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ある夜の出来事③

「なら、遠慮なんかせずに、お兄さんがおススメしてくれた三ツ星レストランの個室を予約してもらえば良かったよな~」 と、無精ひげにビールの泡が付いたままの口元で、カズキが口にした。 眞門はそのビールの泡がついたカズキの口元を見て嫌悪感に駆られる。 汚い男だ。 自分の目の前でデカい態度を取りながら、愛しの愛美の横に座るカズキにムカつきしか覚えない。 終始イライラしながらも、小、中、高で学んできたDom専用のメンタルトレーニングの賜で、眞門はなんとか笑顔をキープし続けることが出来た。 「じゃあ、今度ぜひ」 眞門はそう返事した。 「えっ、良いんですかー。でも、愛美はあういうお店が好きじゃないだよな~」と、カズキがボソッと口にした。 ・・・は? 「このお店ね、俺達が出会った思い出の場所なんですよ」 そう言うと、カスギは勝ち誇ったようにニヤっと笑った。 なんだ、こいつ・・・? 俺にマウントを取ろうとしているのか? ひょっとしてDom・・・か? イヤ、それはありえない。 好き好んでDomがNormalと結婚するわけがない。 「愛美、生ビール頼んでよ」 カズキはそう言いながら、眞門に見せつけるかのように、愛美の肩に馴れ馴れしく手を回して抱き寄せた。 そして、眞門にまた勝ち誇った顔を作ると、「お兄さんも飲みません?」と、白々しく声を掛ける。 「いえ、私は車で来てるので」 「そうですか。じゃあ、また今度、ゆっくり、ウチで飲みましょうよ。愛美の手料理上手いですよ~。食べたことあります?」 「・・・いえ」 「そうですか。残念だな~。ないんですか? 俺より愛美とは付き合いが長いはずなのに」 「・・・・・」 眞門は明らかにカスギからの敵意を感じた。 「すごく美味しいですよ・・・愛美のおいしい手料理を毎日食べて、俺、太りそうで困っているんですよ」 「もう、止めて、そういうの。恥ずかしいじゃない」 愛美は照れくさそうに下を向いた。 「・・・・・・」 眞門はこの瞬間、自分の心は死んだ、と思った。 目の前の景色が全て灰色に見えてくるからだ。 負ける屈辱とは、こんな絶望的な気持ちに襲われるものなのか・・・? 眞門は今まで経験したことのない、深くて寂しくて悲しい、ただ真っ暗な心の奥底に落ちていくような気分だった。 どうして、俺はこんなところに居るんだ? そもそも、なんで、来たんだ・・・? 祝う気もないくせに。 来るんじゃなかった。 眞門は後悔の波に飲まれた。

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