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第36話

リビングを中心に左の廊下に2部屋と風呂場とトイレ、右の廊下に3部屋あって、どの部屋も12畳はある広さだ… 特に広い左の2部屋を桜二と見ながら言った。 「広いね…この部屋。防音の扉が付いてるし、床を張り替えて、鏡を付けたら、小さなスタジオになる。」 オレはそう言うと、つま先立ちをしてアラベスクをして見せた。 「確かに…良いね?静かだし、広いし…隣の部屋も見てみよう。」 桜二はそう言うと、生気を取り戻したかの様にオレの手を掴んで隣の部屋を見に行った。 「あれ…同じだね?ここも防音の扉と…同じような広さの部屋。」 カギ付き、防音の部屋で…ここを設計した社長は、一体、何をするつもりだったんだろう? 「窓なし、鍵付き、防音の扉…クローゼットなどの収納がないこの部屋は…何のための部屋だと思う?」 目の前の桜二にそう聞くと、彼はオレの髪を撫でながら言った。 「音楽?」 「違う。拷問部屋だ!」 オレはそう言うと、桜二の鼻の中に指を入れて、グイっと鼻フックした。 彼はオレに好きにさせたまま吹き出して笑うと、こう言った。 「まったく…ホラー映画の見過ぎだよ?」 これで床に水を流せる排水溝があれば…まんまホラー映画だ…。 今度はリビングから右の廊下。3個続きの部屋を見てみる。 リビングで陽子さんと手を繋いで笑顔でおしゃべりする依冬を横目に見ると、彼はオレを見て口を大きく開けて歪めた。 それはまるでムンクの叫びの様だ… うわぁ… 窓のある廊下は、昼間だと電気をつけなくても明るい。 「うわぁ…この廊下良いね?」 オレがそう言うと、桜二もにっこりと笑って答えた。 3個続きの一番奥、廊下のどんつきの部屋を覗いて見る。 「桜二?オレのアパートよりも広いよ?…ベッドを置いても余裕の広さだ。10畳…これで10畳なの?」 「そうだね。10畳って書いてある…」 桜二はそう言うと、部屋の窓をガララ…と開いた。 彼と一緒にベランダに出ると、3部屋に渡った大きなベランダを見て、驚く。 「広いベランダ…洗濯物が沢山干せる…!」 「俺は乾燥機派だよ。花粉症なんだ…。」 眼下には敷地内の緑が見えて、ここが都心である事を忘れてしまいそうになる。 隣の2部屋は12畳と、この部屋より少し広いようだ。 悪くない。 「…ね、ここって幾らするの?」 依冬の首を指で撫で始める陽子さんにそう聞くと、彼女は肩をすくめて答えた。 「元値は5億9800万円。でも、社長が逮捕されたから3億代に下がってる。どうする?買う?買えるの?」 は? 逮捕されると、2億も値崩れするの? 「なんで?なんで、社長、逮捕されたの?」 首を傾げながらオレが陽子さんにそう聞くと、彼女はズバリ!と言って教えてくれた。 「未成年に、本番ありのSM売春させてたから!」 「ほらぁ!だぁから言っただろ?拷問部屋だって!」 桜二を見てオレがそう言うと、彼はフルフルと唇を震わせて怯えて見せた。 可愛い…! 「奥の2部屋に窓が付いていたら良いんだけどな…。今のままだと、息苦しくて嫌だ。依冬のトレーニングルームと、オレのミニスタジオにするにしても…窓で換気がしたいよ。」 オレがそう言うと、依冬がオレの顔を覗き込んで言った。 「シロ?ここ、気に入ったの?」 「うん、ジェットバスあるし…3つ部屋が並んでるし…緑も多い。でも、奥の2部屋に窓が欲しいよ。依冬、窓を付けてよ。」 「分かった。じゃあ、ここにします。」 依冬の男前な即決に、桜二があたふたと慌て始める。 「待てよ…今日は、一旦、帰って、家で相談して決めようじゃないか?」 彼はきっと、“億”の数字に震え上がったんだ。 でもさ、この土地でこの広さだったら…“億”はするよ? 「桜二?見て?リビングは床暖房だって…?フローリングも可愛い柄だよ?」 「ヘリンボーンって言うのよ?お坊ちゃん。」 そう言った陽子さんは、急にオレに優しくなった。あちこちの設備をオレに説明して、オレに売り込み始めた。 依冬がオレの一声で即決する様子を見て、オレに優しくし始めたんだ。ふふっ! 現金で分かりやすい、商売人だ。 桜二は依冬とオレをキッチンに連れて行くと、ゴニョゴニョ…と、内緒話を始めた。 「…3億なんて、ローンが組めるか心配だ。」 「オレは頭金の700万円を出してあげるよ?」 「ローン?頭金?一括で現金で支払うよ。」 点でバラバラな3人の話はまとまらない。 桜二は1人陽子さんの元へ行くと、内心ビビってる癖に格好つけて言った。 「あの…陽子さん、3億…の次は幾らですか?」 彼女は桜二を見上げると、何てこと無いって顔をして言った。 「3億…7280万円よ…買える?」 「ちょっと…相談してきます…」 そう言って踵を返して戻ってくる桜二の表情は、再び生気を失って見えた。 「3億7280万円だって…」 「じゃあ、お金持ちから左の数字を払って行こうよ。依冬は3億で。桜二は7000万、オレは280万で。」 