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第37話

#シロ もう…クリスマスなんて…早く、終われば良いのに… 最近いつもそう思ってる。 あと3日… そのあとは寿な年末だ。 大体クリスマスなんて、外国の物じゃないか! そんなのに踊らされるなんて…大和魂はどこ行ったんだよ!ふん! コーヒーのサイズだって、ベンティってなんだよ。ベンティって…どんなティだよ… 日本なら、松、竹、梅にして欲しいよ。 依冬に車で送って貰うと、ひとり、桜二が待つ部屋へと帰って行く。 「たっだいま~!」 「う…お、おかえり…」 部屋の奥からそんな声はするけど、姿を現さない桜二に首を傾げる。 トコトコとリビングに入ると、頭に冷却シートを張った桜二と目が合った。 え… 「桜二、どうした…?」 「シロ、俺…インフルエンザになった。」 「え…?」 彼はオレから離れる様に距離を取ると、夕方に具合が悪くなって病院へ行って、検査をした事を教えてくれた…。そして、インフルエンザのB型に感染していて、薬は飲んだけどうつるから近づくなと言われた。 そんなぁ… 「一緒に寝てよぉ…」 シャワーを浴びると一気にウトウトし始めて、いつもの様に桜二を抱っこして寝たくなったんだ。 リビングの壁にくっつくと、ちらっと桜二を見つめてそう言った… 彼はソファに寝転がりながら、うつろな目をして言った。 「ダメだよ…バカだな…インフルエンザだって言ってんじゃん…うつるから…」 桜二が目の前にいるのに、ひとりで寝るなんて…耐えられない! オレは壁から離れて、桜二が横になってるソファまで行くと言った。 「じゃあ…オレもここで寝る…」 「…シロは、熱が、高くなりやすいから…ほんと、離れて…!」 そう言って手を伸ばしてオレを押し退けようとするから、悲しくなって言った。 「やだぁ!桜二と寝るの!…ふ、ふ、フワックショイ!」 シャワーから上がったばかりで、鼻がムズムズしただけなのに… オレのくしゃみを聞いた桜二は、顔色を変えて焦ると手でオレを押し退けて言った。 「ほぉら!うつるから!絶対ダメ!ベッドに行って…電話を掛けるから…それで会話をしよう…」 「やだぁ!」 オレは両手をぶんぶん振り回して、地団駄を踏んで駄々をこねると、桜二に抱き付いてスリスリした。 「あぁ~…桜二だぁ…」 「あぁ…もう…シロ…。なぁんで言う事を聞かないんだよっ!」 そう言うと、桜二はハァハァ…と熱い息をオレに吹きかけながら体を起こした。 オレは彼のおでこを撫でてあげると、自分のおでことくっつけて言った。 「桜二?熱があるよ?…可哀想…。ベッドに寝て?」 そう言って項垂れた彼の頭を抱きかかえると、ギュっと抱きしめて桜二を味わった。 無駄な抵抗をしなくなった桜二の手を引いて寝室へ連れてくると、彼をベッドに寝かせて布団をかけてあげる。 オレはね、わがままを言ってる訳じゃないんだ。 休息が必要な人に、手厚く看病って物をしてあげるんだよ? 体温計を彼の脇の下に挟むと、氷枕をタオルでくるんで頭の下に敷いてあげる。 お水と濡れタオルも枕元にセットして…彼の腕を布団の中にしまってあげる。 ピピピ… 体温計を彼の脇の下から取り出すと…38,6℃… これって高いの?それとも普通なの…? いつもの場所に寝てるのに、彼の胸はいつもよりも早く動いてる気がする… 「ねえ?桜二?…死んじゃうの?」 オレがそう言って彼の顔を見下ろすと、彼は吹き出して言った。 「死なないよ…バカだな…」 本当? オレは首を傾げながら桜二の隣に寝転がると、いつもの様に彼の脇に顔を埋めて、ぐりぐりと顔を擦り付けた。そして、彼を足で跨いで足の裏でスリスリと撫でる。 熱い… 桜二が…熱を出してる… 「ねえ、楓は…今年のクリスマスは、彼氏とロンドンに行くんだって…」 「ん…」 反応の鈍い桜二に顔を見上げて彼を見ると、虚ろにうるんだ瞳で天井を見つめていた。 「桜二?…死んじゃうの?」 「シロ…おやすみ…」 ポツリとそう言うと、オレの頭を無理やりいつものポジションに持って行こうと桜二が強引に腕で押してくるから、オレは頭に力を込めて全力で抵抗すると、彼の胸の上に抱き付いて言った。 「やだぁ…!グイッ!って無理やりやられての、やだったぁ!」 「…」 何も言わなくなった桜二をジト目で見続ける。 ぼんやりと開いた瞳が静かに閉じて行って、半開きの唇からは熱い息がハァハァと漏れてきて… 何となく…彼の口の中に舌を入れてキスをした。 だって…なんか、エッチだったんだ。 「シロ~、うつるって言ってんだろ?」 オレの体を押し退ける桜二に全力で抵抗すると、彼の胸に再び抱き付いて言った。 「うつすと…治るよ?」 「うつしたくないの…」 「桜二…桜二が死んだら嫌だ!」 オレはひとり極まってそう言うと、彼の唇に再びキスをして、舌を入れて絡めて吸った。 彼の熱い舌がトロトロに溶けて…気持ち良い… まるで、最高に興奮してエッチをしてる時みたいだ。 「シロ…ほんとに…も、やめなさい…」 そんな弱々しく言う桜二に胸がキュンキュンと萌えて、オレはその後も何回もキスをした。 「ふふ、かわいぃ…具合悪い桜二…可愛い…」 可愛い桜二に興奮したオレは、彼にキスしながら自分のモノを弄り始める。 「シロ…おやすみ…」 桜二はそう言うと、股間を弄るオレの手を自分の胸に置いてポンポンと叩いた。 オレは彼の手を握り返すと、再び自分のモノにあてがって彼の手もろとも握って扱いた。 桜二の手が…熱くて気持ちいい… 「あぁ…はぁ…ん、あっ、あっ…はぁはぁ…んん…」 彼の胸板に頭を乗せて、彼を見つめながら彼でオナニーする。 「シロ…」 オレを見つめる桜二の瞳が、ウルウルとして、虚ろで、セクシーで、イキそう…! 「はぁはぁ…あっ…はぁ…ん、桜二…桜二…イッちやう…」 気持ち良くて頭を真っ白にしながら喘ぐと、髪を弱々しく撫でる彼の手のひらに興奮して、腰がフルフルと震え始める。 だめだぁ…熱いのって…気持ち良すぎる…! 「あっああ…んん~!