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寺西クリニックにて②
「俺はこれから、上手く生きていけるでしょうか?」
思わず、胸の内からの湧きあがってきた言葉だった。
それが星斗の今の一番の願いだからだ。
これまでの人生はSubの性質が邪魔して、うまく生きれなかっただけかもしれない。
Subであることをきちんと受け入れ、その性質とうまく付き合っていけば、今ある生きづらさが少しでもマシになるかもしれない。
「勿論。これからは、ゆっくりと自分の性を受け止めながら、自分らしく生きて行こうね。何も分からないままよく頑張った」
優しい森の熊さんのその一言で、星斗は心の中にあった大きなしこりが溶けて行くような気がして、涙が溢れだしてしまった。
「良かった・・・」
星斗はそう零すと、少しの間、静かに涙を流した。
「それで、この首輪はなんでつけてるの?」
泣いてる星斗を静かに見守っていた優しい森の熊さんこと寺西の声が少し険しくなった。
寺西は星斗がつけているピンクの首輪がとても気になるようだ。
星斗は涙を収めると、「分かりません」と、素直に答えた。
「目が覚めたら、付いてあって・・・その・・・なぜか、記憶がないんです」
星斗はそう言うと、全ての事情を知っているであろう、後ろに立つ、かもしれないイケメンを見つめた。
「へえー」
寺西の声のトーンがまた一段と下がり、とても軽蔑した音に聞こえた。
かもしれないイケメンは、とてもバツの悪そうな顔をして下を向いた。
その表情から、寺西は何かを感じ取ったのか、「ちょっと失礼」と、椅子から立ち上がり、かもしれないイケメンの横に立つと、ふたりして、星斗に背を向けて、コソコソと話し始めた。
「お前、なにした!」と、寺西。
「なにって・・・」
「お前、一度は医学の道を志してた者だろう!」
「医学の道と言っても眼科医だ! ダイナミクス科じゃない!」
「そんな危険な精神状態だったのに首輪なんかつけて、どうするつもりだったんだ!」
「知らなかったんだよっ。てか、自分の性に気づいていないなんて思ってもなかったんだよっ。それに首輪は遊び、単なるPlay中の遊びのつもりだったんだ! 見ろよ、あれ、完全に仮装用のおもちゃだろう」
寺西は星斗のピンクの首輪をチラっと見て確認する。
どうやら、安価な首輪だと目視すると、かもしれないイケメンの言ってることは正しいようだと受け止めた。
「仕方なかったんだよ。ああでもしなきゃ、彼はまた錯乱状態を起こして、今度は本当に死んでたかもしれないっ」
「だからって、お前な・・・全くっ」
寺西は呆れたように口にすると、何ごともなかったかのように星斗の前にまた着席した。
「じゃあ、とりあえず、Subの症状を抑える薬を出しますからね。今は色んな薬が開発されててね、どれが一番に合うかは個人の性質によるから、また一週間後に来て、症状の様子を聞かせてください」
「あの、首輪を外して欲しいんですけど?」
「首輪か・・・」
寺西は処方箋を電子カルテのデータに入力すると、星斗に視線を合わせた。
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