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眞門知未は語る
俺には妹がいる。
いや、本来なら妹とは呼べない。
血の繋がりがない。
ただ、彼女、愛美 は俺のことを『お兄ちゃん』と呼ぶ。
その理由は、俺が小学生の時に両親が離婚したことから始まる。
両親が離婚後、俺は父に引き取られ、父の元で育った。
そして、父と離婚した母は、その数年後、子連れの男性と再婚をする。
その連れ子が愛美だ。
要するに、母と愛美もまた血の繋がりはない。
よって、俺と愛美にも血縁関係は存在しない。
母は父と違って、とても良い人だと思う。
血縁関係がない愛美を我が子のように母は大切に育てた。
そんな母と愛美の関係は、傍から見てても親子そのものといった感じで、血の繋がりがどうであろうと、ふたりの間には確かな親子の絆があった。
そんな二人を見て、出来れば、俺も母の元で育てられたかった。
何度もそう思った。
父方は代々医者の家系で、とある街の大地主でもあったことから、所謂、地元の有力者と呼ばれる一族で、俺の父は本家の三男として生まれた。
三男なので長男よりもプレッシャーは少ないはずだが、そんな父もまた先祖代々の道に反れず、医者となり、現在ではこの国の産婦人科医の会の会長を務めている。
ちなみに、父の兄弟、本家を継いだ長男は心臓外科医、次男は整形外科医と、こちらもやはり道に反れることなく医者になっている。
先祖代々のしきたりに逆らわず、決められたレールをきちんと歩んだ父だったが、意外なことに母とは恋愛結婚だったらしい。
母は言わば、普通の家庭で育った中流階級で、やはりと言うべき、二人の結婚に対し、周囲からの反対はかなり激しかった。
それでも、父は負けずに周囲を説得し続け、なんとか母との結婚にこぎつけた。
しかし、誰の目から見ても彼らの結婚はうまくいくわけがなかった。
家柄の問題?
そうじゃない。
父はDomで母はNormalだったからだ。
ただ単純な話。
母の生まれ持った性質では父を幸せにすることは出来なかった。
父の生まれ持った性質もまた母を幸せにすることは出来なかった。
母は頭の中でいくら理解が出来ても、心では完全に受け止めることが出来なかった。
父がSubと常に浮気(=SubとのPlay)をするということを。
Domとして生まれ、大人になった今の俺だから、父の気持ちは多少理解することが出来る。
Domの立場から言えば、それは浮気でもなんでもないのだ。
のどが渇くから水を飲む、腹が空くから食事をする、メンタルをコントロールする為にPlayする。
要は生きるためにはそれが必要な行為なのだ。
父にとってはSubとのPlayがあるからこそ、Normalの母を純粋な気持ちで愛し続けることが出来たのだろう。
しかし、Normalの母にそれを受け止めろというのが最初から無理な話だったのだ。
今でも時々、この世界にある禁断の恋のお話。
DomまたはSubの性を持った者がNormalと恋に落ちる話はないわけじゃない。
しかし、いくら互いを引き寄せあっても、いつかは互いに満たされない心を抱えてしまう。
父の欲求に母の資質では耐えられないし、母の頑張りでは父の欲望を満たすことが出来ないのだ。
そんな母だが、今でも決して父の悪口は口にしない。
むしろ、父は良い人だったと俺には話してくれる。
きちんと私を愛してくれた、と。
だから、私は『Domの父と結婚したこと、あなたを産めたことになんの後悔もない』、と。
息子としてその言葉は、どこか救いがある言葉だった。
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