イッちやう…!イッちやう!あっああん!!」 1人で勝手にイッて惚けると、桜二が枕元のティッシュを差し出してくるから、受け取って彼の手のひらを拭ってあげた。 濡れタオルでもっときれいに拭いてあげると、パジャマの裾を口に咥えて汚れた自分のモノを綺麗に拭いた。 そんな様子をじっと見つめてくるから、膝立ちしてイッたモノを見せると教えてあげた。 「桜二…オレ、ひとりでシコった…」 オレの言葉に口元を緩めて笑うと、桜二が口を開けて舌を出したので、オレは彼の口の中に自分のモノを入れてみた。 あ、熱い…! 「んっ…あぁあん…気持ちい、熱い…!桜二、あっああん…熱いの、気持ちいの…」 彼の口の中も、彼の舌も熱くて気持ち良くて、腰が笑って尻もちを着いてしまった。 快感の余韻でイケそうなくらいビクビクと震えるオレを見ると、桜二はオレの太ももを掴んで言った。 「おいでよ…ほら、もっとしてやるから…」 「やだぁ…気持ち良くて…力入らないもん…」 「じゃあ…ここに座って…」 そう言って彼がポンポンと叩く枕に座ると、彼の目の前で股を開いた。 なんだかエッチな感じだ。 「逃げんなよ…」 彼はクスクス笑いながらそう言うと、オレの太ももをホールドして、舌を這わせながらオレのモノを口の中に入れた。 「あっ!あぁあ!ん、や、やぁ…だぁめぇ…!きもちい…んん~!桜二、だぁめぇ!」 あまりの快感に体が仰け反るどころか、飛び跳ねて、思いきり腕を壁にぶつけた。 「ん、シロ…気を付けて…」 桜二はそう言うと、オレのぶつけた腕を撫でながら、口の中でオレのモノを扱いた。 オレの腕が暴れない様にベッドに押し付けて、がっしりとした体でオレの体を押さえながら口の中で扱いてくる… 「ん~~!桜二…桜二…や、やだぁ…だめぇ、気持ちい…イッちやう!イッちやう!ん~~!あっああん!!」 あっという間にオレをイカせると、桜二はオレの中に指を入れて甘いキスをくれる。 桜二ったら…熱が出てるのに、エッチする気になったみたいだ。 彼の熱い体がオレを壁に押し付けながら、オレの中を指で気持ち良くしてくれる。 「あっああ…桜二、桜二…して…してよ…!」 そう言って彼の背中を両手で抱きしめると、彼の胸に顔を埋めてトロけて行く。 桜二が寝ていた場所にズルズルと滑り落ちると、オレの股の間に桜二が体を入れて、オレの中に入って来る。 それは熱くてトロけた彼のモノ… 堪んない… 気持ち良くって、堪らない! 「あ、熱い…!桜二…桜二の熱いよぉ!」 堪らない快感に体を捩って激しく感じると、桜二の首に両手を絡み付けて彼の苦悶の表情を見つめる。 …可愛い! 「気持ちい…桜二、桜二…!あっああ…待ってぇ…!もっと…もっと…ゆっくりしてよぉ!あっああんん…だめぇ、やだぁ、イッちやう…!イッちやうからぁ!!」 もっと激熱にトロけた彼を堪能したかったのに… 桜二がガンガン突くから、オレはあっという間にイッてしまった。 荒い息遣いをしながら虚ろな瞳でオレを見つめると、桜二はぐったりと項垂れる様にオレに圧し掛かって来た。 「桜二?めちゃめちゃセクシーだよ?…ねえ、もっとしてよぉ…」 そう言って彼の体を抱きしめると、どんどんと彼の体の力が抜けて行って…下敷きになったオレは、あっという間に苦しくて動けなくなった。 「く、苦しい…桜二、ばか!」 彼の体の下でそう言って暴れると、ダラリと持ち上がった彼の腕の隙間を這い出る様に転がって出た。 圧死する所だった! ベッドに突っ伏して動かなくなった彼のお尻を撫でて言った。 「セクシー桜二、セクシー桜二、もう一回やろうよ…ねえ、ねえ!」 応答のなくなった彼のお尻をペチンと叩くと、オレはぶつぶつ文句を言いながらシャワーを浴びに行った。 「なんだよ…もっとしたかったのに…ひとりで寝ちゃうなんて、だめだよ…?」 ぶつぶつと文句を言いながらベッドに戻ってくると、半下がりになったままの彼のスウェットのズボンを直してあげる。 こんなに汗をかいたんだ。明日には治ってるよね? 彼の隣に寝転がって髪を撫でながら、聞こえていないつもりでポツリと言った。 「桜二?クリスマスが嫌いなんだ…理由を聞いてよ…ふふ。ねえ…理由を聞いて、このイライラしてしまう気持ちを…静めてよ…」 オレがクリスマスが嫌いな理由…それを彼に聞いて欲しいんだ。 でも、いつも言いそびれてしまう… 彼に聞いてもらったら、オレのイライラが収まるかもしれない… クリスマスを楽しめる様になるかもしれない… 「シロ…朝だよ…」 酷い声の彼に驚いて目を見開くと、マスクを着けた彼と目が合った… 「昨日、あんなにエッチしたんだからマスクなんて今更つけたって、だぁめなんだぁ!…ばかだなぁ!」 オレがそう言って一蹴すると、彼はムスッと頬を膨らませて言った。 「どっちが、バカなんだよ…」 彼の掠れた声がセクシーで、ついつい口元が緩んじゃう。 「熱、下がった?」 彼の頬を撫でてそう聞くと、彼はオレを見下ろしながら瞳を細めて言った。 「…あぁ下がった。でも、まだうつるから…」 「ねえ、桜二?声が掠れて、とっても…セクシーだね?」 「…全く!…もう、起きて?」 呆れた様にそう言うと、オレの髪をグシャグシャにして寝室から出て行った。 オレはむくりとベッドから起き上がると、逃亡したセクシーの後を追った。 「お?偉いじゃん、シロ。」 後をつけてくるオレに気付くと、桜二は振り返りながらそう言った。 「シロも念のため、熱を測って?」 そう言って体温計をオレに渡すから、素直に脇の下に挟んで桜二の背中に甘えて抱き付いて言った。 「オレも熱が出たらセクシーになる?」 「ふふ、さあね…」 ピピピピ 体温計が鳴るとオレは脇の下から取り外して体温を確認してみた。 37、8℃… 「あ、」 オレがじっと見入る体温計を取り上げると、桜二が苦い顔をして言った。 「シロ…後で、病院…」 「やだよぉ!こんなの、ただの風邪だい!」 昨日の今日でインフルエンザがうつって発熱する訳ない… うつって症状が現れるまでの“潜伏期間”って奴があるって、オレは知ってるんだ。 