6 / 311
脱出
この部屋にいつまで居てても仕方ない―。
そう考えた星斗は、まず、この部屋から脱出することを考えた。
とても軽い夏用の掛け布団を持ち上げ、腰に巻くと、とりあえず上半身は裸のままで、星斗は部屋のドアを開け、外に出てみた。
「えっ・・・」
廊下に出ると、すぐ目の前には上へと伸びる螺旋階段があった。
「マジか・・・」
星斗は家の中に螺旋階段があるってどういうことよ・・・?と、訝し気に考える。
左を見ると、部屋の扉が向かい合う様にふたつあり、その先は行き止まりになっている。
右を見ると、また大きなガラス戸があって、ここからもまた、だだっ広いテラスへと出入りできる造りになっている。
どれだけデカいテラスを作れば気が済むんだよ。と、軽い僻みを込めながら、星斗はそのガラス戸から見える外の景色を眺めてみた。
そのガラス戸から見える景色は住宅街が見下ろすように広がっている。
星斗はその中で一番高くそびえ立つマンションの階数を数えてみた。
一、二、三・・・八階建てだと分かった。
そして、その住宅街の向こうに海の景色《オーシャンビュー》が一面に広がっている。
あー、なんだか、とても癒される・・・。
星斗は普段、普通の住宅街で暮らす、金のないニートだ。
勿論、特別に外出する機会などもなく、また、このような風景を見る機会もない。
そのせいか、現状を忘れて、旅行でも来たかのような気分になって、しばしの間、オーシャンビューを楽しんだ。
いいなー、将来、宝くじとか当たって、こんなところに住めたりしないかなー?
絶対、働きたくないもんなー。
働くの苦手なんだよなー。
いくら頑張っても怒られてばっかなんだもん。
俺、褒められなきゃダメな子なんだもん。
ホント、宝くじ当たらないかなー。
てか、その前に宝くじを買うお金を稼がなきゃ・・・。
なんてことを思いながら、それなりにオーシャンビューを楽しむが、
「・・・マズイっ!」
と、またようやく置かれた現状を思い出し、星斗は意を決して、螺旋階段を上っていくことにした。
螺旋階段を上りながら、星斗は先程、楽しんだ風景から、この家のことを自分なりに推理してみた。
①まず、自分が目覚めた部屋はこの家の寝室であると推測できる。
②とても広いテラスに比べ、寝室から出た時の廊下先の行き止まりのコンパクト感、今、上っている螺旋階段の形状からも、戸建ての家ではなく、メゾネットタイプと呼ばれるマンションの一室であろうことも推測できる。
③窓から見下ろせる住宅街に八階建てのマンションがあり、必要以上の広いテラスがある。
この2点から推測できるのは、景色が良く見れる場所に建つマンションであるということ。
つまり、高台(※低い山の上に建てられているなら、街の風景はもう少し見下ろす景色になるはず)に建っているであろうマンションであることも推測出来た。
④よって、以上のことから導き出される答えは、この部屋は多分、高級住宅街の高台に建てられたマンションの一番上の階、そう、最上階の部屋(=勝ち組の為の部屋)だと推理できる!!
よって、このお部屋はかなりのお家賃が必要なはず!!(賃貸ならね。分譲なら億単位と見た!)
「これはかなりマズイ・・・!!」
星斗は螺旋階段を上りきる前に心穏やかではなくなった。
たかだか20歳そこそこの、しかも底辺ニートの自分にこんなお金持ちの知り合いが存在するわけがないのだ。
昨晩、自分では想像もつかないような、とんでもない何かをしでかしてしまったんだ。
久しぶりの女子との飲み会で、テンションアゲアゲ⤴⤴で確かに酒を浴びるように飲みまくった。
悪酔いしたせいで、俺は俺自身をさし出さなければ許されないようなことをしてしまったんだ。
だから、服をはぎ取られ、スマホを奪われ、首輪までつけられた。
「・・・・・・」
これって・・・まさに"奴隷"!?
逃げられないように、素っ裸にされて監禁された!?
ひょっとして、この首輪に居場所が特定されるマイクロチップが入っているとか・・・?
イヤ、最悪、小型爆弾が仕込まれてて、逃げたら、爆発するんじゃ・・・?
そうだよ、そんな映画あるじゃんっ!
ゲーム感覚で社会の迷惑でしかない奴らを無残に殺していく、とか。
うおーーーーーーっ!!
そんなヤバい奴相手に俺は一体、何をやらかしたんだーーーっっっ!!
星斗は想像に想像が膨らんでとんでもない被害妄想の渦に入り込んでいった。
ともだちにシェアしよう!