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寺西クリニックにて④

診察を終えた星斗と、かもしれないイケメンは帰路に着くため、病院の駐車場に戻って来た。 「・・・あの、なんて言うのが正しいのかよく分かりませんが、ありがとうございました」 星斗は、かもしれないイケメンの愛車の前まで来ると、そう言って頭を下げた。 「俺、あなたに酷いことをされたと勝手に思い込んでたんですけど、色々と話を総合していくと、あなたは一応、俺を助けてくれたみたいなので・・・病院まで連れてきてくれたりもして、悪い人ではなさそうなので・・・」 申し訳なさそうに星斗にそう言われた、かもしれないイケメンは苦笑いするしかなかった。 「そうだ、これ」 かもしれないイケメンは胸ポケットから名刺を取り出した。 「良かったら、俺の連絡先」 かもしれないイケメンは星斗に自分の名刺を渡した。 「もし、昨晩の件で何か聞きたいことでも出来たら、いつでも連絡して。治療に必要なことがあるかもしれないし」 星斗は名刺を素直に受け取った。 『MA-MONレンズ株式会社代表取締役社長 眞門知未』 名刺にはこの他に、会社の住所と電話番号と会社のURL、そして、個人の携帯電話の電話番号が記されていた。 「・・・・・」 星斗は名刺を凝視した。 「・・・どうかした?」 かもしれないイケメンは無反応な星斗の態度が気になった。 「失礼ですが」 「うん」 「なんて読めばいいんでしょう?」 「え? 名前?」 「・・・はい」 男は軽くハハと笑うと、「昨日、何度も教えたんだけどな・・・」と、少し困ったようにもらした。 「まかど ともみって言います。ちなみに、昨晩はともみさんって、ずっと下の名前で呼んでくれてたんだけどね」 「まかど・・・ともみ・・・さん・・・」 かもしれないイケメンの名前を口にした途端、 「!」 星斗はハッとした。 星斗の脳裏に突然、昨晩の出来事が一斉にフラッシュバックを起こしたからだ。 『知未さん・・・好き』 『知未さん、俺のことを離さないで』 『お仕置きする知未さん嫌い・・・』 『知未さんにならなんでもされたい・・・』 『俺をめちゃくちゃにして蕩けさせて・・・知未さん・・・』 『知未さんも俺のことをいっぱい欲しがって・・・』 『俺の全部を・・・知未さんのモノにして・・・俺をあなたの物にして・・・』 次々に自分が口にした甘い言葉の記憶がよみがえる。 そして、その言葉と共にある記憶は、官能に満ち溢れた幸福感の記憶。 星斗は全てを思い出せた気がした。 昨晩、自分はこの男《眞門知未》とどんな行為に及んだのか。 その全てを思い出した。 星斗は思わず赤面する。 かもしれないイケメンこと眞門はその星斗の顔色を見て、慌てて口にした。 「ごめんっ、いつまでも外で話してたら暑いよね? さあ、車に乗って、家の近くまで送っていくよ」 「・・・いいです!」 「へ?」 「いいです! 俺、ここから、ひとりで帰ります」 「いや、でも・・・」 「大丈夫です! 本当に・・・あのっ・・・疑って申し訳ありませんでした!!」 星斗はそう言って、深く頭を下げると、逃げる様に走り去った。 眞門は星斗が逃げるように去っていく後ろ姿をただ呆然と見送った。 「やっぱり、ちょっと変わった子だよな・・・」 眞門は心の中で呟いた。 昨晩の出来事を全て思い出した星斗は恥ずかしさでその場で即死しそうになった。 全部思い出したっ! あの人が、かもしれないイケメンが悪いんじゃないっ! 俺だ。 俺が眞門さんを誘惑した! 眞門をとんでもない悪人かもしれないと考えていた自分がとても恥ずかしくなった。 真実はその逆で、眞門はただの善人だった。 そんな自分の勘違いした恥ずかしさから逃れたいと懸命に走った。 夏の暑い日差しが照り付ける中、懸命に走ったせいで、息が徐々に荒くなると呼吸も苦しくなって、星斗はついに立ち止まってしまった。 「俺が望んだんだ。俺がやりたいって、俺が眞門さんを誘惑した・・・」 星斗はその真実を思い出して、とてもショックを受けた。 「知らなかった。 俺、イケメンのおじさんが好みのタイプだったんだ・・・この前までオッパイ星人だったのに・・・俺、おじさんが好きだったんだ・・・」 炎天下のなか、まだ、自分の性⦅=SubだからDomに惹かれた⦆をよく理解できていない星斗だった。

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