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ある夜の出来事 ―非常階段にて⑤
すぐに癒しのオーラに包まれたお陰か、少しすると青年は意識を取り戻した。
意識を取り戻した青年は眞門のサーモンピンクに染まった瞳を見つめると、いきなり強く抱き着いてきた。
相当怖い思いをしたのだろう。
眞門はこのSubの青年が落ち着くまで、「よしよし、もう大丈夫だよ」と、言って、優しく背中を摩ってやった。
が・・・。
15分程過ぎだろうか。
落ち着くように背中を優しく摩り、慰める様に抱きしめてやるも、恩人の青年は真っ裸のままで眞門に抱き着いたまま一向に離れようとしてくれない。
参ったな・・・。
この光景を誰かに見られたら、どんな風に思われてしまうんだろう?
野外で裸の青年に抱きつかせて喜んでる変態趣味のおじさん、とか?
ヤダな・・・。
社会的身分がある身なのに、警察に通報されたりしないかな。
どうすれば良いんだろう?
やっぱり、厄介事には手を出すんじゃなかった・・・。
眞門はそう後悔するも、ほんの少しだけ、溜まりに溜まっていた怒りを非常識なDomらに発散させたことで気分が良くなっていたのも事実だった。
そんなカオスな状態に戸惑っている眞門のスマホが着信を知らせた。
眞門はスラックスのポケットからスマホを取り出す。
相手は愛美だった。
「はい」
と、通話に出た眞門。
『お兄ちゃん、今、どこ?』
「ああー、すまない。
急なトラブルが起きて、慌てて会社に戻ってるんだ。何も言わずに消えて済まなかった。カズキさんにもそう謝っておいてくれ」
眞門は上着の上から裸の青年の背中を優しく摩り、愛美にそう嘘をついた。
『そうだったの・・・相変わらず、仕事は大変そうだね。それで、トラブルはなんとかなりそうなの?』
「ああ。愛美にまで変な心配をかけてすまないな」
『・・・お兄ちゃん』
「ん?」
『なにか怒ってる?』
「え?」
『怒ってたよね? さっきすごい顔してた』
「・・・・・」
バレてたか。
でも、嘘は今もこれからも貫き通す。
「あれは・・・ほら、仕事でトラブルが起きそうだなと思ってて、それで頭がいっぱいで・・・案の定、トラブル案件になって・・・」
眞門は適当な嘘でごまかしてみた。
『・・・そう・・・私は・・・気に入らないんだと思った・・・』
「え?」
『だって、全然言ってくれないんだもん。結婚、おめでとうって』
「・・・・・」
言えるわけないだろう、そんなの。
Domが指くわえたまま、愛しい人を奪われていくんたぞ。
こんな屈辱的なことがあってたまるかっ。
『私とカズキさん、全然釣り合ってないよね?』
「え?」
『やっぱり私には不釣り合いの相手かな?』
「・・・・・」
『お兄ちゃんにもそう見えた? 人気の着物デザイナーと全然売れない無名の画家、だもんね・・・』
違うんだ。
そんな簡単なものじゃない。
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