇吾が傍に居るみたい。だから、オレは寂しくないよ…。この香りを届けられたら良いのにね…” リビングに置かれた彼のくれた花は、書斎までも良い香りでいっぱいにしてる。 彼はあの花がオレみたいだって言ったけど、オレにはあの花が勇吾に見える。 可憐で美しくて…沢山の花を付けたデンドロビウム。 「あぁ…良い匂いでいっぱいだ…!」 書斎から飛び出すと、リビングの花の前に行って深呼吸をする。 胸の中にスッと冷たい良い香りが入って、体が綺麗になって行く。 オレはゆっくりと体を伸ばすと、花の前で、ストレッチと筋トレを始めた。 「今日は何色に染めましょうか?」 いつもの美容室で…次の髪色に悩んで頭を抱えた。 ハッキリ言って明るい髪色は…管理が大変なんだ。すぐに伸びた色が目立ってしまうし…リタッチする度に、頭皮に激痛が走るんだ… 「そうだなぁ…暗い赤にする。」 暗くても赤だもん。好きな色だもん。これは敗北ではない…一時の休息だ。 「カットは?いつも通りで良い?」 「…うん。ツーブロックで。」 桜二の好きなジョリジョリの復活だ。 脱色をしまくったオレの髪は、あっという間に暗い赤に染まった。 明るすぎず、暗すぎず、気に入ったよ? 美容室を後にして、スッキリとした襟足と、いつもの長さに揃えられた髪と、落ち着いた色になった髪色に、ホッとする。 桜二も髪を切ってくれないかな…? いや、でも…あれはあれで…良いのかな… う~ん… 久しぶりに自由に歩き回ると、少しだけ疲れて体力の衰えを実感した。 あんなに筋トレもストレッチもしたのに…やっぱり、持久力が落ちてるみたいだった。 息が切れて…呼吸が浅くなっていく… なんだ…? こんなに、疲れるような事してない筈なのに…おかしいな… 急に不安になって立ち止まると、道路の端に寄って携帯電話を取り出した。 “疲れちゃった…” そう桜二と依冬にメールをすると、どちらかが返信をくれる。 “どこに居るの?” “代官山” すぐに返信が来るのは、お迎えに来てくれる証拠だよね? …急に心細くなって…急に不安になって…早く、安心したくなった。 ”ちょっと、遠い…“ 依冬はそう言うと、それ以上、返信を寄越さなくなった… なぁんだ、もう! オレは仕方なくタクシーを停めると、桜二の部屋まで行き先を告げて椅子に深く腰掛けた。 疲れただけなのに…何故だろう。 目の前がクラクラし始めて…動悸で体が揺れ始める… 手を見つめると、フルフルと震えて冷や汗が滲んで出て来る… まずい…! タクシーの中で、ひとりパニックになると慌てて桜二に電話をかけた。 意外にも彼は仕事中にもかかわらず、すぐに電話に出てくれた。 「桜二…桜二…!!発作が起きた…!怖い、早く助けて…!」 あんなに何も無かったのに… 何もきっかけなんて無かったのに… 「…どこに居るの?」 「タ…クシー…」 落ち着いた声で桜二がそう聞いて来るけど…オレは気が動転して…上手く声が出せなくなった… そんなオレの様子を察してくれたのか…桜二が落ち着いた声で静かに言った。 「…シロ、運転手さんに、電話を代わって?」 後部座席で胸を抑えて息を荒くするオレを見て、丁度、タクシーの運転手が車を停めて心配そうな顔をして後ろを振り返った。 震える手で運転手に携帯電話を差し出すと、そのまま苦しくなってバタリと倒れた。 どうして… もう大丈夫なんじゃないの…? #桜二 会議中にシロから電話が掛かって来て…慌てて退席すると、彼の電話を受け取った。 あの人は仕事中に電話をかけてくる様な人じゃないんだ。 なのに、掛けて来た… それは、緊急事態という事だって…すぐに分かった。 「桜二…桜二…!!発作が起きた…!怖い、早く助けて…!」 切羽詰まったような声でそう言われて、頭が真っ白になった… 背中にひんやりと冷たい汗が流れて、携帯電話を持つ手から力が抜けそうになった。 これ以上彼が興奮しない様に深呼吸をして自分を落ち着かせると、いつもの様に落ち着いた声でシロに言った。 「…どこに居るの?」 電話口から荒い息遣いが聞こえて来て…固まった体がじりじりと焼けるように、痛い。 「タ…クシー…」 タクシー…? 俺はシロに落ち着いた声で、話しかける。 「…シロ、運転手さんに、電話を代わって?」 しばらくすると、電話口に知らない男の声が聞こえた。 「もしもし?お客さん、大丈夫ですか?