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ある夜の出来事 ー非常階段にて③
「・・・あーあ。全く、なんで、この世界はバカばっかりなんだ・・・」
眞門は嘆くように呟いた。
「バカのくせに、どいつもこいつも偉そうに俺よりマウントとることばっかり考えやがって・・・バカは黙っていればいいのに・・・所詮バカなんだから・・・。
そうだ、だったら、最初から黙らせておけばいいんだ・・・バカなんだから黙らせよう・・・黙らせて消してしまおう・・・そうだ、全て消せばいいんだ・・・そしたら、今のこの気分だってとてもよくなるはずだ・・・バカばっかりで本当に目障りだ・・・っ」
眞門がブツブツと不気味に口にする。
スマホで撮影しているDomの女も若い男を拘束しているDomの女も、眞門の異変に若干の恐怖を感じ始める。
「・・・お前らのこと、黙らせていいか? 永遠に」
そう言って、スマホを持つ女の顔を見つめた眞門の瞳は生コンクリートのようなザラリとした無機質なグレーへと染まっていた。
「!」
女はゾッとした。
一瞬にして恐怖に包まれた。
なんて、おぞましいオーラを放つんだと思った瞬間、このDomに逆らえば、私はこの世界から消されてしまう。
そんな恐怖を煽るビジョンが頭の中に流れ込んできた。
若い男を拘束している女も眞門から漂う異様な殺気にやられて、ガタガタと恐怖で体が震え出すと、拘束していた若い男の手首を思わず放してしまう。
解放された若い男も眞門の異様な殺気のせいで息苦しいのか、徐々に息が吸えなくなると、呼吸が浅くなって、その場に倒れ込んだ。
女たちは焦った。
眞門が放つ、Domを威嚇するGlare がこれまでに経験したことのない、異常で冷酷な恐怖を与えてくる力だったからだ。
普通の威嚇のGlare は相手に圧を与える程度。
分かりやすく言えば、睨みを利かす程度だ。
例えば、お気に入りのSubを取り合うことになった時、圧の当て合いで、どちらがより優秀なGlare を放出できるDomであるかで勝敗が決まる。
しかし、眞門のGlare は異世界だった。
Dom相手にも余裕で恐怖を植え付けてくることが出来る、異端のGlare 。
そもそも、Glare を使う際に瞳の色が変わるなど、彼女たちは今まで見たことも聞いたこともなかった。
このGlare は相手がDomであろうとSubであろうと、ダイナミクスの性別を持つ者なら、誰でも強制的に言いつけを守らせることが出来てしまう力なのではないか。
彼女たちはそう感じてしまった。
そして、女達はあまりの恐怖心で胸が裂けになり、気が狂いそうになった。
正常な精神状態で家に帰れるのか。
更なる不安が襲ってくる。
「いいかい。Glare の本当の使い方も教わって来ていないDomがDomだって偉そうに名乗るもんじゃないよ」
「・・・はい」
眞門は冷酷な声でスマホを撮影していた女に言い聞かす。
女は素直に返事するしかなかった。
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