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第40話
#シロ
「荷物これで終わり?」
「…う~ん」
「すくな…」
依冬がオレの荷物…段ボール1個分を手に持ってそう言った。
だって服は桜二の部屋に持って行ってるし、
バイバイ…オレのボロアパート…
桜二と死にかけた軟禁部屋…
兄ちゃんの命日に…グダグダに落ちて…何度も死にかけた、オレの部屋。
家財道具と呼べるようなものはベッドくらいしかなかった…それもリサイクル用品店にタダ同然で売った。
僕はこれから…南青山に引っ越します。
裏にはお墓がある…曰くつきの土地です。
「シロ…このまま仕事に行く?」
依冬はポケットから懐中時計を出すと、パカッと蓋を開いて時間を確認した。
「あぁ…かっこいい!」
オレはそう言って、依冬に抱き付くと彼の胸にスリスリと頬ずりをした。
「依冬…かっこいい。ワンランク上の大人の男に見えるよ?」
オレがふざけてそう言うと、まんざらでも無いのか…依冬は格好つけたまま言った。
「そうかな…」
ぷぷ~!
「…うん。めっちゃエッチが上手な男に見えるよ。」
「そうかな…」
ぷぷぷ~!
12月25日 長かったイライラの日々も今日で終わる。
18:00 三叉路の店にやって来た。
「イエ~~!年末だ~~!」
オレはそう言いながらエントランスに入ると、支配人の前で小躍りをして喜んだ。
彼は吹き出して笑うと、怒って言った。
「馬鹿野郎!まだ、今日が残ってるだろが!」
「クリスマスは朝でおしまいだよ?見て?このコート…プレゼントで貰ったんだ。良いでしょ?見て?このブレスレット、プレゼントで貰ったんだ。良いでしょ?見て?この指輪。プレゼントで貰ったんだ。良いでしょ?」
オレがそう言って支配人に貢物を見せびらかすと、彼は顔を歪めて言った。
「お~お~!たっかそうな物を身に付けて…追いはぎに会うぞ?」
追いはぎ?それは…怖いじゃないか!
「え…やだぁ、怖いじゃないか。ん、もう…」
オレはしょんぼりすると控室への階段を下りて行った。
鏡の前にメイク道具を置いて、ドガっと椅子に腰かけると自分の薄い顔に色を乗せていく。
「フンフ~ン…フンフフ~ン」
明日は大倉山にある大塚さんのアトリエに行って…完成した絵を見せてもらう。
夕方頃…勇吾の公演の情報をチェックして…どんな前評判か調べてみよう。
あぁ…胸がドキドキする!
あんな舞台でショーをするなんて…素敵だな…
左の腕に巻いてもらったブレスレットを右の手のひらで包み込んで、指先に触れる蹄鉄を転がして撫でる。
早く…勇吾の所へ行きたいな…
あんな素敵な舞台に立ってみたいな…
今いるこの場所に、不満がある訳じゃない。エロを表現する事を嫌だとも思わない。
でも、あんな舞台を見せられてしまうと…無いと思っていた野心みたいなものがウズウズと疼いてくるんだ。
評価されたい訳じゃない。
ただ、見てもらいたいんだ。
19:00 衣装に着替えると、店内へ向かうため階段を上ってエントランスへと向かった。
騒がしい様子に首を傾げながら階段を上ると、海外からのお客さんがエントランスに溢れてもみくちゃになってる。
「ツアー客さんだ!」
支配人がそう言うから、オレは愛想よくニコニコと笑顔を作って媚びを売った。
旅行会社の旗を持ったお姉さんが、ストリップダンサーへのチップの受け渡し方法をレクチャーする中、ニヤニヤするお母さんにウインクしてあげる。
「オ~ウ…!」
オレはついこの間、勇吾の友達と片言でやり取りしたからね。
片言でも強引に話せば、何とかなるって分かったんだ。
「エクスペンシブ、チップ、シルブプレ…」
オレがそう言うと、観光客は大喜びして拍手をくれる。
フヘヘ…これは外人用の鉄板ネタにしよう。
だって、いつもみんな大笑いしてくれるんだもんね。
エントランスを抜けて階段の踊り場へやってくると、遊び人風貌のお兄さんが立っている。
待ち合わせでもしてるのかな…
横目に見ながら階段を下りていくと、後ろから手を掴まれて上に引き上げられた。
振り返りながら、思いきり相手の頬に平手打ちすると、凄んで言った。
「勝手に触るんじゃねぇっ!」
引っぱたかれても掴んだ手を離さない男は、オレを見下ろすとニヤリと笑って言った。
「なあ…お前、ストリッパーだろ?女みたいな顔して…本当に男なの?なあ、付いてるのか触らせてみろよ…」
そう言いながらオレの足の間に足を強引に入れると、体を壁に押し付けてきた。
「…おまえ、馬鹿だね。こんな所でこんな事して…早々に出禁になるだけだよ?なあ、こういうお店で遊んだ事が無いみたいだから教えてあげるよ。ここではね、ホストにもホステスにも、ダンサーにも、こんな無礼は許されないんだ。」
オレがそう言うと、すでに後ろに待機していたウェイターが、オレから男を引き剥がして言った。
「それ以上行儀が悪いと、追い出しますよ?」
え?
「もう、出禁にしてよ。」
ウェイターの顔を見てそう言うと、男はケラケラ笑って言った。
「俺はね、出禁にならないの。何でかっていうと沢山お金を落とすからだよ?」
悪びれる様子もなくそう言うと、オレの胸を撫でて言った。
「おっぱい無いんだね?」
…最悪だ…!
オレはウェイターをジト目で見つめると言った。
「…仕事をしないつもりなの?」
彼は肩をすくめると眉毛を下げて言った。
「支配人の指示だよ…」
「ちっ!」
舌打ちすると階段の下へ降りて、カウンター席へ向かう。
金を落とすから無礼を働いても良い…
いいや、正確には、金を落とすからギリギリまで追い出さない。
あの人はそういう商売をして来た。
だから、今更何を言ったとしても…変えるつもりなんて無いだろう。
「サルがいる…」
カウンター越しにマスターにそう言うと、彼は眉をひそめて言った。
「お前目当てみたいだよ?ユーチューブで有名になっただろ?お持ち帰りして、自慢したいそうだ。」
ははっ!
