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第33話

#勇吾 疲れた… でも、今日やる事は全部やったぞ… 時刻は深夜の2:00…最近いつもこんな時間だ… 帰って来られるだけありがたいのか。 スタッフの中には泊まり込みしてる子もいる。 あのホールでオーケストラと共演してみて分かった事…微妙に音とダンサーの動きがズレて行く… はぁ…何でだ… 問題にぶつかったよ…シロ。 オーケストラの演奏でセンターのダンサーがソロで踊るんだ。でも、ちょっとずつズレて行く…それが気になって仕方が無いんだ。 一番の見せ場なのに…お前ならズレずに踊りきれる? ファンタジア効果なんて上手い言い方していたね。 音楽と動きがピッタリと合って…場が引き締まるんだよ。 俺もそれがしたいんだよ… こんな時、お前ならどうするの…?シロ… 玄関を開くと床に散らばった郵便を片手で回収する。 「ん…」 見慣れない封筒を手に取って、部屋の明かりをつける。 「あぁ…!」 それは愛しい彼からの…ラブレター…!! 「シロ…ふふ…あぁ、嬉しい…!俺に手紙をくれたの…?シロ…嬉しいよ…」 水色の封筒を胸にあてて、彼が触ったであろう封筒に頬ずりをする。 ほのかに良い香りがして、口元が緩んでいく… ペーパーナイフで開いて、中から零れる赤い物を手のひらで受け止める。 「ふふ…シロ…お前ってやつは、本当に可愛い奴だ…。可愛くて、おかしくなっちゃうよ…こんなもの、一緒に入れるなんて…」 それは真っ赤なバラの花びら…空輸のせいか少し枯れてるけど、封筒の中からバラの香りが溢れて来る。 「素敵だ…」 込み上げる涙が止まらなくなって、ソファに座ると体を屈めて嗚咽を漏らす。 「うっうう…シロ…可愛い奴め…勇ちゃんを泣かせて…全く…ひっく…ひっく…」 ひとしきり泣くと彼の書いた手紙を開いて…内容を読んでいく… 「拝啓?お日柄も良く?ふふ…なんだこの文。ふふふ、あはは!あははは!」 さっきまで枯れすすきの様にカサカサになっていた体が、息を吹き返したように力がみなぎって来る。 変だね… 「あぁ…シロにはアンナカレーニナはまだ早かったのか…。でも、ペレアスとメリザンドなんて知ってるのは意外だったね…ふふ。彼は常連客のうんちくの受け売りがあるからな…博学なんだ。侮れないんだ。ふふ…」 手紙を貰ってこんなに嬉しいなんて…知らなかったよ。 「シロ…会いたいよ。愛しのジュリエット…」 今なら、俺は…ロミオとジュリエットを、誰よりも悲しく演出できる自信がある… クライマックスに向けて、涙無くしては観れない位に盛り上げる自信があるよ。 身を焦がすとはよく言ったものだ…俺の胸は焦げ付いて燻ってる。 「シロ?赤いバラの花びらなんて入れて…ロマンチックじゃないか。勇ちゃんを誘ってるの?花言葉を知ってる?ふふ…あなたを愛していますだよ?ふふ…ふふふ…!」 デレデレとデッサンのシロの前でデレると、時計を確認して携帯電話を耳にあてる。 呼び出し音を聞きながら、ニヤける口元をそのままに目の前のシロを見つめる。 「もしもし?勇吾~?」 そんなシロの声を聞いて、涙がボロボロ落ちて来る。 「ふ…ふふ…シロ?お手紙、届いたよ?ありがとう。」 俺がそう言うと、電話口の彼はクスクス笑って言った。 「ふふ、良かった…ねえ、勇吾?バラの花びら…枯れてなかった?」 可愛い奴。 鼻をすすりながらゴロンとベッドに寝転がると、あの子の声だけ耳に届く様に、目を瞑って言った。 「枯れて無かったよ…とっても良い香りがして、素敵だったよ。」 「ふふ…!良かった!」 楽しそうにそう言う彼は、少し考える様に黙ると俺に言った。 「ねえ?勇吾…?オレね、上手に踊れなくなっちゃった…。前は何も考えなくても踊れたのに…まるでやり方が分からなくなっちゃって…戸惑ってる。大塚さんはスランプだって言った。支配人は壁を乗り越えたから…見え方が変わっただけだって言った。でも、どの人の言葉もピンとこないんだ。勇吾は…どう思う?」 あぁ…そんな大事な事、俺に聞いてくれるの?嬉しいよ、シロ。 「そうだね…その二人の意見はもっともだね…でも、温い。後が無いと思って自分を追い詰めろ。泣きながらでも、必死に繰り返しやって、体に無理やり思い出させろ。お前が踊れなかったら、俺は誰の為に演出をするんだよ…。そうだろ?俺の為に早く踊れるようになるんだ。ステージに立たないシロは、シロじゃない。そうだろ?」 俺がそう言うと、彼は電話口で押し黙ってしまった。 長い沈黙の中、耳に微かに届く彼の堪えた様な泣き声を聞いて、口元が緩んでいく… あぁ…ごめんね。 厳しい事を言ってるよね?知ってるよ。 でもね、待ってるだけじゃその状況を抜け出せないって…俺は知ってるんだ。ぐちゃぐちゃに迷走して、悩んで、苦しんで、やっと指の先に抜け出せる手がかりが、掠めて通り過ぎて行く。それをどうするかは、その時の自分の底力次第。 お前なら…大丈夫。 シロ…愛してる。 深呼吸するような息遣いが聞こえると、途切れ途切れにシロが言った。 「…勇吾の…言う通りだ…うっ…うう…ステージに立たないオレは…オレじゃない…」 ね…? 素直で、純粋で、強い子なんだ。 「そうだよ、お前なら出来る。大丈夫。でも、もっと必死になれ。安穏としたらダメだ。思い出そうとするんじゃなくて、体に染みついてるものを信じて、止まらないで、思い切りやるんだ。」 「うっうう…う分かったぁ~!」 電話口で大泣きを始める彼の涙声を聞いて、笑いながら、グスグスと泣く… 「シロ…?勇ちゃんもお前に聞きたい事があるんだ…」 泣き声が止まらない彼に、優しい声でそう言って話しかける。 「ファンタジア効果の…コツは…?ズレないで合わせるコツを教えてよ…」 俺がそう言うと、電話口のシロは鼻をすすりながら言った。 「…グスン、何度も…音楽を聴く事…全て、覚える事。グスン…」 「アドリブ有りの生演奏の場合は…?どうしたら良いと思う?」 