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次があるということ
翌日。
目を覚ますと、正午近くだった。
星斗と眞門は近くのカフェに行き、ゆったりとしたランチの時間を過ごした。
ランチを終えると、星斗は眞門の愛車で家まで送り届けられることになった。
目を覚ましてからも、ランチ中も、帰りの車の中も、星斗はソワソワした気持ちをずっと隠せずにいた。
眞門に、次の週末に会う約束をまだもらえていないからだ。
眞門が運転する車が星斗の家の近くに停車した。
「ランチごちそうさまでした」
週末の誘いを待つ星斗はすぐに車からは降りようとせず、もう一度、ランチをごちそうしてもらったお礼を口にしてみた。
「美味しかった?」
「はい」
「じゃあ、また今度行こう」
じゃあ、また誘ってもらえる・・・?
眞門からの誘いを期待する星斗はまだ車から降りようとはしなかった。
「・・・どうかした?」
車からなかなか降りない星斗を眞門は不思議に思ったのか、そう訊ねてきた。
「いえっ・・・あの、それじゃあ・・・ありがとうございましたっ」
星斗は仕方なく、車から降りた。
誘われなかった。
来週末は何か予定があるのかな・・・どっちにしろ、次の週末は会えないんだ・・・。
次がない。
そう思うと、星斗の心はどんよりとした。
明日をどうやって生きて行こう。
そんな嘆きを呟きたくなった。
と、助手席のドアの窓が開いた。
「星斗クンっ」と、眞門が呼びかける。
「聞くの忘れてた。来週もまた会える?」
「・・・はいっ!」
「良かった」
眞門も嬉しそうに微笑んだ。
良かったっ。
また会える。
次の週末も眞門さんにまた会える。
先程までの嘆きが嘘のようになくなり、気力が漲ってくる。
今なら何をしてもうまくいく。
明日は必ずきっと良いことがある。
何でもプラス思考に物事を考えられるほどの高揚感に包まれた。
「じゃあ、また連絡する」
「はいっ!」
星斗は元気よく返事した。
助手席のドアの窓が閉まると、眞門の車は発進した。
やったーっ!
また、眞門さんにいっぱいかまってもらえるっ。
・・・そして、次の夜もまた、あの優しい胸の中でいっぱい甘えさせてもらえないかな。
そう思った途端、星斗の心の中でもっと前を向いていたい。
そんな気力で自然と溢れた。
俺を待ってくれている運命のDomもこんな風に人生と向き合いながら、今を一生懸命に生きてくれてるのかな・・・?
そうだとしたら、出会えた時には、俺は希望を与えられるSubに成長していたい。
「星斗がいると、どんな明日が待っているのかな?」
そんなドキドキ、ワクワクさせてあげられるようなSubになっていたい。
星斗が前向きな気持ちに溢れながら、眞門の車が見えなくなるまで見送っていると、「兄貴の相手は男なのか。てか、あの車、相当高いよな・・・」と、明生がひょこっと隣に立って呟いた。
「うわっ」と、明生が隣にいることに全然気がつかなかった星斗は当然のように驚いた。
明生は部活の帰りらしく、星斗が家まで送り届けられたところに、たまたま居合わせたらしい。
「やるじゃん」
「え?」
「ニートから玉の輿なんて」
「えっ!? うーん・・・」
星斗は言葉を濁してあやふやにし、期間限定のパートナーである真実は秘密にした。
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