ただの風邪と高をくくって、桜二の腰にしがみついて甘えて言った。 「桜二…具合が悪くなった!一緒に寝てよ!抱っこして寝てよ~!」 そんなオレの言葉に眉を下げると、氷嚢や、氷を準備しながら桜二が言った。 「病院に行って、インフルエンザの検査して、薬飲んでからね…」 ちぇ~! でも、弱々しい掠れ声の桜二はやっぱりセクシーだ。 オレは彼を見上げると、おねだりして言った。 「ねぇ、その声でシロって言って?」 「…シロや…」 「ふふ…エッロいね?」 彼の掠れ声に満足すると、朝食を作り始める桜二の背中にくっついてダラダラと甘えた。 こんなどうでも良い時間が、とっても大切だって…分かっちゃったんだもん。 「オレは、ただの風邪だよ?」 「ふぅ~ん…」 「はい、君はインフルエンザB型!」 近所の耳鼻科で晴れてインフルエンザの診断を貰った… 熱があるのにとっても元気で、このまま仕事にだって行けそうなのに…支配人は老人だから、インフルエンザが怖いみたいで、来るな!って怒られた。 治るまでストリップショーは他店のダンサーが代理で踊る事になった… 穴をあけた… あ~あ… 薬局によって薬を受け取ると、部屋に戻って、ソファにぐったりと眠る桜二に言った。 「桜二…インフルエンザB型だった…」 オレの言葉に目を開くと、オレを隣に座らせておでこを触って言った。 「…ん、朝よりも高くなって来てる…。やっぱり、お前は熱が高くなりやすいんだよ…」 桜二がそう言ったせいで、だんだん頭がボーッとして来て、体がフワフワする。そのまま桜二の体にクッタリと持たれかかると、今度は背中に悪寒が走り始めた。 「お、おうじ…さむい…」 そう言って震え始めるオレを見て、桜二はため息をつきながら言った。 「とりあえず着替えよう…あったかいの持って来るから、ちょっと待ってて。」 自分の手を見ると小刻みに震えてるのが分かる… 頭がガンガンと痛くなってきて、自分の鼓動で体が揺れる… 桜二に手伝ってもらいながら、洋服を楽なパジャマに着替えなおして、桜二のカーディガンを羽織った。 「シロ…ご飯はさっき食べたから、インフルエンザの薬、使おうね。」 桜二はそう言うと、慣れた様子で薬の袋を開けて、中からインフルエンザ用の薬を取り出した。 「ん…」 力なくそう答えると、口から吐き出す息が熱いのが自分でも分かった… 「はい、吸って!」 桜二に指示されながらインフルエンザの薬を吸い込んで、心配そうに眉を下げる彼に首を傾げて聞いた。 「おうじ…あたまいたい…オレ、セクシーになった?」 彼は呆れ顔を通り越して、真顔のまま言った。 「ばかだなぁ…ほら、ベッドに行くよ?」 歩けそうもなくなって、桜二に抱っこしてもらいながら寝室へと向かう。 頭がグワングワンを回って、気持ち悪い… 「1回、寝てみて…?」 桜二はそう言うと、オレに氷枕と氷嚢をセットして、枕元に水と濡れたタオルを置いた。 「やだぁ!一緒にいて…怖いから一緒にいて…」 オレを置いて寝室から出て行こうとする桜二にそう言うと、彼の手を取って繋いでもらう。 朝はあんなに元気だったのに…オレの体の中は、まるで湯たんぽのように鈍く熱くなって行く。 「桜二…オレ……セクシーかな?」 「うん…セクシーだから、一回寝てて?ちょっと氷持って来るから…待っててね。」 桜二はそう言うと、慌てた様子で寝室を出て行った… ガッ!ガッ!とキッチンで、氷を割る音が聞こえて…口元が緩んでいく。 こんな事…前も、あったな…… いつだっけ…? 懐かしい… その頃は、まだ…向井さんだった… 本当は、桜二なのに…まだ、向井さんだった… …嘘つきだからなぁ… 「このまま…死ぬのかな…?」 氷嚢を両手に抱えた桜二にそう言うと、彼は手際良くそれらをオレの体に置きながら言った。 「お前は…熱が高くなりすぎるから…冗談じゃなく、心配なんだよ。一回眠って大人しくしててよ…ね?」 そう言った彼の声が鈍く聞こえておでこを撫でる彼の手の重みを感じながら、一筋、落ちていく涙と一緒に瞼を閉じる。 それを、すかさず手で拭う…あなたが好きだよ。 目を覚ますと誰もいない寝室に不安になって、咄嗟に桜二を呼んだ。 「おうじ…おうじ……」 ガラガラ声…なんで酷い声だ…全然セクシーじゃない… 重たい体を起こすと、オレの体から温くなった氷嚢とケーキの保冷剤が落ちた。 喉と、頭が痛い… 「おうじ…」 頑張ってもう一度呼ぶと、廊下を歩く音がして首を傾げながら桜二が来た。 彼はさっきよりも随分回復した様子で、オレのおでこを触ると顔を覗き込んで言った。 「熱いな…熱、測るよ?」 「……なんか…気持ち悪い…」 「おいで…」 体を支えられてトイレまで来ると、一気に吐いた。 そのままクラクラして便座の隣に倒れ込むと、急いで体を起こして桜二が言った。 「…シロ、病院行くよ?」 「やだ…もう…病院は、行きたくない…」 桜二の声が焦ったように聞こえても、オレはフルフル震えながら病院に行くのを拒否した。 もう、入院なんて…したくない。病院は、嫌いだ。 「…仕方ない、もう、解熱剤を使うよ?」 「う……気持ち悪い…」 繰り返し訪れる吐き気にトイレから出られなくなると、便座に顔を付けて言った。 「全然…セクシー…じゃな…い」 悪酔いしても、二日酔いでも、こんなに気持ちが悪くなった事なんて無いのに…インフルエンザの猛威にさらされてる… ぐったりと項垂れるオレに、桜二が言った。 「シロ、口から飲めなさそうだから座薬入れるよ。お尻出して?」 座薬…それはお尻から挿れるお薬だよ。 「ん、やだ!やだぁ!」 オレがそう言ってごねると、何を今更…って、小さい声で桜二が言った… 聞こえたぞ!許さないかんな! 「早く入れないと溶けちゃうから、ほら、お尻出して?」 トイレで吐き気に襲われながらケツを出すなんて…なんのプレイなの? 最悪だ…! 「うえん…早くしてよぉ!ばか!」 背に腹は代えられないよ! トイレを抱えたままズボンを下げると、桜二に向かってお尻を突き出した。 