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寺西クリニックにて

星斗を乗せた車はダイナミクスの診療を専門に扱う開業医の病院に到着した。 医者と知り合いだと言うだけあって、かもしれないイケメンの事前の手配もあり、星斗の診察はスムーズに始まった。 まずは簡易的な血液検査が行われ、結果はすぐに判明した。 星斗はかもしれないイケメンに付き添われながら、診察室に呼ばれた。 「どうも~、医者の寺西です。キミが渋谷星斗さんかな?」 そう言って、白衣姿の医者が診察室に入って来た。 寺西と名乗った医者はとても大柄の男性で、全体的に丸っこく、オシャレでしているのだろうか、短髪の髪型のもみあげから顎にかけて、顔の輪郭に沿う様にひげを生やしている。 少し彫りの深い顔立ちも手伝ってか、星斗は寺西のことを熊ぽいっ!と、内心で思った。 絶対に自分だけじゃない。 陰で「熊」って、あだ名がつけられているはずだ。 星斗はそんなことを勝手に妄想する。 寺西はそんなワイルドな見た目とは違い、非常に物腰が柔らかい口調で穏やかな印象さえ与えてくる。 生やしているヒゲも清潔感があって、不潔な印象も与えてこない。 星斗は心の中で『優しい森の熊さん』と、『かもしれないイケメン』に続いて、また勝手に命名した。 寺西は目の前にあるパソコンを操作すると、「・・・えーっと、検査の結果ですが・・・うん、Sub判定になってるね」と、言い、パソコンの画面を星斗に見える様に動かした。 星斗が確認すると、画面に表示された検査結果には《Sub+》とある。 「とりあえず、これは簡易的な検査なので、詳しくはDNAの検査もしてみるけど、話を聞いた限りではSubで間違いないと思うよ」 「そうですか・・・」 星斗は大して驚きはしなかった。 この結果は予想出来ていたので、淡々と受け止めることが出来た。 「時々あるんだよ。第一次性徴時、第二次性徴時に検査しても判明しなくて、成人してから判明すること。最近、体調に問題なく過ごせてた?」 「へ?」 「辛かったでしょ?」 「・・・・・」 「この年になるまで分からなかったら、ずっと違和感を持ったままで生きてきたんじゃない?」 「・・・・・」 「ここからは本当の自分で生きて行こうね」 星斗は自然と涙が零れ落ちそうになった。 寺西のことを、なんて優しい森の熊さんなんだと思った。 確かに違和感はずっとあった。 今考えれば、それは高校を入学した時から始まっていたかもしれない。 どうしても体調のコンディションがうまく整わず、そのせいでいくら勉強してもうまく結果に反映できなかった。 ランクを落としたにもかかわらず、大学受験も失敗した。 自分はこんなに勉強しても受験に失敗するのだから、バカなんだと思い、バカは働くしかないと考えた。 しかし、働いてみたものの、うまく社会の役割を果たせないと感じ、すぐに諦めが来てしまう。 少し叱られただけで、すぐに自分を責めてしまう。 どうして、俺は相手の期待にもっと応えられないのか? ダメ人間だ。 生きてる資格なんてないんだ。 自分を責めて、そのストレスが段々と大きくなっていく。 完璧にこなせない自分に腹が立った。 いくら頑張っても褒めてくれない社会に腹が立った。 そして、いつの間にか、人が怖くなっていった。 人に評価されること、社会に評価されること。 だから、働くことが苦手になって、ニートになるしかなかった。 でも、ニートになったら、更に蔑んだ人生が待っていた。 最初は優しかった両親も最近はダメ息子に嫌気がさしたようだし、高校生の弟からも「バカ兄貴」「バカニート」と、罵られるようになった。

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