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第12話

「これじゃ、ハルが休めないだろう?」 「い、いいんです、しばらくしたら、居なくなるから...きっと」 たまにコホコホ咳を交えながら、俺のトップスを掴む力は弱々しくなった。 勢いよく立ち上がり、ドンドンガンガン、けたたましい玄関へと向かう。 「せ、先輩」 背後からハルの不安そうな声。 思いきりドアを開けると170くらいの俺からしたら細身のチャラそうな相手を見下ろした。 「うるせーな、ドア壊したいのか?」 180の俺はドスをきかせ、睨みつける。 「ハ、ハルの部屋じゃないんですか」 ネクタイのピンの色から同じ3年だと気づいたが、そいつは何故か敬語だ。 「部屋、間違えてんじゃねーか?で、ハルになんの用だ?」 「え?あ、知ってるでしょう?あいつ、させ子だって。寂しいから抱いて欲しい、て連絡があったんで」 ニヤニヤと気色悪い奴だな、と反吐が出そうになる。 ふと、ハルの部屋に入る前、ハルが1年の頃のクラスメイトから聞いたセリフを思い出した。 『ハルはノックじゃ出てきませんよ』 「ハルに呼ばれたのか?」 「ええ、もちろん」 嘘だな、と確信に変わる。 それに、風邪で寝込んでいた中、熱まであり、フラフラだったのに、男を呼びつけるとも思えない。 俺を招き入れたハルの後頭部も、ピン、とアンテナのような寝癖がしっかり付いていたくらいだ、ひたすら寝ていたに違いない。 「ハルに近づくな」 俺は思いきり、大嘘つきな猿を蔑んだ目で見下ろした。 「ハルなら熱まで出して風邪で寝込んでる、てのに抱かれたい訳が無いだろう」 明らかに男は動揺し始めた。 「お、俺が嘘をついてる、とでも?風邪を引いてるから、人肌恋しい、て連絡が来たんですよ」 「言い訳がましい奴だな。二度も言わせるな、ハルに二度と近づくな。なんだ?お前はどMか?俺にボコられたいの?」 片手で玄関の壁に手をついたまま、卑屈な笑みを浮かべる。 「お、お前、何様だよ」 「俺様。じゃーな」 そして、ドアを閉め、鍵をかけた。 まだ立ち尽くしてはいるかもしれないが、静かになり、ベッドから這い上がって様子を伺っていたらしい、ハルに歩み寄る。 「猿なら追い返したから、安心しろ」 ハルの頭を撫でてやると、ハルが涙を浮かべて俺を見上げる。 「....ありがとう、先輩」 「気にするな。せっかく寝てたのにな。二度寝出来そうか?」 ハルが小さく首を横に振った。 「目が冴えたなら、お粥でも食うか?温め直してくる」 「....はい」 俺はハルに笑顔で告げ、キッチンへ向かった。

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