分かってるよ? めちゃくちゃ自分に有利な話をしてるって、分かってるよ? でも考えてみてよ。 彼らは若社長と、高給取りの会社員。 片やオレは毎日チップをかき集める、ストリッパー。 この提案は…妥当だと思わない? オレがそう言うと、依冬はオレを見つめて言った。 「…シロ?俺と、結婚してくれるんだよね?」 すかさず桜二が、オレと依冬の間に体を入れて抗議して言った。 「それはダメだろう…こんな土壇場でそんな事言い出すのは、卑怯だろ。」 「なんでだよ。うるさいな!」 「お前はまず結婚なんて考えるな。花束のひとつでも贈ってから考えろよ。」 「はっ!またその話をするのか!」 喧嘩するほど…仲が良いのかな… オレは彼らを置いて、陽子さんの元へ行くと彼女に言った。 「現金一括で買います。」 彼女は驚いた顔をすると、オレに耳打ちして聞いて来た。 「どんな関係…?あんたが御曹司か何か?」 「いや…恋人だよ。仲良く3Pする恋人だ。」 オレの言葉にポッと頬を赤らめると、オレの後ろで揉める2人に言った。 「名義は?共同名義?それとも代表がいるの?」 「名義はシロで…。サイン以外の契約内容は僕が確認します。」 依冬はそう言うと、陽子さんの背中に手をあてて玄関までスマートに誘導した。 「結婚なんて、して良いって簡単に言ったらダメだからね?」 桜二はオレに念を押すと、依冬を見てムスッと頬を膨らませた。 オレは適当に頷くと、ペコペコになったお腹を撫でながら桜二に言った。 「つるとんたん…」 こうして、3人で生活する新しい家を購入した。 18:00 三叉路の店にやって来た。 エントランスに入ると、支配人がオレを見て言った。 「おい!今日からハードだぞ?ちゃんと踊ってお客にチップを買わせろよ?」 全く!どうしようもない銭ゲバジジイだ。 オレはバレリーナの様に美しく立つと、丁寧にお辞儀して言った。 「うっせ、くそジジイ!」 この店…というか、支配人の趣向のひとつで気に入ってる所がある。 それは、この店ではクリスマス<ハロウィンだって所だ。 知ってる? サンタさんなんて、本当はいないんだ。 「はぁ…嫌な季節だね…」 誰もいない控室に入ると、ポツリとそう言って鏡の前に化粧ポーチを置いた。 「おい、この衣装着ろよ?」 控室に現れた支配人がそう言ってオレに赤い服を手渡す… はぁ…嫌になっちゃうよ。 暗い顔をするオレを見て、支配人がクスクス笑って言った。 「なぁんだ…お前のクリスマス嫌いは、まだ治ってないのか…」 治る治らないの問題じゃない。嫌いなものは嫌いなんだ。 でも…楓がいない今、オレがこれを着るしかないんだ… 「はぁ…嫌だよ。サンタなんていないのに…炭酸飲料のメーカーが仕掛けたものを馬鹿みたいに着て踊るなんて…最悪だよ。皆はそもそも知らなさすぎるよ、自分の周りの事を受け入れすぎてる。由来も意味も、それが価値があるかなんてどうでも良いみたいに無視して…ただ、馬鹿みたいに騒ぎたいだけじゃないか…」 早口でまくし立てる様に愚痴を言うと、支配人がオレの乳首を服の上から押して言った。 「…エッチさせてくれるなら、サンタの格好しなくても良いよ?」 どうなってるんだよ! お前の頭の中は、どうなってるんだよ! 「もう…行って?」 オレは支配人を手で追い払うと、彼が手渡したサンタの衣装をソファに置いた。 「あ~やだ。あんな服…着たくない!」 19:00 店内へ移動すると、早速エントランスでお客の相手をする支配人に呼び止められる。 「シロ~、なんだかんだ言って…ぷ~ぷぷぷ!」 サンタの衣装を着たオレを見て、支配人が指をさして笑った。 仕方ないだろう。仕事なんだもの… こうやって年間の行事物で盛り上がるのは幼稚園と同じだ…4月は桜を、5月はこいのぼりを、6月はかたつむりとあじさいを、7月は海開きを、8月はプールとスイカで、9月はトンボ、10月はお月見で、12月はクリスマス、1月はおもちと羽子板で2月はまめまき、そして、3月はひな祭りだ。 これは毎年変わらなくて、毎年同じ事を繰り返すんだ。 意味も無くね…ふん! 「シ~ロ~!可愛いじゃん…!ん~、サンタさんになったの?可愛い~!」 常連のお姉さんに腕を掴まれて、女子が沢山集う、禁断の席に連れ込まれてもみくちゃに愛される。 「あ~、ほんとだ~。サンタさんだ!」 そう言ってお姉さんがオレの膝に手を乗せて、スリスリと足を撫でて優しく内ももを握ってくると、また違うお姉さんがオレのたわわな胸板にそっと手を当てて、優しく撫でながら乳首を刺激してくる。 「あはは…あぁ…お姉さんったら、1人づつしてよ…そんな…オレは千手観音じゃないから…あ~はは!アハハハ…あ~はっはっは!こりゃまいったぁ~!」 あ… おちんちんを触られております。 僕はお姉さん達にもみくちゃにされながら、おちんちんを触られております。 「ふふ…ダメだよ…イッちやうから…」 これは割とマジで…そうなんだ、恥ずかしい話。 すぐにイッて…すぐにまた勃起するんだ。 「かぁわぁ良い~持って帰りたぁい~!」 そんな声を耳元で聞いて、元気に勃起していく。 