もしもし…この人、倒れちゃいましたよ…?病院へ連れて行きますか?」 あぁ…彼は発作を起こして…失神してしまった様だ… 「…すみません、○○病院へ運んでください…そこの主治医に連絡を入れておくので…その病院へ運んでください…」 目から涙が落ちて…声が震える。 昨日…あんなに再起を喜んだのに…彼はまだ、病院に戻らなくてはいけないの…? せっかく、一緒に過ごせたのに… また…病院へ戻らないといけないの…? すぐに電話を切ると、土田医師に連絡をする。 「もしもし…結城です。シロが外出先で倒れて…。今、タクシーでそちらに向かっています。先生…シロは…また入院するんですか…?また、あんな風に…なってしまうんですか?」 縋る様に、泣き声混じりでそう言うと…土田医師は落ち着いた様子で言った。 「あぁ…やっぱり。…大丈夫ですよ。きっと、ちょっと…ビックリしちゃったんです。まだ1人で出歩くのは、早かったかな…?過剰に心配する事じゃないです。では…お待ちしてますね。」 やっぱり…? 土田医師は予測してたの…? だったら…言ってくれよ… 涙を拭って会議へ戻ると、午後の予定を全てキャンセルする。 これが終わったら…あの子の元に行こう… “シロが倒れて土田先生の病院に行った。” 依冬にそうメールして、会議が終わるのを待った… 急いで病院へ向かって、見慣れた駐車場に車を停めると、見慣れた車を見つけて安堵のため息をついた。 依冬…来てくれたんだ… 慌てて病院へ入ると、受付の女性に呼び止められて案内される。 シロが居たのは病室でも、ベッドの上でも無い…土田先生の部屋のソファの上だった… 「髪色、変えたね…?よく、似合ってるよ。」 シロを目の前に開口一番、俺が言った言葉はそれだった… 室内が唖然とする中、依冬がクスクス笑って言った。 「俺も…同じ事を言った…」 何て事だ…こんな事態でも、彼の見た目の変化を誉める事を忘れないなんて… まるで、融通の利かない下僕みたいだな。 「桜二…ごめんね…ビックリしたよね…?」 「良いんだ。大丈夫なの?」 ケロッとした彼を見下ろして、隣に座る依冬を見つめて首を傾げると、土田医師が言った。 「疲れて息切れして…一気に不安になってしまったみたいです。それで…」 それで…発作が起きたの? それでは…まるで…いつ爆発するか分からない爆弾を抱えている様なものじゃないか… これでは、いつも傍に誰かがいないと…ひとりじゃ何も出来ないじゃないか… 「桜二…桜二…」 途方に暮れて立ち尽くしていると、シロが俺の手を握って言った。 「ごめんね…ごめんね…桜二、ごめんなさい…」 自分でもどうしようもない事態を…またこの子は、自分のせいにして…自分を責めてしまう… 涙を堪える様に瞳を歪める彼の体を抱いて、よしよしと撫でてあげる。 小さく震える体から動揺が伝わって来て…胸が痛い。 「良いんだよ…謝らないで。お前が悪い訳じゃない…どうしようもない事なんだ…」 でも…どうしたら良いの… ずっと、一緒に居れる訳じゃないのに…どうしてあげたら良いの…? 俺は土田医師の顔を仰いで見ると言った。 「…どうしたら、良いですか?」 俺には予測も対策も立てられない… こんな風になってしまった人を、どうしたら良いのか? …分からないんだ。 「すぐに電話する様に伝えました。興奮したら、桜二さんか、依冬さんの声を聞いて落ち着かせてもらう…。これを繰り返して、自分の自由を取り戻すしかない。」 え…? そんな事で良いの…? 「…それで…大丈夫なの?」 腕の中のシロを見下ろすと、彼は首を傾げて言った。 「…分かんない。」 そうだよね…分かんないよね… シロと顔を見合わせてお互い首を傾げ合うと、彼が口を尖らせ始めるから、同じように尖らせてみる。 「ふふ…」 そう言って朗らかに笑う彼を見つめて、気付かれない様に鼻からため息を吐く。 どうしたものか… 「とりあえず、今日は俺がお店まで連れて行って、一緒に桜二の部屋まで戻るよ。」 依冬はそう言って早々に立ち上がると、手を差し伸べて言った。 「シロ、行こう?」 「うん…土田先生、またね?」 部屋を後にするシロの言葉に、ニッコリと笑顔を向けると土田先生が言った。 「診察は来週の金曜日だから、その時にどうだったか教えてね~?」 軽い… あんな風に意識が戻らない日々が続いたと言うのに…この医師は随分軽い調子だ。 