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寺西クリニックにて③
寺西は難しい表情を浮かべた。
「それ、自分で外せる?」
「へ?」
「自分で外せるかな?」
「・・・・・」
「私に外して欲しい。そう頼むってことは、自分では外せないってことだよね?」
その通りだ。
どうしても自分で外そうとすると、言いようのない不安に襲われてしまう。
「渋谷さんは今までNormalとして暮らして来たから、ダイナミクスについてよく分かっていないと思うけど、その首輪ね、今むりやり外すと、Sub drop っていうとても危険な状態に陥るかもしれないんだ」
「Sub drop ?」
寺西は頷いた。
「Sub drop って言うのはね、簡単に言うと、そうだなー、Subが精神的な攻撃を受けて、心が壊れてしまったりすることなんだ。酷い行為を受けた時は残念ながら、死もありうるんだよ」
「じゃあ、首輪を無理に外すと、俺は死ぬ、・・・ってことですか?」
「それは外してみないとどうなるか分からない。でも、心がイヤだって言っているものを無理に外すとその反動は必ずやってくる」
寺西は、かもしれないイケメンを指さすと、
「キミが検査を行っている間に、彼に昨晩、何があったかのさわりだけ聞かされたんだけど・・・」
と、口にし、
「キミは昨日、酷いDom達に襲われて、Sub drop に陥った。DomがSubを強制的に言う事を聞かせるGlare という特殊な能力があるんだけど、それを使われたらしい。そこをこの男が助けたんだけど、それがキミをSub drop から一気にSub space に入らせた」
と、続けた。
「Sub space ・・・ですか?」
「Sub space って言うのは、簡単に言うと、Subに生まれてきた悦びを知ることなんだ。でも、本来はこんなこと起こりえない。見ず知らずのDomにSub drop に落とされて、次にまた、見ず知らずのDomに一気にSub space に連れていかれるなんて」
「はあ・・・」
星斗は知らない単語ばかりが出てきて、全く理解が追い付かない。
「まず、簡単にSub space なんて状態には入れないんだ。SubとDomが長い信頼関係を築けてこそ、SubはSub space という喜びを味わえる。
それが普通なんだけど・・・渋谷さんの場合は、辛いストレスのかかった時間があまりにも長すぎて、そこに酷いDomらと出会って、精神状態が最悪なところまで落ちてしまった。なので、精神の錯乱状態を起こすSub drop に落ちた。
で、またまたそこに偶然、初めての紳士的なDomが助けに現れた。まあ、それが後ろに立つ、キミに首輪をつけた彼なんだけど・・・そうだなー、分かりやすく言うと、絶体絶命になったお姫様の元に現れた白馬の王子様って感じだったのかな」
「はあ・・・白馬の・・・王子様ですか?」
星斗は男の俺にそんなロマンティックなことを言われても全くピンとこない、と、思ってしまう。
「なので、渋谷さんははじめてのPlayにも関わらず、一気にSub space に入ってしまったのかもしれないね。そして、もう、あんな酷い目にはあいたくない、自分は誰かの庇護下でいたい、あの悦びをまた味わいたい、そんな複雑な色んな感情がまだうまく解消出来ていなくて、その首輪を外したくないという感情で現れているんだと思う」
「・・・あの、じゃあ、結局どうすれば?」
「とりあえず、薬でどれだけ精神状態が安定できるかを見てみましょう。それで、心が少しずつ安定してきたら、自分で外しても大丈夫って思える日が来ると思う」
「はあ・・・分かりました」
ダイナミクスについての初めての説明で全く理解が追い付かない星斗は、医者に外す方法がそれしかないと言われれば、今はそれを聞き入れるしかないと思い、素直に従うことにした。
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