「あぁ…気持ち良くしないでよ。だれが責任とってくれるの?こんなにして…ダメだよ。」 オレはそう言って手あたり次第お姉さんに覆い被さって、腰を振った。 「きゃ~!もう、だめだよぉ~!」 ぐふふ!楽しい! 「シロ。何してるの?」 目を光らせたウェイターに声をかけられて、オレはお姉さん達のパラダイステーブルから半ば強制的に離された。 もうちょっと柔らかい女の人に触ってたかったのに。ちぇ~。 「おイタしたらダメだよ!」 そう注意されて、ジト目で怒られながらカウンター席に放流された。 「うわん!依冬!」 「シロ、何してたの?」 「お姉さんにおちんちんを触られていたら、ウェイターがオレを楽園から追放したんだ…!」 しくしくウソ泣きしながら依冬の背中に甘えていると、依冬はオレのサンタの衣装に興味津々で、帽子を指先で突いて笑って言った。 「可愛いね?俺もシロのおちんちん触っても良い?」 バカぁ言っちゃあいけないよ? 君のはガチじゃないか! 「んふ、ダメに決まってるだろ?…お馬鹿さん。」 クスクス笑ってそう言うと、彼の足の間に足を入れて隣の席に座った。 「依冬?クリスマスって好き?」 帽子からはみ出たオレの髪を指でなでる依冬に聞くと、彼は首を傾げながら言った。 「ん~、チキンのCMみたいな楽しい団らんみたいな思い出はないな。」 そうだ…。 彼のお父さんは…結城さん。 彼なら、依冬を置いて、湊くんと2人きりで豪華なディナーに行ってしまいそうだ。 「…オレも、全然、楽しい思い出なんてない。」 ポツリとそう言うと、久しぶりに胸の奥がざわざわとさざ波を立てていく。 あ… 「依冬…ギュってして…」 発作の前触れを感じて、とっさに目の前の依冬に抱き付いて、彼の温かさと香水の匂いを嗅いで心を落ち着かせる。 依冬はオレの背中を優しくなでて、抱きしめてくれた。 あぁ…あったかい。 「どうしたの…?」 「ちょっと…発作が起きそうになった。でも、大丈夫。」 そう言うと、一気に緊張感が走った彼の胸に頬を付けて、クッタリと甘えて深いため息をついた。 もう大丈夫だと思ったけど、まだ、少し燻ったものが残ってるみたいだ。 でも、それは目を逸らして誤魔化してきた今までとは違う。 本当の残りかすの様な…罪悪感だ。 「オレ…子供の頃、兄ちゃんがくれたクリスマスプレゼント…全部、目の前で壊したんだ。酷いでしょ?ふふ…。」 オレのサンタの帽子を外すと、髪の毛を思いきり撫でながら依冬が言った。 「…俺は、クリスマスプレゼントに腕時計を買って貰って大喜びする同級生の足の骨を折ったよ?だって、煩かったんだ。だから、体育の授業の時、分からない様に転ばせて、圧し掛かってやった。あばらを折りたかったのに、バカだから足の骨を折ったんだ。」 依冬は闇が深い… 改めて、そう思った。 オレは彼の胸に頬を当てたまま、目の前でギョッとするマスターを見つめながら聞いてみた。 「それ…何歳のころ?」 「ん~…確か、小学校5年生の時かな…」 彼は、もしかしたら、オレ以上に重症なクリスマスヘイターかもしれない! 仲間どころか、オレの上官になれるレベルのクリスマス嫌いだ… 「この服は?嫌いじゃない?」 体を起こすと、彼の目の前でサンタの衣装をひらひらと見せてみる。 色は赤と白。 ポンチョの様なケープの下に黒いメッシュのハードなタンクトップを着込んで、大きめの短パンの下には黒いニーソックスと、白いロングブーツ。 そして、間抜けな帽子をかぶるんだ。 依冬はオレをまじまじと眺めると太ももを撫でて言った。 「可愛いよ?」 良かった…骨は折られなさそうだ… 彼の膝の上に座ると、手元のビールを一口飲んで言った。 「骨は折ったらダメだよ…ぷぷっ!」 「だって、うるさいんだよ…?こんな時計、プレゼントでもらったんだ、すごいだろ?すごいだろ?ってさ…バカみたいだと思わない?そんな機会でもない限り、物をもらえない乞食みたいだよ。」 オレの可愛い依冬が毒を吐き続けてる。この前の花束の時よりも…重症だ。 「依冬?今年はさ…クリスマスヘイター同士、仲良く、オレとプレゼント交換でもしてみようか?」 背中の彼にそう聞くと、依冬は首をクイッと傾げたまま固まってしまった。 あ~はっはっは! それはまるで処理落ちしたアンドロイドの様に、眼球の奥までも停止した。 マスターが怖がってカウンターの奥へと逃げて行く中、テーブルに置かれた彼の手を撫でて、依冬が戻ってくるのを待った。 「…ど、どうして?」 やっと紡ぎだした彼の言葉に、オレは口を尖らせて言った。 「オレ達はクリスマスの被害者だ。この時期に感じる…このイライラが体に良い訳がない。少しでも生き易くする為に、こういった代替え行為がきっと役に立つと思うんだ。土田先生でも、きっと、同じ事を言うと思うよ?」 オレはそう言って嘯くと、背中の依冬を振り返って念を押した。 「ね?」 「えぇ~…」 「桜二も誘おう?彼はきっとクリスマスの時期、窃盗を繰り返していた筈なんだ…」 オレの言葉に、背中の依冬がクスクスと笑い声を出すと付け加える様に言った。 