オレは携帯電話を取りだすと、桜二の連絡先を見つめて手を止めた…
今日は…仕事納めの飲み会があるって言ってた。
だから、お店には行けないよって…言われてたんだ。
連絡先をズラして依冬を選ぶと彼に電話をかけた。
「もしもし?依冬?ふふ…知ってる。さっきまで一緒に居たのは知ってる。違うの…お店に嫌な客が居るんだ。オレをお持ち帰りしたいって豪語してる…。支配人はそいつが金を落とすから追い出さないでいる…。ねえ、仕事が終わったら来てよ。」
依冬は怒ると手が付けられない…
だから、用心棒として呼ぶのは、諸刃の剣でもあるんだ。
そして彼は自分の用事を最優先にする。
オレの所に来てくれるのは…それが終わった後だ。
「うん。絶対来てよ?」
念を押してそう言うと、ため息をつきながら電話を切った。
「なあ、ストリッパー…エッチな事してよ…?ほらぁ…チップならいくらでもあげるよ?」
手を出せないウェイターを引き連れて、例の男がオレの隣に座ってそう言った。
はぁ…最悪だ。
エントランスから大勢の観光客が店内へ入って来て、店の雰囲気に感動して歓声を上げてる。
あそこに逃げるか…
「ねえ…君なんて名前なの?」
オレは無礼者にそう聞くと、首を傾げて言った。
「覚えておくから…教えてよ。」
彼はニヤけた顔になると言った。
「橘だよ…」
橘…
ホステスを手でイカせて、店の外でオレに付きまとって桜二に追い返された…あの橘さんと同じ橘?
「ふふっ!君さ…何歳なの?」
オレがそう言うと、彼はムッと頬を膨らませて言った。
どうやら…聞かれたくない質問だったようだ。
「23だよ…だから何だよ。」
ムキになって怒るあたり…あちこちで同じような質問されてきたんだろうね…
あまりに馬鹿すぎて、お前は幾つなんだって…聞かれてきたんだ。
23歳には見えない。17歳のガキみたいだ。
橘さんが50過ぎくらいだとしたら…息子であってもおかしくない…
「君さ、お父さんいるだろ?渋くて、手でホステスをイカせる、羽振りの良いお父さん。」
オレはそう言って彼の顔をまじまじと眺めると、口元を緩めて笑って言った。
「君のお父さん、オレにしつこく付きまとってオレの男に追い払われてたよ。ふふ。すぐに誰かに触りたがるのは、血なの?」
「うるせぇな!」
…図星だ!
橘君は怒りを露わにすると、オレの肩を小突いた。
すかさずウェイターが彼の手を止めるけど、追い出しはしない…
でも、GOサインが出たらすぐに追い出すつもりで、ウェイター達は彼の傍に居るみたいだ。
「さてさて…僕は向こうへ行くよ…じゃあね、橘君。」
オレはそう言って席を立つと、ウェイターの間を通り抜けて、ステージの前に陣取る観光客へと愛想を振りまいた。
「ハロー!ハウ、アー、ユー?」
オレがそう言うと、観光客たちはキャッキャっと喜んで、体を揺らした。
年齢層は高め…40代とかかな…?
夫婦の割合が多くて、ガチのお客というより、怖いもの見たさで参加した様な人が多そうだ。
「シロ!ユーチューブ!ミタヨ!」
ふふ…日本語が上手だ。
「ほんと?嬉しいな…どうだった?」
オレはそう言ってほほ笑むと、ステージに上がって彼らを見下ろした。
「クーール!」
そう言って盛り上がる彼らは、どうやらオレのYouTubeの動画を見てるみたいだ。
ステージの上で胡坐をかいて座ると、ビールを受け取って彼らとおしゃべりをする。
依冬が来てくれるまで、この場所で、彼らに守ってもらう。
「ウェア、アー、ユー、フロム?」
どこから来たのか片言で彼らに聞くと、元気いっぱいに答えてくれた。
「ウィー、アー、フロム、ユナイテッドステーイツ!」
どこだ、それ…?
オレは携帯電話で勇吾にメールをした。
“勇吾?ユナイテッドステイツってどこ?”
彼ならきっとそれがどこか知ってるはずだ。
「このポールを上るんだよ?」
興味津々にポールを見上げる彼らに、添乗員さんの様に教えてあげる。
「こうして…こうして…ほら見て?落ちないでしょ?」
オレはそう言って膝の裏でポールを挟むと、両手を離して見せた。
「ワーーーー!!シロ!フォーーー!」
いや…これで、そんなに興奮したらダメだよ…
「本番はもっとすごいんだよ?ここをグルングルンって回ってパシーン!って止まってかっこよくしてあげるね?だから、良いな!って思ったら、チップを頂戴よ?」
何度も何度もチップを催促すると、携帯電話がブルっと震えて勇吾から返信が来た。
“アメリカ合衆国だよ”
アメリカ…アメリカをユナイテッドステイツって言うの?
