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第15話
ハルも深夜には熱も収まり体調が安定した。
長引くようなら、明日、俺は看病の為に学校を休み、それでも無理なら病院に連れていくつもりだった。
「念の為、明日も休め」
「はい...あ、看病、あ、ありがとうございます、先輩」
カーテンから月明かりが零れる薄闇で、ハルがベッドの上、小さく頭を下げた。
「昨日みたいな変なやついたら、絶対に開けんなよ?」
「はい、いつも気をつけてます」
ハルの言葉から執拗に男たちがハルの部屋に押しかけていることに気づいた。
俯き気味のハルの表情は暗かった。
「....俺の部屋、来るか?」
ハルが丸い目で俺を見る。
「いや、心配だから...ずっと続いてんだろ?ああいうの」
ハルがこくん、と頷いた。
「....寝てるときも...時間、お構いなし、て感じで...学校にいるときは大丈夫なんですが....」
「寝てるとき....そんな深夜もか」
「深夜だろうと早朝だろうと関係ない感じです」
ハルが切ない顔で小さく呟くように語った。
「聞きたいことがある」
ハルはまた俺を見た。
「なんで、お前は、ハルはさせ子やってんだ?」
ハルの表情が固まった。
「色んな男たちと寝るのが好きだからか?」
「そんなわけありません!ただ....」
「ただ....先輩から手紙、入っていたときは嬉しかった。佐伯先輩だ、て」
「....俺を知ってたのか?」
ハルは頷いた。
「....佐伯先輩は覚えてないみたいだけど、かなり前に佐伯先輩、僕を助けてくれたことがあるんです」
「....俺がハルを....?」
ハルはまた小さく頷いた。
「校舎で、僕、友達と約束あるから、て断ったら、腕捕まれて、トイレに連れ込もうとされて。
僕、頑張って抵抗したけど、適わなくて、諦めてたら先輩が来て。弱いものいじめかよ、かっこ悪い、て太刀打ちしてくれて、その先輩、逃げました」
記憶を辿る....。確かに小柄な生徒がいじめられている場面に友人達と歩いていて遭遇したことがあったのを思い出した。
「あの日から先輩は僕のヒーローでした。でも、先輩、ありがとうございました、て頭を下げてから、しばらく後ろ姿、眺めてました。友達に彼女さんの話ししていて....望みはないな、て思ってました。だから、嬉しかった、けど、めちゃくちゃ緊張しました」
「....緊張してたの?」
「....気持ち良くない、て思われるのも嫌だし、先輩が気持ち良くなってくれたら、て....でも、心臓はバクバクで....気づかれないよう必死でした」
あの日のハル....本当は緊張していたのか....
そして、望みがないと思ってた俺だったから嬉しくて、頑張ってた....?
床を見つめたままの小さなハルが、より小さく見えた。
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