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ある夜の出来事
眞門は実に不愉快だった。
血の繋がりがない妹、愛美から突然の連絡があり、その夜に食事に誘われたのだ。
それならばと、落ち着いて話が出来る個室で食事を取れる方が良いだろうと思い、行きつけの高級レストランの個室を予約すると伝えたが、愛美がそれを拒否したのだ。
眞門にどうしても会わせたい人がいて、その人がそういうお店は苦手だからというのが断られた理由だった。
眞門は、イラっとした。
勿論、愛美にではない。
愛美の会わせたい人に、だ。
高級レストランの個室で食事するのに、一体、いくら金がかかると思っているのか?
それを「嫌い」、だ?
そんな簡単な一言で済ますなんて。
生意気だ!!
何様のつもりなんだっ!
そんな「嫌い」な食事でも、ためらいもなく予約を出来る身分になってから、そういう偉そうな物言いは口にしてもらいたい!
と、眞門は苛ついた。
当然、これはただの嫉妬だった。
愛美の会わせたい人が誰なのかはとっくに見当が付いているからだ。
愛美が会わせたい相手=結婚したての夫だ。
恋の嫉妬に眞門のDomの性質も加わり、感情が、その中でも怒りの感情がいつもよりコントロールしづらくなっていた。
愛美たち夫婦は結婚式や披露宴は後回しにし、入籍だけを先に済ませた。
その理由は愛美の夫の職業が着物デザイナーで、その仕事の関連でパリに長期出張をすることが先々のスケジュールとして決まっていたからだ。
それで、長期出張前に入籍だけを先に済ませ、帰国後に同居を開始し、結婚式などはそれから挙げる予定でいた。
なので、眞門は今日まで愛美の夫とは全く面識なく過ごすことが出来た。
眞門自身はそれで何も問題なかった。
出来れば会いたくなどなかった。
誰が好き好んで、好意を寄せている相手の選んだ運命の人を紹介されなければならないのか?
しかも、幸せのツーショット付きで、だ。
そもそも、愛美の夫さえいなければ、今夜の食事も愛美とふたりっきりで三ツ星レストランのシェフが作るおいしい料理をいただけたのだ。
そう思うと、眞門は腹が立って不愉快で仕方なかった。
ほどなくして、愛美から眞門のスマホにメッセージが届いた。
食事をするお店のURLが届き、そこに来て欲しいと書かれていた。
眞門はURLにアクセスすると、すぐに眉間にしわを寄せた。
金のない若者が利用するような格安で酒が飲める大衆居酒屋だったのだ。
「ナメやがって・・・。愛美の旦那は社会の常識を持ち合わせていないクソ野郎だなっ!!」
眞門は心の中で怒鳴った。
初めて会う相手に、とんでもない場所を指定してきた。
普通は静かにゆっくりと食事ができるところで親睦を深めるのが常識だろうっ!
眞門はまた、腹を立てた。
嫉妬に狂う眞門は何かにつけて、愛美の夫に難癖をつけたがる。
続けて、愛美からのメッセージがまた届く。
「こういう場所だと気取らずに話が出来るからいいよね?」
良くねえよ。
全く、とんでもない非常識の奴と結婚しやがって!
眞門ははらわたが煮えくり返りながらも、「そうだな」と、愛美に嫌われたくない一心で、物わかりの良い男を演じて返信してしまう。
「・・・ああ、もうっ! クソっ!!」
眞門はDomのくせに、うまく上手 に出れない自分の弱さに苛立って、悔しさの声を上げた。
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