「詐欺もしてそうだね…あと、強盗と…婦女暴行。」 酷いだろ?これが末っ子の頭の中だよ? 「だから、桜二も一緒にプレゼント交換の輪に加わってよ!」 うんざりするクリスマス一色のステージをこなして、店まで迎えに来た桜二にそう言っておねだりする。 「え?俺はクリスマスは充実して過ごしたよ?」 ウインカーを出して車を出す彼に、オレと依冬とは違う何かを感じて口を尖らせながら言った。 「女といたんだな!」 「さぁ…どうかな…」 むかつく! こいつはクリスマスに踊らされた女を食ってたんだ!依冬が言った通り、婦女暴行を働いていた! 「最低だよ。桜二。サンタなんていないのにさ…。股が緩くなった女を抱いて、何が楽しいんだか…」 そう言ってため息をつくと、キラキラと過剰に光らされる街路樹を見つめて、眉を顰める。 可哀想な木…あんなもの付けられたくないだろうに… 次の日も…そのまた次の日も…店に出る度に、まるでカウントダウンをして行く様に店内の装飾が赤と白で埋め尽くされていく。 最悪だ… 「おいでよ…何がそんなに嫌なのさ…」 カウンター席でオレに両手を広げる桜二に抱きしめてもらう。 なぜかって? オレの顔が不機嫌にムスくれて、超絶ブスになってるからだ。 「嫌なの…この色も、この雰囲気も、この音楽も、この浮ついた空気も、すべて嫌。」 そう言って桜二の胸に顔を埋めて、首を振って甘える。 ため息しか出ない自分を抑えることが出来ない。 あともう少し我慢すれば、このクソッタレな赤と白の世界から解放されるというのに、オレの心は爆発寸前だ。 子供の頃のイライラが…いまだに染みついてるんだ。 「桜二も…プレゼント交換に参加する?」 ムスくれた表情のまま彼に聞くと、オレを大事そうに抱えて髪を撫でながら彼が言った。 「…良いよ。シロに、何をあげようかなぁ…」 そんな言葉とは裏腹に、彼の声は心配そうに優しかった。 桜二は…兄ちゃんと同じ愛をオレにくれる…兄ちゃんみたいな人。 彼から貰うものを大事に出来れば…あの罪悪感から抜け出せるのかな… どうかな… 「シロ、そろそろ」 支配人に呼ばれて桜二と離れると、オレの頬を撫でる彼の手にキスをする。 「はぁ~!クリスマスなんて、大っ嫌い!プンプン!なんて言っておいてさ…お前は十分、この空気に染まって甘々のシロたんになってんじゃねえかよ。はっ!やってらんないね?」 ぶつぶつと文句を言う支配人の後ろを歩いて階段を上ると、カウンター席の桜二を振り返ってみた。 彼もオレを目で追っていた様で、ハッ…と目が合った。 桜二… 桜二… いじけたように口を尖らせて肩をすぼめると、支配人と一緒にエントランスへ向かって、見送られるように階段を下りて控室へと入って行く。 心の中の罪悪感はクリスマスが近付くにつれて、憤りと一緒になって、もやもやしか残さなくなっていく。 抱えた罪悪感を…拭えないまま、雪だるまのように大きくしてる。 ダメだ…桜二に…聞いてもらおう… カーテンの裏に立つと、手首と足首を回して、首をゆっくりとぐるりと回した。 体中の毒素を吐き出す様に口から長く息を吐いて、体を真っ白にリセットする。 大音量の音楽が流れると、目の前のカーテンが開いた。 オレは満面の笑顔で、ステージへと向かう。 大好きだったエアロスミスの曲が、クリスマスのアレンジで糞ダサくなってても、曲の合間に糞ムカつくシャンシャンが聞こえても、目の前のお客たちが、すっかりクリスマスムードに飲まれて、浮ついた空気を出していても… オレはここでストリップをして、チップを頂いていくんだ! 「シロはバカだな…サンタなんていないのに…そんな格好して、バカみたい。」 幼い頃のオレがポールを器用に逆さに降りてそう言った。 「オレだって分かってるさ。でも、世の中はこうして回ってるんだ。そして、嫌でもお仕事だったら…こうして間抜けな格好をして踊らなきゃダメな時もあるんだ!」 オレはそう言って派手にバク転をすると、気持ちの悪い赤いポンチョを脱ぎ捨てて肌を露出させる。 「シローーー!もっとエッチに脱げよーー!」 お客からヤジが飛んで、階段の上からオレを見下ろす支配人の顔が険しくなる。 分かってるよ? でもね、嫌悪感が出てしまって、こんな服でいることが耐えられないんだ。 「ほら~。やっぱり嫌なんじゃん。大人ぶって…バカなんだ。」 幼いオレはそう言うと、オレの脱ぎ捨てた赤いポンチョに火をつけて燃やした。 ふふっ!最高じゃん! さすが、オレだ!イカれてる!! 笑顔になってポールに掴まると、思いきり勢いをつけて両足を高く上に上げて行く。 膝にポールをかけて体を起こすと、頭を揺らしながら回転して…目の前の赤と白を濁していく。 「もう、こんなくだらない事…ぶち壊しちゃおうよ?」 オレの足の先に座ってそう言うと、幼いオレは見事なバク宙をしてステージへと降りて行った。 すげぇガキだ… ぶち壊すね…ふふ。 それは…楽しそうだ! 糞みたいなサンタの帽子を髪から外すと、遠くへ放り投げた。 両手で体を振り回しながらサンタのズボンを脱ぐと、美しく体をのけ反らせてズボンをぐちゃぐちゃに丸めて遠くへと放り投げる。 