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第10話

「ちょっと待っててくださいね....今、お茶煎れます....」 部屋に入るなり、白地にグレーのストライプのパジャマ姿、後頭部の髪の一部がピン、と可愛く寝癖で立っているハルはフラフラと、キッチンに向かう。 「風邪、引いてんのに、妙な気遣いするな」 「でも....せっかく来てくれたんですから....」 熱に浮いたようなふわふわとした声。 思わず、ハルを持ち上げ、横抱きに掲げた。 所謂、お姫様抱っこだ。 「せ、先輩....?」 「おとなしく、ベッドで寝てろ」 「お、重たいでしょう....それに、恥ずかしい....」 「心配しなくても軽いし、恥ずかしがってる場合か」 そのまま、ハルをベッドに下ろし、横たわらせると、布団を肩まで掛けてやった。 「熱は?」 「大したことないです」 ハルのおでこに手を当てるとやっぱり熱い。 「変な意地、張らなくていい。ほら、熱、測れ」 ハルの部屋にあるかわからなかった為に、購買部で買った体温計の包装を解くと、ハルに手渡した。 おずおずとハルが手を差し出し、受け取ると脇に挟んだ。 その間も、コホコホ、咳をしている。 「なにか食べたか?」 「いえ....でも、ミネラルウォーターを飲みました」 「それは食いもんじゃないだろ。食欲ないのかもしれないけど、こんな時だからこそ、栄養を摂らないと」 俺はため息をつきながら、ビニール袋からプリンやヨーグルトを取り出した。 ピピピ、と体温計の音に、受け取ると、38℃あった。 「お粥は後で温めるから、レトルトで悪いけど。プリンとヨーグルト、どっちがいい?薬も買ってきたから、飲む前に少しお腹になにか入れろ」 つい、強い口調になってしまい、ハルがしゅん、となっている。 「....怒ってる訳じゃない。心配してるだけだから、安心して」 ハルにヨーグルトとプリンの両方を差し出すと、ハルはヨーグルトに手を差し出した。 スプーンの透明の袋を開けて、ハルに手渡した。 ハルがゆっくり、ヨーグルトを口に運ぶ姿を見ながら、俺は熱を下げるシートをハルのおでこに貼った。 「....なんだか、至れり尽くせり、て感じが....」 「ごめんな。お節介焼きで。嫌か?」 ハルが首を振った。 「....頼もしいです....ありがとうございます」 ハルが顔を赤く染め、スプーンで小さくヨーグルトを口に運ぶ。 させ子を辞めさせたい、それを話したくてハルのクラスに出向いたものの、ハルの看病になったが、それはそれで良かった気がした。 ハルはただ、ひたすら、寝ていただけだったのだろう。 「キッチン、借りるな」 レトルトのお粥を温める。 ハルがいるベッドの傍に戻った俺は風邪薬の粒と、蓋をあらかじめ開けてあげたポカリを手渡すと、ハルは、ありがとうございます、と小声で礼を言い、薬を流し込みながら、ごくごく、ポカリを飲み続ける。 テーブルの上にはミネラルウォーターが置いてはあるが、余程、喉が乾いていたんだろう。 「よく寝て、汗かいて、栄養や水分も摂って、早く良くなろうな、ハル」 笑顔でハルに話しかけると、ハルははにかみながら、頷いた。

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