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ある夜の出来事②
「えっ!? お兄さんって、あの、MA-MONレンズの社長なんですか? MA-MONレンズって言えば、ダイナミクス性に向けた特殊なコンタクトレンズを発明して、確か特許も持ってる会社ですよね? 凄いな~、じゃあ、大儲けだ、ハハハっ」
その言葉を終えると共にジョッキに入った生ビールをグイっと飲みこんだ男に、眞門は人生で最大のムカつきを覚えた。
なんで、お前にお兄さん呼ばわりしなきゃいけないんだよっ。
俺より二つ年上の32才のおっさんにっ!!
愛美に食事を誘われた夜。
愛美に指定された格安大衆居酒屋に眞門は愛美と愛美の夫、カズキと共にいた。
店は大都市にある雑居ビルの2階のフロアを全て借りきって作られた大型の店舗で、格安で商品を提供する為の営業努力か、テーブル席をきちんと区切りするようなパーテーションなどが一切なかった。
そのせいか、時間的に混雑した店内では、酒が入って派手な大声で話し合う酔っぱらった客たちの会話があちらこちらで響き渡り、良い意味で言えば活気がある、悪い意味で言えば騒々しさが際立つ店だった。
金のない学生じゃあるまいし・・・。
雑音が酷すぎて、とてもじゃないが、まともに話せるような場所じゃないっ。
店内の様子だけでも、眞門の気に食わない用件を満たしていたが、それより、もっと気に食わないことがあった。
愛美の夫、カズキ、そのものだ。
眞門はあいさつを交わした瞬間から、カズキのことが気に食わなかった。
カズキの見た目からして許せなかったのだ。
眞門は蒸し暑い真夏の夜でもきちんとしたスーツ姿でやってきたのだ。
初対面の人と顔合わせをする時は、失礼のないように正装でやってくる。
それは社会人としての礼儀、マナー、常識、相手に対する当り前の心遣いだ。
なのに、デザイナーか何か知らないが、カズキは肩まで伸ばした長髪にウェーブのパーマが無造作にかかり、無精ひげもそのままの顔で、これがファッションだと言われても、ただの不潔男にしか見えなかった。
しかも、【Go TO Hell!!】と、胸に大きく書かれた派手なロゴの黒Tシャツ一枚にハーフパンツ、そして、足元はサンダル姿で現れたのだ。
全くマナーという物がなってない。
なんで、愛美はこんな男に惹かれたんだ・・・?
そう思うと、愛美のことさえ、眞門は軽蔑しそうになった。
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