「桜二さん…あまり深刻にするとシロ君が不安がるからこうしてますよ?」 俺の怪訝な様子が伝わったのか、土田医師はそう言うと小さい声で続けて言った。 「今度電話が掛かってきたら、慌てずに、落ち着いた調子で彼の感心がある事を話してみてください。気を逸らせるんです。あの不安を、動揺を追いかけさえしなければ、発作を起こしてしまう事も無いでしょう。」 …なるほど。 「今回は翻弄されてしまいましたけど、対処方法さえ分かればおそるるに足らない事だと本人が気づくでしょう。心が関係する症状の場合は、対処法や予防策よりも、本人の気づきが一番効果的で、重要なんですよ。」 土田医師はそう言うと、俺の背中をポンと叩いて言った。 「気長に…構えず、ね?」 言うは易しだな… 心配性の俺にとったら神経がすり減って行きそうだよ… 病院を後にして、依冬の車の前に佇むシロを見つめる。 「綺麗な色だね…」 そう言って彼の髪を撫でてうっとりとキスをする。 きっと…こんな経験を積んで行けば、シロがトラウマの発作に悩まされる事も無くなるんだ…。 今は、まだその過程なんだ。 「お店に行っても、絶対、踊らないでね…?」 敢えて発作の話はしない。 そう言って釘をさすと、シロの頬を撫でて反対の頬にキスをした。 「ふふ…しないよ?」 そう言って笑う彼を見下ろすと、依冬を見て言った。 「絶対、踊らせちゃダメだぞ…」 「分かってるよ。まだ本調子じゃないんだ…ちゃんと止めるよ?」 肩をすくめてそう言うと、依冬は自分の車にシロを乗せた。 慌てたんだ… また、入院なんてなったら、どうしようって…怖かったんだ。 俺に手を振る彼に手を振って依冬の車を見送ると、自分の車に戻って携帯電話を眺めた… 仕事、プライベート、兼用の携帯電話… 「これじゃあ…緊急事態が分からないじゃないか…」 そうポツリと呟くと、思い立ったように車を走らせた。 #依冬 「ビックリしたね?まさか、息切れだけであんな風になると思わなかったんだよ?」 助手席に座ったシロはそう言うと、俺の顔を覗き込んで言った。 「ビックリした?」 「ビックリしたよ。当然だろ?」 「…その時、どんな顔になった?」 全く… 俺はシロに見える様に驚いた顔をして見せてあげた。 「あ~はっはっは!もう一回して!もう一回してよ!」 腹を抱えて笑う彼の笑い声を聴きながら、アンコールを無視して言った。 時刻は3:50… 仕事の途中で抜けて来たから彼とお店に行く前に、まだ回らなきゃいけない所があるんだ… 「シロ?お店に行く前に、何件かお仕事の為に寄らなきゃダメなんだ。一緒に付いて来て?」 「わ~い!」 両手を上げて喜ぶこの人は…外回りの営業に向いてるのかもしれない… 暗めの赤に髪を染め直したシロは、見慣れていないせいか…やけに落ち着いて見える。 「起きた時、頭痛はした?」 「しなかった。」 窓の外を眺めてそう言うと、彼は駐車場を目で探し始める。 「依冬?車を路上に止めちゃダメだよ?緊急車両が通れなくなって…誰かの大事な人が死んじゃうからね?」 ふふ…タイムリーだな… 「分かったよ。ちゃんと駐車場に停めるよ。」 クスクス笑いながらそう言うと、外回りの営業みたいに取引先へと向かった。 会社の経営や財務、難しい事をあれこれ考えるより、こうして動いてる方が…俺には向いてるんだよね。 6:40 三叉路の店にやって来た。 「依冬は社長さんなのに、何であんなにぺこぺこするの?ふんぞり返って足の裏を舐めさせるのが社長の仕事だし、お前にはそっちの方が似合ってるのに…」 どういう事だよ… ジト目でシロを見つつ、彼の頬を撫でて言った。 「久しぶりだね…?緊張してるの?」 店の前に着いたのに、一向に車から降りようとしない彼に尋ねた。 「…ちょっと、怖い。」 伏し目がちにそう言うと、俺の手を握って顔を上げた。 「…一緒に来て?」 可愛い… 「あたり前田のクラッカーだよ。」 おどけてそう言うと一足先に車から降りて、助手席のドアを開いてあげる。 「ワクワク…」 俺がそう言うと、彼は俺を見上げて吹き出して笑って言った。 「可愛い…。依冬は擬態語マスターだね?」 まぁ…彼以外の人にする事は無いだろうけど…俺は擬態語マスターになった様だ。 エントランスのドアを開けると、支配人さんがシロを見つめて目じりを下げた。 