こんな赤と白と緑の祭典、もうお終いだ! 膝の裏でポールを挟むとポールを掴んだ片手で体を支えて、足で漕ぐように回転をどんどん加速させていく。 スムーズに手の位置を変えながら、体のポジションを変えて行くと、華麗にポールを滑って降りる。 足に残った白いブーツでステージを踏み鳴らして歩くと、両足を広げて両手で中指を立てて、大声でシャウトして言った。 「クリスマスなんて…くっだらねんだよぉぉぉっ!!」 魂の叫びだ… 「あはは!」 チップを咥えて寝転がったお客の腹の上で、幼い頃のオレがキャッキャとはしゃいで拍手する。 支配人が階段の踊り場からエントランスに戻っていく姿を見て、怒られると覚悟した。 だって、めっちゃ怒った顔だったもん… 「シローーー!どうせクリスマスも仕事だから、そんなキレてんだろーーー?」 お客のヤジを涼しい顔で無視すると、チップ回収をいつもの様にエッチに済ませる。 「シロ?私も…クリスマスに仕事なの。だから気持ち、わかるよ?ドンマイ!」 優しいお姉さんから、チップをパンツに挟んでもらいながら慰めてもらう。 「シロ…ドンマイ!」 チップをくれるお客が、みんなオレにドンマイ!って言ってくる… なぁんだ、オレは別にドンマイじゃないよ? クリスマスを真っ向から否定してやったんだ! それは慰められることじゃない。称賛されることだ。 世間が好むことを、みんなが好きな訳じゃないだろ? オレはそんなマイノリティーを代表して言ったんだ。 解せない表情のままカーテンの奥へと戻ると、予想通りに怒った顔をした支配人に頭をひっぱたかれる。 「いて!」 「そんなにクリスマスが嫌いなら…着なくて良いって言っただろ?ん?」 知ってる? オレは今、ショーから戻ったばかりで裸、同然なんだ。 そんなオレを抱き寄せると、支配人はオレのパンツに手を突っ込んでお尻を鷲掴みしてもみ始めた。 「…俺と、エッチしたら着なくて良いって言っただろ?」 そう言ってオレの首筋に顔を埋めると、鼻息と吐息を吹きかけてくると、オレのパンツからチップがパラパラと音を立てながら床に落ちていく… 「やだ…やめて…」 オレの中に指を入れてこようとする支配人に、小さい声でそう言った。 「なぁんでだよ…俺は言っただろ?サンタの服を着たくないなら、四の五の言わずにおとなしく抱かれとけよ…」 「はっ!着てるだろ…?何でだか分る?あんたとこんな事したくないからだ!」 オレはそう言うと支配人の顔に手を置いて、思いきり押し退けた。 コンコン 「なぁんだよ…」 ノックの音に支配人がそう答えると、扉の向こうでウェイターが言った。 「○○さんが、ご来店しました。」 「…あ!そうだ!いけね!」 支配人はそう言ってオレを開放すると、ジト目で見つめて言った。 「次は、犯してやるからな!」 やばい… このジジイなら、絶対、不可能じゃない… 勃起させながら踵を返して控室を出て行く支配人を見送ると、下着を履きなおして半そで半ズボンを着て、店内へと戻っていく。 「いや~そうでしたか~。はは!それはそれは…」 常連客のご機嫌を取る支配人の声を聴きながら、店内へと戻ると桜二を見下ろした。 彼はずっとオレが戻ってくるのを待っていたみたいに、この場所を見つめていた… もう、可愛いんだから! オレは、ついさっきジジイに犯されかけたよ?ふふっ! 彼の美学が詰まったステージの上でおイタをしたからだ。 「桜二~~!」 そう言って素敵な彼に抱き付いて、彼の素肌をシャツ越しに感じてもだえる。 「遅かったね?」 「…ジジイに怒られてた。あいつは拘りが凄いんだ。」 オレはそう言うと、マスターと顔を見合わせて、ね~?と言った。 「ふふ…クリスマスなんて…くだらねんだよって言ったことを怒られちゃったんだ…。」 桜二はそう言うと、オレの口にジャックダニエルを運んで一口飲ませた。 口端からこぼれる茶色い液を顔を寄せて舌でねっとりと舐めると、チュッとキスをして微笑んで言った。 「ねえ?シロが暴れて踊ってる所…動画に撮って勇吾に送ったよ?」 えぇ…? オレはムスッとほほを膨らませると、桜二をジト目で見て言った。 「ダメだよ?もっと可愛い所を送らないと…ただただ、心配になっちゃうだけだろ?自分がされたら嫌な事は、人にしたらダメなんだ。」 そうだ。 彼は1人離れた所にいるんだ。 出来れば綺麗な所だけ…見せたいじゃないか… オレがそう言うと、桜二はオレの頬を撫でて言った。 「俺はさっきのシロを可愛いと思ったよ?そして、勇吾もきっとそう思うと思ったから、送ったんだよ?」 本当かな? 「じゃあ…これも撮って?もう一回送って?」 オレは桜二がニヤけるのを無視して、可愛いぶりっ子ポーズをした。 「いや…俺だったら…普通のシロの写真が欲しいけどな…」 「うるさい!良いの、これで…良いの!」 オレはそう言うと、にゃんにゃんポーズをして写真を撮って貰った。 ”オレはクリスマスも仕事だからってキレてる訳じゃないよ?“ そんな文を添えて、桜二の携帯から勇吾にメールを送った。 