彼はそんなオレのお尻をナデナデすると、ポツリと言った。 「なんか…セクシーだよ?」 うるせぇ!ばかやろう! クッタリと顔を便器につけていると、グッとお尻に指が入って来た。 オレの中で、なにかが熱くトロけて行く… これが…座薬… ぼんやりとトイレットペーパーを眺めていると、桜二が顔を覗き込んで言った。 「出てきちゃうから、お腹に力を入れないでね?」 「…ん、はぁい…」 力なくそう返事すると、指先でトイレットペーパーを撫でて転がした。 一体いつまで指を入れてるんだろう… もう、抜いても良いよね… 「なぁんか…卑猥で、興奮するね?」 オレの後ろでそう言った桜二に、そこはかとない憤りと苛つきを覚えた… ばかなの?ねぇ、ばかなの? オレ、今、めっちゃ気持ち悪いんだけど? 「うぅ…気持ち悪い…」 またトイレに吐くオレを見て、その気も失せたのか、桜二は指を抜くとパンツとスウェットを元に戻してオレの背中を撫でてくれた。 「かわいそうに…シロ…」 吐くものも無くなったのか、何度か盛大に吐くと吐き気が落ち着いてきて、ベッドに戻る事が出来た。 「汗、すごいな…」 解熱剤の効果はすぐに出て、体中から汗が噴き出して服を濡らすと、桜二が着替えを持ってきてくれた。 勇吾とお揃いの猫のトレーナーと、オレの練習用のスウェット。 どちらも、オレの一張羅だ… 「ついでに、体も拭くよ?」 オレの介護はお手の物の様で、桜二は慣れた手つきで綺麗に体を拭いて、新しいパンツとシャツを着せてくれた。 着替えを済ませると、桜二の手を撫でながら言った。 「ねぇ、動画撮って、勇吾に送って…?オレがインフルエンザで倒れたって、大げさに言って、心配させてみようよ…」 「…やだよ。」 桜二がそう即答するから、オレは首を傾げて言った。 「妬いてるの?」 「そうだよ、だから嫌だ。」 「そっか…」 髪を撫でる彼の手が気持ち良くて、そのままウトウトして再び眠りに落ちていく。 「え~、インフルエンザ?…可哀想…」 遠くで依冬の声が聞こえて目を覚ます。 時計を見ると23:00… 沢山寝たおかげか、だいぶ頭がスッキリした気がする。 オレは体を起こすと、ベッドを降りて、依冬の声がするリビングへ向かう。 「プレゼント交換、何にするの?」 依冬が桜二にそう聞くと、桜二はそっけなく言った。 「まだ、決めてない。」 「俺は、テンガにしようかな…」 「最低だな…」 呆れたような桜二の声に口元を緩めて笑いながらフラフラと歩いて向かうと、心配する様に声を掛けて、すかさず近づいて、オレのおでこを触る、お前が大好きだよ…? 「シロ、どう?大丈夫?」 オレは彼の手を掴んで顔を見上げると、首を傾げて言った。 「依冬…?オレ、お前にインフルエンザうつしちゃったかもしれない…昨日、送ってくれただろ?その前はお店でイチャイチャしたし…熱を出したら可哀想だよ。」 依冬に抱きついてそう言うと、彼はあっけらかんと笑いながら言った。 「ふふ、大丈夫だよ。だって、この前一度かかったからね?俺にはうつらないよ?熱がちょっと出たけど、すぐに下がったし…軽く済んだんだ。シロは色白で可愛いから…拗らせちゃったのかな…?」 ん? オレは依冬に抱き付きながら、訝しげな表情をする桜二と目を合わせて、首を傾げながら聞いた。 「依冬?それ、いつの話…?」 オレの言葉に依冬は、ん~と考えながら唸ると、ケロッと言った。 「確か…不動産屋に行ったあの日の前日かな?夜に急に熱が出たけど、次の日の朝には元気になったんだ。念の為病院へ行って診断書は貰ったけど…休む必要も無さそうだったから…そのままにしてる。」 あぁ…依冬… このインフルエンザの発生源は、お前だったのか… オレは依冬を蹴飛ばすと、桜二に抱きついてエンエンとウソ泣きをした。 熱がなくても、うつるんだ! ウイルスを放出してる間は、人に会ったらダメなんだ! 熱の下がったオレと桜二は、インフルエンザの隔離期間で、お仕事をお休みして仲良くお家で過ごしてる。 ソファで携帯電話を片手に熱心に何かを読んでる彼の膝にごろんと寝転がって、彼の顔を下から見て言った。 「桜二?陽介先生の結婚式。クリスマスイブだって知ってた?」 「もうすぐじゃないか…何、着てくの?どこでやるの?」 彼はそう言うと、携帯電話から目を外してオレの髪を撫でた。 「適当で良いよ…適当で…だってどうせ、誰も見ないもん。」 「赤ちゃんは、いつ生まれるの?」 意外だよ…桜二が赤ちゃんの事を聞くなんて…ふふ。 オレはにっこりとほほ笑むと彼の顎を撫でながら言った。 「…7月だよ。7月3日…予定日通りだと、かに座のトム・クルーズと同じ誕生日だ…」 退院してすぐに陽介先生の部屋に行ったんだ。 ほら、オレの推しのうちわと…トレカが気になって仕方がなかったんだ。 ふふ。 彼の部屋は綺麗に片付けられて、赤ちゃんの情報が書かれた雑誌が置かれていた。 いつもと変わらない筈なのに、そんな中で見た彼は…少しだけ、お父さんに見えた。 「赤ちゃんって…こんな風に人間になっていくんだ…あぁ、生き物って感じだね?」 十月十日(とつきとうか)なんて言うけど…女性は10か月と10日で人間を生成することが出来るようだ… 小さい点からおたまじゃくしの様になって手足が出来る様子が書かれた雑誌を、興奮して眺めてそう言うと、陽介先生はオレに赤ちゃんの白黒写真を見せて言った。 「ほらぁ…見て?今、こんな感じなんだよ?」 それは、もう…小さな人間の姿をしていた… 胸がキュンと熱くなって、陽介先生を見上げると満面の笑顔で言った。 「すごい…すごいね?早く会いたいな…!」 命を作る…こんな御業を成せるなんて…女性は特別なんだと感じた。 「…お姉さんと上手く行ってるの?」 赤ちゃん雑誌を夢中で読みながら陽介先生に尋ねると、彼は首を傾げて言った。 「ん~、多分…」 どうなってんだ! 「見て?可愛い…こんな小さい靴を履くんだね?」 雑誌に載った赤ちゃん用の靴を指さしてそう言うと、陽介先生はゴソゴソと奥から段ボールを出してきて、中を手に取ってオレに見せた。 「見て?