それはうるさくない、静かで穏やかな歓迎だった。 「シロ…」 嗚咽混じりの声でそう言うと、彼の体を抱きしめてシトシトと涙を落としていた… 「…ごめんね…沢山、休んじゃった…」 「き、き、気にするな…お、お前には…これからもジャンジャン稼いで貰うんだから…気にするな!」 まるで優しいお爺ちゃんみたいに泣きながらそう言うと、彼の頬を両手に包み込んでモミモミ揉みしだいた… 「あぁ…痩せたな…痩せちゃったな…。たくさん食べて、頬っぺたに肉を付けて、俺の両手を満足させてくれよ?これじゃあ、オナニーも出来ないよ。」 …最低だな。 さっきまで感動的な再開シーンだったのに、一気にスケベジジイへと滑降していくこの人は何なんだろう… シロは慣れた様子で支配人のセクハラをいなすと、階段から駆け上がって来る楓さんに飛びついて抱きついた。 「楓~!」 「シロ~~!」 そんな二人の様子を見ながら、グスグスと鼻をすする支配人さんが俺の肩を叩いて言った。 「ご苦労様…大変だったな…。もう一人の彼氏にも、よろしく伝えといてくれよ…」 大変…? あぁ、大変だった… 俺は外っ面を向けてぺこりと頭を下げると、シロに手を引かれて店内へと連れて行かれる。 「シロ~~~!お帰り~~!」 彼を見る度に方々から声がかかって、俺はその度に涙を流して喜ぶ人を見た… 良かったね、シロ。 みんな待っててくれたんだ… ジンと胸が熱くなるのを感じて、目頭が熱くなってくる。 シロは俺の事を感性が死んでるって言うけど…この状況を十分、感動する心はあるみたいだよ? 「依冬?みんな元気だったね?」 そう言ってカウンターに座ると、シロは満面の笑顔を俺に向けて言った。 「良かった!」 可愛いな… そっと彼の髪を撫でると一緒になって笑って喜んだ。 「オレはね、しばらくアルコールを摂取していなかったから、ビールじゃなくてオレンジジュースを飲もう。」 シロの言葉に、マスターがオレンジジュースをグラスに注いで出すと、少しだけレモンを絞って入れた。 「どうぞ?」 そう言ってシロににっこりと笑いかけるマスターも、やっぱり少し涙ぐんで見えた… 「シロ~~~~!」 開店の時間を迎えた店内には、前と変わらず、続々とお客さんが入り始めて、シロを見つけた常連さんが彼の元に駆けよって来る。 そして…やっぱり涙を流すんだ… 「もう!黙ってバカンスなんて行くなよ!寂しかったんだから!うえ~~ん!」 ガチ泣きする常連のお客さんを宥めながら、シロはニコニコ笑顔で言った。 「明日からステージに戻るから、チップ弾んでよ。」 は…? 俺は唖然とした顔を彼に向けて固まってしまった。 明日から? いつ決めたの? 頭痛は緩和されたけど、まだ発作が起きて気絶しかねないって言うのに… この人は…一体、何を考えてるの? 「髪も染め直したし、新しいオレをお届けできるよ?でもね、しばらくポールに上ってなかったから、ちょっと練習してくる~。」 え…? 咄嗟に、颯爽と椅子から降りようとする彼の腕を掴んで、引き留めた。 「シロ…桜二に言われただろ?」 俺が怒った声でそう言うと、彼は俺の頬を撫でてニヤリと笑って言った。 「…依冬~、ただの練習だよ?」 全く! こうなるんだもんね…嫌になっちゃうよ。 「…強制退場したいの?」 彼の瞳を真剣に見つめてそう凄むと、シロはちょっとだけ困った顔をして黙ってしまった… こんなに、強く言う事…無かったかな…? 落ち込んじゃうかな…? 感性の鈍い俺は一生懸命先回りして彼のっ気持ちを読もうとする。でも、シロは俺の顔を見つめたまま眉毛を上げたり下げたりし始めて、遊び始めた… 「…笑わないからね…」 ひと言そう言って彼を席に座らせると、オレンジジュースを手に持たせて飲ませる。 このお店はいわば、彼のホームグラウンド… ここに来ると気持ちも大きくなるのか、いつもの無敵のシロモードになってしまった… 「大変だね…」 ポツリと俺にそう言ったマスターの声に、思わず前のめりになって言った。 「本当に、そうなんです!この人は全然人の言う事を聞かないし、あんな風に大変な思いをしたにもかかわらずね、ケロッとして舌を出して、見て~?フランケンだよ~?って言って、ディープキスなんてしてきてね…本当に…、あの時は…ここにだって、戻って来れるか…分からなかったんだ…。」 