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運命とはそういうもの

その深夜―。 明生が自室のベッドで寝転がりながら、スマホで動画などを見ながらくつろいでいると、部屋のドアがノックされた。 「はい」 「―――――」 「なに?」 「―――――」 「なんだよ・・・」 明生は、返答がないことを面倒くさそうに愚痴ると、ベッドから起き上がって、部屋のドアを開けた。 「・・・兄貴?!」 部屋の前で表情を落とした星斗が立ち尽くしている。 「・・・どうした?」 と、思わず声をかける明生。 「頼みが・・・あるんだ」と、星斗は躊躇いがちに口にした。 「なんだよ?」 「今からこの首輪を外すから、俺の側についていて欲しいんだ」 「へ?」 明生は星斗の口にした言葉の意味が分からなかった。 首輪を外すって・・・そんな大事(おおごと)か??? 「側に居てやるぐらい別に良いけどさ・・・」と、明生は戸惑いながらも了承した。 「もし、首輪を外した瞬間に俺が気を失ったり・・・その・・・心臓が・・・停止したりしたら、迷わず救急車を呼んで欲しいんだ」 「は!?」 「それと、この先生にも緊急だって言って連絡して欲しい。俺の主治医」 星斗は以前に、ダイナミクスについての資料と共に寺西から渡されていた寺西の名刺を明生に手渡した。 「ちょっと待てよっ! ・・・どういうことだよ?! それ、ただの首輪じゃないのか? 首輪を外して何かあったら、救急車を呼べって意味不明なんだけど・・・」 明生は、星斗の言っている意味がさっぱり分からず、ただ困惑した。 なんだか話が大きすぎて、先程まで見ていた素人投稿動画を真似た『弟に死んでしまうかもしれないドッキリを仕掛けてみたらまさかの展開だった!!』なんてノリのイタズラを仕掛けられているんじゃないか?と、さえ一瞬疑った。 「・・・・・」 しかし、星斗はとても思い詰めた表情で、落ち込んでいるようにしか見えない。 「・・・兄貴、なにかあったのか?」 明生は優しく声を掛けてやった。 「・・・相手が居たんだ」 「相手?」 「綺麗で可愛い女性・・・。 偶然、店に来たんだ。その女性と。美代おばさんの店に」 「それって・・・二股されてたってことか?」 星斗は首を横に振った。 「俺は最初から何でもない相手だから、二股でも何でもない」 「何でもないって、さっきから兄貴の話が全く見えねえんだけど・・・」 「すごく可愛いチョーカーを付けてたんだ。俺のこんな安物のお遊びなんかと比べ物にならないくらい、すごく可愛いチョーカー。着物の柄みたいな花柄で・・・。 本命はあんな可愛いものがもらえるんだな・・・」 「そのチョーカーがパートナーの証のものだって言いたいのか?」 「多分、そう。左手の薬指に指輪もあったし・・・婚約指輪か結婚指輪じゃない・・・」 「なら、二股じゃねえか?」 「だから、違うんだって」 「だから、どう違うんだよっ!」 「俺が一方的に好きだったんだっ!!」と、星斗は叫んだ。 「兄貴・・・」 「あの人は優しい人だから、俺のことを放っておけなくて相手にしてくれてただけで、俺のことなんて最初から何とも思ってなかったんだ・・・」 そう口にすると、星斗の瞳から大粒の涙が溢れだした。 「兄貴、とりあえず落ち着いて、話を聞かせてくれないか。一体、何があったんだ?」 明生がそう言うと、おばの美代の店で起こった出来事を星斗は話し始めた。

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