「もう…これから勝手に動画を取って誰かに送信したら、出禁にするからね?」 オレはそう言って頬を膨らませると、桜二の鼻をチョンと指で突いた。 「ごめんね?」 そう言ってほほ笑むと、オレの頬に優しいキスをくれるからすぐに許しちゃう。 「んふふ~。もう~!ダメなんだからぁ~!」 「ふふっ!ごめんね…?」 チュッチュッチュ…なんて連続のキスをもらって、デレデレのデレにトロけて行く。 そんな事を繰り返して乳繰り合っていると、桜二の携帯がブルっと震えた。 「あぁ…勇吾からだ…」 「見たい!」 オレはそう言うと、桜二の足の間に立って彼と一緒にメールを見た。 動画が添えられた、題名のないメール… 迷うことなく再生させると、久しぶりに動く勇吾を見て胸が苦しくなった。 髪が伸びたのか、前髪を緩くまとめて縛った彼は、いつもの彼より少し疲れて見えた。 「シロ?元気にしてる?どうせ撮るなら、もっとエッチな写真を撮ってよ。」 笑顔でそう言う彼をクスクス笑い声を出して見つめる。 心なしか、無理して元気に振舞っている様にも見えて、胸が痛い。 彼のカメラがぐるっとパンすると、真紅のドレープが掛かったクラシカルな舞台と、広いステージの上に3本ポールが立っているのが見えた。 「あぁ…!ここで…ここで公演するんだ!!」 胸が熱くなって、ボロボロと涙が落ちていく。 「見て…桜二、とっても素敵な舞台だ…!こんな所で…オーケストラの生演奏で…ファンタジア効果を使って踊るなんて…それはとっても、素晴らしいものになるよ。」 優しく微笑みながら、桜二がオレの涙を一つ一つ手で拭ってくれる。 動画の中の勇吾は、沢山の外人に囲まれて楽しそうに言った。 「お前はこっちでも人気だぞ?東京のクレイジーボーイって…あはは!言われてるぞ!」 「シローーーー!フォーーーー!!」 勇吾がそう言うと、知らない外人達がオレの名前を叫んで、シャウトした。 「やだ、怖い!」 オレは一気に真顔になると、桜二の手を握って怯えた。 「早く会いたい…愛してるよ…」 勇吾がそう言ってやさしく瞳を細めて…動画が終わった… 「素敵な舞台だった…」 ポツリとそう呟くと、桜二に抱き付いて、顔を埋めて言った。 「あそこに行きたい…」 「行けるさ…」 本当…? #勇吾 「寝ます…」 彼の最後のメールを見ながら…口元を緩めて笑う… つれないな…シロ。 急な変更がない限り、俺の舞台の準備は整った…後は、現場のスタッフが場を作り上げていくのを待つだけだ… 確認、調整、仕上げをして…演者を入れた最終リハーサルをして…公演だ。 ここにお前がいたら…どんなに素晴らしいか… 「はぁ…」 コーヒーショップで携帯電話を眺めながら、ため息をつく… 「寝ます…か…」 傷付いた訳じゃない。 俺は32歳だ。 年下の子にあしらわれて、傷付くような年じゃない。 そうだろ? コーヒーを入れるカップも、窓の外に映る景色も、すっかり色鮮やかなクリスマスだっていうのに…俺の心はセピア色だよ… 「はぁ…」 ため息をつきながら席を立つと、雪がちらつく街を、襟を立てて歩いて行く。 シロ…こっちは雪が降ってるよ。 東京はどうなの…? 腕時計を見て時間を確認する。 …次の打ち合わせまで時間がある…ちょっと散歩でもして、気分を変えよう… 冬のロンドンは極寒だ… 俺みたいに車で職場まで向かってると、どうも防寒に疎くなって街を歩く姿勢も悪くなって行く… クリスマスの買い出しか…笑顔で町ゆく人が多いのに、俺だけ浮かない顔をしているようだよ… なんだよ、シロ… 寝ます…なんて、酷いじゃないか… 勇ちゃんの事、面倒くさいって思って、適当にあしらったの? それとも、本当に寝たの? こんなちっさい事でずっと悶々としてるんだもんな…ダサいよ。 「はぁ…」 何となく、ウインドウショッピングしながら街をぶらついて…何となく店に入ると、何となくあの子に似合いそうなものを探してる。 今度会った時に渡そう… そう思って、何となく購入していると、いつの間にか沢山の紙袋を抱えていた。 満たされない何かを埋める様に、あの子へのプレゼントを買ってる。 あの子の為にって考える時間が…こんなにも自分を癒すとは思わなかったんだ。 シロと離れて…1か月も経っていないのに、俺はもうだめになりそうだ。 “勇吾のおかげだよ。勇吾の名前の勇気をもらった!だから、最後まで集中して出来たんだ。早く会いたいよ。早く会って、愛してるって言いたいよ。そうそう、バラの花束をありがとう。とっても綺麗だったよ。まるであなたが来てくれたみたいだった。” こんなに素敵なメールをくれた後に…寝ます…だもんな… 何度も読み返したあの子のメールを、クリスマスムードで浮足立つ人を避けずに立ち止まって、また読み返す。 こんな風にもやもやした気持ちが芽生えたら、すぐに会いに行って、真意を確認出来たのに…今は、それが出来ない。 それが煩わしくて…堪らないよ。 