今まで溜まっていたのか…シロが激しい発作を起こして、入院して、意識が戻らなくて…駆け抜ける様に過ぎて行った怒涛の時間を思い出して…不覚にも涙が止まらなくなった… 「依冬…」 細い体を目いっぱい使って俺を抱きしめると、シロは俺の背中に頬を付けてクッタリと甘える様に頬ずりをした。 良かった… また、こうして…この場所に戻って来れて…本当に、良かった… 「シロ…少しは彼氏の気持ちも汲んで…もう少し復帰は後にしなよ。きっと、支配人も首を縦には降らないだろうし…。しばらくはウェイターのお仕事か、支配人のオナニーでも手伝ってあげな…」 マスターはそう言うと、俺にピーナッツをサービスでくれた… 「ごめんね…この子、わがままなんだ…」 そう言って肩をすくめるから、思わず吹き出して笑った。 ここは、シロにとったら…実家みたいな場所なのかもしれない… だから、俺と桜二はここに来ると、少しだけ…緊張するのかもしれないな…ふふ。 「依冬?ちょっとだけ上るなら良い?」 「ダメだよ…でも、明日なら良いよ。」 可愛らしい顔で、え?…と、喜ぶ彼を見つめて、幸せを感じる。 桜二の許可も取っていないのに、俺は勝手にそう言って彼の笑顔を独り占めした。 #桜二 「たっだいま~!」 11:00過ぎ…やっとシロが帰って来た… 俺はてっきり、顔を見せたらすぐに帰ってくると思ったんだ。 「遅かったね!」 ダイニングテーブルに座って勇吾のインタビュー記事を読みながらそう言うと、彼の後ろから金魚のフンの様に付いて来た依冬が、へらへらしながら言った。 「お客さんがシロと話したがって…こんな時間になっちゃった…あはは…」 あはは…?あははじゃねんだよ? 「桜二は寂しかったんだよね~?ふふ、オレの事が大好きだから、片時も離れたくないんだもんね~?」 ご機嫌なシロがそう言いながら俺の膝に座って来るから、彼の細い腰をガッチリホールドして捕まえた。 背中にスリスリして寂しかった気持ちを和らげると、ジト目で俺を見つめる依冬に言った。 「これ…お前も首から下げるんだ。」 「何これ…」 「しばらくの間…これを付けて過ごそうと思う…」 それは子供用の”見守り携帯“… 操作も簡単で、発信者も着信する側も固定する事が出来る。そして、緊急時には防犯ベルにもなると言う優れものだ… 仕事の電話もかかって来るし、プライベートのメールもやり取りする、そんな自分の携帯電話では、彼の緊急の連絡を取り損ねる可能性がある… 俺はそんなへまはしたくないんだ。 彼が求める時に、すぐに、いち早く、電話に出てあげたいんだ。 だから、これを買ってきた… 「わぁ…オレは何色?」 そう言って3つ並べた”見守り携帯”を手に取ると、シロは俺を振り返って言った。 「…水色が良い…」 「色なんて関係ないだろ?首から下げる理由は何だよ。」 依冬はそう言って、俺のカワイ子ちゃんの話を途中でぶった切る。 こいつはいつもそうなんだ…全く。 「シロは、水色で良いよ?」 俺はそう言って彼に水色の“見守り携帯”を渡すと、口を尖らせて返答を待ってる依冬に言った。 「こんなに小さいんだ、鞄やポケットに入れたら気が付かないだろ?だから、首から下げるんだ。」 「俺は胸ポケットに入れる。そうしたら震えて気が付くだろ?」 「前屈みになってたら分からないだろ?なんだ、恥ずかしいのか?見た目ばっかり拘って、大事な目的を忘れちゃダメだ。これは、シロの緊急事態をいち早く知るための方法なんだよ?」 膝の上からシロが退いて、ソファに寝転がりながら”見守り携帯”を弄る中、分からず屋の依冬と、少し激しい言葉のやり取りをする。 「見た目に拘ってる訳じゃない。ただ、ブラブラと首からぶら下げるのも…エレベーターに挟まったら危険じゃないか…?」 何だと…? 依冬の屁理屈に俺は眉を下げると、目の奥をギラつかせて言った。 「じゃあ、お前は社員証も胸ポケットに入れろよ。今後、一切、首から下げるものを全て胸ポケットに入れろよ。」 「…良いよ?」 はは! お前の胸ポケットはすぐにパンパンになるぞ? 「…分かった…」 俺は彼の胸ポケットがパンパンになった所を想像して、笑いが込み上げるのを我慢しながらこの話を終わった。 「桜二?設定して~?」 そう言って甘えて来るカワイ子ちゃんの所に行くと、一緒に”見守り携帯”を設定する。 「桜二?