知らなかった…
「シロ、何してるの?」
知ってる声に顔を上げると、依冬がやっと来てくれた。
「イッツ、マイ、ダーリンだよ?」
オレはそう言って依冬を指さすと、アメリカから来た彼らに別れを告げて、ステージの上から依冬に飛び乗った。
「ワーーー!シローー!フォーーー!」
相変わらず彼らはオレのいちいちに歓声をくれる。
「センキューーー!」
そう言いながら依冬に担がれて、カウンター席に戻って来た。
橘君はガラの悪いお友達と合流して、テーブル席へと身を潜めた様だ。
オレは依冬に抱き付いてしくしくウソ泣きしながら言った。
「橘さんってお金持ち知ってる?50過ぎくらいの…渋いおじ様。この前店のホステスを手でイカせて、羽振りが良いからって理由で出禁にならなかったんだ。でも、店の外でオレにちょっかいをかけて、桜二が追い払った。今日は、その息子が来てる。お父さんによく似て…無礼者なんだ。そして、お父さんと同じように羽振りが良いから、出禁になってない。」
「ま~ったく…銭ゲバジジイだからね…」
マスターがカウンターの向こうからそう言って、依冬に飲み物を出した。
「橘…?いや、知らないよ…。何か言われたの?」
「おっぱいを触られた!」
オレはそう言って自分の胸を撫でると、しくしくウソ泣きしながら依冬の胸に顔を寄せて言った。
「馬鹿なサルなんだ…もし、何かあったら、殺さないで…骨を折らない程度に…一回殴るとか…言葉の暴力とかで、痛めつけてよ。」
依冬は黙って頷くと、オレの髪を撫でながら首を傾げて聞いて来た。
「…その人、今どこに居るの?」
「だめ…良いの、目に余る事をしたらで良いの。」
ギラついた目を細めて、今にも向かって行きそうな狂犬にそう言って宥めると、彼の両頬を掴んで言った。
「依冬は社長さんだから…もう警察に事情を聴かれるような暴力はしちゃダメなんだ。でも、オレひとりじゃ怖いから一緒に居て欲しいの…。オレの言ってる事、分かるよね?」
彼の瞳を覗き込んでそう言うと、依冬はため息をひとつ吐いて言った。
「分かったよ…暴力は振るわない。」
こういう時、桜二は口で酷い事を言って、相手の戦意を喪失させるのが得意なんだ。
それは、彼が、どクズだから出来る事…
依冬みたいに可愛い子には、そんな芸当…できっこないよね。
「ねえ?新しいお家の話だけど、だれがどの部屋に寝るのか、まだ決めてないよ?」
オレは話を変えて、彼の顔を覗き込んで笑って言った。
「あみだくじで決める?」
「嫌だよ、桜二の隣は嫌だ。」
依冬は口を尖らせてそう言うと、オレを見て言った。
「シロと部屋を共有しよう。」
また、そんな揉めることを思いつくんじゃないよ…
「ダメだよ?オレはオタ部屋にするんだから。」
オレはそう言って依冬を見つめると言った。
「大好きなKPOPアイドルのポスターをあちこちに貼るよ?それでも良いの?」
オレの言葉に眉を顰めると、依冬はにっこりとほほ笑んで言った。
「じゃあ…シロが真ん中の部屋で、少し小さい部屋を桜二の部屋にしよう?」
「桜二がそれで良いっていうか…心配だよ?」
ビールを一口飲んで、目の前のマスターを見つめて言った。
「僕たち、3人で住むんです。」
そんなオレの言葉に、マスターは目を大きく見開いてグラスを拭く手を止めると言った。
「ど、ど、同棲…?」
同棲?というか…元の形に戻るというか…一番しっくりくる形になる。というか…
「まあ…そんな感じ。」
オレは依冬に頬ずりすると、彼の頬にキスして言った。
「ずっと一緒に居られるんだ…それって、最高だよ。」
彼の寝起きも、寝入りも、彼がだらしなく洗濯物を溜める事も、自炊を全くしない事も、全て、すぐ近くで見る事が出来るんだ。
弱って泣いてる時だって…すぐに寄り添える。
それはとっても…楽しくて、嬉しい。
「お掃除当番も決めないといけない。」
「プロに頼めばいいじゃん。お手伝いさんを雇おうよ…」
依冬はそう言うと、オレの頬を撫でてキスして言った。
「掃除なんて…したくない。」
はぁ~!これがお金持ちのボンボンの思考回路だ!
使ったら片付ける。汚れたら掃除する。いつも室内を清潔に保つ。
そんな当たり前のことが出来なくて、そんな当たり前のことを誰かに頼もうとしてるんだ!
「だって…?聞いた?」
目の前で依冬をジト目で見つめるマスターにそう言うと、彼を見てケラケラ笑った。
こういう所も…可愛い所のひとつなんだ。
「シロ…そろそろ」
いつの間にか現れた支配人がそう言ってオレを呼ぶと、依冬が彼に言った。
「支配人さん、橘さんって…どこの橘さんですか?」
依冬のその言葉に嘘っぽく首を傾げると、支配人は天井を見ながら言った。
「さあ…どこかなあ…」
このジジイ…とぼけてる…
「このジジイはね、都合が悪いとボケる病気になってるんだ。良いの。良いの。」
どうせこいつはお金の事しか考えてない。
「あ、もしかしたら…外資系の会社で…最近上場した…ベンチャー上がりのあの会社の…橘さんかな…」
依冬がそう言って携帯電話で何かを調べ始めると、支配人が忌々しそうな顔をして依冬の背中を見つめる。
どうやら…その橘さんのようだよ?
ジジイは噓をつくのが下手糞だ。
「依冬、もう良いよ。詮索するな。何かあったらで良い…」
オレはそう言って席を立つと、支配人の背中を押して一緒に階段へと向かった。
「ちっ!…お前の男、結城さんの息子。何を嗅ぎ回ってんの…?余計な事したら、ぶん殴るぞ?」
出たよ…
暴力ジジイだ。
オレは彼の顔を見上げると言った。
「橘君はオレをお持ち帰りすると豪語してるみたいだよ。そして、この短時間の間に、彼はウェイターに2回も注意されてる。本来なら出禁になってもおかしくない事をしても、肝心の店の店主は…守ってくれそうにない。依冬はオレの自衛だよ。あんたが当てにならないから、彼に守ってもらうんだ。」
そんなオレの言葉を鼻で笑うと、支配人が言った。
「こちとら商売してんだよ!…綺麗事ばかり言ってられない。」
そんな彼を正面から見上げると、瞳を見つめて言った。
「それはこっちも同じだ。こちとら仕事で脱いでるんだ。売春婦みたいに扱われても守ってくれない店を頼るほど、馬鹿じゃないんだよ。だから言ってんだろ?自衛だって。」
そう言って支配人をジト目でみると、顔を背けて控室へと階段を下りた。
結城さんのことだって、レイプ事件の時だって、あんたは守る所か、オレを差し出してたじゃないか…
そんなのを信用して、従って、おめおめと痛い目を見るなんてオレは御免だね。
「さてさて…海外からの観光客にサービスしないとね!」
そう言ってカーテンの前に立つと、手首足首をぐるりと回して首をぐるっとゆっくり回した。
左の手首に巻いたお守りを右の手で包み込んで、にっこりとほほ笑む。
カーテンの向こうで大音量の音楽が流れ始めて、目の前が開けてステージへと上がって行く。
「シローーーー!フォーーー!」
まだ何もしていないのに、海外の人はエネルギッシュだ。
すでに大興奮になって、ステージを盛り上げてくれる。
「ふふ!」
上機嫌になってステージの中央で体を伸ばしてポーズをとると、一気にしなだれてエロを見せていく。
「フォーーー!」
うっとりとした瞳を向けて、しならせた体にブカブカのシャツを纏わりつかせて体のラインを強調すると、四つん這いになって目の前のお母さんに迫って行く。
ふふっ!