彼の的確な答えに、前のめりになって続けざまにそう聞いた。 「…ファンタジア効果を出したい部分の手前から…楽譜通りのテンポと、楽譜通りの強弱で演奏してもらう。ダンサーに覚えさせた曲と全く同じにしてもらえば…ダンサーは演奏に気を取られないで…ファンタジア効果を生み出せる。」 あぁ、なるほどね…その手があったか… 「ふふっ!そうだな…お前の言う通りだ!さすが、俺のシロだ…!それでやってみよう!そうか…あの子は演奏に気を取られていたんだ…だから、ワンテンポ、ズレて…。あぁ、なるほど…!」 腑に落ちた。 そして、彼が思った通りにタクティカルだと分かった。 賢い子だ… 勉強が出来るだけの死んだ賢さじゃない。生き抜くための生きた賢さを持ってる。 痺れるね…シロ。やっぱりお前は、最高だ。 「ふふ…嬉しい…解決した。シロ?勇ちゃんに、ねんねのお歌を歌ってよぉ…」 目の前の彼を見つめながら甘ったれると、電話口の彼はクスクス笑って俺の為にネバ―エンディングストーリーを鼻歌で歌い始める。 毎回これだ!ふふっ! 同じ所をループして何度もふんふん言ってる彼の声を聞いて、嬉しくて涙を落とす。 「シロ…お休み…」 瞼が落ちて…ふんふん言い続ける彼の声を耳で聞きながら、まるで隣に居てくれる気がして安心して眠りについた。 #シロ 「…勇吾?勇吾?寝たの?」 寝落ちした…? ふふっ!おっかしいの。 電話を切ると、勇吾に言われた事を思い出してポロリと涙が落ちた。 「必死にならねば…」 シロ、このままで終わりたいの? オレは、嫌だよ。 もっと…上手になりたいんだ。 そして、勇吾の隣に立って彼が満足するような踊りを魅せてあげたい。 耳にイヤホンを付けると、俺の大好きなハードなロックを大音量で頭の中に送り届ける。 この振動と、この興奮を、ポールの上で再現するんだ。 体に沁み込んだ物を信じる… クヨクヨしないで…落ち込む時間があるなら必死に食らいつけ。 甘ったれんな!シロ! ハードロックの激しいシャウトを聞いて胸の中がフルフルと震えて来る。 そうだ、まるで曲が憑依した様に体が勝手に動くんだ。 昨日だってそうだった… オレは忘れていない。 どうやって踊るのか…頭では分からなくても、体はしっかりと覚えてるんだ。 それを信じる。 なぜなら、それが糧になる様に…しっかりと積み上げて来たんだからね。 筋力や、柔軟性、体はキープ出来てる。 問題は気持ちだったんだ。 安穏とした平和な頭の中は、オレから攻撃的で挑戦的な要素を奪ってしまった。 それじゃあ攻められないんだ。 ゆったりと体を伸ばしてストレッチしながら、目の奥を燃やして行く。 あの時…10日間の長い眠りのクライマックスで見た様な…見事な復帰を果たしてやる。 首から下げた“見守り携帯”をステージに置くと、耳にワイヤレスのイヤホンを付けてテープで固定する。音楽を選んで再生させると、目の前のポールに両手をかける。 一つ一つのポーズも、技も、美しく出来るんだ。 問題はそれらをどのように繋いでいくか… そんな事、以前は何も考えなくても出来ていた。 でも、今は考えて…尻込みして、体の動きが止まってしまう。 考える事がいけないんだ。 だから…オレは自分を信じて、考えることを止める。 ごちゃごちゃ考えないで…体が動くままに…踊ってみる。 いつもよりも早めに店を開けさせられた支配人が不機嫌な顔でオレを見上げる中、ただひたすらにポールに掴まって回る。 「くそっ!」 考える事を止めることが難しくて、イライラしてくる。 自分の状況も、環境も無視して、頭の中を真っ白にして…体の動くままに…ポールを踊れたら良いのに… まるでセックスするみたいに…何も考えなくて、真っ白になって、体が求めるままに、体を動かせたらいいのに。 あっという間に従業員たちが出勤してくる時間になって、支配人がオレを見て腕時計をトントンと指で叩く… 掠りもしない、手ごたえすらない。 「クソったれ…」 ポツリとそう呟くと、自分の荷物を持ってカーテンの奥へと退ける。 「シロ?おはよ~!」 「ん。」 鏡の前でメイクをする楓に無愛想に挨拶すると、練習着を乱暴に脱いで床に叩きつける。 自分にイライラする。 年末を迎える店は毎日の様に繁盛していると言うのに… 目の前のクリスマス一色の衣装を見て、忌々しく唇をかみしめる。 踊れないオレは、こんなふざけた衣装さえも羨ましく思うよ。 「なんだ、今日はイライラしてるな…?」 そう呟く支配人を無視して、ムスッと頬を膨らませて入り口の奥で行き交う人を眺める。 「なあ…オレ、居ても居なくても同じなら…練習して来たいんだよ。帰っても良い?」 「は~?」 微動だにしないでドアの向こうを眺め続けるオレの顔を覗き込んで、支配人が変な声を出すと、言った。 「帰れ!ぶす!」 すぐに付けていたネクタイを取ると、何も言わないで控室の階段を降りていく。 この時間を、こんな事に費やしたくない。 どんどん時間が過ぎて行ってしまう… 取り残される恐怖と、ステージに立てない苛立ちと、上手く出来ない自分に…どうしようもなく腹が立つ。 「シロ?帰るの~?」 「ん」 驚いた表情の楓に短くそう返事をすると、自分の荷物を持って控室を後にする。 「おい!気を付けて帰れよ!…ぶす!」 携帯電話で”ポールダンス“のスタジオを検索しながら片手を上げて支配人の言葉に答える。 態度が悪いって分かってる。 でも、オレの場所はエントランスの受付じゃないんだ。 ステージの上なんだ。 出来ない自分を受け入れる?時間がかかっても必ず元に戻る? そんな悠長な事、言ってられねえんだよ… 恵まれた環境に安穏とするな…お前は崖っぷちだ。 本気を出して死に物狂いでやらないと…あっという間に地に落ちて、本当に踊れなくなる。 「シロ…君。どうしたの?」 携帯電話を耳にあててスタジオの予約をしていると、目の前に大塚さんが現れて、オレを見て首を傾げていた。 丁度良い!彼の腕を掴んで引っ張って連れて行く。 「…これからすぐに行っても大丈夫ですか?はい。分かりました。ど~も。」 