「すみません。遠慮がなくて」 と、星斗は眞門に対し、申し訳なくて謝った。 「いいですよ、全然気にしないでください。早く食べましょう」 と、なぜか、寺西が横から割って入る。 「いや、そのセリフ、俺のだから」 と、苦笑いする眞門。 眞門は長ソファに座る星斗の隣に自然に座ると、「食べて、おいしいから」と、優しく微笑んだ。 「ありがとうございます」と、星斗はお礼を言うと、眞門とは反対側に少し座る位置を移動して、眞門と近すぎる距離にわざと隔たりを作った。 「・・・・・」 眞門は、星斗のその行為に「やはり、俺は警戒されている」と、寂しく感じてしまう。 しかし、星斗はあの夜の出来事を思い出し、眞門にどう接して良いのか分からないので、どうしても、ある一定の距離感を保っていたかった。 そんなふたりの微妙なすれ違いなどお構いなしに、「うまっ！　さすが名店っ！　特上、一人前8000円！！」と、先に一人だけウナギを頬張る寺西が感激の声を上げた。 「えっ、そんなにするんですか！？」 と、星斗も値段を知って、思わず驚きの声を上げた。 「そうですよ～、お店で食べたら、肝吸などが付いて12000円になるですよ〜。 だから、渋谷さん、遠慮せずに温かい間にいただいてください」 と、寺西。 「いや、だから、お前がそのセリフ言うのおかしいから」 と、眞門はにこやかに笑いながら、寺西にクレームをつけた。 「それで、俺に話があるってなんだよ。場所まで変えて話したいことって」 と、眞門は寺西に問いかけた。 「どこかに行く予定だったんですか？」 と、眞門に問いかける星斗。 「ああ、このお店」 と、うな重を指さす眞門。 「お店で食べる予定をしてたんだけど、大事な話があるから、うな重をテイクアウトして来いって、三人分って言われてさ・・・」 と、眞門は説明した。 「そうだったんですね・・・」 と、星斗は申し訳なく思った。 「？」 眞門は星斗の表情が気になった。 「・・・お前さ、暫定的で良いから、渋谷さんのパートナーになってやれ」 と、うな重を頬張りながら、寺西が口を開いた。 「はあ！？」 眞門は突然の申し出に驚きの声を上げた。 「だって、お前が悪いんだろう？　勝手に首輪なんかつけるから」 「・・・・・」 「渋谷さん、パートナー紹介の相談所に行ったら、断られたってさ。首輪をつけたSubなんか他のDomに紹介出来ないって。当然だよな」 「えっ！？　てか、星斗クン、もうパートナーを見つける気でいるの？」 と、眞門。 「お前と違って、渋谷さんは真面目なんだよ。早く、精神を安定させて、社会復帰したいんだって。当然だろう」 「・・・・・」 「どうせ、お前もパートナーがいないんだから、丁度いいだろう」 「いや、でも、俺は・・・」 眞門が困った顔を浮かべてしまった。 星斗は当然だと思った。 寺西にNormalでの常識でモノを考えるなと注意を受けたが、一人前8000円、計24000円をランチで簡単にご馳走出来るイケメン勝ち組社長が、底辺ニートなんかを相手にするわけがない。 しかも、あの夜の自分の醜態を思い出すと、今のこの距離でいることさえ恥ずかしくてたまらない。 あんなの本来の自分じゃないし、自分だって、初めての相手にあんなはしたないことを要求するワガママ甘え放題の相手など二度と相手したくないと思う。 「あの、いいですっ！」 星斗は眞門と寺西の会話に割って入った。 「渋谷さん・・・？」 「当然ですよ。眞門さんには俺よりもっとふさわしい人が沢山いますから」 星斗はぎこちない笑顔を作って、パートナーの件は強引に終わらせることにした。 「俺は自分でなんとかしますから」 「渋谷さん・・・」 「あの、鰻は大好物なんで、遠慮せずにこれは頂いていいですか」と、断りを入れると、「いただきますっ」と、星斗は手を合わせた。