これ…うちのおふくろが送って来たんだ。小さいだろ?」 「うわぁ…!」 彼が見せてくれたのは、生まれたばかりの赤ちゃんが着る、お洋服…! 「可愛い…!」 大きさも、腕を通す袖も、小さくて… 実物のサイズを想像して身震いする。 「壊してしまいそうだね…とっても繊細だ…凄いな…」 推しのうちわや、新しいペンライトや、トレーディングカードより…オレは陽介先生の新しい家族に興味津々になった。 「オレも何か買ってあげるよ。何が欲しい?」 そう彼に尋ねると、陽介先生は身を乗り出して言った。 「車!…子供が乗る…BMWの車…!」 「なんだそれ!女の子だったらどうするんだよ。」 「だからBMWにしたんだ。厳つすぎず、ゴージャスだろ?」 そうか? 陽介先生が見せてくれた子供用の車の写真を見て、腹を抱えて大笑いする。 だって、いっちょ前にBMWの形をした足で蹴る車のおもちゃに、サングラスをかけた赤ちゃんが跨って乗ってるんだもん。 笑っちゃうよね? すぐに、桜二と一緒にデパートに行って実物をチェックしたんだ。 「…」 子供用品のフロアに入ってから、ずっとムスっとしている桜二に首を傾げる。 「どうしてそんなに険しい顔をしてるのさ…怖いよ?」 オレのその言葉に、桜二は口を尖らせるとムスくれて言った。 「ここは居心地が悪いよ。赤ちゃん連れがあちこちにいて…うるさいし…くさいし…子供が足にぶつかってくる…蹴とばしたくなるよ。」 は? オレは彼をギョッとした顔で見つめると首を振って言った。 「はぁ~…桜二は子供が苦手なんだ…オレはね、陽介先生のスタジオに通った時、すでに克服したんだよ。彼らはね、小さいだけの正直者な人間だった。」 「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」 品の良いお姉さんが声を掛けてきたから、オレはモジモジして肩をすくめて言った。 「あ…あの、子供用のBMWを買いに来ました…。」 「あぁ…!お子さんにプレゼントですか?素敵なお父さんとお母さんですね。きっと大喜びしますよ?どうぞ、こちらです。」 ん? お父さんと、お母さん? 彼女の言葉に首を傾げて桜二を見上げると、彼は満面の笑顔になってオレを見つめて言った。 「シロ…行こうじゃないか…!」 突然、桜二がその気になってオレの背中を抱くと、店員さんの後を早歩きで追いかけ始めた。 どうしたんだ、桜二… 「こちらです!」 「あぁ!BMWよりも、ポルシェの方が良いんじゃないか?赤いフェラーリもあるよ?シロ…俺達の子は…どれが好きかな…?」 は? あはははは!! あ~はっはっはっは!! オレは腹を抱えながら桜二の腕を掴むと、大笑いしそうなのを必死に堪えた。 俺達の子? オレは子供を作る子宮を持ち合わせていないよ? だから、お前は、オレのお尻に挿れてんだろ? ははっ!笑っちゃうよね? 「こちら…BMW、ドイツ本社公式の遊具になります。如何ですか?」 「ぷぷっ!これ、下さい…」 さっきまであんなに汚いものを見る目で子供を見ていたのに、急に慈しむような瞳になった彼に、オレは大笑いしたくなるのを我慢するのに必死だった。 だって、折角その気になったんだ。 大笑いして彼の気を削ぐことは、賢明じゃないだろ? 「桜二は、実は子供好きなのかもしれないね?」 大きな箱を抱えた彼にそう言うと、彼は首を傾げて言った。 「いや、うるさいし、臭いし、嫌いだよ…」 でも、オレ達の子なら話は別な様だ…ぷぷっ!ウケる。 それをそのまま陽介先生の部屋に届けると、彼は桜二の目の前でオレを抱きしめてクルクルと振り回してキスをした。 その後、どんな空気になったのかは、お察しの通りだ… 「ねえ、桜二…オレのこと好き?」 彼の膝から彼の顔を仰ぎ見てそう聞くと、彼の髪を撫でた手のひらをそのまま、ひらひらと舞い散る桜の花びらにして自分の胸に落とした。 「…大好きだよ。」 そう言って顔を屈めると、オレの唇に優しいキスをくれた。 それがまるで大輪の桜の花に見えて…口元が緩んで笑顔になる。 「綺麗だ…」 そう言って、沢山の桜を頭の上で舞い散らせる。 5月が好き… 舞い散った桜の木の枝先に…新緑が実るから。 初々しい黄緑色の花を咲かせた様な桜を…あの人が、好きだったから。 「桜二?オレの話を聞いてよ…クリスマスが嫌いな理由を聞いて?」 「言ってごらんなさいよ…」 桜二は穏やかな顔でそう言うと、オレの髪を撫でながら窓の外を眺めた。 …思い出したくない。 でも、残りかすの様な…兄ちゃんへの罪悪感をすべて拭わないと、安心して、勇吾の所へ行けない。 発作の原因に成り得るものを、ひとつひとつ摘んで取り除いて行かないと… オレはまた何かの拍子に発作を起こす。 それじゃ、ダメなんだ… 前に進むって決めたから、見て見ぬふりをしてやり過ごす事は、してはいけないんだ。 「オレが、6歳の頃…」 オレがそう言うと、桜二の顔色が変わった… そう。母親の売春客の相手をさせられていた…魔の1年間の記憶。 「にぃちゃん…クリスマスって、サンタさんが来る日なの?」 オレは兄ちゃんの膝の上に乗って、お絵描きをしながら聞いた… 兄ちゃんはオレの頭を撫でると、優しい声で言った。 「そうだよ。うちは団地だから…まとめて下に置いて行くんだ。去年だって、その前だって、シロはプレゼントを貰っただろ?今年も、ちゃんとシロの所に来てくれるよ?」 そんなの、嘘だって…知ってる。 クリスマスの日、スーパーに兄ちゃんと買い物に来たオレは、ひとりお菓子売り場で今日のお菓子を選んでいた。 気に入ったものを取ろうと手を伸ばすと、他の子供が横から取って行った… 「にぃちゃん…あいつに取られた…!」 そう言ってオレを怪訝な顔で見る男の子を指さして兄ちゃんに言いつけると、兄ちゃんはオレを見て言った。 「奥に同じのがあるから…それを持っておいで?」 「いやだ!シロはあれが良かったんだ…」 そう言って男の子の元へ行くと、その子の顔をぶん殴ってお菓子を取り返した… その時、その子の母親がオレの所に飛んできて、思いきり頬を打ったんだ。 