電話を切ると、首を傾げたままオレに引っ張られ続ける彼に言った。 「今日は仕事しないで、練習しに行く。泣いてる所が見たいんだろ?沢山見せてあげるよ。だから、一緒においで?」 声を掛けられた時、彼の手に2冊のスケッチブックがあるのが見えたんだ。 どうせ描くなら…ご所望の物を描かせてあげたいじゃないか…? 「分かった…」 そう言ってオレの手を繋ぎ直す彼に、口元が緩んでいく。 ほんと、変わってる。 「オレは気が済むまでやるつもりだから…飽きたら勝手に帰って良いよ?」 そう言って耳にイヤホンを突っ込むと同じようにテープを上から貼った。 彼はスタジオの壁にもたれかかって座ると、スケッチブックを手に持ってオレを見て頷いた。 ふふ…変わってる人だけど、どうしてかな。居心地が良いんだよ。 気を使わなくて良い、言葉を選ばなくても真意が伝わる。 そんな…気楽さがある。 新宿のポールダンスのスタジオを時間無制限の後払いで借りた。 こんな時間からポールを踊る奴なんて…ストリッパーくらいしかいない。ふふ。 大音量でイヤホンに音楽を流し始めると、目の前のポールに掴まって体を持ち上げていく。 店に比べると高さが足らないけど、十分だ。 音楽に合わせてポールを回って行く… くそ…くそ…くそ! 体にしみこんだ筈のオレの踊りは、一向に体を動かしてくれない…ただ、鈍くて、反応の薄い動作に苛つく。 「そうじゃねえだろ…クソったれ…」 ブツブツと独り言を言いながら、頬を伝うのが悔し涙なのか、汗なのか分からないまま流れさせる。 あの店の花形はオレなんだ。なのに、踊れないなんて…ダサい。 ダサい上に、受付の手伝いなんてして…安穏と過ごして、一体お前は何をしてるんだよ… 「兄ちゃん…」 ポールダンスもストリップも、初めから出来た訳じゃない。 兄ちゃんが居なくなって…オレは逃げる様に上京して来た。 自分の居場所なんて求めていなかった。 ただ、何も考えずに生きて行ける場所を漂った。 そんなオレが“楽しい”って思えた事。それが踊りで、ポールダンスだ… 支配人に連れられて初めてあの店に来た日を思い出す。 怪しい空間と怪しいお客にビビりながら、手を引かれてステージの前まで連れて行かれた。ギラギラした瞳を向けるお客の目の前で、涼しい顔をしながら踊るストリッパーに目を奪われた。キラキラと光り輝く衣装と、目を覆いたくなるようなエッチな動きをして、ポールに体を絡めさせて高くまで登っていく姿に、まるで水中に居る様な錯覚さえ覚えた。 カッコ良くて…一瞬で好きになった。 「あっああ…!」 なのに…上手に出来ていたのに… 「どうしよう…どうしよう…あんなに上手に出来ていたのに…出来なくなっちゃった…。兄ちゃん…兄ちゃん…」 ポールにしがみ付いて泣き始めると、ズルズルと下に落ちてお尻がペタンと床に着いた… 耳の奥に奮起する様に大音量のハードロックが流れ続けてるのに…心がすっかり折れた。 這いずる様にして手を伸ばして音楽を止めると、そのまま突っ伏した。 スタジオの床に頬を付けて、擦れた跡を指でなぞる… バレリーナはもっと柔らかい床でトゥシューズを履くんだ。 そんなどうでも良い事を考えながら、イヤホンで塞がった耳に聞こえて来る鉛筆の音に聞き耳を立てる。 良いんだ…この無様な姿を描けばいい。 桜二が購入するオレの絵が素晴らしい物になるなら…構わないさ… 「あ~あ…もう、やんなっちゃうな…」 ブツブツと独り言を言って、ハードロックじゃない…チャイコフスキーをかけ始める。 美しいバレエ音楽に癒してもらおう… ペタンとお尻を付けて座り込むと、耳の奥に届く美しい情景を伴った音楽に目を瞑って聴き入る。 「あ!」 そう言ってふと、立ち上がると、踊り始めたのは”眠れる森の美女“の赤ずきんのバリエーション。 これ、可愛くて好きなんだ…! オオカミが出て来て…赤ずきんちゃんを連れ去っていくんだ。 ふふ…!まぁるで、桜二みたいだ! これは…楽しいぞ! オレは”眠れる森の美女“のフィナーレで流れる曲を再生させながら、ニヤニヤとポールを登っていく。 特徴的な曲に合わせて、勇吾が知りたがっていた“ファンタジア効果”を付けた踊りをポールの上で踊っていく。 「あはは!ピッタリだ~~!」 そう言って笑うと、クルクルとポールを回って耳の奥に聴こえる音楽を味わう。 素敵だぁ…まるで、舞踏会みたい。 メルヘンチックにそんな気分に浸っていると、もっとこの曲を表現したくなってくる。 体が自然に動いて、ポールをしっかりと掴むと両足を離して回転のスピードを加速させていく。 膝の裏で固定して小さくスピンさせて大きく体を伸ばして仰け反らせていく… それはまるでフィギュアスケートの回転の様に残像を残して、美しく形を変えて行くんだ… もう…終わってしまう… 曲のフィニッシュを飾るのは、これしかない! 膝を曲げながら可愛く回転して降りていくと、床のスレスレで高速スピンして、決めポーズを取った! 決まった! 「おお~~!凄い~~!」 目の前の大塚さんは絵を描くことを止めて、オレに盛大な拍手をくれる。 「あ…踊れた…」 ポツリとそう言うと、満面の笑顔の大塚さんを見て、はち切れんばかりの笑顔になる。 「出来た!!もう1回!!」 今度の曲は…オレの大好きな、エスメラルダだ! 耳の奥に聞こえて来るあの曲に、身を任せる。 エスメラルダが…ポールに上ったら…こんな感じで魅せてくれるはず… そんな思いを乗せて、美しく力強くポールを華麗に回っていく。 最後は、緩急をつけて回転して、ポールの上で体を仰け反らせてポーズを取った! イエス!気持ちいい!決まった! 「おお~~!!凄い~~!綺麗だった!」 そう言ってスタンディングオベーションをする大塚さんに、満面の笑顔で言った。 「分かった気がする!」 勇吾、本当だ。体に染みついていた。 オレが選んでいたハードロックな曲には、思い入れがあまりなかったみたいだ… バレエの曲で練習したら…すぐに、踊れたよ。 変なの… でも、オレらしいな。 