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母の言いつけ

その日の夜。 休日を理由に外出したまま、帰宅しない父を除いて、星斗、明生、加奈子の三人で夕食をとることになった。 「・・・母ちゃん、俺、とりあえず、またバイトから始めてみようと思うんだ。なんか、今なら"やれる"っていう気持ちが出てきたから」 星斗は加奈子に向かって、前向きに動き出したい今の気持ちを言葉にしてみた。 「はあ!? またバイト? もう、いい加減に就職先を探しなさいよ~」と、加奈子は呆れた。 「就職まではまだちょっと・・・重いと言うか・・・続けられる自信がないというか・・・だって、俺が就職できるとこなんて、絶対ブラックしかないだろうし・・・」 「あんたね、誰だって、最初は自信なんかないものなの。ね、自信は社会に出てつけていくものなのよ」 「・・・・・」 困って口を閉ざした星斗を見かねて、明生がフォローに出る。 「いいだろうっ、本人がゆっくりでも歩き出そうとしてんだから。親なら、まずは見守って応援してやれよ」 と、明生。 「なんで、親の私が高校生のあんたに説教されるのよ!? 働かない星斗が悪いんでしょがっ! それに私は応援していますっ! 応援してるからこそ、就職しなさいって言ってんじゃないっ」 と、憤慨する加奈子。 「すぐに辞めてきたら、職歴に傷がつくだけだろう。それに兄貴はそのうち玉の輿に乗るから今はバイトで充分だよ」 「!!」 星斗は明生の発言に驚いて、明生に「パートナーの存在は両親には秘密にしてくれ!」と、分かるような合掌のポーズをサインとして送った。 「玉の輿って、明生ね・・・誰が好き好んで、こんな無職の男と結婚してくれる人がいるのよ? 大体、玉の輿っていうのは女性に使う言葉なのよ。明生ぐらいはしっかりしててよ。うちにダメな子は一人で充分」 「おふくろ」 「なによ?」 「バージョンが古い」 「古い!?」 「早くアプデしろ」 そう言って、明生は呆れた顔を露骨に浮かべると、箸を乱暴に置いて、夕食を食べ残したままでリビングから出て行った。 「古い!? 親に向かって古い!?」と、声を荒げる加奈子。 「はあー、私は息子ふたりともの育て方を間違えたわ・・・」と、頭を抱えるしぐさをする加奈子。 「・・・母ちゃん、ごめんね。俺、少しでも早く社会復帰目指すから。ごちそうさまでした」加奈子のお説教が始まる前に自室に退散しようと、星斗もリビングから出て行こうとした。 「待ちなさい」 と、加奈子に呼び止められた星斗。 「あんた、本当に働く気あるの?」 「一応・・・」 「じゃあ、美代の店が困ってるから、明日から手伝いに行って来てよ」 「美代おばさん・・・? あの洋食店・・・? ランチ時に行列出来る?」 「そう。共同経営者の主に接客を担当している人が事故に遭って入院したんですって。だから、急に人手が足りなくて困ってんのよ。私に手伝って欲しいって緊急要請が来たんだけど、あんたが代わりにランチの時だけで良いから手伝いに行って来てよ。バイト代はきちんと払うって言ってるし」 「・・・でも、あのお店、超忙しいじゃん。まだ、そこまで自信ないよ・・・」 星斗は肩慣らしに楽な仕事内容のアルバイトから始めるつもりでいた。 「だからって、またすぐに辞めてくるより、親戚の店を手伝って、それでダメで辞めてくる方が世間にも恥をかかなくて済むし、よっぽど良いでしょうがっ!」 「・・・・・」 「美代には、星斗が手伝いに行くって伝えておきますから」 「・・・はい」 母の命令に逆らえない星斗は、これもSubの性質のせいだったりするのかな・・・? と、半ば諦めて、母の言いつけを受け入れた。 そして、母もダイナミクスの再検査をしたら、間違いなくDom判定が出るんじゃないか?と、母の素性を疑ったりもした。

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