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禁断のトキメキ②

「あら。帰ってたの、おかえり」 ソファでぐったりしている星斗を見て、そう声を掛けた加奈子。 「・・・さっき、美代から連絡があって、すっごい喜んでた。最初は不安だったけど、私なんかより星斗に手伝いに来てもらって良かったって。文句は言わないし、仕事覚えは早いし、ミスはしないし、客にも笑顔で対応してくれて評判はいいしって。きらちゃん、ニートだったとは思えないほどに頼もし過ぎるって喜んでた」 「そう・・・」 「あんたもやれば出来るんじゃないっ」 「焼き肉店とファミレスのバイトに行ってた経験が生きてるだけだよ。まあ、どっちも二か月ぐらいしか続けられなかったけど・・・」 「でさ・・・ディナータイムも頼めるって?」 「へ?!」 「また、テレビ局に取材されるんだってっ! 凄いよね〜。それで忙しくなるだろうから、きらちゃんに頼めないかって。いいわよね、暇なんだし」 「待って! 週末だけは絶対無理だから」 「ダメよ、週末のディナーの時間帯は洋食店にとって一番忙しい、書き入れ時じゃないっ」 「でも、ダメっ。週末が仕事になったら、俺、また働けなくなる」 「ちょっと、あんたそんな我がままが社会で通用するとでも・・・」 「おふくろ、うるせえよっ! おふくろのパワハラ声が外まで聞こえて恥ずかしいわっ」 と、高校から帰宅した明生が加奈子の言葉を遮った。 「あんた、パワハラって、親に向かって失礼ね! 大体、私のこのか細い声が外まで聞こえるわけないでしょうがーっ!!」 と、明生に向かって憤慨する加奈子。 「兄貴が週末だけはダメだって言ってんだから、母親なら、それぐらいのことは受け入れてやれよ。おふくろが押し付けてることを全部断ってるわけじゃないんだから」 「押し付けてるって・・・」 「今までニートしてた人間に、最初からそんなプレッシャーかけてやるな」 「あんた、星斗はもう20歳過ぎてんのよっ。立派な大人なのよっ! それにランチ営業から一日フルで働くようになっただけで、何がプレッシャーよ!!」 「年齢の問題じゃねえだろう。大人になるのに時間かかる奴だっているんだよ。兄貴は今、一生懸命成長してんだから、親なら黙って見守ってやる優しさがあっても良いんじゃないの?」 「!! あんた、一体、ホントに何様なの?! なんで、高校生の息子に親の私がいっつもいっつも、毎回毎回、頭ごなしに説教されなきゃいけないのよっ!!」 加奈子は相当頭に来たようだ。 「おふくろ」 「なによ?」 「いい加減、アップデートしろって」 「!!!」 キィィーーーっ!と、思わず金切り声をあげそうなくらいに怒りが頂点に達した加奈子。 「私、ホント、子育て間違えたわ・・・っ」と、ぼやいた。 「星斗」 「はい」 「週末をどうしても働きたくないって言うなら、美代には自分の口からその説明をして、自分の口できちんと断ってきなさい。それが社会人としての当り前の責任です」 加奈子はそれだけ言うと、明生を睨み付けて、リビングから出て行った。 「兄貴、美代おばちゃんも強引な人だから、ちゃんと断って来いよ」 「え?」 「週末はパートナーと会う大切な時間なんだろう?」 「うん・・・」 「俺達にはそういう時間が必要だもんな。Normalの奴らには全然分かんないだろうけど・・・俺はいつでも兄貴の味方で居てやるからな」 「!」 星斗の胸がキュンっ!と鳴り響いた。 ヤバい・・・。 これは禁断のトキメキだっ! マジで、うちの弟、カッコ良すぎなんですけどっ。 ホント、もう惚れてしまいそうなんですけどっ。 ありがとうな、明生。 俺、お前の兄貴に生まれてきて、本当に幸せ者だよ。

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