依冬の胸ポケットはすぐにパンパンになりそうだね?」 そう小さい声で耳打ちすると、俺の目を見つめてクスクス笑う。 …可愛い 「あっ!発作が起きそうだ!そうなったらどうするの?」 俺がそう言ってシロを見つめると、彼は首からぶら下げた水色の“見守り携帯”のボタンを押した。 すると、俺の首からぶら下げたピンクの“見守り携帯”が震えて、着信を知らせる。 「はい、もしもし…」 「ふふ…つながったね?」 そう言って微笑む彼を見つめて、もう一度、今度は繋がらなかった場合を想定して練習する。 「あ!発作が起きそうだ!」 シロはキャッキャと笑いながらそう言うと、今度は違うボタンを押した。 胸ポケットから”見守り携帯”を取り出すと、依冬が着信を受け取って言った。 「もしもし?」 「ふふ!依冬にもつながった!」 依冬に抱きついて甘える彼を見つめながら、胸ポケットに入れるのも悪くないと…思い始める。 確かに、震えたらすぐに気が付くだろう… わざわざ首から下げる理由は何だ…? 「桜二?お揃いの首から下げるストラップを買おう?」 シロがそう言って俺の両手を繋ぐから、俺はコクリと頷いて答えた。 首から下げる理由が…今、出来た。 彼の症状が落ち着くまで…彼が、発作なんておそるるに足らないと自覚するまで… この”見守り携帯“で乗り切ろう… 「依冬~帰らないで!一緒に住もうよ~!離れたくない~!」 そう言って依冬の腕を掴んだまま引きずられて行くシロを見つめる。 きっと、来年の今頃は…もっと自由になれる筈なんだ。 彼のお兄さんだって望んでいなかったこんな事態から…抜け出せる筈なんだ。 「桜二?依冬が帰っちゃった…悲しいよ。」 「俺がいるだろ…?」 やっと独り占めできるんだ。そんな事言うなよ… 彼の頬にキスすると、彼を体に包み込んで浴室まで行く。 「さぁ…お風呂に入って寝よう…」 入浴剤の箱を彼に手渡すと、自分の服を脱いで彼の服を脱がせる。 手を繋いで浴室に入ると、彼が浴槽に入浴剤を入れてる後姿に、興奮してくる。 「シロ…」 スベスベの肩にキスをして舌を這わせると、彼の首筋をそのまま舐め上げる。 「んふ…桜二ったら、エッチだね…」 そう言って俺の体から離れると、フワフワのスポンジを手に取って言った。 「洗って…?」 それは甘えん坊の“洗って?”じゃない…大人の色気を帯びた“洗って?”だった。 俺は鼻の下を伸ばしながら彼のスポンジを手に取ると、いやらしく丁寧に体を洗ってあげる。 「あぁ…シロ?こんな所に可愛いものがあるよ?何だろう…?触っても良い?」 彼の背中にペッたりと覆い被さって、彼の胸を撫でながら洗うと、ピンと立った彼の乳首を指先で優しく撫でて回した。 「あぁん…、もう…エッチ…!」 そう言って喜ぶ彼の唇にねっとりと舌を入れてキスをする。 可愛い…可愛くて、堪らない。 「シロ…我慢できないよ。良いだろ…ちょっと、先っぽだけ…入れても良いだろ…?」 舌先に触れる彼の一部分だけざらついた舌が、堪らなく色っぽくて、どんどん息が荒くなっていく。 細い腕が俺の体に触れる度に、もっと締め付けて自分の体に沈めてしまいたくなる… 「桜二…大好き…」 うっとりと瞳を潤ませる彼の目を見つめて、この子がおじいさんになっても一緒に居たいと思った… 何よりも大切で、何よりも優先するべき人…俺の糧であり、俺の全て。 きっと、この人のお兄さんも…そう思っていたに違いない。 だって、彼と俺は似ているからね… 「ふふ…ねえ?桜二?先っぽだけ…入れても良いよ?」 ホント? 「え…本当に?良いの?嬉しいな…じゃあ、お言葉に甘えて…」 彼の体を抱きかかえたまま、彼の可愛いお尻に手を滑らせると、彼の中に指を入れて行く… 体を仰け反らせて、快感を感じる背中に何度もキスして、暗い赤になった彼の髪に顔を埋めて行く… 「あっ…んん…桜二…気持ちい、良いの…ふっあぁ…」 可愛く喘いで腰を揺らすカワイ子ちゃんにもっと気持ち良い事をしてあげる。 彼の良く仰け反る体を自分の体に沿わせて頭を掴ませると、泡まみれの体を撫でる様に、お腹から順番に手で洗ってあげる。 「はっ…あぁ…ん…」 吐息と喘ぎ声を口から漏らしながら、彼の敏感な体がビクビクと跳ねる。 …可愛いんだ、堪らない。 乳首の周りで一周ぐるりと指を滑らせると、ツンと立った彼の乳首を摘まんで、優しく弄る。 「あぁ…!桜二…!