顔を赤くしたお母さんを見下ろす様に、膝立ちして、体をしならせて、シャツを脱いでいく。
「オーマイガッ!オーーマイガッ!」
両手を真っ赤になった顔にあてて、恥ずかしそうにそう言うお母さんに、シャツをめくって体を見せつけていく。
誘う様に腰をゆるゆると動かすと、半開きにした口から舌を出してぺろりと舌なめずりをする。
「キャーーーー!!シローーー!」
今日のお客はすごいぞ?
すぐに絶頂に向かって行くオレみたいだな!あはは!
シャツをステージの袖にぶん投げると、勢いを付けながらポールへ飛び乗った。
「フォーーー!」
ガンガンとポールを鳴らしながら足を上に持ち上げて高くまで登っていくと、両手を伸ばして体を仰け反らせていく…
しなる腰の柔らかさと上半身の緊張を同時にキープして、美しく回転しながら無重力を演出していく。
まるで水中にいるような錯覚をプレゼントしていく。
足を放り投げて緩急をつけながら回転すると、勢いをつけて思いきり高く足をあげていく。膝の裏でポールを掴んで、体を反らしながら眼下のお客に笑顔を送る。
「フォーーー!シローーー!いいぞ!」
海外のノリにも負けないオレのお得意さんたちに、笑顔と視線を送ってアピールすると、逆さになったままポールを落ちて、程よい悲鳴を頂いた。
高速スピンしながら体のポジションを変えて七変化すると、舐める様にゆったりと回転して緩急をつけて魅せる。
ゆっくりバク転してポールを離れると、短パンのボタンを開いてチャックを下げる。
「シローーー!桃尻を、桃尻を見せてくれーーー!」
ふふ…あのね、全部脱ぐ訳じゃないんだよ?パンツをちゃんと履いてる。
全部出しちゃったら、それは行政指導を受ける対象になっちゃうからね?
チップを咥えて寝転がるお客を見ながら、ステージの上で腰を横に振りながら短パンを脱いでいくと、Tバック姿の桃尻を突き出してベリーダンスを踊って見せる。
「オーマイガッ!フォーーーー!」
ふははは!
今日のお客さんは本当に反応が良い!
ノリの良い観光客からチップを頂いていくと、彼らは意外にもお行儀よく手渡しでくれた。
1人のマダムが口にチップを咥えて他のお客の様にステージへと寝転がったのを見つけて、ニコニコしながら覆い被さってあげる。
「フォフォフォ…」
顔を真っ赤にして口に咥えたチップを揺らしながら、オレを見上げてマダムが笑った。
「ふふ…センキューベリーマッチだよ?」
オレはそう言ってほほ笑むと、彼女の顔にゆっくりと体を沈めていく。
「フォーーーーー!」
絶叫に近い音を出すマダムの口からチップを口移しで頂いていく。
「あっふふふふ!」
あまりの興奮と、大絶叫に、吹き出して笑うと、重たそうなマダムの体を後ろから押して起こしてあげる。
お国柄なの?とっても陽気だな…
ステージを見渡して、取り残したチップを頂きに行く。
「シロ!今日はすごいね?年末最後の大盛り上がりじゃん!」
そう話しかけてくる常連さんに、首を傾げながら言った。
「あれ~?そうなの?明日もあなたが盛り上げてくれるんでしょ?」
「ふははは!頑張るよ!」
全く、他力本願はいけないよ?
そろそろフィニッシュして終わろうと思ったその時、橘君がゴロンと寝転がって高額のチップを口に咥えた。
はぁ~~!やんなるね?
彼の頭の上に仁王立ちすると、ニヤニヤしてオレを見上げる彼を見下ろした。
彼の頭を挟むように足を着くと、前屈みになって体を撫でてやる。
だって、高額のチップを2枚も咥えてるのに、さっさと取ったら他のお客に示しがつかないだろ?だから、仕方がなく、サービスする。
「お前…本当に男だったんだな…ふふふ」
イラッとする彼の声を無視して、淡々とオレはお仕事をする。
彼の顔に顔を落として、彼の口に咥えられたチップを口に挟んだ。
その時、彼はおイタをした。
オレの背中を掴むと自分に引き落とそうと、全力で抱き寄せて来た。
「まったく…どうしようもないサルだ…」
オレの体幹を舐めるなよ?
ステージに着いた膝に力を込めて床を押す様に下半身に重心を置くと、両手を後ろに回して彼の手を掴んだ。
そして彼の顔を見つめたまま、ゆっくりと彼の手を解いて行く。
「なあ…ダンサーに触ったらいけないんだよ?」
オレがそう言うと、橘君はへらへら笑って言った。
「ダンサー?ははっ!お前はビッチだろ?」
はぁ?
ぶっち切れたよ?
掴んだ彼の手を思いきり捻ると、自分の背中から引きはがして言った。
「子供が遊びに来るような店じゃないんだ。さっさと帰ってママのおっぱいでも飲んで、ねんねしな。それとも、ママがパパじゃない男とエッチしてるから、寂しくてこんなお店に来るような子になっちゃったのかな?可哀想…ママとエッチしたいのは僕チンなのにね…あふふ。」
散々馬鹿にしてそう言うと、ゆっくりと体を起こしてムキになって顔を真っ赤にする彼を見下ろして言った。
「橘君は正真正銘のマザーファッカーだね?」
手を出そうと体を翻した彼から逃げる様に、勢いをつけてポールを高く上がって行く。
「あ~はっはっは!悔しかったら登ってみろ~~!」
ポールの上を逆さにぶら下がりながらそう言うと、ウェイターに取り押さえられる彼を見てケラケラ笑った。
階段の上で事の顛末を見届けた支配人が、表情も変えずにエントランスへと戻って行くのを見届けて、反動を付けながら両足を放り投げてクルクルとポールを降りていく。
ポーズをとりながら着地をすると、お客が拍手と歓声をくれた。
これで…フィニッシュって感じかな?