好きな曲…それが体に染みついたものを呼び起こすトリガーになった。 後は、何回も練習して…固定させていくだけだ… 思い出せ…オレは、ストリッパー。 ポールの上で…お客を魅了するストリッパーだ! 「あ~はっはっは!出来る!踊れる!!」 大好きなヘビメタロックを頭の中に響かせて、大笑いしながらポールを回転すると、器用に体をくねらせて、両足を離して行く。 「危ない!」 危なくない。オレはこれが出来るんだ。 回転しながら離した両足を高く上に上げていくと、膝裏でポールを掴んで、体を起こして行く。 「あはは!良いぞ、ピッタリのタイミングだ!」 目の前のポールでグルグル回り続けるオレを、大塚さんはスケッチも忘れて見入ってる。その表情が…とっても優しい笑顔で、不覚にも、髭面のボサボサ頭にキュンとする。 「はぁ…今日はここまでだ。大塚さん?もう12:00だけど…大丈夫?」 ぶっ通しで4時間もポールを踊ると、さすがに疲れた… 初めから最後まで付き合ってくれた大塚さんを見上げると、彼は嬉しそうに顔をほころばせて言った。 「とっても素晴らしい物を見せて貰った…!ありがとう。シロ。絵が完成したら、一番初めに見て貰いたい。」 汗だくのオレの体を抱きしめると、大塚さんの股間がもっこりしてる事に気が付いて、吹き出して笑う。 「あふふ…!もう…アキオちゃんたら、勃起してるじゃないか…やめてよ。」 やばい。 この人は童貞だ…勃起しても、それが性的に興奮してるのか、ただエキサイティングしてるのか…分からないんだ。 エロの概念のないターザンの様な、無垢なエロさを持った…ボサボサ頭のイケメンなんて… そそるじゃないか。 「勃起…?」 やめて…ウケる。 オレの言葉に首を傾げながらそう言うと、大塚さんはキョトンと不思議そうな顔をした。 「そうだよ?ほら、ここがおっきくなってるでしょ?」 オレはそう言うと、いたずら心で彼の大きくなった股間を撫でてあげる。 「あふっ!」 そう言って腰を引く大塚さんに、そこはかとない背徳感を感じて…興奮しそうになる。 スタジオの壁に背中を付けて動揺してる大塚さんにペッたりと体を付けて、顔を見上げて言った。 「抜いてあげようか…?」 親切心だよ? だって、このまま部屋を出たら…彼は勃起したまま帰る事になるんだ。 いくら外が暗くても…ネオンの明かりで見えちゃうよ。 イケメンが勃起して歩いてるって…警察が動いちゃうよ? 大塚さんはオレを見下ろすと、不思議そうな顔をして言った。 「抜くって…?何を?」 あぁ…はぁはぁ…堪んないな。なんだろう、この背徳感… オレは彼の体を壁に押し付けると、彼の足の間に自分の足を入れて抱きついた。 「抜くって…ここを最高に気持ち良くさせて、精液を出す事だよ?」 そう言いながら彼の肩に顔を乗せると、股間を握って扱いてあげる。 「あふっ!だ、だ、ダメだよ…シロ、だめ…」 だめじゃない…良いんだ。 脱童貞への第一歩だ。 年下のオレに悪戯されるなんて…最高じゃないか… 動揺しまくる大塚さんの唇にチュッとキスすると、真っ赤になって行く彼の頬を撫でて言った。 「ヒゲは…嫌いだよ。」 彼のズボンの中に手を入れると、嫌がって体を捩らせる大塚さんを壁に押し付けたまま、生で扱いてあげる。 「あぁ…何だろう…ダメな気がする…シロ、嫌だ…だめ…」 「ダメじゃない。抜いてあげるんだもん。」 オレはそう言うと、ダメダメばかり言う彼の唇に舌を入れていく。 「ん~~~!」 可愛い! まるで高校生をレイプしてるみたいだ! どんどん興奮して硬くなっていく彼のおちんちんを強く握ると、グンと反り立って元気いっぱいの反応を示した… なぁんだ、準備万端じゃないか! 「あぁ…アキちゃん?おちんちんがイキたいって言ってるよ…?」 そう言って彼の顔を見上げると、息を荒くして惚けた表情が目に映って可愛くなってくる。 彼のズボンをお尻まで下げて彼のモノがびょんと前に飛び出すと、オレはそれを口の中に入れて、優しく扱いてあげる。 「あ…あああ…だめ…シロ…だめだぁ…あっああ…おしっこが出ちゃう!」 あはは!! 彼は今までオナニーした事が無いんだろうか…? ふとそんな事を考えながら、熱心に舌を這わせて彼のモノを扱いてあげると、腰がフルフルと震えて、口の中のモノがビクンビクンと震える。 あぁ、イキそうだ… 「あっああ…!!」 そう言ってオレの髪を掴むと、大塚さんはオレの口の中でイッた。 あ~はっはっはっは!! 口の中の物を手のひらに出して大塚さんに見せてあげる。 「ほらぁ…見て?これがアキちゃんの精液だよ?おちんちんから出たエッチな液だよ?ふふ…。女の人のあそこにおちんちんを入れてイクと、これが女性の卵子と合体して…赤ちゃんが生まれるんだ。不思議だね?」 手のひらの精液を指で撫でると、トロリとのばして見せた。 「うう…シロ、シロに…変な事されたぁ…」 あ~はっはっは! 顔を赤くして惚けて動揺する彼を見つめて、優しくキスしてあげる。 「ごめんね…?可愛くて、つい…」 手の中の精液をティッシュで拭うと、彼の剥き出しの下半身をしまってあげる。 「…誰にでも、するの…?」 いたずら心を満たしてムフムフ笑うオレに、大塚さんがそう言って尋ねて来る。 誰にでも? 「…んなこたぁない!」 オレは口を尖らせてそう言うと、彼の鼻の頭を指で押して行った。 「アキちゃん?性も大事な表現要素の一つだ。エロいとか…やりたいとか…野蛮に見えるけど、それは逆に、人間が動物であるという証拠でもあるんだ。ボカァね、表現者として、アキちゃんにそこんところ、分かっていて欲しかったんだよ?だから、気持ち良くしてあげたの。この行為に愛や恋が加味された場合、体の性衝動とは別に、心の性衝動が加わってだね、快感が増し増しになるんだ。ただ、それだけの事さ。」 そんな長い嘘っぱちの講釈を垂れて、顔の赤みが大分ひいて来た大塚さんの手を握ると、スタジオを一緒に出る。 「良い?童貞がどうの言う訳じゃないけど、エッチはしといた方が良いよ?だって、年取ったら、誰ともしなくなっちゃうからね…?