会いたい… 首を伸ばして空を見上げると、ちらついていた雪が本格的に形を付けて、空から舞い落ちてくる… シロ…雪を、手のひらで降らせてみて…? そして、俺の顔に、また、落としてよ… 顔に振って落ちた雪が解けて、涙と一緒に頬を伝っていく… 「シロ…さみしい…会いたいよ。」 「勇吾?お前、大丈夫か?」 舞台裏に戻ると、ショーンがそう言って俺の肩を抱いて廊下の隅へと連れて行く。 「こんなにブランドの袋を抱えて…気の抜けたような顔をして、心配だ。家に帰って休め…」 へ? 俺は彼の顔を見上げると首を傾げて言った。 「何、言ってんだよ…俺は大丈夫だよ…。外が寒くて…縮こまってるだけだよ。」 それに、ブランドの袋を沢山持ってるから心配って言うのは、良く分からないよ。 心配顔のショーンを見て、不思議な気持ちになる… 彼には、俺が気の抜けたような顔をしている様に見えるみたいだ。 「勇吾?シロに電話すれば良い。彼の声を聴いて落ち着けば良い。」 そう言ってショーンは俺の携帯電話を手に取ると、連絡帳からあの子を探し始めた。 「やめろよ!」 思わず大きな声を出して携帯電話を取り返すと、彼の胸を小突いて言った。 「余計な事するな…!」 俺は32歳の良い大人だ… 書かれたメールの内容が、突き放されたように感じたなんて…グズグズ根に持ってるなんて…恥ずかしくて言えない。 あの子がそんな子じゃない事なんて、分かってる。 俺を愛してくれているって…分かってる。 「悪かったよ…でも、心配なんだ…」 そう言ったショーンに、なんて返したら良いのか分からなくて、ただ口を噤んだ… あの子が俺を愛してくれているって、信じてるし、そう感じている。 でも… でも、ちょっとした事で、不安になって…落ち込んで…疑心暗鬼になるんだ。 いつも傍にいて、いつも触れる事が出来て、いつも声を聴けたら良いのに… そんな無い物ねだりをして、それが無理な現実に打ちのめされて、もっと疑心暗鬼になっていくんだ… 「勇吾、もうすぐでひと段落着く。持ち堪えろよ?」 「勇吾?ファイト!」 「こんなヨレヨレになって…これは過労じゃない。恋煩いだ。」 「骨抜きの勇吾だ。」 俺と目が合うたびに、気の合う仕事仲間がそう言って、慰めや、激励や、冷やかしを言ってくる。 なんだ…俺はそんなひどい顔をしてるの? ふと、窓に映った自分を見つめると、ひどく腑抜けた顔をしていた… これは…心配するよな… そう思った瞬間、目からボロボロと涙があふれて、両手で抑えると人目もはばからずに大泣きをした。 堪え切れないあの子への思いが溢れて行く様に、こみ上げる泣き声が止まらない。 「勇吾…大丈夫だよ…」 そう言ってショーンが背中をさすってくれる中、彼へのプレゼントが自分の手の中で揺れるのを眺めて、また涙を落とす。 「会いたいんだ…シロに、会いたい…!」 「勇吾?いつものして?」 そんな風に言って…俺に向かって走ってくるあの子を思い出して…この手の中に彼がいない事を認めることが出来ない。 「勇吾の匂いがする。ふふ…」 そう言って俺の首に顔を近づけて、鼻をスンスン鳴らすあの子を思い出して…堪らなく恋しくなるんだ。 「勇吾…見て?こぶしの花びらが落ちて来たよ…」 あの子の手のひらがひらひらと舞って…俺の頭の上に舞い落ちてくる光景が…鮮明に目の中に映るんだ… 「勇ちゃん…ど、どうしたの…」 泣きじゃくる俺の傍に真司がやって来て、俺の姿を見て呆然と立ち尽くした。 あの子は俺をこんな風に…弱くて、泣き虫の男に変えた。 こんな事…誰にも出来ないだろ? ふふ… 「ちょっと…寂しくなっちゃんだよな…」 俺の背中を撫でながらショーンがそう言うと、真司が声を荒げて言った。 「みっともない!勇ちゃんはそんな男じゃないだろ!いつも…いつも格好いい…そんな人だろ!こんな風に取り乱して泣くなんて、やめてよ!そんな、勇ちゃん…見たくないよっ!」 そうだよ… 俺はみっともない男なんだ。 虚勢を張って、見栄を張って、馬鹿にされまいと強い自分を演じていた… でも、あの子に会ったら、そんな事の全てがボロボロと剥がれて落ちていったんだ。 残ったのは…感受性ばかり豊かな…寂しがりの自分だけ。 「…もう!しっかりしてよっ!!ばかっ!」 そう言って俺の頭を一発引っぱたくと、真司はスタスタと逃げる様に立ち去って行った。 こんな時…あの子なら、俺を抱きしめて気が済むまで泣かせてくれるんだよ。 シロなら、弱くてみっともない俺も愛してくれるんだ。 「勇吾!お前の日本の恋人、凄いクレイジーだな。スカウトして連れて来いよ。この動画、見た?痺れるぜ?」 次々と友人や気の合う仕事仲間から声をかけられる。 俺があんな風に泣き崩れたのが、よほど、衝撃的だったんだろう… 今や、シロは話題の中心になっている。 東京のクレイジーボーイじゃない… “あの勇吾が骨抜きになって泣いて会いたがる恋人”として、あっという間に人気者になった。 醜態は晒したけど、あの子の存在を知らしめて俺は満足してる… シロが踊っている動画を見せに来る友人に、彼の事を教えてあげた。 「この人は、彼のヒップホップのダンスの先生なんだよ。シロの事、すごく好きでさ…。