カーテンの奥へ退けると、半そで半ズボンを履いて店内へと向かう。
「まいったな~…あ~、まいったな~…」
そう言って”困ったアピール”する支配人を華麗にスルーすると、店内へと戻って観光客からたんまりとチップを頂く。
「シロー!ユア、ソー、セクシー!フンフン!」
大きなお母さんに何度も抱きしめられて、プニプニの体に埋まっていく…
彼女も若い頃はきっとナイスバディだったに違いないんだ…だって、旦那は渋めのイケメンだもの。
「センキュー、センキュー!」
オレはニコニコ笑ってそう言うと、カウンター席へと急いで向かった。
「あ…やっぱり…」
さっきまで、この席にいたはずの…依冬がいない。
「どこ行った?」
目の前のカウンターでグラスを拭くマスターにそう聞くと、彼は首をふいっと振ってオレの後ろを見た。
テーブル席がある方だ…
「もう…大変だ!」
慌ててテーブル席へ向かうと、ウェイターが4人も取り囲んでいる異色を放つテーブルへと早歩きで近付いて行く。
「この間…確か、うちと大口の契約をしましたよね…?」
「ええ…そうですね…」
「公私を混同する訳じゃないですけど、僕はあなたの会社に仕事を発注する側の社長で…彼は僕の恋人だ。出来れば、変なわだかまりを持たずに穏便にビジネスをしたいんですよ。」
「ええ…それは、もう…」
「彼への無礼を…詫びてもらえませんか?」
オレを通せんぼするウェイターの腕の隙間から、テーブル席に座って、橘さんと橘君を目の前ににこやかにそう恫喝する依冬を見た。
まるで…結城さんみたいだ。
いつの間にか付いた落ち着きと、貫禄が、彼を結城さんの様に見せた。
「シロ…おいで?橘さんに電話をして、来てもらったんだ。」
そう言って依冬が手を伸ばすと、通せんぼしていたウェイターが道を開けて目の前が開けた。
緊張感の走るテーブル席…オレは彼の手を掴むと促されるまま、依冬の膝に座った。
さっきまで橘君とつるんでいたガラの悪い連中は、ウェイターの横で一列に並んでお利口にしてる…
「シロさん…先日の私の行為も…本日の息子の行為や言動も…大変、申し訳ございませんでした…!」
オレは土下座なんてされて悦に入る男じゃないよ?
目の前で床に土下座する橘さんを見つめて、椅子に座ったままの橘君を見て言った。
「パパが君の為に謝ってるよ?君も一緒にやった方が良いんじゃない?」
そんなオレの言葉に、橘さんは息子を鷲掴みにすると、一緒に土下座させて言った。
「大変…申し訳ございませんでした!!」
ふふ…!
「良いよ?でも、もう二度とお店には来ないで…?」
オレはそう言って土下座をする橘さんの体を押して上げると、顔を覗き込んで言った。
「誘われても、二度と来ないで。」
「…はい。」
トボトボと背中を丸めて帰る橘親子を見送って、涼しい顔をする依冬に言った。
「桜二に似て来た。」
「…えぇ?やめてよ…」
本当は、結城さんに似て来たって思ったけど、彼はそれを嫌がるから…結城さんに似てる、桜二に似て来たって言った。
「見た?オレの依冬はカッコいいでしょ?」
マスターに自慢すると、依冬の髪をグチャグチャにしながら抱きしめて撫でまわす。
彼はオレの知らないところで、立派に落ち着いた大人になっていた…
「いや~…帰ったな…?」
そう言って、オレの隣に座ってくる支配人を見つめて言った。
「…媚びる相手が、誰か分かっちゃったの?」
そんなオレの嫌味をジト目で返すと、依冬に満面の笑顔で話し始める支配人を横目に、目の前で白けた顔をするマスターに言った。
「ほらね…?このジジイはカーストを理解したんだ。」
“結城さんの息子”から、“みんながひれ伏す会社社長”へと依冬のランク付けが変わった…
こうなったらジジイの媚びは、みっともないくらいに、分かり易く、依冬を持ち上げる。
「もう…どっか行けよ。銭ゲバジジイ!」
オレがそう言って支配人の腹を蹴飛ばして押すと、へらへらしながら帰って行った。
「ああいう奴が世の中にはごまんといる。依冬はそんな奴に騙されちゃダメだよ?」
彼の顔を覗き込みながらそう言うと、ふふっと口元を緩めて笑う彼を見つめて、チュッとキスをした。
「同棲ね…俺も、昔した事があるけど…今は独りぼっちだ…」
そんな寂しいマスターの呟きを無視して、オレの髪を撫でる依冬の手のひらを頭を擦り付けて逆に撫で返した。
「シロ…そろそろ」
階段の踊り場から顔を覗かせた支配人が、そう言ってオレを呼んだ。
なんだ、無精者め…
「行ってくるね~?」
依冬の頬にチュッとキスすると、彼の体を撫でながら椅子から降りた。
暴力を振るわないで橘親子を追い払ってくれた依冬に…桜二みたいなセクシーさを感じて、チラッチラッと何度も見てしまう。
「結城さんの息子は…なんだ、ちゃんと社長してるんだな…いや、はは…ただのボンボンだと思ってたら、実権を握ってそうだな?ははは…?ん?良い男を捕まえたじゃないか?ん~…?シロ?シロたん?」
オレにまで媚びを売り始める支配人を無視して、階段を下りると控室へと向かう。
「さて…次はこれって決めてるんだ…」
肌色のパンツを履いて、手に乗せるとトロリと流れていく長襦袢を羽織って帯で留める。
暗めの赤い髪と…朱色の長襦袢…首襟を落としてうなじを見せていく。
エロ…
鏡の前に立つと、長襦袢の袷から足を出して少し外側に開いて、太ももまで見せる…
エッロ…
コンコン…ガチャリ…
返事も聞かないノックに何の意味があるのか…
控室に入って来た支配人が鏡の前でポースを取るオレを見つけて、そそくさと背中に抱き付いて来た。
「あぁ…今日は一段とエロく見えるよ?おじいちゃんを誘ってるんだろ…」
「…何の用?」
興奮してまさぐり始める支配人を無視してつれなくそう言うと、彼はフゴフゴしながら言った。
「機嫌直してよ~!…おじいちゃんは稼げる時に稼いでおかないと…儲けたら儲けた分だけ、税金で取られていくんだもん…悲しくって、悲しくって…嫌になっちゃってたんだよう…」
知らねえよ…
長襦袢の袷に手を入れてくるボケたおじいちゃんに耳打ちして教えてあげる。
「オレ…桜二と依冬と3人で、南青山の家を買った。1月にはそこに越して3人で暮らすんだ…つまり、オレは、遊びじゃない彼らの恋人になったんだ。それがどういう意味か分かる?」
そんなオレの言葉に、支配人は鏡越しにオレを見つめると、にっこりとほほ笑んで、長襦袢の中に差し込んだ手を抜いて上に上げた。
「へ~いへい…」
そう言って控室から出ていく彼を見送ると、内側からカギをかけた。
オレに手を出すとダメだよ?って、優しく教えてあげたんだ。
オレは優しくて良い子だからね?