あ、でもね…妊娠はさせちゃダメだ。コンドームって言うこれくらいのゴムを、おちんちんにかぶせてね避妊するんだよ?」 スタジオの係員の怪訝な表情を無視して、お会計をしながらオレがそんなアンタッチャブルな話をすると大塚さんは首を傾げて言った。 「シロも…妊娠するの?」 はぁ? 「オレはしないよ。だって、男だからね…?妊娠は女性しか出来ない。生き物としてそう決まってる。もともと、女性と男性は全く別の生き物だ。女には子宮があって、その中で命を作り出すことが出来る。男には出来ない。ただ、精子を提供するだけ。」 携帯電話に桜二からの着信を受けて、オレは大塚さんの腕を掴んだまま電話に出た。 「もしもし?ん~、今日は仕事しなかったんだ…。ポールダンスのスタジオで練習してた。お会計を済ませてこれから出る所。大塚さんも一緒に居るの。うん。ほんと?やった。わかった~。」 携帯電話を切ると、オレを見下ろす大塚さんに言った。 「桜二、迎えに来てくれるって…。一緒に帰ろう?六本木ヒルズの近くに住んでるんでしょ?送るよ?」 オレがそう言うと、彼はコクリと頷いて聞いて来た。 「桜二さんとは、あんな事するの?」 あはは! 彼は性の扉を開いてしまった様で、興味津々に何でも聞きたがる。 「馬鹿だな…愛しの桜二とはあんな事より、もっと、もっと凄い事をするんだよ?見て?あのカップルもセックスしてるし、あっちのカップルだってセックスしてる。エッチな事だから言わないだけで…大抵のカップルはセックスしてるさ。」 道行くカップルを指さしてオレがそう言うと、大塚さんはオレを見つめて言った。 「見たい…」 「へ?」 「桜二さんと、シロのセックスが見て見たい。」 そ、それは…有料になります… やけに真剣な表情でそう言って迫ってくるから、オレは一瞬たじろいだ。 スケベ心や他意なく、本気で見たいって言ってるって分かったから…困ったんだ。 「見て、どうするの…?」 彼の顔をジト目で見ながらそう言うと、彼は首を傾げて答えた。 「興味があって…」 「何に?」 「シロが…どんな顔をするのか…」 世の中ではこんな人を、変態って言う。 でも、彼は35歳まで童貞だった。 きっと、オナニーもした事が無いような…本物の無垢なターザン男だ。 「…ん、桜二に聞いてみる~」 首を傾げながらそう言うと、にっこりと微笑んで頷く彼を見つめる。 変な人… 待ち合わせ場所に行くと、桜二が車から降りて待っていた。 「桜二~!」 そう言って彼に抱きつくと、素敵な胸に顔を埋めてスリスリと擦り付ける。 「大塚さん、今晩は。…お家の近くまで送りますよ。一緒にどうぞ?」 頭の上で桜二が大塚さんに話しかけて、後部座席のドアを開いた。 「桜二さん、シロとセックスしてる所、見せてくれませんか?」 はい、直球だね。 大塚さんがそう言った途端、小さく、は?と呟いて、動きが止まってしまった桜二を見上げて教えてあげる。 「桜二?彼は35歳まで童貞のターザン男なんだ。セックスもオナニーもした事が無いんだ…エロとは無縁の人なんだ。」 悪びれる様子もない大塚さんが車に乗り込むと、後部座席のドアをぱたんと閉じて、桜二がオレに迫って聞いて来る。 「なぁにしたのぉ?大塚さんに何したの?」 誤解だよ…? オレは彼の頬を撫でて教えてあげた。 「大塚さんに、ポールが上手く踊れなくなった事を相談したんだ。そしたら、その姿を見たいって言うから連れて行った。4時間ずっとぶっ続けで踊るオレを見て、なんと、彼は勃起したんだよ?だから、おかしくて…抜いてあげたの。」 「え…ポールを踊れなくなってたの…?」 桜二が食いついたのは後半じゃなくて、話の前半だった。 オレの頬を両手で包み込むと、顔を見下ろして眉を下げる。 「…前みたく、踊る事が出来なくなって…スランプって奴になったみたいで、焦って…お店に出ないで、自主練した…。でも、今日、何か手ごたえを掴んだ気がするんだ。」 オレがそう言うと、桜二はオレの体を抱きしめて言った。 「どうして教えてくれなかったの…」 だって…オレは甘ったれだから…それに… 「…ごめん。逃げたくなかったんだ…」 優しい彼に甘えて、この状況を受け入れて、逃げ出してしまいそうな自分が居るから…言えなかった。 「もう…」 そう言ってオレの体をヒシッと抱きしめて、ユラユラ揺らすと言った。 「どうして大塚さんを抜くと、俺とシロのセックスを見せることになるの?」 そう、それだよ! 「オレが、どんな顔をするのか…見たいんだって。」 オレはそう言うと、後部座席でキョトンとこちらを窺う大塚さんを見て言った。 「彼は…オレが桜二にどんな顔を見せるのか…それがどんな表情なのか、知りたいだけなんだ。エロい目的じゃなくて…ただ、単に…絵の材料を集めたいんだ。」 助手席のドアを開くと、桜二はオレを車に座らせて扉をぱたんと閉めた。そして、運転席に座ると、後部座席の大塚さんに言った。 「今日のシロの練習。どんな感じでしたか?」 大塚さんは抱えたスケッチブックを桜二に差し出すと言った。 「とっても、感動的な表情がいくつもあって、僕が特に良いと思ったのは…ここです。」 大塚さんがそう言って開いて見せたのは、ポールの根元で項垂れる、オレ。 兄ちゃんの名前を呼んで、ズリズリとポールからずり落ちて行った所の絵だ… 丸まった背中から悲しみが溢れていて…本当に上手に絵を描くんだ。 「あぁ…シロ…」 そう言うと、桜二はオレにキスをして両手で体を抱き寄せた。 「辛かったね…頑張ったね…偉いね…」 「まだダメなんだ…まだ…店で踊れなきゃ…安心出来ない。」 オレはそう呟くと、桜二を見上げて言った。 「オレが踊れる様になったら桜二にも見せるから…それまでは、この話はあなたとしたくない…。」 彼はオレの瞳を見つめると、コクリと頷いて言った。 「…分かったよ。」 彼がオレを甘やかすから…オレは彼とこの話をしたくない。 今みたいに…偉いね…偉いねって…優しくされて、良い気になってる場合じゃないんだ。 「大塚さん?