あの子は優しくて良い子だから…サービスしてあげてるんだよ。凄いだろ?めちゃくちゃ可愛んだよ…本当にさ…」 もう泣かない… 1人で地位を叩き上げて来た、ひと癖もふた癖もある様な曲者の俺が、ビービー泣いて会いたがるあの子の事を、こうやって伝えて、広めて、彼が俺の恋人だって…知らしめておくんだ。 あの子が来た時に、早く俺の仕事仲間と馴染める様に…準備しておいてやる。 アラームの音で目が覚めて、うっすらと瞳を開くと、目の前のシロを見つめる。. 「シロ…おいで…」 手を伸ばして、触れない彼を宙で掴んで自分に引き寄せて、抱きしめる。 「シロ…シロ…」 そう言って見えない彼の素肌を撫でて、朝立ちしたモノを勢いに任せて扱いて抜く。 寝起きでオナニー出来るなんて…中学生に戻ったみたいだ… きっと誰ともセックスしていないせいだ… だから、朝立ちが痛いくらいにギンギンになるんだ。 シャワーを浴びて、乱暴に乾かす伸びきった髪の毛がよく目に入る。 「いてて…」 適当に輪ゴムで髪を留めると、服を着て、上着を手に持って、車へと向かった。 ラジオでクリスマスソングとニュースを聞きながら、昼食とコーヒーを買って職場の公演会場へと向かう。 13:00…再び会場へと戻って来ると、14:00からのミーティング前に席について、買ったパンをかじって、コーヒーを飲む… 今日も寒いな… テーブルに置いた携帯電話がブルっと震えて、メールの着信を知らせる。 …シロかな? でも、まだ…いつものメールタイムじゃない… 東京だと朝の9:00過ぎ…こっちだと深夜の1:00過ぎ… この時間にメールをやり取りするのがいつの間にか…俺とシロのお約束のようになっていた… 桜ちゃんを見送って…あの子がひとりになる時間なんだ。 携帯電話を手に取って送信者を確認する。 「…桜ちゃん」 どんな親切心か…最近、桜ちゃんは俺にシロの動画を送ってくれる。 所々に自慢要素が含まれた桜ちゃんの動画は、慎重に閲覧しないと無駄に心を傷つけて行く。 シロには優しいかもしれないけど、彼は基本的にはクズだ… 今回、送られて来たのは、サンタの格好をしたシロのストリップショーの動画だった。 「ふふ…シロ。可愛いじゃないか…」 にやける口元をそのままに、動画の中のあの子を見つめる。 シロのポールダンスは安定を見せて、スランプを脱した様子にほっと一安心する。 強いね、シロ…お前は本当に強い子だ… お利口に踊っていたあの子は、ポールを降りるとステージの上で中指を立てて、思いっきりシャウトして言った。 「クリスマスなんて…くっだらねんだよぉぉぉっ!!」 「ぶふっ!!」 思わず飲んでいたコーヒーを吹き出した。 あまりの怒りの込め具合に心配になるほど、あの子はクリスマスが嫌いみたいだ… 「ぷぷぷぷ!!」 1人吹き出し続ける俺を、ミーティングに集まって来た仕事仲間が怪訝な表情で見つめ続ける。 情緒不安定だよな?でも、おかしくて堪んないんだ。 ムスくれた顔が可愛くて、すぐに抱きしめてキスしたくなる。 停止した画面から目が離せないで、恋しくて…胸が焼け焦げる。 じっと画面を見つめていると、ブルっと再び震える携帯は、桜ちゃんからの再びのメールを受信した。 内容を確認してすぐに顔がほころんでいく… 「ほんとに…可愛い奴…」 そこには、半そで半ズボンのいつものラフな姿で、俺が教えたにゃんにゃんポーズを取ったシロが写っていた… ”オレはクリスマスも仕事だからってキレてる訳じゃないよ?“ そんなメッセージと共に添えられた写真をすぐに保存して、俺の隣に座ったショーンに見せて言った。 「ねえ、見て?これ…俺のシロだよ。可愛いだろ?ほら…俺の事、ちゃんと覚えてて、こうやって毎日、連絡をくれるんだよ…良いだろ?なあ、見てよ…」 「シロ?元気にしてる?どうせ撮るなら、もっとエッチな写真を撮ってよ。」 散々みんなに彼のにゃんにゃんポーズを見せびらかして歩いた後、俺はそう言ってあの子宛の動画を取った。 本来だったらこんなことしたらいけないんだよ?でも、俺は主催者だから良いんだ。開演前の会場の動画を撮ってあの子に送った… ここで、お前が踊ったらどんなに素敵か… 見て? 感じて? 俺に会いに来て… 俺が愛しのシロに動画を撮っていると察した仕事仲間や、友人がいつの間にかわらわらと集まって、画面に映りたがる。 全く…出たがりな奴らだ…! 「お前はこっちでも人気だぞ?東京のクレイジーボーイって…あはは!言われてるぞ!」 俺がそう言って笑うと、ショーンが突然シャウトして言った。 「シローーーー!フォーーーー!!」 ふふ… そして…最後の最後で、やっと強がりじゃない本音を、あの子へと伝える。 「早く会いたい、愛してるよ…」 すぐに桜ちゃんのメールアドレスへと送信すると、踵を返して午後のミーティングを始める。 シロ…早くおいで…俺の傍に。 勇ちゃんが、もっと凄い所まで連れて行ってあげるよ。 お前はそんな所で終わる玉じゃないんだ。

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