カーテンの前に立って手首足首を回すと、首をぐるっとゆっくり回した。
さて!気持ちを入れ替えて…
海外からの観光客の皆様に、ジャパニーズカルチャーをお見せしようじゃないか。
大音量の音楽が流れ始めて目の前のカーテンが開くと、しゃなりしゃなりと長襦袢の袷から足を交互に出して、ステージへと向かう。
メイクは所謂、花魁メイクだ…
目じりを赤くするのが今日のポイントだよ?
「フォーーー!ゲイシャーーー!」
あはは!そう言うと思ったよ?
芸者…舞妓…それは幼い頃から芸を叩き込まれて来た、プロフェッショナル。
今回のオレのコンセプトはね、そんな高尚な物じゃない。
お金の為に身売りされた…悲しき遊女だ。
誰の計らいか…ステージを照らす照明がピンクになって妖しさを演出する。
「シローーー!ユア、ソー、ビューティフォー…!」
ステージにしなだれて斜めに座り込むと、長襦袢の袷から太ももを覗かせながら仰向けに寝転がっていく。
「ギャーーー!」
どうしたんだよ…ただ、寝転がっただけだろ?
両足を高く伸ばすと、足を開いて膝を立てた。
「オーーーゥ!ノーーーゥ!オーーーマイガッ!」
ふふ…
体をゴロンと横に倒してお客に背中を向けると、ゴソゴソと股間のあたりで手を動かす。
「シロ!シローー!」
まるでオナニーしてるみたいに手を動かすと、方々から興奮した歓声が上がって行く。
長襦袢のトロみを上手に使って、首襟をどんどん落として行くと、肩を露出して背中を見せていく。
「ファー…ファーッ!」
膝を立てて首をのけ反らせながら、うっとりと流し目をして、ゆるゆると腰を動かす。
オナニーして、気持ち良くなって、今にもイキそうな、そんな表情を見せつけていく。
体を捩って露出した胸を、自分の手のひらで撫でながら吐息を漏らすと、目の前のお母さんが絶叫して極まった…
「シローーー!オーーマイガッ!」
ザパニーズエロスはイノセントだ…
ゆっくり体を起こすとポールに近付いて行き、長襦袢の袷から片足を伸ばしてポールに絡みつける。
腰を擦り付ける様に下から上へいやらしく動かすと、体をのけ反らせながら喘ぐように口を歪める。
「フォーーー!シローーー!乗ってるなーーー!」
そう?いつもの調子だよ?
心の中でお客にそう言うと、絡みつけた足に力を込めてポールに飛び乗った。
ゆったりとポールを回ると、オレの太ももから長襦袢がトロリと垂れて落ちる。
綺麗だ…
それは金魚の尾っぽよりも、もっと、湿り気と重さを持ったトロみだ。
「ビューティフォーーー!」
そうだよね?オレもそう思う。
とっても美しい…
ゆっくりとした回転から勢いをつけて高速回転すると、足を高く上げて体を持ち上げていく。
ポールを掴む手の位置をずらしながらゆったりと体の形を変えて、流れ落ちる長襦袢のトロみと体のしなやかさを強調していく。
腰に巻いた帯を解いて、伸ばした手の先からステージへと落として行く。
トロトロと落ちていく帯を見送ると、肩を落として背中を露出した。
いつの間にか、歓声も、ヤジも飛んでこなくなった…
ただ、うっとりと、色づいたため息が聞こえてくる。
足をそろえてポールから離していくと、回転して降られた長襦袢の裾が、まるで赤い渦の様に円を描いて…踊りながら見惚れる。
両足の膝裏をポールに絡み付けて、クルクルと回転を速めて下りると、足りなくもない、余りもない、ちょうどいいタイミングでポールからステージへと降り立った。
ステージの周りを見渡して…誰もチップを持ってきていない状況に首を傾げる。
階段の上でその様子を見つめる支配人に視線を送ると、彼はすぐにマイクを手に持って言った。
「妖艶な美しさのシロに…チップをお願いしま~す…」
その通りだ!
我に返ったお客たちが、チップを持ってやっとステージの周りに集まり始める。
肌色のパンツにチップを挟んで貰いながら、何となく…いつもよりも場の空気がおかしい事に気づいた。
「シロ…ユア、ソー、ビューティフォー、ボーイ…」
チップを咥えて寝転がった観光客のおじさんは、うっとりと瞳を潤めてそう言うと、オレの体を触ろうと手を伸ばしてきた。
およよ…?
動揺を察せられない様に笑顔を向けながら、一旦体を引いて立ち上がると、違うお客のチップを取りに行く。
「シロ…とっても綺麗だ…」
いつもチップをくれる常連のお客まで、今日はいつもよりも高揚した表情をしてる…
彼はオレに躾をされたオレのお得意さんだ。
そんな彼なのに、オレの体を触ろうと手を伸ばして、体を舐めようと舌を出して来た。
およよ…!
「こら!」
そう言ったオレの声なんて聞こえてないみたいに、うっとりとしてる。
「シロ…!」
階段の上で支配人がオレを呼んだ。
彼を見上げると、手のひらをひらひらとしてカーテンの奥を指さした。
…チップを諦めて、奥に引っ込めと言ってる。
嘘だろ?
