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運命とはそういうもの②

ランチタイムの営業が終わると、店主の美代から、「今日のディナータイムは予約客しか対応出来なくなった」と、星斗は告げられた。 星斗がいない週末の店の営業を美代のひとりの力で乗り切るには、客の入り人数を制限するしかなかった。 そこで、ここ最近の週末に限っての店の営業は予約客だけを対象にすることで、客の入り人数を最初から絞ることにしていた。 その習慣がおばの美代に定着してしまっていたせいで、気がつくと、この週末の仕入れる食材もいつもの週末並の少ない量で仕入れていた。 それに気づいた時はすでに遅く、使える食材に限りが出てしまったことから、今日のディナータイムもいつもの週末と同じように予約客しか対応しないという形で乗り切ることにした。 それが分かると星斗は喜んだ。 今夜の予約客はたったの三組。 店の営業時間が予定より早く終われば、早く帰れるかもしれない。 もし、眞門が出張から帰っていたら、今日中にでも会える時間が少しでも作れるかもしれない。 そしたら、実行しよう。 首輪を外してもらって、告白しよう。 星斗はそう決めて、眞門にメッセージを送信した。 【お忙しいところすみません。どうしても、会ってお話したいことがあります。時間を作って頂けませんか。よろしくお願いします】 しかし、眞門からの返信は【・・・当分こちらには帰ってこれないので、仕事が一段落したら、こちらから連絡します。申し訳ない】だった。 長期出張なら仕方ない。 星斗は、はやる気持ちを切り替えて、仕事に励むことにした。 ディナータイムが始まると、二組の家族連れが早々と姿を現した。 本日の予約客は三組なので残るはあと一組か。 大人三名で予約のお客様。 楽勝だな。 昨日の忙しさとは打って変わっての楽な仕事量に、星斗は今日はツイているな、ここまではそれぐらいに思っていた。 と、最後の予約客が現れたのか、店のドアが開いた。 「いらっしゃいませ」 そう声を掛けた瞬間、星斗は「えっ・・・」と、信じ難い光景に小さな驚きの声を上げた。 ふんわりとしたスカートを纏ったガーリー系のファッションに身を包んだ女性の後に連れて、見覚えのある背の高い男=眞門が入店してきたからだ。 「あの、すみません。今夜、予約をしてた者なんですけど、急遽、一人来れなくなってしまって、ふたりになったんですけど構いませんか?」 そのガーリーなファッションに身を包んだ女性は星斗が店員であると分かると、そう声をかけてきた。 「!」 その時、女性の後ろに立つ眞門と目が合った。 眞門も店員が星斗であると気づいたらしい。 眞門が咄嗟に星斗から視線を逸らした。 なんで!? なんで、眞門さんがここにいるの!? 星斗は目が点になった。 確か、返信されてきたメッセージでは長期出張で当分会えないはずじゃあ・・・? 何が起こったのかよく分からない星斗は、視線を逸らしたままの眞門をじっと見つめてしまう。 眞門さんの目が完全に泳いでいる。 あの、眞門さんが動揺してる・・・。 いつも物怖じせず堂々している、ザ・Domと言わんばかりの眞門がかなりの動揺を見せている。 そんな姿を見ているだけで、星斗は悪い予感しかしなかった。 「・・・これって、どういうことですか? 眞門さんがそんな態度を取るなんて・・・何か後ろめたいことがあるってことですか?」 眞門のことを信じたい星斗は心の中で思わず、そう問いかけてしまう。 眞門が全く視線を合わそうとしない。 まるで、他人の様な振る舞いだ。 やっぱり、そういうことなんだ・・・。 まだきちんと状況を把握は出来ていないが、とにかく、自分を無視する眞門の態度に後ろめたいことがあることだけは理解出来た。 眞門が他人のふりをする以上、自分から声を掛けるわけにはいかない。 星斗は眞門を思って、敢えて声もかけずに店員として接することに決めた。 星斗は眞門の洋服をさりげなくチェックした。 眞門は休日の夜を楽しむようなラフな服装をしている。 この服装は絶対に出張帰りなんかじゃない。 多分、この可愛い女性と会う為に俺と会いたくなかっただけだ。 星斗はそう勘ぐると、あることを思い出した。 そう言えば、寺西先生が随分前に話してたな。 眞門さんにはずっと片思いしている相手がいるって。 そういうことか。 この女性が、その相手・・・。 「あの・・・」 ガーリーなファッションに身を包んだ女性(=愛美)が、眞門のことで頭をいっぱいにして、ボーっと上の空でいる星斗に声を掛けてきた。 「・・・あ、すみません、大丈夫ですよ。こちらへ」と、我に返った星斗は予約席にしておいた四人席のテーブルに案内した。 愛美は店内を見渡すと、「可愛いお店だね」と、眞門に声を掛けた。 しかし、眞門はまだ動揺が続いているのか、心ここにあらずと言った感じで、「ああ」とだけ、話を合わせる様に返事をした。 星斗は水とおしぼりを運ぶと、改めて「いらっしゃいませ」と、言って、メニューブックをそれぞれに手渡した。

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