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応接室にて・・・
寺西クリニックの午前の診察時間が終わる頃合いを見計らって、星斗は、寺西クリニックへ再び顔を出した。
「伺っています」
クリニックの職員が星斗を見るとそう言って、クリニック内にある応接室に案内した。
「どうぞ、座ってください」
応接室に入ると、午前の診察を既に終えて、ソファで寛ぐ寺西にそう促された。
「それじゃあ。失礼します」
星斗は寺西と向かいあうソファに腰を下ろした。
「先程連絡があって、あいつももうじき着くそうですよ」
「そうですか・・・でも、良かったんですか、眞門さんにデリバリーをお願いするなんて・・・社長だからお忙しいんじゃ・・・?」
「ああ、あいつは暇ですよ」
「へ?」
「知ってます? この世の中の社長って呼ばれる方たちの仕事。社長の仕事って、会社を運営していく資金をいかに確保していくか、と、どれだけ人脈を広げていけるか。この二点だけなんですよ」
「はあ・・・」
「なので、あいつは毎日、接待ゴルフばっかりですよ。ほんと羨ましい。それに、あいつの会社は優秀なDom集団で形成してますからね」
「優秀なDom集団・・・」
やっぱりDomには優れている人達が多いんだな。
そう感じると、Subであることに星斗は引け目を感じてしまった。
寺西は星斗のその呟きから何かを感じ取ったのか、「あ、失礼」と、すぐに訂正を入れた。
「別に、Domが優れているとか、Subの方が劣っているとか、そんな意味で言ったわけじゃないですよ。
Subの方でも優秀な方はたくさんいらっしゃいますから。
ただ、あいつの会社はDomのメンバーで形成されているので、基本、個人プレーが好きな連中で形成されてるって事なんです。
なので、監視の目とか仕事に対する態度に一々注意を払っていなくても、みな勝手に仕事をして、業績をあげていくってことです」
「はあ・・・」
寺西が何を言いたいのかいまいち理解できなかったが、星斗はそんな会社のトップに立っているなら、眞門さんって、やっぱり凄い人なのでは・・・?と、思い、そんな相手にパートナーを申し込むことを今更ながら恐縮してしまう。
「でも、そんな優秀な方たちなら、みなさん、いずれ独立していくんじゃないんですか?」
「ないですね、Domですから」
「え?」
「Domは嫌いですから。
おべんちゃらを言ったり、頭下げたり、人の下出に出ることが。
独立した時点でそういう、煩わしい仕事が増えますからね。
会社が軌道に乗るまでは頭下げることが仕事になりますから。
銀行員の方と会社の運営資金の出資について話したことあります?
あれ、ホント大変ですよ。
そんな煩わしいことをDomはまずできません。
しかもSubのパートナーがいない時点で、そんなストレスが溜まる仕事をし続けたら、Domは完全に心が病みます。
そういう点ではSubの方のほうが圧倒的に優秀ですね。
Subは共感性が高いですから、自分が何を求められて、周囲にどう配慮すれば上手く物事が展開していくか、その要領を知っていますから」
「そうなんですか・・・」
「そうですよ、Subの方のほうが起業されてる方は圧倒的に多いです。俗にいう良い社長さんって言われる方は、ほとんどがSubの方ですから」
「そうなんですね」
自分が起業できるとまでは思わないが、寺西からそんな話を聞けて、星斗はSubで生まれてきたことにほんの少しだけ救いが持てた。
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