怒鳴られた内容も、どれほど痛かったのかも覚えていない。 ただ、母親の腕の中で優越感に満ちた顔をしてオレを見つめるその子を…殺してやりたいくらい憎く思った。 兄ちゃんはオレを後ろに隠して、怒り狂う母親に頭を下げていた… でも、分からないよ。 初めに盗んだのはそいつなのに…なんでオレが打たれなくちゃいけないのか… 納得出来なかった。 「シロ?痛くない?」 買い物袋を手に持ちながら、兄ちゃんがそう言ってオレの顔を覗き込んだ。 「…あいつが盗んだんだ…」 ムスッとほほを膨らませてそう言うと、兄ちゃんはオレの頬を撫でて目の前にしゃがみ込んで言った。 「ほら…おんぶしてあげる。おいで?」 オレは兄ちゃんの背中に体を乗せると、一気に広がって行く視界を楽しく見て、足を揺らした。 「シロ?今日は雪が降りそうだね…?クリスマスに雪なんて…良いじゃないか。」 夕方じゃない。お昼でもない。その間の時間…オレは兄ちゃんにおんぶしてもらいながら、団地への帰り道を眺める。 空からちらちらと雪が降って来て…頬に当たるとすぐに溶けていく。 「ちめたい…」 オレがそう言うと、兄ちゃんは笑い声をあげながら急ぎ足になった。 このまま兄ちゃんの予報通り、雪が降るのか…それとも雨になるのか… それとも、止んでしまうのか…?誰にも分からない。 でも、その時、小さな冷たい雪が降って、オレの頬の上で溶けたのは間違いない事実だ。 「うわ~~~ん!こ、こ、こわいよ~~!」 家に帰ると、服を脱がされた健太が頬を赤く腫らして、男に泣かされていた… 「おう…お前、どこに行ってたんだよ。間違ってこいつを触ったらギャン泣きするから…ムカついてたんだ。ほら…こっちにこいよ。遊んでやるから…」 嫌がる素振りなんてしない。 戸惑うことも無くなった… こうする事に意味も、ない。 オレは兄ちゃんと繋いでいた手を離すと、オレに手を伸ばす知らない男の手を握った。 奥の部屋へ連れて行かれて、襖を閉じられる。 コートを脱がされて、ズボンを下げられる。 襖の向こうで泣きじゃくる健太の泣き声を聞きながら、オレのモノをレロレロと舐める男の頭を眺めた… 「お前…本当に可愛いね…こんなことされて、気持ち良くなっちゃうなんて…悪い子だ…ふふ。ほら、見てごらん?こんなに大きくして…はぁはぁ…白いの出るかな?ねえ…まだ、出ないかなぁ?」 大抵の男は、やるまでは厳つく脅して来る癖に、やる時だけは激甘になって甘い声を出しながら、いやらしいことを囁き始める。 オレはそれを、気持ち悪いと思っていた… ゆっくりと襖が開くと、強張った表情の兄ちゃんが部屋に入って来て男に言った。 「…もう、やめろ!」 男の体を押し退けてオレから引き剥がすと、オレを手で遠くへ押し退けて言った。 「シロ!逃げろ!」 男に殴られて、蹴とばされる兄ちゃんの姿を見て…オレは、逃げる事なんて、出来なかった… 「やめて!にぃちゃんに痛い事しないでぇ!」 オレは男の気を引く為に自分の服を全て脱ぐと、男の腕に抱き付いて媚びた。 「…気持ち良い事してよ…早く…気持ち良くしてよぉ…」 堪らなくなった男は兄ちゃんを殴る事をやめて、オレに覆い被さると中に指を入れて広げ始めた。 「あぁ…可愛いなぁ…気持ちいい?なあ、気持ちいいの?バカな兄ちゃんに教えてやれよ…お前は喜んで男の相手してるって…エッチな事が大好きだってさ…」 そう言って気味の悪い笑い声をあげると、自分の膝の上にオレを乗せてモノをねじ込んできた… 痛くて、苦しくて、死にそうだ… 抱きしめられた大きな体の向こうで…兄ちゃんがオレを見て、泣いてる。 オレは、この状況を認めたくなくて…怖くて…兄ちゃんを見つめながら気持ち良くなって喘ぎ始める。 「はは…シロは見られてると興奮するの?可愛いね…どうしようか?ん?こんなになって…大人になったら、どうしようか?」 まるでオナニー用の道具の様に小さなオレの体を掴むと、自分勝手に腰を振ってオレの中をグチャグチャに犯していく。 体を舐める舌も、自分の下半身を動くモノも、自分を抱きしめる太い腕も、すべて目の前でオレを見つめて涙を落とす兄ちゃんがくれる物だと思って…そう思い込んで、この地獄のような時間を、自分を騙してやり過ごす。 「あ…あぁ…あっ…はぁはぁ…ん…あっ…あ…」 強く抱きしめられた腕の間からオレの喘ぎ声が漏れて、兄ちゃんに届いて行くのかと思ったら、それだけで興奮した。 にぃちゃん… にぃちゃんのおちんちん…気持ち良いよ… クリスマスだというのに、その後も違う男が出入りしてオレを抱いて行く… その間中、兄ちゃんはオレの抱かれる姿を見続けた。 気が済んだ男が帰ると、兄ちゃんがオレの体を抱きかかえて風呂場へ連れて行って、綺麗に流してくれる。 兄ちゃんはオレのお尻を流しながら、ひくひくとしゃくりあげて泣き始めた。 もっと上手に男の相手をすれば、兄ちゃんが殴られる事が無くなるのかな… それとも、もっとエッチになれば良いのかな… 「にぃちゃん…泣いてるの?痛かったの?パンチされて、可哀想…」 オレがそう言うと、兄ちゃんはもっと体揺らして泣いた… それがとっても可哀想で…堪らず兄ちゃんに抱き付いて言った。 「にぃ…にぃちゃん…泣かないで…ごめんね、もっと上手にするから…泣かないで…ごめんね…ごめんなさい…シロのせいで…にぃちゃんがパンチされて…ごめんなさい…!」 この人がいてくれないと…怖くて、怖くて、堪らないんだ。 「にぃちゃん…ごめんなさい。シロの事…嫌いにならないで…嫌わないで…」 オレの体を抱きしめると、兄ちゃんは何も言わずに泣き続けた… 「わ~い。サンタさん来る~!シャンシャンシャンシャン!」 「健太…座って?ご飯中だよ…」 クリスマスプレゼントを期待して健太がはしゃいで部屋を駆け回る中、オレはお腹を押さえて兄ちゃんに言った。 「にぃちゃん…お腹痛い…」 テーブルの上にはおいしそうな唐揚げが乗っているというのに…激しい腹痛で体が震えるて冷汗が落ちてクラクラしてくる。 