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ある夜の出来事 ー非常階段にて
眞門は非常階段へ続く扉を開け、ビルの外に備え付けられてある非常階段の踊り場に立った。
そのまま、外の空気を吸い込むように大きく深呼吸する。
淀んだ空気だが、店内にいるよりかは随分マシに思えた。
外で大きく深呼吸をしただけで、気分が少し軽くなった気がする。
「・・・・・」
眞門はこれからどうするべきか?を考えた。
気分が落ち着いたら、愛美たちがいる店内にまた戻るべきか。
それとも急な仕事が入ったとでも適当な嘘を並べて、このまま帰ってしまうべきか。
「・・・・・」
答えはとっくに出ていた。
このまま帰ってしまうと思ったから、店員に強引に支払いを迫って、店を出てきたのだ。
眞門はこのまま非常階段を下りて、愛車を止めてある近くの有料駐車場に行ってしまおう。
そう決めて、階段を降りようとした瞬間、なぜか、目の前を白いTシャツが落下していった。
「・・・ん?」
眞門は何が起こった?と、一瞬戸惑う。
戸惑っているうちに、今度はハーフパンツが落下してきて、ガタンと音を立てると共に踊り場の手すりに引っかかった。
眞門は恐る恐るハーフパンツを手に取ってみた。
どうやら、デザインやサイズからして、メンズ物のようだ。
ハーフパンツの後ろのポケットにはスマホと二つ折りの財布が入っている。
眞門は二つ折りの財布のシックなデザインから、やはり男性のものだと確信した。
しかし、どうして、空からこんなものが落下してきたのか・・・?と、不思議に思う。
自分なりに理にかなった答えを導き出そうと考えた瞬間、また目の前を一足分の靴下がヒラヒラと落下していく。
そして、その後を追う様に派手なボクサーパンツとスニーカーが落下していった。
これは、もしや・・・。
眞門はイヤな予感がした。
眞門は踊り場から顔を出すと上の階を見上げた。
真上の階、三階の踊り場から、「ごめんなさい・・・っ! ごめんなさい・・・っ! 痛いっ・・・許してくださいっ!」と、泣いて謝る若い男の声が聞こえてくる。
「はあー? 今更謝ったって遅いのよっ! SubのくせにDomに向かって、偉そうな口叩いてんじゃないわよっ!」
続いて、若い女の怒鳴り声が聞こえてくる。
「マジか・・・」
眞門は心の中で嘆いた。
先程、居酒屋の出入り口でぶつかった若い男とその女達だろうと簡単に想像が出来た。
眞門は、自分には関係ないことだ、このまま放置しておくか・・・?とも考えるが、先程、目が合った時の、助けを求めていた若いSubの青年の顔がどうしても忘れられなかった。
Subにあんな顔して見つめらて、Domとして助けずに帰ったら悪い夢にうなされそうだ。
第一、勝手な俺の解釈だが、彼には恩がある。
それに、マナーがなっていないDomに、同じDomとしても怒りも覚える眞門はゆっくりと階段を上り始めた。
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