俺とシロのセックス…彼が良いって言うなら、見せるのは構わないんですけどね…俺のシロに欲情しないで欲しいんですよ…。それが出来るなら、今からでもどうぞ?」 桜二は淡々とそう言うと、車を出した。 それを聞くと、後部座席の大塚さんはスケッチブックの残りの枚数を数え始めて言った。 「よろしくお願いします。」 はは…春画だよ? ゲイの春画だ。 「大塚さんて…変わってるね。」 ため息をつきながらオレがそう言うと、大塚さんはにっこりと笑って言った。 「これで、全ての君を見られるからね…興奮するよ。」 車のまま入られるラブホテルに3人で入って、桜二がオレをベッドに押し倒して行く姿を、スケッチブックを持った大塚さんが椅子に腰かけて眺めてるんだ。 シュールだろ?ふふ。 「桜二?緊張するねぇ?」 彼の顔に頬ずりしながらそう言うと、桜二はオレを見下ろして言った。 「え…?全然…」 凄いね…逆に凄いね… 彼はオレしか見えていないみたいに、囁き声で愛撫しながら熱心にキスをくれる。 「可愛いね…シロ、大好きだよ。」 …見られてる事で、いつもよりも興奮してるのかな…? なんだか、とっても甘い。 オレのトレーナーの下に手を入れると、ねっとりと腰を撫でてお尻を持ち上げて自分の股間に擦り付けて来る。 「桜二…桜二の…エッチ…」 オレはそう言ってクスクス笑うと、彼の首に両手を伸ばして指先で撫でる様にこしょぐる。 「ふふ…可愛い…」 そう言って桜二がワイシャツを脱ぐ中、彼の腰を撫でて自分の方へと引き寄せると、グラッと倒れ込んで来る彼を抱きしめてベッドに沈める。 「あはは…シロが上に乗るの?」 「そうだよ?オレが上に乗るの…」 そう言って彼に跨ると、剥き出しになった胸に舌を這わせる。 「あぁ…桜二…綺麗な体だね。とっても美味しい…」 彼の股間を撫でながら彼の胸を舐め上げて、首すじを舐めて愛撫する。 「おいでよ…俺にさせてよ…」 そんな小言聞こえないよ?オレのターンだからね? 「桜二…桜二…」 彼の股間に跨ってゆるゆると腰を動かしながら、両手を上に上げてトレーナーを脱いでいくと、桜二の両手がオレの乳首を指先で転がし始める。 「あっああ…ん、きもちいの…桜二…」 そう言って体を捩って喘ぐと、桜二は体を起こしてオレの腰を逃げて行かない様に両手でキツく抱きしめて、乳首を貪る様に舐めまわす。 「あ…あぁ…!ん、んん…桜二、気持ちい…もっと、もっとしてよぉ…」 体中に快感がめぐって、腰が疼いて彼の股間を擦る様に動く。 「あぁ…エッチだね…シロ、桜二に気持ち良いキスしてよ…」 彼はそう言うと、オレの目の前に舌を出した。 もう…堪んないね。 「桜二…」 彼の名前を呟いて、彼の舌を口の中へと入れて行くと熱心に舌で絡めて吸っていく。 気持ち良い… いやらしい音を出しながらキスをしたまま後ろに押し倒されて、彼の手がオレのモノをズボンの上から扱き始める。 早く…もっと強く触ってよ… オレは我慢できなくて自分でズボンを脱いでいく。 「あぁ…シロ、触って欲しいの…?」 「ん、触ってぇ…触って、挿れて…気持ち良くして!」 彼の髪をぐしゃぐしゃにしながら腰をゆるゆると動かして、剥き出しになったモノを彼の腹に擦り付けると、勝手に気持ち良くなって喘ぎ声を漏らす。 彼はオレのズボンを全て脱がせると、オレのモノを口の中に入れて扱き始める。 頭の芯までビリビリするくらいの快感がめぐって、体が仰け反っていく… 「あ、さっきシロが僕にしたやつだね…」 存在感を無くしていた大塚さんがポツリとそう言うと、オレのモノを咥えた桜二の舌が止まった。 「止まんないで…桜二、もっとレロレロして…!」 そう言って桜二の髪を掴むと、自分の股間に押し付けて彼の口にファックした。 桜二はフガフガ笑いながら、オレの中に指を入れて来ると熱心に解し始める。 「あぁ…あっあん…桜二…はぁはぁ…良い、良いの…あぁああ…早く、早く…挿れて…挿れてよ…!」 彼の背中に指を立てて、押し寄せる快感と一緒にかき混ぜて撫でる。 クラクラしてくるくらいの快感に溺れながら、目の前で髪を乱す桜二を見て、堪らなく興奮して…イキそうだ。 「ん~~!桜二…だめぇ!イッちゃいそう…イッちゃいそうなの!」 「イッて…?」 だめだぁ!もっと、気持ち良いままで居たいんだ…! いっぱいに広がる快感を耐える様に、自分の髪を掴んで引っ張ると、仰け反る体と共に、首が伸びていく… 堪んない! 「ん~~、いやぁ…!いやぁ!あっあああ!!」 腰を震わせて射精すると、オレの唇を食むようにキスして桜二がオレの中に入って来る。 「あっああ!だめぇ…あっ、あっ…桜二ぃ!馬鹿ぁ!あっ、あっああん!」 気合の入った桜二は、オレがイッたばかりなのに中をどんどん気持ち良くしていく。 「ダメぇ…ダメぇ…イッちゃうの、またイッちゃうから…だめなの!」 そう言って彼の胸をバンバン叩くと、オレの両手を掴んで上に持ち上げてベッドに押し付けた。 ねっとりと腰を動かして得意のロングストロークの腰遣いを始める。 「あっ、だめ!イッちゃう…イッちゃう…!桜二!桜二!気持ち良い…!あっ…!」 彼の息が首筋にかかって鳥肌を立てると、真っ白になって行く頭の中に目の前の彼のいやらしい顔だけ残って、堪らなく興奮して行く。 「ん~~!イッちゃう!あっああん!!」 腰を激しく震わせてオレがイクと、桜二はティッシュでオレのお腹を拭きながら言った。 「俺のカワイ子ちゃん…」 出た…俺のカワイ子ちゃん… 歴代の彼女にも言っていたの?その寒い言葉… オレはもう慣れたけど…初めて聞いたときは吹き出したよ…? オレの体に覆い被さると両手で頭を抑え込んで、腰をねっとりと動かしながら唇にキスをする。 これがすんごい気持ち良いんだ… だから、オレはいつもこれで…何回もイカされる。 彼の荒い息がオレの口の中に入って来て、彼の鼻息で髪が飛んでいく… 「桜二…!気持ちい、イッちゃう…!あっああん!」 彼の背中に爪を立てて快感を伝える様に、引っかいて行く。 