あっああ…ん…」 この子はとっても敏感で、乳首だけでもイッちゃうんじゃないかってくらい、性感帯に溢れてる。 気持ちよさそうに首をうなだれて、ビクビクと震える彼の背中に舌を這わせると、自分のモノを彼の中に押し込んでいく… 「あっああ…!桜二!桜二!気持ちい…!」 そうでしょ?知ってるよ… シロは、俺の体が一番好きだって…知ってるよ? 「どう…?先っぽだけだけど…気持ちいい?」 彼の耳元でそう言うと、先っぽどころじゃない、根元までガッツリ入れたモノをゆっくりと動かす。 彼の口端が上がって、喘ぎ声に笑い声が混じって、肩が揺れても、俺はとぼけながら言う。 「先っぽだけだけど…満足させられるかな…?」 「ん、もう…!嘘つき…!」 そう言って振り返る彼にキスして、抱きしめて、腰を掴んで、自分の為だけに彼を気持ち良くしていく… 腕の中のシロがフルフルと快感に震えて、トロけた瞳で俺を見つめるから…俺は彼を見つめたまま、腰をねっとりと動かしてあげる。 「気持ちいい?」 首を傾げてそう聞くと、にっこり笑いながら喘ぐんだもん… これは反則だよ… 俺は彼の笑顔に弱いんだ… 「あぁ…!シロ、イキそうだ…」 腰を引いてそう言うと、彼は俺の腕を掴んで言った。 「来て…もっと、もっとして…!」 …はぁ、可愛い 玉砕覚悟で流れ弾の中を彼の元へ向かう気持ちだ…ふふ。 いつ死んでも(イッても)おかしくない… そんな快感の中、止めることなく、彼の為に腰を振る。 「あっああ…!桜二、イッちゃう…!イッちゃうよ…!」 堪らなく可愛いんだ 両手で抱きしめて、彼を腕の中にしまって、一緒に気持ち良くなっていく… 「イッて良いよ…シロ…」 俺がそう言うと、彼は俺の腕の中で腰を震わせてイッた… その表情が、堪らなく…良いんだ…! 短く呻くと、俺も彼の中でイッてしまった。 どうやったって…こんなに愛しくて可愛くて、堪らない人、他に見付ける事なんて出来ないよ。 「ふふ…桜二の気持ち良かった…」 そうだろ…シロは俺が大好きだからね… 「シロ…愛してる。」 彼を抱きしめて、熱心にキスして、甘くてトロける彼に愛と服従を誓うんだ。 俺は彼のもの… ジジイになって死ぬまで…それは変わらないんだ。 彼のお気に入りのパジャマを着せて、ベッドに寝かせると布団をかぶせてあげる。 ふと、何かを思い出したかの様にモゾモゾとうつぶせになると、枕もとの携帯電話を手に取ってシロが言った。 「そうだ…大塚さんに教えてあげないと…オレ、明日からお店で支配人のお手伝いするんだ…」 は? 口を開いたまま彼の隣に寝転がると、携帯電話の光に照らされる彼の頬を撫でて聞いた。 「…明日から?」 「うん…だって、いつまでも休む訳に行かないよ。首になっちゃう。」 そんな事…変態のジジイが言う訳無いよ… 「…そう。ちゃんと“見守り携帯”首から下げるって、約束してね…?」 「ん、分かった!」 返事だけは一丁前なんだ。 でも、シロも早く復帰したいんだろう… それを尊重してあげないと… なにより、俺もステージで踊る彼を早く見たいって言うのが、本音かな。 「メールしたの?」 「うん。明日からお店に居るよってメールした。」 そう言って俺の体にくっ付くと、わき腹に顔を埋めて擦り付けて甘える。 これが…彼の眠る前の特徴的な行動だ… 「…お休み、シロ。」 「ふふ…お休み、桜二。」 #シロ ふと、目が覚めて…目の前の桜二の寝顔を見つめる… 子供みたいに穏やかだ。 長く伸びてしまった髪を撫でて、彼の鼻先を自分の鼻先で撫でた。 「…起きるの早くない…?爺さんみたいだよ…?」 目を瞑ったまま桜二がそう言うから、オレは何も答えないで彼の唇にキスをした。 彼よりも早く起きて、眠りこける彼に覆い被さっていく。 「桜二…寝てるの?可愛いね…?」 そう言って彼の体の上に乗ると、真上から見下ろしてクスクス笑う。 「…まだ、5:00だ…早すぎる…」 そう言ってごねる彼を無視して、オレはベッドから降りると”宝箱”を取り出して再びベッドに乗っかった。 蓋を開いて、兄ちゃんの手紙を開いて読み始める。 前の様に…胸が痛くなるのは変わらないけど、前の様な、罪悪感を感じなくなった… 「蒼佑…愛してるよ…」 そう言って、兄ちゃんの写真を眺めて胸に押し当てた。 不思議な事に、涙も、後悔も、抱かなくなった… 「自分のせいだなんて思うのは…失礼だ…。