…まだ、全然、回収してないよ?
肩をすぼめて支配人を見ると、彼は階段を下りながら怒った顔をして同じジェスチャーを繰り返した。
「はぁ…まじかよ。」
ポツリとそう呟くと、ステージに集まるお客を無視してお辞儀をして、カーテンの奥へと退けた。
異常だ。
この衣装は異常事態を引き起こす…
ここはお店で…オレはストリップダンサーなのに…
まるで1対1のプライベートの様な錯覚を引き起こして、惑わして、おかしくした。
あんなに躾された常連さんまでとち狂って、オレを触って舐めようとしてきた…
「この衣装は…封印するしかない。これじゃ商売あがったりだよ…」
肩を落として椅子に腰かけると、階段を下りてくる足音に気が付いた。
支配人かな…
いや、違う…
階段を下りる複数人の足音が聞こえて、体の動きを止めて、控室の扉を見つめた…
内側からカギは掛かってる。
ドアの取っ手が下がると、施錠を打ち付ける音を出しながら扉が揺れた。
ガタン…
お店の関係者ならここで声を掛けてくるはずだけど…扉の向こうの人は、何も言わないで何度も何度もドアの施錠を打つけて音を鳴らし続ける。
…一体、誰だろう…?
扉の近くまで行くと、向こうの様子を聞き耳を立てて探ってみる。
「早く開けろよ。まわそうぜ…俺が先な…」
そんな物騒な言葉を聞いて、ゾクッと背中に鳥肌が立って行く。
「お~い…ファンだよ~?ここを開けて~?チップを持ってきたんだ~!」
扉をドンドンと叩きながらそう言う扉の向こうの人に恐怖を感じて、後ずさりをして考える…
ドンドンと鳴っていた音が…いつの間にかガンガンに変わって…扉の向こうの彼らが、扉を足で蹴飛ばし始めたと分かった。
衝撃で壊れてしまいそうな古い控室の扉に…そこはかとなく不安になってくる。
長襦袢を羽織ったまま呆然と立ち尽くしていると、ハッと我に返ってカーテンの向こう側…ステージへと戻っていく。
「依冬…依冬…」
カウンターの依冬をおいでおいでして呼びつけると、ステージの下でもみくちゃになる支配人に言った。
「暴漢が控室のドアを壊しそうだ…何とかしてよ…!」
「それ所じゃない!お前の…その、衣装は禁止だ!」
オレを見て怒鳴り声をあげる支配人は、ユナイテッドステイツの巨漢がステージに上ろうとするのを必死に食い止めている…
うわ…
もみくちゃになりながらウェイターが荒れるお客を落ち着かせようとしてる…
「シロ!セクシーボーイ!カモン、カモーン!」
「シロ~!おいで~?ほら、こっちに来いってば…!じゃないとそっちに行っちゃうよ~!」
方々から聞こえる荒々しい声色と、彼らの表情に、恐怖を感じた。
「シロ…危ない。奥に戻って…」
そう言ってステージに上って来た依冬の手を掴んで一目散に控室へと戻ると、カーテンの前にベニヤ板を立てかけて、誰も入ってこれない様に段ボールを積んでバリケードを築いた。
「…一体、どうなってるんだ!まるで、ゾンビ映画みたいだ…!」
オレはそう言うと、ゾンビ映画のワンシーンを思い出して、イー!っと口を歪めた。
ガンガン!
相変わらず大きな音を立てて揺れる控室の扉を指さすと、不思議そうに首を傾げる依冬に言った。
「あれ…怖い。何とかして…?」
「酷いね…」
依冬はそう言うと、何の躊躇もなく扉の施錠を外して扉を開いた。
うわ!もう!
依冬があまりにあっけなく扉を開くもんだから、驚いて、動きを止めて、目だけで状況の成り行きを見守った…
また、きっと…言葉の暴力で、追い払ってくれるんだろ?
そうだろ…?
…やられたり…しないよね?
「何か…?」
依冬の大きな背中がそう言うと、彼の陰から見える3人の人影が荒々しく動いてこちらを覗いた。
ひえっ!
「はぁ?うるせえな…あんたにゃ関係無い。シロを出せよ。あいつに用があんだよ…!ハハハ!シロ~!おいで~!お兄さんたちと遊ぼ~!」
最悪だな…
酔っていたとしても…この醜態は、万死に値する!
その時、威勢の良い男が、依冬の脇から控室への侵入を試みた!
あ…!
オレがそう思った瞬間、依冬は何の予告も無しに相手をグーで殴りつけた。
ゴッ…!と、鈍い音を立てた彼の一振りは…後ろから見ても分かるすごい破壊力だ。
殴る?
いいや、拳で床に放り投げる?
いいや…拳で床に叩き付けるが正しい表現だ…
たった一発、殴られただけなのに…膝から崩れ落ちて倒れる男を見て思った。
依冬を止めないと、相手を殺しかねない…
「依冬…依冬、落ち着いて…殺しちゃだめだ…!」
そう言って依冬を後ろから抑えつけると、目の前の暴漢を見て言った。
「こいつを連れて…早く逃げろ!」
「おい…やばいよ…帰ろうぜ…」
1人がそう言うと、もう1人は倒れ込んだ男を抱えて踵を返した。
ワンパンダウンという…余りの衝撃に、急に冷静になった彼らはオレの襲撃を諦めたようだ…
「おいっ!待てよ…!」
依冬がドスの効いた声でそう言って、階段を上りかけた彼らを引き留めた…
やばい…
オレは彼の胸を高速ナデナデすると心の中で必死に念じた。
鎮まりたまえ~!鎮まりたまえ~!荒ぶる山の神よ~!鎮まりたまえ~!
