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運命とはそういうもの③

愛美はありがとうと言いながら、メニューブックを丁寧に受け取ったが、眞門は星斗に一切目を合わせることなく無言で受け取った。 やっぱり、俺を完全に無視するってことは、そういうことなんですね・・・? 余計なことは話すなって言いたいんですよね・・・? 星斗の中の疑惑はそんな確信へと変わっていく。 ・・・この女性が俺よりも大切な人か。 「あの、ご注文が決まれば声を掛けてください」 星斗がそう声を掛け、その場から立ち去ろうとした。 が、「すみません」と、愛美にすぐに呼び止められた。 愛美はメニューブックを広げながら、星斗に質問を投げかける。 「こちらの料理が、この前、テレビで取り上げられてたメニューですか?」 愛美は右手でメニューブックの背表紙を持って広げ、星斗に向かって、左手でそのメニュー名を指さした。 星斗は「失礼します」と断りを入れると、愛美が指さすメニュー名を確認しようと覗き込んだ。 「!」 メニューを指さす愛美の左手の薬指にプラチナの指輪が輝いている。 これって・・・結婚指輪!? 眞門さんとこの女性って一体、どういう関係なんだ・・・? 星斗は自分にとっての最悪な展開を想像してしまう。 まさか・・・長年の片思いから、そういう関係に発展した・・・? 星斗は動揺を悟られないように、「そうです」と、愛美の質問に答えた。 「じゃあ、これだ、ママがテレビを見て食べてみたいって言ってたの・・・」と、愛美は無邪気に眞門に伝えた。 しかし、眞門はメニューブックに視線を向けたままで、ずっと無言を貫いている。 「ねえ、これにしよう。このスペシャル料理をふたつください」と、愛美が星斗を見つめてオーダーをした。 「!」 その時、星斗はようやく大切なことに気づいた。 愛美がチョーカーをつけている。 可愛い・・・。 めちゃくちゃ可愛い・・・。 和風の花柄をあしらったチョーカーもこの女性も。 俺のお遊びの首輪なんて比べ物になんない。 これ、眞門さんが贈ったものなのかな・・・。 ・・・考えなくてもそうだよね。 やっぱりセンス良いな、眞門さん。 そっか、片思いの人と結ばれたのか。 だから、俺と急に会えなくなったのか・・・。 酷いよ、眞門さん。 だったら、出張なんて嘘つかないで、そうだと言ってくれれば良かっただけなのに・・・。 「あの・・・」 星斗がまた上の空でいるので、愛美が声を掛ける。 「・・・あ、分かりました」 星斗はそう言うと、オーダーを伝えに厨房に戻った。 愛美は去っていく星斗の背を見ながら、「なんか、変な店員さんじゃない?」と、眞門に同意を求めたが、眞門はただ難しい顔を浮かべているだけだった。 美代にオーダーを伝え、美代の調理が出来上がる間、星斗は状況を整理した。 要するに、眞門さんは片思いしていたあの女性と結ばれたってことだ。 それが言い出しづらくなって、出張だなんて嘘つかれたんだ。 なんだ、俺、ただのバカじゃん・・・。 何が告白して、新しい首輪をもらいたいだよ。 何の期待してたんだよ。 遊びのおもちゃの首輪を付けられただけだぞ。 ・・・ただのバカじゃん。 俺、本当に成長しない・・・ただのバカのまんまだ。 星斗は思わず泣きそうになったが、なんだか悔しかったので、ぐっと泣きたくなる気持ちは抑え込んだ。

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