兄ちゃんの生きた、証なんだ…」 土田先生の言葉をつぶやいて、深呼吸する。 目を瞑って…小さい頃の自分を思い出してみる。 それは、兄ちゃんと一緒に宝箱に包装紙を張っている時の…5歳のオレ。 手にはウサギのぬいぐるみを抱えて…楽しそうに兄ちゃんの手元を覗き込んでる。 じっと…部屋の隅から様子を伺ってると、視線が反れていつの間にか兄ちゃんを見つめてる… あぁ…兄ちゃん…甘えたいよ。 制服姿のまま、オレと一緒に遊んでくれる…優しい兄ちゃん。 「にいちゃん?ここにね…大事なシール入れるの…」 たどたどしく兄ちゃんに話しかける幼い頃の自分の声を聞きながら、そんなオレに優しく微笑みかける兄ちゃんにそっと触れる。 「シロ…?」 突然体を揺すられて目を開くと、心配そうにオレを見つめる桜二と目が合った。ボサボサの頭をそのままに、眉毛を下げて聞いて来る姿は”歩くセクシー”とは程遠い… 「…どうした?」 オレの頬を持ち上げて顔をじっくりと見つめる彼に、にっこりと笑って教えてあげる。 「ふふ…土田先生に言われた…小さい頃の自分を思い出して、抱きしめるって奴をしていた…。でも、どうしても…兄ちゃんを見つめてしまうんだ。どうしてだろうね…?」 頬を撫でる彼の手のひらにそっと自分の手をあてると、そのまま彼の胸に顔を埋めてため息をついた。 「…何、してる所を想像していたの?」 「え…?」 桜二の低くて良く響く声が彼の胸を振動させて、耳の奥まで響いて来る。 「”宝箱”に包装紙を貼ってる所…」 オレがそう言うと、頭の上で桜二がクスクス笑って言った。 「本当に…仲がいい兄弟だね…」 「うん…」 短くそう返事すると、彼の腰を抱きしめてギュッと体に埋まっていく。 初めてやった時よりも、自分を見ることが怖くなかった… つい、兄ちゃんに目が奪われてしまうけど…それでも、初めの時に比べると進歩した気がする… 「オレはね…楽しそうだったよ…」 そうポツリと言うと、桜二は優しくオレの髪を撫でてくれた。 桜二の朝は忙しい。 彼は会社に10:00に到着しなくてはいけない。 車通勤なのに必然的に朝の渋滞に巻き込まれるから、それらも加味して9:00には家を出たいところなんだ。 だから、6:00に起床すると、顔を洗いながら洗濯を開始して、朝ごはんの準備を始める。 「桜二?卵焼きは十二単くらい重ねてね?その方がサクッと歯ごたえが良いんだ。」 こんなオレのわがままな要望にも応えて、彼はそつなく朝のタスクをこなしていく。 「シロ…洗濯物終わったから…乾燥機に入れて来てよ…」 慌ただしくお味噌汁を作る桜二に言われて、オレはソファを降りて彼の傍まで行くと、元気に言ってあげる。 「嫌だ!絶対やらない!」 「もう…!」 これは、わざとだよ? 甲斐甲斐しく世話を焼きたい桜二に協力してあげてるんだ。 ここでオレが自立なんて始めたら、彼のする事が無くなっちゃうからね? どんどんと整い始める朝のダイニングテーブルを眺めて、ウキウキしながら椅子に座ると、お茶碗に盛られたご飯を受け取っていただきますをする。 「んふ~~!桜二の卵焼きは最高だ~~!やっぱり、お店を開くべきだよ?オレが接客をしてあげる。店の名前はね“桜ちゃんの桜印の卵焼き”だよ?一個700円で売ろう?そうなると~…1パック12個入りの卵を250円で仕入れたとして、3個卵を使うから…60円の元手で…640円の儲けが出る!それを1日に100個売れば…64000円の儲けだ!」 「割に合わないね…そんな金額…シロの店に行ったらすぐに消え去るよ。」 マジか… 支配人、結構取ってるんだな… 「いつも幾らくらい使ってるの?」 「え~…野暮だな。」 そう言ってご飯をモリモリ食べる桜二に首を傾げて言った。 「だって、桜二はチップくれないじゃん。ケチくそだから…自分の飲み物代だけでしょ?3万円も行かないだろ?」 「はっ!あの支配人は、俺からシロの指名料を取ってるんだよ?きっちり時間通り、シロが俺の隣に居る限り、指名料を取り続けてるんだ。」 なんと! 「…それは、知らなかったよ。ほほほ…」 オレのチップだって、換金する時に2割ぐらいお店に引かれてる… あいつ…本当に、銭ゲバジジイだな… オレは眉を上げると嫌な顔をしながら首を横に振った。 ああはなりたくないね…

ともだちにシェアしよう!