「我慢してごらんよ…」 耳元に唇を寄せてそう言うと、桜二は抉る様に腰を動かし始める。 「ん~~!だめなの…だめ…我慢できないの…すぐに、イッちゃうの~…!」 そう言いながら首をブンブン振って、快感から逃げようとするけど、彼のくれる快感は逃げ場がないくらいに、オレの中を満たすんだ… 「あ~…気持ち良い…シロ、俺もイキそう…」 桜二は色っぽい声でそう言うと、体を起こして腰をガンガンと動かし始める。 「あっあっあ…!桜二…!桜二…!だめぇ~気持ちい…気持ちい…あぁああ…!」 顔を両手で抑えて、ひたすら与えられる快感に喘ぎ声を出す。 オレのお尻を下から持ち上げて、自分の腰の動きとオレの腰の動きを合わせる様に動かして行く… 「あぁ…!気持ちい…!イッちゃう…!ん~~!桜二ぃ!イッちゃう!」 「我慢して…一緒にイこう…?ね…我慢して…」 マジで…? こんなに気持ち良いのに…!桜二はオレに我慢を強いる! 「はぁはぁ…ああん…んん…!あぁ…ん…!はぁはぁ…ぁあん…」 頭が真っ白になって、オレを見下ろすエッチな彼の顔を見つめて、ボサボサになった髪型がめちゃめちゃセクシーで…堪らなく興奮する。 オレが興奮する様に…彼もオレに興奮してる筈なんだ…そして、そのウィークポイントをオレは知ってる。 オレのエッチな表情が…彼のウィークポイントなんだ… イキそうになって観念すると、彼はオレをじっと見つめてねっとりと腰を動かし始める。 そう…今目の前でオレを見つめてるみたいに… 「あぁ…桜二、桜二…オレの桜二…大好き…大好き…!」 そう言って彼の背中を抱き寄せると、彼の頬に頬ずりして甘える。 「どこにも行かないで…桜二、桜二…!」 彼の背中を撫で下ろして、いやらしく動く腰を撫でて、お尻を掴んであげる。 「ふふ…」 頭の上で笑い声が聞こえて…口元が緩んでいく… 可愛い。 愛おしい。 大好き。 愛してる。 どの言葉も薄っぺらくて…しっくりこない。 彼がいないとダメなんだ… 彼じゃないと…だめなんだ。 堪らない快感に我慢していた物が爆発する様に、腰が震えてイッてしまった… お腹の上にドロリと射精すると、オレの中で彼のモノがドクンと跳ねて、精液を吐き出した。 「はぁはぁ…桜二…めちゃくちゃ気持ち良かった…」 そう言って項垂れて来る彼を抱きしめて、彼の耳に何度もキスをする。 この人はオレのもの… 誰にも渡さない… 「凄い…凄い良いものが沢山描けたよ?とっても綺麗だ…!」 KYな大塚さんがそう言ってオレの肩をチョンチョンと突いて来た… え…今…? 「あ…後にしてよ…」 そう言って桜二の髪を撫でると、大塚さんは満面の笑顔を怪訝な顔をする桜二に向けて言った。 「凄い物が描けましたよ?桜二さん!」 「ぷぷっ!」 桜二が吹き出して笑いながら、オレの胸に顔を埋めて行く。 オレは…ニコニコ顔の大塚さんと顔を見合わせてる状態で…身動きが取れない。 「見て?ほら…とっても綺麗だろ?この表情…!これは…まるで母親みたいだ!」 ぷぷ~! 興奮した大塚さんは止まらない… オレと桜二がシャワーを浴びてる間も、洋服を着替えてる間も、ずっとオレ達に話しかけては、セックスについて説いて来る。 「だからね…僕は思ったんだ。セックスとは、男児が母親の母体に戻る行為なんじゃないかって!」 いや、繁殖する為にするんだ。 女女だと入れるものが無くて、男男だと入れる穴が無い。 何とも歯がゆい、男女に限られた繁殖行為だ。 でも、大塚さんは、桜二を見つめるオレの顔を母親みたいだと言った… 欲情する事が母親への愛情欲求だとしたら、男も女も…マザコンって事になる。 「じゃあ…桜二は言葉の通りマザーファッカーだね…ぷぷぷぷ!」 腹を抱えて自分の言った事にウケていると、桜二は大塚さんの描いた絵をじっと見つめてうっとりとして言った… 「…大塚さんの、いう通りかもしれない…」 …はぁ? だめだ。彼は大塚さんの画家商法に、まんまと嵌められやすいんだった。 「ダメだよ?桜二?しっかりして?」 オレはそう言うと、身支度を済ませて桜二の背中を押して言った。 「家に帰って寝よう?」 車で帰る途中、大塚さんを降ろすとホクホク顔の彼に聞いた。 「明日もお店に来る?」 「いいや…行かない。この勢いのまま完成させるよ。今なら、君が描けそうだ。」 彼は今まで見た事も無い自信に満ちた顔でそう言うと、足早に立ち去って行った… 「…ふぅ、変な人だったね?」 運転席の彼にそう言うと、桜二はオレを見て言った。 「シロの表情を本当に美しく捉えていて…俺は感動しちゃった…。セックスを見せても余りある成果だったと思うよ?」 どんな成果だよ… 「そう…桜二が買う作品が良い物になるんだったら…上出来だね?」 オレはそう言って伸びをすると、桜二に言った。 「マザーファッカー!」 「…酷いじゃないの。ダメだよ?そんな事言わないんだ。」 ふふ…! 「はい。シロ…」 桜二の寝室で”宝箱”を弄っていると、彼が一通の手紙をオレに寄越して言った。 「勇吾から…」 え…? オレは“宝箱”をベッドの下にしまうと、急いで桜二の元へと向かって、彼の手から茶色い長い封筒を受け取って高く掲げた。。 「ん~~!勇吾~~!」 そう言ってソファに走って行くと、ドカッと座って茶色い封筒の匂いを嗅ぐ。 「あぁ…ちょっとだけ、勇吾の匂いがするよ?」 桜二にそう言うと、彼は首を傾げて言った。 「くさいの?」 最低だ… 桜二の傍に行って封筒を手渡して言った。 「開けて?」 彼は器用に封筒を開けるとオレに渡して言った。 「はい、どうぞ?」 ふふ… 封筒の中から勇吾の香りが溢れて来て…クラッとする。 「あぁ…勇吾の匂い…」 封筒の中には3枚のチケットと、折り畳まれた手紙が入っていた。 「どれどれ…?」 初めはクスクスと笑って読んでいた手紙だけど、最後の方になると…彼が泣いている顔が目の前に浮かんで…涙がポロリと落ちていった。 「勇吾…寂しいって言ってる…」 彼の手紙を胸にあてて、一緒に同封されていた3枚のチケットを眺める。 