「シロ、おトイレに行ってみようか?」 そう言って兄ちゃんがオレをトイレに連れて行ってズボンを下げると、オレのパンツが真っ赤に染まっていた… 「あ…」 絶句する兄ちゃんの肩に顔を埋めると、そのままズルズルと力が抜けて兄ちゃんの腕の中に倒れ込んだ。 「うわ~~ん!兄ちゃん、怖い~~!」 「健太、おいで…ママのとこにおいで…」 「この、糞ババア!こんな子供に何させてんだよ!お前なんて、死ねば良いんだ!」 「あんた…よくも母親にそんな事言えるわね?そのガキに関わるから、ろくな事にならないのよ!死ねば良いのは…そのガキでしょ!健太は連れて行くから!そいつは放っておきなさいよ。そのまま死ねば良いじゃない?その方が清々するわ。」 「消えろ!糞ババア!!」 救急車で運ばれて、病院で意識を回復するまで、母親と兄ちゃんの怒号の応酬と、怒り狂った兄ちゃんが部屋の中を暴れる光景が焼き付いて離れなかった… 「病院にはサンタは来ない…」 オレ1人しかいない暗くて広い部屋で、ポツリとそう呟くと、ベッドの上から窓の奥を見つめて、雪が降るか…空を眺めた。 「にぃちゃん…にぃちゃん…にぃちゃん…にぃちゃん…」 体を揺らして雪が降るのを待ったけど…夜通し眺めていても雪は降らなかった… 兄ちゃんの言った雪の予報は外れたみたいだ。 朝、目を覚ますと枕元にプレゼントが置かれていた… 「あぁ…シロ、おはよう。ほら、見て?サンタさんが来たんだ。」 そう言ってプレゼントを手に持つと、オレに差し出して兄ちゃんは悲しそうに微笑んだ。 オレの髪を撫でながら、窓の外を見上げていた桜二がオレを見下ろすと眉を下げて言った。 「どうしたの?話してごらんってば…」 「6歳の頃…兄ちゃんがくれたスノードームを壊した。クリスマスの日に何人も男の相手をして…救急車で運ばれたんだ。その時…入院した病室で兄ちゃんがくれたスノードームを…目の前で叩き割って壊した。」 オレがそう言うと、桜二は表情も髪を撫でる手も変えずに、ただ黙って頷いて、相槌を打った。 「うん…」 「だって…サンタがくれたって言うんだぜ。オレはそんな奴から貰う物、要らないって言って叩きつけて壊したんだ。それまでくれた物も、すべて。退院した日に兄ちゃんの目の前で壊した。その後も、毎年毎年、目の前で壊した。」 「うん…」 「サンタなんていない。兄ちゃんが買ってくれていたんだ。それなのに、あの人は、サンタはシロの事忘れてないよって言って…毎年くれたんだ。だから、全部壊した。サンタなんていない。プレゼントも嘘だ。もし、本当に居たとしたら、そんなもの配ってないで、毎日毎日男の相手をする…オレを助けろよって…子供ながらに思った。」 「うん…」 「だから、クリスマスが嫌い…サンタが嫌い…。今は…兄ちゃんのくれた物を…目の前で壊してしまった自分も、嫌い。」 オレはそう言って桜二の膝に顔を埋めて泣いた。 彼は何も言わずにオレの背中を撫でると、覆い被さって体を抱きしめてくれた。 「話してくれてありがとう。」 そう言った彼の声が体中に響いて、温かい彼に包まれて、力が抜けていく… 「うん…」 目の前で派手に叩き付けて壊すもんだから、年齢を重ねる毎に兄ちゃんは壊れやすい物をプレゼントに選ぶようになっていった。 中学生の頃は、お皿をプレゼントして、袋の上で割れと言ったくらいだ… 遊び心のある兄ちゃんは…オレの行為を、笑い話に変えようとしていたんだ。 ふふ… 笑えないっていうのに、バカな人。 「じゃあ…12歳のクリスマスは?」 「ふふ…叩き付けると変な音がするボールをくれた…。だから、オレが床に叩きつけると…びょーんって変な音を立てながら…部屋中跳ね回るんだ…。笑いを堪える兄ちゃんの顔が…おかしくて、オレは笑いながらそれをごみ箱に捨てた。」 オレがそう言うと、桜二はケラケラ笑って言った。 「じゃあ…13歳のクリスマスプレゼントは?」 「これはすごかった。薄っぺらい高価なお皿を買ってきた。そして、紙袋を広げて言ったんだ。ここに目がけて叩きつけろって…!」 「ふふっ!もう、それは…一緒になって遊んでるようなもんじゃん…」 桜二はそう言って笑うと、オレのおでこを撫でて言った。 「シロのお兄さんは、面白い人だったんだね…」 オレはにっこりと笑うと、桜二に教えてあげた。 「うん…そうなんだ。いつも、笑わせてくれた…」 わざと、変な歌を歌ったり… 謝るまで、変顔して見つめて来たり… 100円で動く乗り物に乗せて、はしゃいだり… 優しくて、面白くて、素敵な人だった。 「シロ?クリスマスのプレゼントだけど…俺からだったら叩き付けないよね?サンタからって嘘を吐くと、叩き付けるんだよね?」 桜二がそう言ってオレを見下ろしながら、フルフルと震えた。 ふふっ!おっかしい! 「…どうかな?」 オレはそう言って桜二の口癖をまねすると、クスクス笑った。 散々嫌な思い出しかないクリスマスを、桜二に”兄ちゃんへの罪悪感“を話した事で…少しは楽しく過ごせそうな気がした。 オレと同じ様にクリスマスに良い思い出がない依冬に、クリスマスのプレゼント交換を提案した。そこに桜二も加わって…3人でプレゼント交換をするんだ。 既に彼らへのプレゼントを購入済みのオレは、インフルエンザになっても、たとえ台風が来たとしても、何も問題ない。 ふっ…オレに死角はない。 君はどうなのかな…? さっきから携帯電話で何かを探している桜二を見つめて、ニヤニヤする。 依冬はお金持ちだから…きっとオレに車をくれるに違いないんだ。 オレは彼の膝の上から立ち上がると、伸びをしながらストレッチを始める。 目の前で携帯に夢中の桜二を見つめながら逆立ちをして、キープする。 桜二君には、お財布を買った。 依冬君には、懐中時計を買った。 夏子さんには、エッチな下着を買った。 そして、勇吾には、お揃いの可愛いセーターを買った。 まずは桜二君へのプレゼント。 これはお財布にするってすぐに決めた… アルバイトの初任給で兄ちゃんに小銭入れをあげたら…とっても喜んだのを覚えていたから、桜二にも、そうするって決めていたんだ。 