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診察にて・・・②
「・・・イヤ、ですか?」
星斗の困った顔を見て、寺西は尋ねてきた。
「いや、そうじゃなくて・・・ほら、眞門さんはご迷惑じゃないですか。あんなにイケメンでお金持ちで紳士的な方に、俺みたいなニートの相手してもらうなんて。それに眞門さんならパートナーが既にいらっしゃるんじゃないですか?」
「渋谷さん・・・そのNormal的な考え方で物を考えるのは良くないです」
と、寺西は優しく微笑みながら諭した。
「どういうことですか?」
「渋谷さんが今まで生きてきたNormalの世界での常識は、こちらの世界では常識ではなかったりします」
「そうなんですか?」
「要は相性ですから。そこには見た目もお金も愛もいりません」
星斗は驚いた。
「え、愛!?って・・・パートナーになるのに愛がいらないんですか?!」
「いりませんよ。勿論、あるカップルもいらっしゃいますが、ないカップルも沢山いらっしゃいます」
「パートナー、なのにですか?」
「はい。パートナーもひとりの人と限ったわけではありませんから。二人、三人とパートナー契約してる方もいらっしゃいますよ」
「そうなんですね・・・」
星斗は軽いショックを受けた。
なんだか自分は、「これから、ふしだらな世界の住人になるのだよ」と、宣告されたような気がしたからだ。
「だから、男同士、女同士で魅かれ合っても当り前のことですし、そこに何の問題もありません」
「はあ・・・」
良く言えば、偏見のない世界なのかもしれない。でも、なんだか、節操のない世界にも感じてしまう。
そんな世界で自分はうまく生きていくことが出来るのだろうか?
どこかで抵抗を覚えてしまう自分はNormalとして生きてきた固定観念がそうさせてしまうのだろうか?
「なので、もっと気軽に考えてください」
「はい・・・」
「渋谷さん、今日の午後からって時間あります? ありますよね?」
「えっ・・・」
だから、無職だからって、なんで、最初から決めつけるんですか・・・?
確かにあるよ、ありますよ、ニートやってんですから。
でも、「どうかな・・・」ぐらいは人並みに言わせてよ。
「一緒にランチしませんか? 今日のランチは眞門と食べる約束をしてるんですよ。あいつにデリバリーさせますよ」
「いや、でも・・・」
「そうしましょう。そうだ、鰻好きですか?」
「えっ、はい・・・まあ・・・」
「ご馳走しますよ。超うまいうな重。まあ、眞門のおごりですけどね」
と、寺西は強引に話を進めた。
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