でも… 英語で書かれてて…読めない。 「きっと勇吾の公演のチケットだよね?なんで3枚もあるのかな…?」 「きっと…日付が違うんだよ…」 桜二はそう言うと、オレからチケットを受け取って比べて見た。 「ほら…26,27、28…って日付が違う。3日間の公演なんだ。すべての公演日のチケットを送って来たんだ。へぇ…」 桜二はそう言って笑うと、オレにチケットを返して着替えに行ってしまった。 「3日間の…公演…」 チケットに書かれた題名っぽい英語を携帯電話に入力して検索をすると、すぐに彼の公演のHPが現れた。 凄いな…まるでプロみたいだ… あ。 プロなのか… 画面をスクロールすると、四角い縁の中に白黒写真の勇吾がいた。 「勇吾?…オレも、あなたを愛してるよ?」 自分の唇に手をあてて、画面の中の彼の唇にそっとあてる。 彼はとっても寂しがってるのに…オレは彼の元へは行ってあげられない。 3枚もチケットをくれたのに…その、どれにも行けない。 「はぁ…」 「シロ、着替えよう?パジャマを持って来てあげたよ?」 桜二がそう言ってオレの服をパジャマに着替えさせる中、オレは彼の襟足を撫でて言った。 「3つもくれたって無駄なのに…席がもったいないよ…他の人にあげれば良かったのに…」 そう言うと桜二の体に抱きついて彼の肩に頬を付けて、クッタリと甘える。 「勇吾は、そこにお前が座ってると思って公演を過ごしたいんだよ。無理やり誘ってる訳じゃない。彼の為に貰ってあげなさいよ。」 分かってる… 分かってるけど… 歯がゆいんだ。 どうしてオレは彼の所に行けないのか…歯がゆくて堪らないんだ。 何かの拍子でまた発作が起こるかもしれないと怯えて”見守り携帯”を拠り所にして… 唯一の取柄の踊りも踊れなくなった… 安心して甘えられる環境を手に入れて…オレは鋭さと強さと貪欲さを失った。 周りが優しくするからと、自分を哀れんで、甘やかして、必死に抗う事を止めて、受け入れて、鈍らになって行く。 だって、自分じゃどうしようもない事ばかりなんだ… 頑張っても、もがいても、自分を信じても、どうしようもないんだ… 発作が起きたら…オレにはどうする事も出来ないよ… だから、怖がるのは当然じゃないか… いいや。違う。 オレは自分の努力で何とか出来る事を、ひとつだけ、していない。 「桜二…?このまま…抱っこしていて…体を抱きしめてて…」 彼の髪を撫でてそう言うと、オレは瞳を閉じて幼い頃の情景を思い浮かべた。 団地の玄関の前…扉を開くと、知らない大人の靴が何足も置かれていた。 リビングでは兄ちゃんが男に殴られてうずくまってる… 兄ちゃん…ごめん… オレは、先に進みたいんだ。 蹴り飛ばされる兄ちゃんを通り過ぎると、閉ざされた襖を開いて、中を覗き込んだ。 6歳のオレ… 大きな体の男に圧し掛かられて、苦しそうに呻き声を出して…ファックされてる… 小さな子供が、ファックされてる。 全身に鳥肌が立って…固く結んだ口から歯ぎしりの音が聞こえる。 どうして…こんな酷い事が出来るのか…分からないよ。 「こぉの!クソったれっ!!」 腹の底から湧き上がる怒りを込めて思いきり怒鳴ると、男の脇腹を蹴飛ばして転がした。 男に馬乗りになって何度もぶん殴ると、下敷きになっていた子供の体を抱きかかえて、兄ちゃんを振り返って見つめる。 彼はオレと目が合うと笑顔になって言った。 「シロ…良かった…」 兄ちゃん…兄ちゃん…! 込み上げて来る堪らない感情を封じ込めると、オレは彼を無視して子供を抱えたまま玄関へと急いだ。 「にちゃん…可哀想…助けて…」 腕の中の子供がそう言ってオレの腕を掴んで揺すった。 オレだって助けたい…助けたいよ… 蒼佑を一番に助けてあげたい… だって、愛してるんだ。 あの人を…心から愛してる! でも…愛した蒼佑は…オレを愛してる。 だから オレは、オレを助ける…! 腕の中のオレを見下ろすと、優しく微笑んで言った。 「大丈夫…兄ちゃんは強いから…オレはシロを助ける。」 そう言って玄関を出ると、兄ちゃんがそうした様に団地の階段を急いで降りていく。 腕の中のオレが泣いても、暴れても…構わずに降りて行く。 お前を助ける事が、兄ちゃんを助ける事になるんだ。 団地の外れまで来るとやっと立ち止まって、腕の中を見下ろして言った。 「シロ…大丈夫だよ…大丈夫…怖い事なんてもう無いんだ…」 瞳を歪めて涙を落とす幼いオレを抱きしめて、頬ずりする。 あったかい… 幼いオレは、小さな手を伸ばすと、オレの背中を優しく抱きしめてくれた。 あぁ… あぁ……! シロ…!! なんて、優しい子なんだ…! 「泣かないで…泣かないで…」 そう言ってオレの涙を手のひらで拭い続ける、幼い自分を優しく抱きしめて言った。 「良い子だね…シロは良い子だ…」 「うっ…うう…桜二!!…オレはとっても良い子だった…優しい子だった…化け物なんかじゃない…とっても良い子だったぁ…!!」 そう…オレは化け物なんかじゃない…とっても良い子なんだ。 桜二の肩にしがみ付いて彼の胸にあふれる涙を擦り付けると、桜二はオレを包み込む様に抱きしめて言った。 「そうだよ…シロは良い子だよ。」 優しく落ち着いた声でそう言うと、桜二は何度も頭を撫でて背中をさすってくれる。 オレはしゃくり上げながら、必死に桜二に報告した。 「抱きしめたんだっ!自分を…抱きしめた!!…小さくて、あったかかった!!」 慟哭の様に激しい感情と思いが、体を揺らしながら溢れて来る。 「可哀想だよ…桜二、どうして…あんな小さい子が…。酷いよぉ…桜二、助けて…助けて!心が張り裂けそうだ…!可哀想で…苦しくて、悲しい!あの子は…化け物なんかじゃない…!化け物なんかじゃない!!」 「そうだよ…。そんな訳がない。シロは…強くて優しい…とっても、良い子なんだよ。」 桜二の言葉にしゃくり上げて泣き崩れる。 オレは…化け物なんかじゃない。とっても、良い子だったんだ。

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