いつも衣装の小道具を作る時お世話になっている革の工房へ行って作った。 所謂オーダーメイドのお財布だ。 「あ、シロくんいらっしゃい。今日はまた衣装か何か?」 「ううん、お財布を作りたいんだ。」 工房の中は革の独特な匂いが充満して、所狭しと並べられたロールの革が立てかけられてる。 この匂い…嫌いじゃないよ?でも、独特だ。 お店のお姉さんにそう話すと、彼女はにっこりとほほ笑んで言った。 「良いよ、どんなのにする?」 革の見本をバラッと目の前に置かれて、ぺらぺらとめくりながら手触りを確認するように、指先でなぞった。 今更だけど…これ、全部、生き物の皮なんだよな…ゾッとするよ。 「あ~。これ、かっこいいね。これの青とかある?」 「あるよ、こんな感じの色になるよ?」 お姉さんが見せてくれた色見本の深い青が、桜二っぽくてすぐに気に入った。 色落ちしないか確認すると、コクリと頷いてお姉さんに言った。 「この革で、二つ折りの財布作りたいな。中の部分の小銭入れの所だけ違う革にしたい。」 オレが要望を伝えると、お姉さんは大体の出来を想像して頷いて言った。 「良いね、時間があるなら、自分で作ってみる?」 「うん…出来るとこだけ自分で作りたい。」 「プレゼント?」 「…うん」 そう言って恥ずかしがってオレが俯くと、お姉さんは、かわいい…と言って、ニヤニヤしながら準備をした。 自分で作るなんて言っても、ミシンなんて扱えないから…ちょっとの所を手で縫ったりするだけなんだけど、桜二の為に作ってみたかったんだ。 中の小銭入れの蓋と、カード入れの一部を深緑の革にして、ちょっと変わり者の彼を表現して、自然と口元が緩んでいく。 「これで何か書いてみる?」 お姉さんはそう言うと、ハンダゴテを手に持って首を傾げた。 「良いね、なんて書こうかな?」 オレはそう言ってハンダゴテを掴むと、“桜ちゃんが大好き”と書いて、自分で照れた。 その様子を見ていたお姉さんも、顔を赤くしてなぜか照れている。ふふっ! 二つ折りの財布を開けるとカード入れの下にメッセージが見えるんだ。 主張し過ぎず、それでも存在感のある場所だと思わない? 「ちょっとやりすぎたかな…?」 「いや、良いよ。すごく良い。」 お姉さんにオレの手を加えた材料を渡すと、指定した色の糸でミシンをかけてくれる。 ガタガタと机を揺らしてミシンをかけながらお姉さんが聞いて来た。 「シロ、お店の方、どう?YouTubeで話題になったって聞いたよ。さすがシロだね…」 「ん…どうかな。オレくらいの奴なんてごまんと居るよ…」 「あんたは、特別だよ。」 お姉さんはそう言うとミシンをかける手を止めて、にっこり笑った。 随分、褒めちぎるな… 嬉しいけど、照れちゃうよ。 「はい!できた!」 あっという間に出来上がったオレの…いや、桜二のお財布を手に取って何度も撫でてみる。艶も肌触りも、彼にぴったりだ! 「思った通りの良いお財布になった!ありがとう。これをラッピングしたいんだ。」 オレがそう言うと、お姉さんはお財布を丁寧に布で拭いて聞いて来た。 「箱、何色にする?」 「黒、リボンは赤にして?」 お姉さんはオレの顔を覗き込みながら、ムフムフ笑うと言った。 「ふふ、大切な人なんだねぇ…?」 「…ん。」 短くそう言って赤面して顔を俯かせると、お姉さんはニヤニヤしながら言った。 「シロ?クリスマスプレゼントならカードも添えて渡すんだよ?メッセージには甘い言葉を大盛りで!汁だくで!増し増しの増しで!」 増し増しの…増し?それは…もはや赤ちゃん言葉になっちゃうよ? 可愛い小ぶりの紙袋に入れてもらうと、手を振って店を出た。 次は依冬君へのプレゼント… 彼にはノープランだった。 だって、依冬はお金持ちで、欲しいものなんて何でも持っているだろうから… 考えあぐねながら街をウインドウショッピングしていると、アンティークショップのショーウインドウの前で立ち止まった。 そこにはいぶし銀の懐中時計が飾られていた。 「依冬が…これを持ったら…最高に格好いいじゃん…」 ポツリとそう言うと、お店の中へと入って、店主に声を掛けた。 「…あれは、売り物ですか?」 オレがそう言ってショーウインドウを指さすと、お洒落な古物商のおじいさんが笑顔で答えた。 「手巻きだけど、まだまだ現役だよ。」 ふぅん…手巻きか…良いじゃん。 雑な彼にはそれくらいのマメさが必要だ。 「チェーンは18金?」 オレがそう聞くと、おじいさんは首を傾げて言った。 「あれは違うけど…18金のチェーンが別売りであるよ?付けてみる?」 おじいさんはそう言うと、ショーウインドウの懐中時計を手に持って、オレの目の前に黒いマットを敷いてその上に置いた。 「素材は真鍮で…手巻き式、明治くらいのアンティーク品だよ。大事に扱われてきたから、蓋の具合も良いし掘り出し物だよ?」 営業トークを聞きながら手のひらに乗せて手触りを確認する。 コロンと手に収まる丸い形と程よい重さ…美しい装飾が施された蓋は開け閉めすると、カチンと音を出して確かに調子がよさそうだった。 文字盤もシンプルで、良い。これを依冬へ贈ろう… 「良いね…チェーンを18金に変えてよ。それを、プレゼント用にラッピングしてもらおうかな。」 上等な箱と上等な包装紙を巻いてもらい、クラシカルな小袋に入れてもらうと店を後にした。 良い買い物ができた! いつも腕に付けてるゴテゴテした高い時計よりも、こういうアンティーク時計の方が…セクシーだ。 不動産屋、銀行員、デパートの店員、その他接客業はお客の腕時計を見て相手が金持ちかどうか判断するって聞いた事がある。 かくいうオレも、そういう所を見てしまう癖がついてる。 でもこれって野暮で下品だ。 だから、依冬君にはこういう大人な時計を持って、金持ちである事を隠して欲しい。 「ふふ…上等じゃん…」 満足げに紙袋を眺めて、ひとり、満面の笑顔になる。

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