「…こんな事して…怖がらせて、謝りもしないで…帰んじゃねえよっ!この、クソッタレッ!ぶっ殺してやろうか?なあ…ぶっ殺されてえのかなあ?」
あぁ…オレは何も聞こえてない…
山の神が荒ぶってるんだ…
彼の怒りが体中を駆け巡って、後ろから抱きしめた彼の背中を緊張させる…今にもこの肩が動いて…彼らを殴りつけそうだ…
「…す、す…すみませんでした…」
深々と頭を下げてそう言うと、逃げる様に階段を上って行く暴漢を見送る。
途中、殴られた奴の意識が戻ってヨロヨロと自分で歩く姿を見て安心するなんて…どうかしてるけど…
それ程までに、依冬の一振りのパンチが殺人的な攻撃力を持っていたんだ。
控室の扉を閉めると、すぐさま鍵を掛けて、振り返って依冬を見た。
彼はいつもの子犬に戻って首を傾げると言った。
「…酷い人たちだね?」
はぁ…良かった…誰も、死ななくて良かった。
依冬に抱き付くと、彼の胸に頬ずりをして言った。
「依冬~。怖い~!」
「この…この衣装は危ないね…?」
彼はオレの顔を見つめてそう言うと、腰に腕を回してオレの体をギュッと抱きしめた。
「店の中も大荒れになって…オレはチップも諦めたんだよ?たった1枚の長襦袢のせいで…今日の儲けが減ったんだ…悲しいよ、依冬…」
彼の体に埋まりながらそう言うと、きつく抱かれる腰がしなって顔を上げた。
「シロ…綺麗だ…」
うっとりとそう呟く依冬は…彼ら同様、少し、いつもよりも興奮した様子だ。
長襦袢の袷に手を入れると、素肌を撫でる様に、オレの襟足まで手を滑らせる依冬の手つきに、ゾクゾクとして…興奮する。
「依冬…お口でして?」
長襦袢って…取扱注意だって、身をもって分かった。
「あぁ…シロ…素敵だ…」
依冬はうっとりとそう言うと、長襦袢の袷に両手を入れて手の甲で開いた。
彼の息が荒くなって…興奮して行くのが分かる…
オレの腰を抱いて乳首を舐める彼の髪を鷲掴みして、彼の腰に足を絡めつけると、依冬がオレを抱きかかえてソファに押し倒していく…
肌色の下着を脱がされて、ジャケットを脱いだ彼の逞しい両手に足を抱えられると、一気に訪れる快感に体を仰け反らせて喜ぶ。
あぁ…気持ちいい!
依冬はオレのモノを口に咥えて扱きながら、いやらしく指先でオレの乳首を摘んで転がした。
「んん…依冬…依冬…気持ちい…あぁ、だめぇ…ん、あぁ…んん…」
店の音が漏れ聞こえる控室で、シャリシャリと依冬のシャツがこすれる音を聞きながら、堪らなく気持ち良くなって…今にもイキそうだ…
「依冬…イッちゃいそう…イッちゃいそう!」
オレがそう言うと、彼は熱くてトロけるキスをしながらオレの中に指を入れて来た。
彼の首に両手で絡みついて、彼の唇から吐息が漏れて行かない様に覆うと、彼のくれる快感にクラクラと溺れて、酔って、満たされていく。
カチャカチャとベルトを外す音と、ズボンのチャックを下げる音を聞きながら、彼の舌が離れて行かない様に執拗に絡めて吸った。
依冬がオレの中にグリグリと入って来るのを息を吐きながら受け入れて、彼の両手を自分の胸において言った。
「乳首…触ってて…気持ち良くしてて…」
「ふふ…分かった…」
惚けた顔でそう言うと、依冬はオレの乳首をいやらしく摘んで捏ねながら、快感に体をのけ反らすオレの中に奥まで入って来た。
「んんっ…!あぁっ…だめぇ…声が出るからぁ…キスして塞いで…!」
彼の髪を掴むと自分に引き寄せて、だらしなく喘ぐ自分の口を彼の口で塞いだ。
堪んない…依冬の腰が動くたびにソファが揺れて、ソファに押し付けられるように中に強引に入って来る彼のモノが、堪らなく気持ち良い…
声が漏れないように合わせたままの口から、荒くなった息が漏れて、お互いの髪を揺らす。
「はぁはぁ…イキそう…」
オレを見つめて小さくそう言う彼に、キュン死しそう…
「外に出して…」
そう言って彼の頬に頬ずりすると、彼の唇を舌で探して、自分の口を塞いでもらう。
長襦袢って…なんなんだろう…
どうして、こんなに男を狂わせるんだろう…?
彼の腰がねっとりと動いて、限界を迎えそうにオレの中で彼のモノがびくびくと震え始める。
可愛い…
「あぁ…シロ…イッちやう…!」
彼はそう言うと、ドクンと波打ったモノを中から取り出して、オレのモノに向かって射精した。
「んんっ…!」
それが気持ち良くって…オレは一緒にイッてしまった。
「俺…江戸時代に生まれたら、絶対、男を抱くよ…」
控室での情事も終わって、鏡を見てメイクをするオレのボディガードをしながら依冬がそう言った。
「へぇ…なんで?」
鏡越しに彼を見てそう聞くと、依冬はオレが脱ぎ捨てた長襦袢を触りながら言った。
「だって…すごく、エロいから…」
ぷぷぷぷ~!
依冬君はすっかり長襦袢にご執心だ…
「ふふ、馬鹿だな。エロいのは男だからじゃなくて…オレだからだよ?」
チークのブラシを片手にチッチッチ!と舌を鳴らしてそう言うと、依冬は首を傾げて言った。
「じゃあ…江戸時代のシロを抱くよ。」
「あ~はっはっはっは!馬鹿だな。江戸時代じゃなくても、今、長襦袢を着てエッチすれば良いんだよ?それで、依冬は何か…お侍さんみたいな恰好をすれば良いじゃない?」
そう言ってはみ出した口紅をティッシュで拭うと、ゴミ箱にポイッと放り込んだ。
「なるほどね…そういうのってなんて言うの?」
首を傾げて依冬が尋ねてくるから、彼の膝の上に跨って彼と同じ方向に首を傾げて言った。
「さあ…ロールプレイ?とか…イメージプレイ?かなぁ…」
塗りたての口紅の付いた唇で彼にチュッとキスをすると、柔らかい髪を指の先ですくって撫でる。
「依冬…可愛い。可愛くて、強い…。最強の超人だね?」
「ふふ…」
瞳を細めてほほ笑む彼の笑顔に…悩殺されてクラクラする。
この子犬はあらゆる可能性を網羅してる…
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