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ボウリング勝負
週末の夕暮れどき。
眞門の職場の最寄り駅で待ち合わせすることが最早当たり前となった。
愛車で現れた眞門の車の助手席に星斗がすぐに乗り込むと、「お疲れ様です」と、仕事終わりの眞門の声を掛けた。
「待った?」
「いいえ」
星斗からは笑みが自然とこぼれた。
期間限定のパートナーとして会う、もう何度目かの週末。
近頃の星斗は眞門と会える週末が待ち遠しくて仕方なかった。
星斗が乗り込むと、眞門はすぐに車を走らせた。
「それで、臨時のバイトはどんな感じなの?」
「はい・・・母の妹に当たるおばのお店なんで、ランチタイムの時間だけ、今は働いてます」
「そう。それでも充分じゃない」
「へ?」
「少しは前向きになれてるから外に出ようと思ったんでしょう? 俺も嬉しいよ。この調子なら、首輪ももうじきかな・・・」
「・・・・・」
星斗はなぜか素直には喜べず、口をつぐんだ。
「で、今日はどうしようか?」
その眞門の問いかけに、沈みかけていたはずの星斗の心は再び上昇する。
「今日も勝負する?」
「いいですね」
※ ※
「負けた方は勝った方の言う事を何でも聞く」
眞門が三つの穴の空いたボウリングの球を手に持つと、星斗に勝者の特権を説明した。
待ち合わせ場所で星斗を乗せた眞門の愛車はそのまま近くのボウリング場へとやってきた。
今回、眞門が提案してきた勝負はボウリングでの勝負だった。
じゃんけんの結果、眞門が先行で球を投げることに。
眞門がレーンの前に立つと、綺麗なフォームで投球した。
投げた球はカーブを描きながら進んでいき、吸い込まれるように並んだピンの真ん中に激突する。
ストライク。
眞門が振り返ると、星斗に向かって、もうすでに勝敗が決まったような勝ち誇った満面の笑みを浮かべた。
何でも上手過ぎないか、あの人・・・。
俺の知り合いで、ボウリングの球をカーブかけて投げる人なんていないんだけど・・・。
みんな、真っ直ぐ投げる人ばっかなんだけど。
マジでちょっと引いたんだけど。
てか、あんなのに勝てるわけないよ。
ホントに負けず嫌いなんだから。
眞門が星斗のいる席まで戻ってきた。
と、星斗の耳元にそっと顔を近づける。
「俺が勝ったら、勿論、スパンキング」と、囁く眞門。
「!」
スパンキング・・・!?
眞門にそう囁かれただけで、星斗は股間を熱くした。
投球の順番が来た星斗はとりあえず席を立つと、ボウリングの球を掴んだ。
どうしよう・・・。
"スパンキング"
されたい・・・。
そう願ってしまう自分がすでに出来上がってしまった。
あー、Subで生まれてきたことが憎い・・・。
今日はどんなスパンキングされるんだろう・・・?
前回はダーツバーに連れて行ってもらって、ダーツ勝負であっさり負けて、その帰り道に、突然、薄暗くなった公園に連れ込まれたと思ったら、木の陰に隠れる感じに立たされて、野外にも関わらず、お尻を丸出しにされて、負けた罰ゲームとしてスパンキングされたんだっけ・・・。
俺が思わず声を上げると、「Sh! 」ってCommandを出されて・・・。
なのに、眞門さん、容赦なく叩くんだよ。
人に見られるかもしれないのに、その背徳感に興奮して、抵抗が結局出来なくなって・・・。
はあー、思い出すだけで興奮してきた。
俺、自覚出来るくらい変態の域までついにきちゃったな・・・。
星斗は遠い目をした。
あの頃の俺はもういない―。
なら、やっぱり、されたいんだっ、スパンキング!
眞門さんになら、いつだって、なんだって、どんなことでもされたいんだ、俺は!
・・・もう、これはSubの性分だから仕方ないじゃんっ!
星斗は開き直った。
でも、待てよ。
だからって、負けるのを望んで、わざと下手に投げてたら、スパンキングされたい!ってアピールしてるみたいになるし、それがバレるのが一番恥ずかしくない・・・?
「!」
あっ、あの人、わざとだ。
眞門さん、絶対わざと囁いた。
俺にいじわるしたっ!
そう思って、星斗は振り返って眞門を見た。
眞門はニタっと嬉しそうに微笑んでる。
やっぱり、わざとだ。
あの人、わざと意地悪したっ!!
俺がこうやってあーだこーだ悩んでどんな勝負に出てくるか、あの人はそれを楽しんでいるんだっ!
・・・ったく、Domのそういうところ、俺は全然好きになれないっ。
眞門のニヤついた笑みを見て、星斗はそう自己判断した。
でも、大丈夫。
眞門さんは負けず嫌いだから、俺が普通にやっても、絶対に本気を出して勝ちに来てくれるっ!
星斗はレーンの真ん中に立つと、球をいつも通りに投げた。
「あっ・・・」
星斗が投げた球はレーンの端へ端へと斜めに進んでいき、最終的に並んである端のピンを一本だけ倒した。
なんでだろう、投球失敗してるのに、「ヤッターっ!」って、思っちゃったっ!
俺、天才って思っちゃった!!
星斗は振り返ると、一応に残念そうな顔を見せた。
しかし、さっきまでの眞門の笑顔は消え失せ、何が気に入らないのか、ブスっとした不満げな顔を浮かべていた。
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